原付「帰ってきたか。暇だし走ろうぜ!・・・寝るのかよ」
注意、酷い表現があります。
「ふーん。奴隷買ったんだ・・・」
「えっと・・・なにか問題でも?」
「いいえ、別に何もないわよ」
これが白黒猫を見たサラの第一声。
妙に棘を感じるのは俺の気のせいか?
帰りは朝のように襲われることもなく無事に宿に到着したのだけれども・・・サラはなんだかご立腹の様子。
なんでさね?
「それで部屋はどうするの?うちは奴隷用の部屋は無いから、外の納屋になるけど?」
別の宿ならわざわざ奴隷用の部屋なんてあるのか。
ほんと身分制度がしっかりした国はおもしろいもんだ。
「普通の部屋でいいよ。護衛のために買ったから俺が泊まってる部屋の隣とか近い所がいいな。飯も俺と同じものでいい」
「いいの?お金掛かるよ?」
「いいさ、色々考えてるから」
そう、色々とね。
あんなことやこんなことをね。
フフフフフ。
まぁ、本当のところはしっかり寝て、食って、俺の護衛を果たしてもらわないと困るってだけさ。
命令は『命を大事に』ってね。
ただし俺限定の。
しかし、サラの顔がなんか怖い。
「・・・言っておくけど、うちの宿ではそういことしないでよ」
あれ、前半部分が顔に出てたかな。
結構自重してるはずなのに。
「そういうことって?」
「そういうことはそういうことよ」
「そういうことはそういうことってどういうこと?」
「・・・分かってていってるでしょ」
「まぁね」
「もう!」
ちょっとした他愛のないやり取りを済ませたあと部屋の手配をしてもらう。
追加で金貨一枚。
家を買うために節約は必要だけどこのくらいはなんてことはないね。
部屋は白黒猫同室で俺の隣。
トカゲは二階で何かあれば駆けつけてもらう。
出来れば両隣がよかったけど空いてなかったから仕方がない。
さすがにギルド組合加盟の宿屋を襲撃・・・なんて無いだろ。
朝もあの馬鹿は宿の外で待っていたわけだしね。
「部屋の用意してくるからテーブルに座って待ってて。そういえば晩御飯はどうするの?食べる?」
「ああ、もちろんだよ」
よくよく思い出せば昼飯食べてないんだよね。
ほんとお腹すいた。
「わかったわ、部屋の用意済ましたらすぐに料理持ってくるから待ってて」
俺が頷いて返事をするとサラは奥へと消えていった。
けど、おかしいな。
部屋の準備なんか事前にしてそうな感じなのに・・・。
今日は何かあったのかな。
まぁ、どうでもいいけど。
「さてと、部屋はこれでいいとして。飯まで待ちますかね。君らも早く椅子に座りな」
空いている近くのテーブルに向かう。
というかほとんどが空いている。
まぁ、当然と言えば当然か。
夜はすでに深まっている。
冒険者ギルド街と言えど酔いの終わり。
片付けが始まる時間だ。
実際酒場にはほとんど人が居ない。
「・・・あの、えっと、いいんでしょうか?」
黒猫が何やら不安げに聞いてくる。
「なにが?」
「その、あなたは」
「ご主人様と言うように、さっき言っただろ?」
「お嬢様になんて口を!」
白猫が何やら突っかかってくる。
「うるさいっての。いつまでお嬢様とお付の護衛気分か知らないけど君達はすでに奴隷だ。俺のね。だから俺がしたい用にやりたい様にする。何か文句ある?」
「・・・クッ、お嬢様には触れさせないぞ」
白猫がお嬢様を庇いながら俺を睨む。
はぁ、この白猫はほんとわかってないな。
イライラとした気分をため息と頭をかいて落ち着ける。
そしてポケットのカードに軽く念じた。
「カハァ!」
白猫が喉を押さえて膝をついた。
わざわざ苛立ちを抑えて弱く念じたのにそんなに苦しむことないじゃん。
「俺はやりたい様にする、奴隷の君達に文句は言わせないよ。分かった?」
「ハァガァ・・!!」
「や、止めて!止めて下さい!!ミィに酷いことしないで!!」
「どうして?俺の奴隷だよ?躾けるのは当然じゃん」
俺にすがり付いて止めに入る黒猫。
俺は至って当たり前だと思う言葉をかけながらさらに白猫を苛めてみる。
「ァァァ!!!!」
「ミィ!?止めて!ミィが死んじゃう!止めて!!」
言葉も出せなくなり完全に倒れてしまう白猫。
必死にすがり付いてくる黒猫を無視して床を見る。
そこには美女が苦しみ倒れているわけだが・・・これ、俺がやってるんだよね。
今更だけど異世界にやってきたんだね。
しかし、なんというかき「止めて下さい!!お願いします!!!ご主人様!!」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・良い。
・・・ご主人様って良い。
涙目で上目ずかいに見上げながらご主人様。
ご主人様。
ご主人様!
かなり良いね、ゾクッときた。
猫耳少女にご主人様って最高すぎる。
これこそ俺だけの奴隷。
俺だけのメイド!
メイド喫茶で言われるような軽い挨拶程度のもんじゃない、真のメイド!
「・・・もう一度」
「え?」
「もう一度言ってくれ、ご主人様って・・・」
「それよりミィを!」
「もう一度!!」
「はい!?・・・・ご、ご主人様?」
小首傾げながら、怯えて涙目でのご主人様。
もう、もう最高だ!!
買ってよかった奴隷!!
くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
異世界に来て良かったぁ。
「いいよ。むっちゃくちゃいいよ。うん。気分いいから、もういいや」
「ぁぁぁ!!かぁ、はぁはぁはぁ・・・・」
「ミィ!」
俺が念じるのを止めると、声も出せずに苦しんでいた白猫が開放された。
黒猫はすぐに白猫を助け上げると汚れた服の端を使って白猫に浮かんだ汗を拭っていく。
こういうのもいいよね。
美女と美少女の二人が抱き合っているって。
そんな様子を見つめながら言葉をかける。
「トカゲと白猫、君達は主殿と呼ぶことってのは言ったね。黒猫はさっき言ってくれたようにご主人様。あとは・・・君達への最優先命令。君達は絶対俺の命を守ること。他はまぁ・・・ある程度どうでもいいや、思いついたら言うよ。ひとまずこれを守ってくれたら酷い事はしないさ」
黒猫に支えられてやっと起きることが出来た白猫が睨んできて頷くことはない。
でもさっきのでむちゃくちゃ気分から今回は見逃してあげよう。
トカゲは最初のことがあるからしっかりと頷く。
目に涙を浮かべながらだが黒猫は微妙な顔をして頷いた。
うん。一先ずこれでいいかな。
また白猫が刃向かったらまた・・・。
・・・まただよね。
「さて、ちょっと逸れたけど飯にしよう」
気分を変えるために少し明るく言ってから席に座った。
そういえばここの宿に来てから初めてテーブルに座る気がする。
トカゲは俺に続いてすぐに、白黒猫はすこし時間が経ってから隣に腰掛けた。
二匹の表情はまぁ良いものじゃないけど、飯がくれば直るだろ。
部屋の用意が終わったのか戻ってきたサラが手を振りながら厨房に入っていく。
その様子からすぐにでもご飯を持ってきてくれそうだ。
わずかな時間だろうが三匹を観察するが・・・この三匹尻尾があるのに背もたれがある椅子に座れてるよね。
特にトカゲ、いったいどうやって座ってるんだ?
気になるからあとで確認しよっと。
「はいこれ、今日は炒め物とスープね」
「ありがと」
考えているうちにサラが食事を持ってきた。
肉野菜炒めとポタージュスープかな、あとはパンにサラダ。
いいかげん米が食いたくなるな。
「いただきます」
俺は手を合わせてから食べ始める。
しかし、肉野菜炒めにスープと次々に口にしていくが途中で気が付いた。
「どうして食べない?うまいよ?」
三匹ともこちらを見たまま固まっていた。
なんかおかしいかな?
「シュル、主殿。本当に良いのか?」
代表して聞いてきたのはトカゲだった。
「なにが?」
「我らは奴隷のはずだが・・・」
「さっきも言ったけど俺のやりたいようにする。一緒に食事するのもその一つ。同じ飯を食うのもその一つ。今はそれでいいのさ」
言い終えてから食事を再開する。
パンを口に放り込みながら三匹の様子を伺うが、トカゲは目玉をきょろきょろとせわしなく動かすばかり。
白猫は俺を睨んではテーブルの料理をまた睨んでは料理を見てと繰り返している。
黒猫はそんな白猫を伺っているが、料理を見る白猫に合わせてテーブルの端から見える手が上がったり下がったりしている。
まったくこいつらは・・・。
「ああもう!さっさと食え!!」
なんて手間のかかる連中なんだ!
いい加減焦れた俺が声を上げると驚いた三匹はビクリと跳ねる。
そして互いに顔を見合わせると恐る恐るだがやっとスプーンを持ってスープを口に運んだ。
その瞬間に固まる三匹。
ゆっくりと皿に戻った三つのスプーン。
すくわれたスープはもう一度口に。
食べ始めた三匹のスピードは徐々に上がり、しまいには貪る様に食べ始めた。
トカゲはよく分からんが、頬が多少痩せていた白黒猫。
その様子から俺が買う前の奴隷生活じゃ、まともな飯を食べさせてもらう事は無かったんだろうけど・・・。
お嬢様らしい黒猫までちょっと引くというか、汚いというか、びっくりするような食べ方だ。
そこまでしますか?
「う、ううぐ、グズッ」
しかも泣きますか・・・。
皿を持ち上げてスプーンでかき込んでいた黒猫が涙を流しながら食べている。
「お嬢様、ううっ」
白猫も黒猫を気遣い涙目になっているが皿を放そうとはしない。
トカゲはさすがに泣くことは無いが尻尾をばたばたと犬のごとく振りながら、一心不乱にスープを流し込んでいる。
なんといいますか、胃に何も無い状態でいきなり食べると腹壊すっていうから心配になるけど、これはとてもじゃないけど止められる気がしない。
他に色々と言いたいことはあるけど・・・ま、今は好きに食べさせてあげましょう。
俺の楽しい楽しい未来のためにふっくらしてもらわないと困るし、なんといっても俺は優しいご主人様ですから。
いっそのこと追加も頼みますかね。
結局、白黒猫は三人前、トカゲは五人前は食べたと思う。
酒場に残っていた冒険者達がドン引きするような食べっぷりだからその様子は押して知るべし。
「いい食べっぷりだったな。作り手としては嬉しい限りだ」
マスターが汗を拭きながら出てきた。
終わりの時間なのにご苦労様です。
「味がわかってたか気になりますがね」
そう言って三匹を見る。
「・・・美味しかったです」
黒猫はそんなことを言ってるが俯いていて顔が真っ赤。
白猫はツンと明後日の方向を向いているがやはり顔が赤い。
トカゲは舌をずっとチラチラと出し入れしている。
どうなのかね?
「はっはっは。かまわんさ。明日からも飯は奴隷用ではなく同じでいいんだろ?」
「ええ、それでいいです」
「なら今度は味わってもらうさ」
「そうですね」
そうやって軽く話した後マスターは厨房に戻っていった。
さて、後は明日のことだけか。
「それじゃ、三人とも整列」
なんで整列?
しかもなんとなく軍隊風になってしまったし、微妙にはずかしい。
命令するのって慣れていないっていうか完全に立場が下の相手に何かを伝えるって始めてかも。
向こうの世界で仕事していた時は上司と先輩しかいなかったから命令される立場だったし。
それより前、学生時代は中学の委員長はやってたけど、あれも立場が上になったわけじゃなくてクラスのまとめ役という名の雑用係りだし。
まぁそのうちなれるよね。
三匹は微妙な顔をしながらだけどちゃんと並んだ。
「それじゃ、今後のこと。ひとまず君達は今から体を流すこと。はっきり言って臭い」
「ううっ」
「ふん!」
さすがは女性二人。
黒猫はまた顔を真っ赤にしているし白猫も睨み目だけどやはり赤い。
「俺の奴隷がそんなの許せないから。これからも出来る限り清潔にすること。わかった?」
「はい」
「お湯はさっきのサラ、ここの自称看板娘に頼むから届いたらしっかり洗うこといいね」
お湯と聞いただけで二匹の顔が驚きに染まる。
これも金が掛かることだから驚いたんだろうけど今回は何も言わない。
多少は俺のことが分かったらしい。
しかし別の反応をしたのがいた。
トカゲだ。
「主殿、我もお湯で洗うのか?」
「そうだけど、何かあるの?」
トカゲの分かりにくい顔がはっきりと嫌そうに歪んだ、なにさ?
「我ら緑鱗族は湯で体を流す習慣は無いのだ」
「習慣が無いだけだろ?臭いから変えろ」
おお、ちょっと強気で主人らしい。
「シュルル。いや、その、我らは」
さっさと言えっての面倒くさいな。
軽くイラっとしていると黒猫が助け舟をだしてきた。
「ご主人様。その・・・緑鱗族はお湯が苦手なんです」
「そうなんだ」
へー知らなかった。
向こうの世界にトカゲ・・・緑鱗族なんかいなかったから知るわけないよ。
それにしても他種族のこと知ってるってもしかして黒猫って博識?
確認のためトカゲに聞いてみたがトカゲはシュルシュルと舌を出した後、諦めたのか頷いた。
ふむ、何やらプライドが邪魔したのか言い出しにくかったらしい。
「それならそう言え、時間の無駄。それじゃ仕方がないから水でしっかり洗うこと、明日臭かったらお仕置きするから。あと他に種族的に無理なことがあったらそのたびに言うこと。俺は人間のことしか知らないから言われなけりゃわからない。俺が許容できる範囲だったら対処する」
俺はよほど異端なご主人様らしい。
もう慣れてきたがまた驚いた上で三匹が頷く。
「それで最後は明日の予定。明日は、そうだな・・・・・・・鐘八つに起こしに来て。それから出かけて君らの服とか装備買いに行くから。その後はたぶん冒険者ギルドに行くかな。予定はそんな感じ。質問は?」
唖然とする三匹、たぶん服のことか。
「装備は分かるが、服も・・・その、買うのか?」
やっぱり。
予想通りに白猫が聞いてくる。
「そうだよ。その汚い格好のままなんて俺の奴隷として絶対許せない。それなりの格好してもらうからそのつもりで」
「それなりの格好・・・」
なにやら顔が真っ赤になる黒猫。
良く顔が赤くなる子だ。
しかしどんな想像してるんだか。
「先ほど闘って分かったが我の装備はこれで十分だ」
トカゲが胸を張って答える。
武器のことはさっぱりだから本人がいいならいいな。
「そうか。あの奴隷商もなかなかいいものをくれたもんだ」
未だにどうしてか分からないけど。
ギルド長からの手紙があったからかな?
「白猫は?さっきは格闘で闘ってたけど戦闘方法・・・武器は?」
そうだよ、これ聞いてなかった。
俺の安全に関わることなのに忘れるなんて失敗失敗。
「私達白虎族は自分の肉体で闘う。だから重たい防具はつけない。せいぜい腕と足にプロテクターをつける程度だ」
「じゃぁそこらは買わないと。あとは黒猫だけど君は戦えないよな?」
目を伏せて頷く黒猫。
そりゃそうか、白猫とセットで欲しかったから買っただけだし、用途は別にあるから期待してない。
「うん、わかった。トカゲと白猫は俺の護衛だけど、黒猫も守ること。家を買うまではあちこち一緒に連れまわすからそのつもりで。もちろん、俺優先だから、そこら辺は間違えないように。特に白猫、わかったな?」
「・・・主殿も守る」
も・・・ですか、まぁいいか。
かなり不服そうだけど頷いたしね。
よしっと、これで終わりかな。
「それじゃ、解散。さっき言ったようにちゃんと起こしに来ること」
良く考えたら親に起こしてって頼む子供みたい。
でも偉い人って起こしてもらってるよね?
別にいいよね。うん。問題なし。
しかし、何度目か分からないが驚く三匹。
いい加減この反応も飽きたよ。
「ご主人様、解散というのはどういことですか?」
えっとそこから?
「解散は解散。部屋に戻って体流して寝ろってこと。明日ちゃんと時間に起きれるなら寝ないで好きにしてもいいし。ただそれだけまだ何かある?」
これだけなのに何が疑問なんだろ。
「そ、そうですか、わかりましたご主人様」
黒猫は顔に疑問符くっつけてるけど、いい加減疲れたから追求するのはやめておこう。
「それじゃお休み」
「はい、お休みなさいませ」
口に出したのは黒猫だけ。
しかしあとの二匹は軽くお辞儀したからよしとしておこう。
部屋に戻る途中でサラを見つけたのでお湯を忘れず頼んでおく。
そして部屋に入ってベットに倒れた。
本当に今日は濃い一日だった。
朝はケンカ売られて、服を受け取って、昼はギルドに行って爺から説教、午後は奴隷買いにオークション。
最後は貴族にケンカを売られる。
思い返せばとても忙しい一日。
いったい何時になったらゆっくりと怠惰な『美人の奴隷を囲ってのウハウハ成金生活』をおくれるのやら。
そんなことをつらつらと考えているうちに俺は眠りに落ちた。
狙いすぎですね。
しかし、主人公は『嘘つき』です。
そういうことだったりします。
こんなわけで第二章(前半)終了。
これたった一日の出来事なんだぜ?
・・・詰め込みすぎ、今後大丈夫なのか自分で不安になります。
さて次回後半は活動報告で書いた通り、9/1を目標に書き溜めて投稿します。
書き溜め失敗してもその日に何らかアクション起こしますのでお待ちいただけたら幸いです。
それでは皆さん。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。