原付「やっと出て行った・・・・暇だ」
黒猫争奪戦
結果
勝利!!
白猫、白金貨110枚也
黒猫、白金貨132枚也
合わせて、242枚。
畜生、あのケツ顎め、最後まで粘りやがって・・・。
家を買う金が消し飛んだぜ。
でも反省なんかしない。
後悔もしないさ。
俺は俺に忠実に生きている。
こんなにうれしいことは無い。
美しい女奴隷。女戦奴隷をゲットするなんて・・・嗚呼ゾクゾクする。
しかし、会場全体からの視線は少々まずかったかもしれない。
特にケツ顎野郎の視線は俺を射殺さんばかりだった。
目立ちたくはなかったが欲しいものは手に入れたい。
ま、これは必要経費としておこう。
すでに俺にはトカゲという盾がある。
さらに白猫という矛も手に入れた。
俺自身の『魔術』と合わせれば攻防力はかなりのもの・・・だと思う。
朝のように集団で襲われてもケンカの範囲でなんとかできるだろう。
そんなことを考えながら案内に従って受け取りカウンターにやって来た。
「旦那様、こちらが旦那様がご購入された品にございます。ご確認ください」
そこに立っていたのは間違いなく俺が購入した猫耳二匹。
こうやって近づくと白猫は俺と同じ170cmくらいの身長。黒猫は俺より頭一つ小さい160cmぐらいか。
鎖で繋がれた二匹は寄り添うように、白猫が黒猫を庇うように半身を出していた。
しかもしっかりと手を繋いだりしている。
うーん、もしかしてこの二匹は知り合い?
希少種の獣人らしいからコミニティーも小さいのかも。
だとしたら知り合いでもおかしくはないのか。
「ああ、間違いない。金はこれでいいか?」
ちょっと横柄に言ってカウンターにどさりと白金貨が詰まった袋を置く。
ふぅ、実は少し重たかったからちょっと楽になった。
嬉しくないけど。
「確認いたします」
受付の男が枚数を数えだす。
それを横目で見ながらさらに二匹を観察する。
白猫は俺を睨みつけながら、黒猫は俯いたまま不安そうにちらちらと俺を見ている。
どんな人間か興味があるんだろうね。
二匹からどう見えるか分からんが期待してくれると嬉しい、俺は素晴らしく良い主だからね。
それはもう、それはそれは良い主様だよ。
フフフフフ・・・。
二匹が着ている服は両方ともさっきと変わらず襤褸切れ。
白かっただろう布がかろうじて服の形をしているというもの。
まさしく奴隷的な衣装。
ちょっと背徳感があってなんだかエロチック。
しかし漂ってくる香りはカウンター越しにもかかわらず臭い。
奴隷だとしてもちゃんと洗えばいいのに。
それにあまりいい物を食べさせてもらってないのか若干頬がこけているし、髪も遠目では分からなかったが潤いが無い。
どうしてこうも商品を悪く扱えるのかわからない。
ここら辺は文化ってやつなのかな?
うーん・・・これだと買ってから即いただきます!とはいかないようだ。
むちゃくちゃ残念・・・。
俺が一通りの観察を済ませるとやっと白金貨の枚数を数え終わった終わったようだ。
「確かに、こちらは残りの白金貨になりますのでご返却します」
「あいよ」
帰ってきたのはたった5枚。
ため息が出そうになるが、まぁしばらくの生活費には十分だな。
「それでは奴隷の契約を」
受付の男が水で清めたナイフを渡してくる。
それを受け取り、指に本日二度目となる傷をつける。
痛!
さっきより深く切りすぎた。
思った以上に血が出たがカードに擦り付けて準備完了。
まずは黒猫から。
しかしカードを持ち上げたところで初めて白猫が口を開いた。
「頼みがある」
短いがはっきりとした声。
女性にしては少し低い。
でも安心感があるというかそんな声だ。
一応聞いてみようか。
「何?」
こちらも短い返答。
「私はどうしてくれてもかまわない。しかし、お嬢様だけは見逃して貰えないだろうか」
「ミィ!?何を言うのですか!!」
俺を睨みながら、でもその目の中に必死さがを覗かせながら口を開いた。
しかし、即座に白猫に縋りついていた黒猫が非難の声をあげる。
ふーん・・・なるほど、お嬢様ねぇ。
そして白猫の名前ってミィっていうんだ・・・。
とてつもなくどうでもいいけど。
「お嬢様。私は護衛役でありながらお嬢様をお守り出来ませんでした。こうなった以上、もはや族長に顔向けできません。しかしそんな私の身でお嬢様だけでもお助けできるなら本望にございます」
白猫は俺に向けるのとはまったく別の優し微笑みを浮かべながら黒猫に語りかける。
「なにを言うのです!元はといえば私が森の外を見てみたいと言わなければ人間達に捕まることも無かったのです。私が奴隷になりますからあなただけでも」
「いえ、お嬢様のせいではありません、未熟な私が・・・」
「ミィ!いけません。私が・・・」
涙混じりに必死に白猫に言い募る黒猫。
それに対してさらに言葉を返す白猫。
なんという主従愛。
なんという麗しき思いか。
互いを思いやっての自己犠牲精神。
美しいねぇ。
二匹で手を握り合ってキラキラとした空間作っちゃってまぁ。
てもさ・・・。
俺を無視しないでほしいなぁ。
こっちを完全に忘れちゃってるのでそっと近づいて二匹の首輪に続けてカードを当てる。
『あっ』
声をハモらせる二匹。
反応する二つの首輪。
呆然と俺を見る二匹。
沈黙する室内。
空気?読みませんよ俺は。
「勝手に盛り上がらないでくれるかな?必要だから高い金だして買ったんだよ。それなのに逃がすなんて選択肢があると思う?まぁ二人とも奴隷になりたいそうだからこれからがんばってちょうだい」
「え、いや、ちが!」
「まっ、えっ!?」
何やら言葉になっていない二匹が唖然とした表情で俺を見つめてくる。
なんか二匹揃って可笑しな表情してるな。
ちょっと笑える。
そんな俺の後ろでトカゲのため息らしきものが聞こえるが特に口を開くことはなかった。
なんか文句がありそうだが俺が主なんだ、すきにさせて貰うさ。
「さて、用事は済んだし帰りますかね。さあ、三匹とも行くよ!」
そう言って俺は有無を言わさずさっさと外へと歩き出した。
後ろからは重たいトカゲの足音がすぐに聞こえはじめ、何を思っているか分からない軽い猫達の足音が二つかなりあとから聞こえ出した。
そんな帰り道の馬車の中
そこはすばらしいほどに空気が良かった。
あれだ、夏の日に外から帰った直後に冷蔵庫を開けた時なみの冷気が吹き荒れている。
誰一人口を開くことの無い限定空間。
まさしく四人座席の列車内。
近くに四人座っているのに互いに無視しあっているのに意識している。
そんな、なんともいえない空間。
実際はゆったりとした馬車なので大柄なトカゲを含む一人と三匹が乗っても狭いことは無い。
向かい合わせの席でトカゲを横に臭い猫二匹を前に座らせたが二匹の視線がなんとも心地よいものだった。
一匹は視線だけで人が殺せると錯覚させらるレベルの睨目。
もう一匹は普通の人なら信じてもいない神様に懺悔しに行きたくなるほど罪悪感を感じるレベルの涙目。
大変気分のいい視線だけど。
でも俺悪くないよね?
普通に物買っただけだし。
ここじゃ一般的な売買だし。
諦めが悪い二匹が悪いし。
うん。何も問題ない。
そんなわけで心地よい四つ二対の視線を軽く流して外を眺める。
富裕街は街灯が設置されているので明るかったが、戻って来た一般街の商人ギルド区は月明かりのみ。
ここから東回りで雑多な冒険者ギルド区に入れば明るくなるはずだが・・・その前に一つやることが出来たみたいだ。
馬車が急停止。
「シュル!!」
「きゃぁ!」
「お嬢様!」
頭を天井に擦ったトカゲ。
悲鳴を上げる黒猫をさっと庇う白猫。
トカゲは駄目だが白猫は良く出来た護衛だ。
しかし、見えた瞬間身構えはしたけど俺を守れよ。
はぁ、でも今はまだ仕方ないか。
こういったことは徐々にね。
楽しみはなるべく長く・・・。
「リョ、リョウ殿!」
楽しい考えを募らせていた俺に御者さんから声が掛かる。
もしかしたらと思ってたけどやっぱりお客さんのようだ。
「トカゲと白猫は俺と外に出てお客さんの相手。黒猫はここでお留守番。OK?」
「白猫では無い!私は『白虎族』の」
「はいはいどうでもいいから、さっさとする」
「貴様!」
なんとも反抗的だ。
うるさいからカードを握って首輪に軽く念じる。
「きゃ!!」
「お嬢様!?」
喉を押さえて苦しんだのは黒猫だった。
ありゃりゃ間違えた。
でもこっちのほうが効果がありそうだな。
「貴様とか言わない。俺のことは主殿と呼ぶこと。そっちの黒猫はご主人様ね、そして俺から呼ぶときはトカゲに白猫、黒猫。それで終わり。理解したしたならさっさとお客さんの相手に出た出た」
言い捨てた俺は二匹を見ることなくちゃんと命令に従って外に出たトカゲに続いて馬車を降りる。
外には案の定というか予想通りというか先ほどのケツ顎と武装した兵士達数名が道を塞いでいた。
こういう場合俺から声をかけるべきかね?
「どちらさんで?」
頭をかりかりとかきながら面倒くさそうオーラ全開で聞いてやる。
いや本当に面倒くさいんだけどね。
「先ほどはどうも魔導師殿、私はソーラ・ディ・ノコ伯爵といいます」
ゆったりと優雅に・・・とは決して言いたく無いが貴族らしい動きで名乗りをあげるケツ顎。
ふぅん、貴族で伯爵様ね。
「ドウモ、魔術師のリョウとイイマス。ソレで貴族様がナンの御用でショウカ?」
一応の礼儀として名乗り返しはする。
思いっきり棒読みになったのはご愛嬌だ。
「たいした用件ではありませんよ。先ほど購入したそちらの獣人二人を譲って頂けたらと思いましてね」
ケツ顎が俺の後ろを指差す。
人を指差しちゃいけないって親に教わらなかったのだろうか?
まぁ猫だけど。
なんとなく後ろを振り返ると俺を睨んでいるが後ろに立って指をポキポキ鳴らしながら戦闘準備をしている白猫と馬車の扉から不安そうに顔を出している黒猫がいた。
耳がピコピコしててちょっとかわいい。
そのまま和んでいたいけど視線を戻してケツ顎に問い返す。
「幾らで?」
「は?」
予想外だったのか俺の返答に間の抜けた声を出すケツ顎。
周りの緊迫していた雰囲気も一瞬緩んだ。
まぁこういう時は嫌だっていうものだしね。
「譲ってほしいってことは金をだすでしょ?幾らで?」
「そ、そうですね白金貨100枚でどうですか?」
なめてんのかこいつ。
馬鹿だろ、死ねよ。
「あんたさっきのオークションにいたんだろ。なのに何そのふざけた額。遊んでないでさっさと値段いってくれませんかね?こっは暇じゃないんだから」
イライラと腕を組んでこつこつと靴の先で石畳を叩く。
二割ほどはパフォーマンス。
俺の返答にかなり頭にきたのかケツ顎の表情が一瞬止まる。
「そうですね。幾らなら譲っていただけるんで?」
無表情になったケツ顎が逆に問い返してきたやった。
それくらい考えろよ。
本当に面倒な野郎だな。
しかし優しい俺様は答えてあげる。
「白金貨1000枚、もちろん一人に付き。だから合計で2000枚」
俺が至極真っ当な値段を言ったのに空気が一瞬で硬化した。
「あなたこそふざけないで欲しいですね」
「どこが?原価が130枚なんだから売値は10掛け程度、商売としては当たり前でしょ?一人1300枚の所を300枚もまけてあげてるんだぜ。感謝して欲しいくらいだ」
もちろん普通の商売ならもうすこし安い値段だと思う。
でも手間賃とか今のイライラとか加味したら破格の値段だよね?
「それはさすがに払えませんね」
無表情のケツ顎の声がかなり低くなる。
「それでは・・・帰れ。こっちは暇じゃないんでね」
ニッコリと笑顔を浮かべた俺も声を低くする。
「いえいえ、譲ってもらいますよ。・・・どんなことをしてもね」
ケツ顎が気取った動作でパチンと指を鳴らす。
それを合図として周りを囲んでいた兵士が一斉に剣を抜いて襲い掛かってきた。
「トカゲに白猫、適当によろしく」
「シャ!」
「チッ、お嬢様のためだからな!」
俺は馬車の前まで後退。
トカゲらしい反応とよほど気に入らないのか舌打ち一つでツンデレ風味に飛び出す白猫。
こっちは後でお仕置きしよう。
相手はざっと数えて十人、全員が揃いの鎧を纏った兵士風の男達、国の兵士ではなくたぶん雇われの傭兵か貴族の私兵って奴だと思う。
ぶちのめしてもたぶん大丈夫だろ。
・・・大丈夫だよね?
もう言っちゃったし。
なにより逃げられそうにないし、相手からケンカ振ってきたんだからいいよね。
幸い夜で誰も見てないし・・・ニヤリ。
初手を取ったのは兵士A
「おりゃーーーー!!!」
長剣を振りかぶっての一撃。
トカゲの首目掛けての横凪一閃。
「シュル!!」
トカゲは前傾姿勢をいかして瞬時に地面に張り付くようにかわす。
そして沈み込んだ体勢から跳ね上がるように反撃のタックル。
「ゴハァ!」
血反吐を吐きながら空を舞う兵士A。
どんだけ力があるのか斜め下からの突き上げで吹っ飛び、暗くて見えない遥か先に落下。
グシャリという明らかに骨折だけではすまない音が聞こえた。
続いてトカゲの背後から迫る兵士Bを尻尾で弾き飛ばす。
尻尾の先に取り付けられた棘付きの防具が兵士Bの鎧に突き刺さりそのまま地面に叩きつける。
石畳にヒビが入り腹に赤い斑点をつけてピクリとも動かない兵士B。
痛そうだ。
「獣人が!!」
「死ね!!」
さらに兵士Cと兵士Dの挟撃。
突きと振り下ろしの同時攻撃を腕の鎧を使って受け止める。
『!?』
「シャァアアアアアアアア!!」
驚きに動きを止めた二人。
そんな二人の頭をトカゲは鷲摑みにする。
そして気合の叫びと共にぶん回すように頭をかち合せた。
音はゴンではなく亀でも踏み潰したような、明らかに頭が割れたであろう水音混じり。
ちょっと寒気がした。
「シュルル。弱きものに抜く必要もない」
ほとんど一瞬。
わずか数十秒のうちに4人を撃破。
しかもトカゲが言うようにメイスを抜いてすらいない。
この兵士達が冒険者のランクでどの程度か分からんが正規の訓練は受けたであろう兵士を瞬く間に殺ってしまうとは・・・。
ホントいい買物した。
さらに二人が剣を持ち対峙しているが明らかに腰が引けている。
トカゲが襲い掛かったらすぐに終わりそうだ。
視線を変えて白猫を見る
「傷つけるな!捕まえろ!!」
とのケツ顎からの命令に兵士四人が取り囲む。
「お嬢ちゃん、大人しくしな」
「旦那さんに貰ってもらえばいいめが見られるんだぜ」
説得らしきことを口にしながら包囲を縮める兵士達。
「ふざけるな、お嬢様に手出しはさせない!」
あっさり交渉決裂。
白猫の拒絶が合図となり背後の二人が飛び掛る。
「私に触れるな!!」
視界外のはずなのに動きを察知した白猫。
すっと身が沈んだかと思うと・・・兵士E、Fは倒れて白猫に踏みつけられている。
ごめん、正直早すぎて見えない。
恐らく肘うちをダブルで打ち込んで、くの字になった頭を踏みつけてジャンプ、そのまま落下と 合わせて背中を踏んづけて倒したかな?
力だけじゃなくて動きも身軽。
さすが猫だね。
呆気にとられてるのは正面の兵士GとH。
目が点になってます。
「引け、お嬢様には触れさせない!」
そこは主殿に触れさせないって言って欲しいな。
これはあとあと調教しないとね。
フフフフフ。
睨まれた蛙の状態の兵士GとH、さらにトカゲからじりじりと追い立てられてケツ顎の側まで下がったへっぴり腰の兵士IとJ。
「ぐぬぬぬぬ」
さっきまでの余裕はどこへやら、貴族風の優雅な雰囲気を殴り捨てて俺を睨んでます。
勝負ありだね。
「二匹とも戻って、それで貴族様、まだやるの?」
二匹が警戒しながら徐々に引いてくる。
明らかにホッとする兵士を尻目に睨み全開のケツ顎。
「魔導師風情が・・・調子にのりやがって!!」
エセ貴公子の化けの皮完全に剥がれちゃってるよ。
無様だねぇ。
「まだやる?」
繰り返し聞いてみる。
「クソが!覚えてろ!!」
うあぁバリバリの捨て台詞なんて初めて聞いた。
吐き捨てると脱兎のごとく逃げ出すケツ顎。
でも何で俺が覚えてなきゃいけないわけ?
「フリーズランス!」
ポケットから携帯を取り出して呪文を一息で唱えて放つ。
携帯が指し示す方向にイメージ通りに氷槍が伸びる。
それはケツ顎の左頬数センチを掠めた。
「ヒッ!!」
ダルマさんが転んだ!
ってわけじゃないけど走り出した微妙な体勢で止まるケツ顎。
ちょっと腕を動かして肩と頬に氷を押し当てる。
思った以上に重たいのよこれ・・・さっさと終わらせよう。
「俺ってあんまり物覚え良くないんだ。今後何もなければ完全に忘れると思うんだよね」
「な、なにを・・・」
「だからさ、本当に覚えておいていいわけ?意味も無く襲われたことに多少思うことがあるんだけど・・・?」
後姿しか見えないからケツ顎がどんな表情、何を考えているかわからない。
でもとりあえず脅しておこう。
貴族様に恨まれたままってのは俺の今後の生活に影響ありそうだし。
「フリーズランス」
再度呪文を唱える。
一本槍だった氷が中頃から枝分かれし今度は右頬を掠める。
「!!」
ケツ顎は言葉が出ないのかビクリと震わすだけだ。
「貴族様、俺とあんたはここでは会わなかった。この寝転がっている人たちは勝手にケンカして勝手に倒れた。俺とあんたとの間には何もない。今後も何も無い。ですよね?」
出来るだけ楽しそうに冷ややかに。
俺の問いにゆっくりと首が縦に動いた。
「フリーズランス」
三度唱えた呪文。
さらに枝分かれした氷は五本。
木の根のごとく伸びたそれらは残った四人の兵士達の首へ。
残り一本はケツ顎の頭の上、髪の毛を掠めるギリギリで根が生える。
「あんたらもだ。ここで起こったのはあんた達が勝手にやったケンカだけ、俺とは出会っていない。いいね?」
兵士達の首がしっかりと動く。
うん。まったく信用ならないけど・・・まぁ、こんなものか。
腕を引いて氷を離す。
氷槍全てが雹のように砕けて消えた。
『ヒッヒィーーーーーーーー!!!』
なんという脇役丸出しな叫び声。
ママーー!!とか言わないだけまだマシか。
残響だけを残してケツ顎達が消えた。
ふぅ、これで問題解決。
ギルドの爺に呪文で吹っ飛ばすのはマズイって言われてたけど昼間のように誰かに見られてるわけじゃないし、ただの脅しだから問題ないだろ。
「さて、帰りますか、御者さんよろしく」
振り帰って唖然としている御者さんに告げる。
「そこの二匹もさっさと乗る」
なにやら俺をみて呆然としているトカゲと白黒猫。
トカゲの表情はほとんどわからんが目が大きくなってるから驚いてはいるんだろ。
そうか、俺の魔術って十分異端なんだよね。
脅すことしか考えてなかった。
でもこれから俺の護衛やってもらうんだから見せとくのはいいことだよね。
「い、今のは?」
俺を睨んでばかりの気丈だった白猫が震えた声で聞いていた。
そんなに驚いたのだろうか?
俺は馬車に足をかけたまま立ち止まって考える。
そうだね・・・。
「・・・ただの『魔術』だよ」
決まった!
ちょっと格好つけて答えてみたけどこれで俺に惚れてくれたかな?
しかし白猫の顔には疑問符がくっ付いていただけ・・・。
ま、まぁ今はこれでいいだろ。
俺に続いて全員が乗り込んだところで今度こそ馬車は誰にも邪魔されることなく宿へと向かった。