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異世界の生活は原付と共に  作者: 夢見月
第一章 原付「俺様の戦いはこれからだぁ!!」
2/32

原付「こいつまたサイドミラー壊しやがったよ。ホントもうちょっと扱いを良くして欲しいぜ」

酷い表現がありますので注意してください。

追加注意。

R15以内に抑えたつもりですが、主人公の性格の一端を知っていただくため極度の性的暴力表現があります。大変不快な気持ち、感想をもつ場合があるため、そういったことが受け付けない方は四話『原付「初めて家の中に入りました」』前書きに簡単なあらすじをのせますので、この話及び次話を飛ばすことを推奨します。

はい、こちらリポーターの星野です。



今私がいるのは先ほどの道をさらに10分ほど進んだ小高い丘の上ですが、見てくださいあの惨状を、ここからでも村が襲われているのがはっきりと見て取れます。

村からここまで約100mほどですがここまで村人の悲鳴が聞こえてきます。

普段は黄金の麦畑がたわわに実る放牧的で静かな農村なのでしょうが一体誰がこのような酷いことをしているのでしょうか・・・。

おっと!今カメラに緑色の物体が写りました。

あれは何でしょうか・・・。大きさは小学生程度ですが潰れた顔にぶっくりと腹が出た丸い体、太く長い腕に短い足。申し訳程度に巻いた獣皮の腰巻。

ゴブリン!ゴブリンです!!ゴブリンの集団が村を襲っています!!!

数は20匹ほどですが斧や剣、弓などを使い村人を惨殺しています。




・・・・・・・。




飽きた。


いや、まぁリポーターごっこもそれなりに楽しいけど一人でやってもね~。

状況は理解できたと思うけど。

あれからしばらくして空に黒い煙が上がってるのが見えたんだ。

つまりその下に火があるってことで、火があるってことはそれを使う知的生命体がいる可能性が高いって訳だ。

さっきから晴れ渡ってるから落雷で火事ってことはないだろうから、確実に生命体に会えると思って急いで向かったんだけど・・・。



匂いがね、良くなかったんだ。



しばらく前に嗅いだことのある臭気。火事の現場そのままの色々なものをごちゃ混ぜに焼いた臭い匂い。

丘の先だったからその手前で原付のエンジンを止めて慎重に伺ったわけ、そしたらさっきの状況が見えたわけだ。

方角は分からないから俺基点にして右手の方に森があってそれが丘の手前まできてる、そして正面に小さな村、教会っぽい石造り建物とちょっと大きい多分村長の家。

あと土台は石、壁は木で出来た家が30戸ほど。

それを囲んで一応の柵とさらにその外周に麦畑で村の出来上がり。

あとは村の向こう側森からさらに左手の先まで川が流れてる。

道は村の左側を横切って川を渡ったさらに先まで続いている。

狩猟と農耕の共存って題で写真でも撮りたいぐらい焼けてなければ綺麗な風景だけど・・・。


ゴブリンは森から出てきたんだろうね。

頭もいいのか川側から麦畑を通り抜けて回り込んだ様子も見れる。

ゴブリンが走った跡がくっきりと畑に残ってるし。

これじゃ村人は助からないだろなぁ。

仕事柄鞄に入れていた双眼鏡で眺めてみるけど、あらら、完全に包囲殲滅って状態。

眼に映った若い兄ちゃんが斧振り回してるけど、あ、槍が心臓にさっくりと刺さった。

血が槍を伝って流れてびっくりしてる。

わなわな震えてるけどダメだよ止まったら、後ろから来た奴にメイスで殴られて頭スプラッタにされちゃったよ。

教会の前では汗臭そうなおっさんががんばってるけどただの鍬じゃね~。

矢が一本二本と刺さってはいアウト。

火が家を焼いてそこから映画みたいに焼けた人がフラフラと歩いてばったり。

道の手前では女の子が犯されちゃってるよ。

なかなかに可愛い子だけど二匹のゴブリンに大変な状態にされてる。

ゴブリンめなんて羨ましいことを!違った、なんて酷いことを・・・。

さっきの教会から何人か引きずり出されてきたけど男の子が斧でばっさり!

とはいかず切れ味悪くてぐちゃぐりゃの肉塊血溜まり。

母親かな子供の名前叫んでるけど、あらら、またしてもゴブリンに組み敷かれてR18なことに、あとおばあさんもいたけどそれすらも組み敷かれて・・・。

ゴブリンよ女なら何でもいいのか・・・?

さすがにオーバー40は許容範囲外だ、それ以内ならもっとやれ、いやいや何言ってんだ。

見た感じ男は殺され女は子作りに、うーん不思議不思議。

ゴブリンの美的感覚ってどうなってんだろ、

人間がサルの裸見ても興奮しないけど、異種族でもゴブリンはR-18できるってこと?

ゴブリンは雄しかなくて人間を使って繁殖するのかな?それともただの快楽のため?

どっかにゴブリンの村があって普通にゴブリンの雌がいるのかな。

見た目全然違うから子供作れるのかとても疑問。

ファンタジーだから遺伝子的違いなんか関係無いって事かな。

どうなんだろ、本当に不思議不思議。

そうそう、話し変わるけど言葉は理解できるみたい。

こっちの言葉が通じるかはまだ分からないけどさっきから聞こえる


「ひー!、化物ーーー!!」


「助けてー!!」


「イヤーおかあさーーーーん!!!」



とか全部わかるからね。

よかった。少なくてもヒヤリングできたら後はイエスとノーのジェスチャーで答えられるから生活に極端に困ることは無いね。もし言葉を覚えないといけなかったら絶望するところだったよ。

英語ですら赤点すれすれの成績だったのに今更まったく違う言語覚えるなんて拷問以外の何者でもないからね。

これもチート?なんにしても助かる。

あと服装も多分問題なし、今現在俺着用の服は灰色の作業着。

会社で着替えるのが面倒だから家から直接着て行ってるんだよね。

アパートから会社まで原付で20分だよ?わざわざそのためだけに普通の服着てさらに会社で着替えるって面倒ジャン?

だから今は作業着。

で、見た感じ村人と極端に離れてる意匠じゃないからおそらく問題ないと思う。

うん、よかった。

安心したらお腹空いてきた。

俺の携帯に表示されてる時計だともう12時だし、この世界の太陽も大体真上、お昼だしオニギリを食べることにしよう。

匂いがちょっと残念だけど丘の上でピクニックとしゃれ込むのもいいかもね。

昨日の晩御飯用コンビニオニギリ鞄に入れといて良かった。

食べきれずに残しておくなんて珍しいことだったけどこのときのためだったんだね。

運が良かった。神様ありがとう。

それじゃいただきます。







え?助けに行かないのかって??それなんて冗談???(笑)



筋肉たくましいおじさんとかがフルボッコにされてるんだよ?貧弱な俺が行ってどうなるのさ。

さっき使えた魔術だってまだどういうものか分からないんだし、そもそも有効かもわからない。

それなのに突っ込むなんて馬鹿のすることだって。無謀だって。蛮勇だって。

そういうわけでのんびりとオニギリをほおばりながら村の様子を観察して情報収集を続けるけど状況にあまり変化なし。

村人男は抵抗して殺され、村人女は犯されて放置。

もしくは適当に殴られ蹴られでおもちゃにされて撲殺。

うーん嫌な死に方だ。俺の目標は眠るように静かに老衰だから趣味に合わないな。

それにしても対策くらいしなかったのかねこの村、魔物の襲撃なんてありそうなことだろうに。

道中もちらほら見かけたし森に近いならなんかしてそうだけど・・・。



そんなことを考えながらオニギリ二つを食べ終える。

ゆっくり食べたけど10分もかからなかった。

足りないけどしかたない。食えるだけまし、今村に行って「ご飯ください」

って言っても大変そうだからもらえないだろうし。

お金もないしね。そうお金。この世界のお金ってどんなだろ。

ゴブリンが居なくなったら火事場泥棒でもしてみよう。

物々交換じゃなければそれらしいものがきっと見つかるはず。

村人はもう使う機会無いだろうしね。

知らないといけないこと多いけど楽しい異世界ライフのためがんばろう。


それにしてもゴブリン気持ち悪すぎ。

非対称の顔にブヨブヨの体でぶつぶつがあったりヌメッとしてるし、

口はぐちゃぐちゃの歯はボロボロの・・・。

ほんと醜悪って表現がぴったり、

生理的嫌悪感が沸き立つよ。

ゲームとかアニメだとデフォルメされてるけど現実だとこうなんだね。

見た目で判断するなって、俺が生まれる前に死んで会ったここともないおじいちゃんの遺言ってことにしてる言葉もこいつらの前じゃ無意味だよ。

ああ、なんと言葉は無力なんだ。しょせんは奇麗事なのか!

と悲劇の主人公とばかりにポーズを決めてみた。

馬鹿らしい。


っと状況に変化アリ!森の中からなんか大きな緑色が出てきた。



・・・・・・・デケェ。



周りの死体と建物から判断するとおよそ3メートルくらい。一応人型。腕が地面に付くほど長かったり、額にドリルのようなグルグル角があったりするけど。

装備はこれまたデカイ剣と鎧っぽいものを胸と腰に付けてる。うーん。名前なんだろ。

ゴブリンにしてはでかすぎ、けどトロルっていうほど馬鹿っぽさがない(偏見?)。

2本角なら鬼って表現ぴったりなんだけど。うーん、いいや、勝手にゴブリンキングと命名。



ゴブリンキングの出現に世界が凍りつく・・・


もはやその威容に生きとし生けるものは言葉を発することすらできない。


恐怖で足は竦み奥歯はがちがちと知らぬ間に音を奏でる。


人の身で抗うことの出来ない絶対たる力。かの者こそ陸の王者。




なんてね。

格好よく言ってみましたがこの距離だと特には何も。

ボス登場!って感じだから盛り上げてみたけどRPGなら最初のダンジョンイベントではボスだけど、しばらく進むとただの平原で雑魚敵として登場しますってくらいじゃないかな。

つまり何が言いたいかというと妙な小物臭がするってこと。

さらに観察を続ける。

ゴブリンキング、自分で命名しといてあれだけど長くて面倒だから省略してゴブキン。

ゴブキンは左手に何か引きずっていた。

ズタボロになったそれ、いやそれらは成人男性四人。

まだぴくぴく動いてるから生きてはいるみたいだけど引きずられて血だるまになっちゃてる。

服装からして村人っぽいけど体格は良さそうだから狩人さんたち?

あ、ゴブリンの集団に放り込まれた。

ゴブキン腕力凄いんだ。1人80kgとして4人合計でおよそ320kgを放り投げるんだから相当だよね。

それに群がるゴブリン達、砂糖にむしゃぶりつくアリのように固まりすぎ、何をしている?

よく分からんぞ、ちゃんと見せないと視聴者が怒っちゃうぞ、つまりは俺。

しばらくギャアギャアやってたると思ったら槍に刺さった生首四つの出来上がり。

ああ、首落としてたわけね。

それを見届けてゴブキンが咆哮!うるせぇ、続いてゴブリン達が槍を掲げて叫びを上げる。

もう一度ゴブキン、さらにゴブリン達、さらにさらに以下略。

ようは勝鬨ってやつだね。うるさいけど。

推察するに、何かしらゴブリン達を刺激した四人の報復措置で村が焼かれたと。

うん、すっきり。たぶん正解。かってに正解にする。

ダメだよ、ちゃんと住み分けないと。不法侵入は警察に逮捕されるんだから。

ましてや法律がなさそうな異種族なんだから何されたって文句は言えないよって脳内で助言してあげる。

天国で聞いてね。

さてと、どうするか、いい加減スナイパーよろしく腹ばいでの観察は疲れた。

向こうでは勝利宣言が行われてるからそろそろ立ち去るでしょう。

そしたら火事場泥棒して先に進むことにする。


方針決定!


「フワ~ッ・・・・」


欠伸と一緒にグッとその場で背伸びをしてもう一度双眼鏡を構える。


・・・・・・あれ?ゴブキンと眼が合った。

そんなことないよね?メガネを持ち上げて眼を擦る。

もう一度覗き込む。

ばっちり眼が合った、今度は周りのゴブリン達もこっち見てる。

そして一斉に叫びを上げた。


「マジかよ、眼良すぎだろ、ずっと腹ばいで隠れてたのに何で分かった・・・」


ばれたからには仕方ないので急いで立ち上がって埃を払い、脇にスタンドで立てていた原付に飛び乗る・・・・・・・・そうか、自分が隠れてても原付が丸見えだな、失敗失敗。

反省終了、他の要因も探して今後に生かすことにする。では逃げよう。

とはいっても一本道、引くか進むかだけ。

草原に突っ込むのは原付的に論外、戻ったところで二時間の旅路と過去から忘却した場所に戻るだけ、つまり残された道はただの一つ。


「いっくぜーーー!!」


エンジン始動と同時にフルスロットル、急な加速に体が引かれながら坂道を駆け下りる。

スピードメーターはメモリ一杯の60km/h。

遅いと思うなかれ、音と視線の低さと砂利道の凸凹で跳ね飛びながらだからかなり怖い。

でも、ジェットコースター嫌いの俺ががんばったかいあって、


必殺『一人逆落とし』!!


は効果あり。道中の魔物同様、村から俺を襲おうと出てきたゴブリン達が逃げ出した。

予想通り、このまま村を強行突破しよう。

火事場泥棒できないのが残念だけど、危ない橋は渡りたくない。

川越に丸太を渡しただけの危ない橋は渡るけどね。

しかし、裏切られる存在が一匹、ゴブキンが吼えた。

原付の爆音に負けない大きな声で吼えた。

ぴたりと硬直するゴブリン達。

さらにゴブキンは持っていた剣を振り上げて目の前まで逃げていたゴブリンに叩きつける。

地面が爆発、砂埃が一瞬姿を覆い後には肉片と化した元ゴブリン。

数歩後ろにいたゴブリンがしりもちをついている。

なんという五十歩百歩。死を分けたのは明確な五十歩ってわけだ。

さらにゴブキンが吼えて剣をぐるぐると振り回す。

意訳すると「逃げたら殺す」かな。

ははは、以外に勇気がおありの様で。小物臭がするって思って悪かったよ。

でも遅い。もう村の横を過ぎて丸太橋に到着。

段差があるから降りて持ち上げないといけないけどそこさえ過ぎれば原付に追いつくのは無理、騎獣でもあれば別だろうけどそんな様子も無し。

俺の勝ちだね。


「さようなら」


小さく呟いて橋を渡ろうとしたその時、一瞬の風切り音と供に矢が右肩上、右耳横数センチを通り過ぎる。

振り返ってそいつを確認。

それと同時にもう一発、今度は振り返った肩越し、原付サイドミラー(左)に直撃。

ミラーが根元からへし折れた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


立ち直り早いね。

ま、ボスに殺されるか見知らぬ獲物を狩れなら同じようにするだろうさ、音が凄いとはいえそれは逃げようとしてるんだから、そうなれば恐ろしいボスの命令聞いて動くよね。

でもさ、だからって矢は無いんじゃない?

下手にあたったら死んでるよ?

死ぬような攻撃してきたんだよ?

俺はさ日本人なの、専守防衛を基本としてるの。

つまり、俺は今正当防衛発動するわけ、

反撃する権利を得たわけ、復讐する権利を得たわけ、

さらに付け加えるなら俺は俺の信条として俺を傷つける奴を許さない。









「絶対殺す・・・・・・・・・・・・・!」







一瞬で頭が白熱する。


怒りで視界が真っ赤に染まる。


一気に沸騰する全身を軸に頭をクリアにする。


原付の警笛を鳴らす。

今までと違う甲高い音が辺りに響き、第三射を放とうとしていたゴブリンは矢を落とし番えようとしていた別の一匹も耳を押さえてうずくまる。

近接装備のゴブリン達もびっくりして立ち止まるか、再度逃げ出す奴もいる。

逃がさないけどね。

相手が動きを止めたところで状況把握。

村から出てきたのが十三匹、

その後ろ、どうやって上がったのか屋根の上で弓を持ってるのが二匹。

さらに後ろにゴブキン一匹。

数が足らないと視線を走らすと川を渡って、俺の正面を押さえようとしているのが六匹。

さっきも思ったがなかなか頭がいい。

集団で一匹の獲物を狩るには逃がさないように囲って潰すのが一番だからね。

逃げるつもりは一切無くなったけど。

警笛を鳴らし続けながら呪文を唱える。

そして完成と同時に流鏑馬のごとく構え


「フレア・アロー!!」


叫ぶとイメージ通りに火矢が出現した。

さっと眼を走らせ目標をさだめると仮想の弦を離した。

火矢は紅い軌跡を残しながら空を駆け抜けて弓を持っていたゴブリンに命中。

威力が強すぎたのか腹に黒い風穴を開けてさらに先にまで飛んでいった。

しかも途中、前衛のゴブリン二匹の横を通り過ぎたが熱風だけで半身を黒焦げにしている。

ファイヤーボールだと村を巻き込むと思ったからこれにしたけど、威力強すぎ・・・。

音が止むと同時に一瞬で三匹もやられたことにさらに逃げ腰になるゴブリン達。


でも逃がさないけどね。


威力弱目と意識しながらさらに呪文を紡ぎ今度は「フリーズ・アロー!」氷の矢を出現させる。

仮想の弦も6割程度で引いて発射。

弓を持っている最後の一匹に命中、今度は氷の矢が頭に突き刺さり串刺しで止まる。

反射で氷を抜こうと手が少しだけ動いたがすぐにとまり屋根から落ちた。

そして涼しげな音と供にゴブリンが砕け散った。

うん、ゴブリンにはもったいない綺麗な死に様だ。

焼いて殺すよりずっと見た目がすばらしい。

呪文を再度唱えて、一番近い奴に向けて発射。数秒も掛からずに腕に命中。

さっきは遠くて見えにくかったけど、突き刺さった部分から氷が一気に全身を覆っていき、

ハイ!ゴブリンの氷付け一丁あがり。

ニヤリと口元に笑みが浮かぶ。それをみてゴブリンが今度こそ逃げ出した。


だから逃がさないって。


あとはやったことは無いが七面鳥撃ちのごとく的を狙い打っていく。


体、頭、腕、肩、太もも。


呪文を早口に唱えながら次々に氷像にしては砕いていく。

一分も掛からずに村側全滅。

残りはゴブキンと、川側からの奴ら。

好運なことに川側の奴らは渡河に夢中で今の惨劇は見てなかったらしい、びしょ濡れのままこちらに突っ込んできた。

こっちは村の建物に被害が行くことは無いから遠慮無用。

すこし長い呪文を唱えて両手を突き出す。


「アイス・ミサイル!」


手の先から氷柱が出現。高さ1m、直径30cmのそれはいったん空高く打ち上げられ静止。

くるりと回転し先端をゴブリンの集団へと向けると再度発射。

笛の高音のような風きり音を響かせながら集団の中央に着弾。爆発。

いや、熱を持たないそれを爆発と表現するのは間違っている。

花が咲いた。一瞬でゴブリン達、周りの麦を巻き込んで氷の花が咲いた。

直径にして20mの空間が氷に閉じ込められた。

秋の景色に氷の華。絵にして飾っておきたいほど見事だね。

そんな絵を書くまもなく全てが涼やかな音と供に砕け散ってしまったけど。

後にはシャーベットで覆われた丸いく切り取られた麦畑だけ。

うん、決めた。実験が終わってから魔物倒すときは出来るだけ氷系の呪文で倒すことにしよう。

見た目綺麗だしね。

さて、残ったゴブキンは『ガルルル』と駄犬の如き唸り声を上げている。

そりゃそうだよね、味方があっさりとやられちゃったんだから。

悔しさで歯軋りくらいしたいだろうさ。

でも俺ははっきり言ってこいつに感謝したいくらい。

頭が沸騰するほど殺したいけど、こいつがゴブリンをけしかけてくれたお陰で一般的村人が抵抗できない魔物も俺があっさり倒せる事がわかった。

もし魔術かなかったら一匹ずつ原付でひき殺さないといけなかったよ。

それに、魔術を使うと疲れることも分かった。

睨み合いっぽい状態を余裕の笑みで受け流しているけど、実は少し体がだるかったりする。

中学の時の『町内一周マラソン大会』での500m地点並みのしんどさだ。

ちなみに俺は図書室が大好きな人間だと言えば大体のしんどさは理解してもらえると期待したい。


ではゴブキンさん、色々教えてくれたから出来る限り遊んで殺してあげる。

そう思っていると、ゴブキンが突っ込んできた。

一直線に。

貴重な焼け残っていた家や、柵や、死体なんかを吹っ飛ばしてうるさい叫びを上げながらの突撃。

まぁ、さっきの戦闘見てたんだからわかるだろうけど距離が開いてたら狙い撃ちだもんね。

でかいから足幅も大きいし一気に距離が詰まってくる。


「チッ」


遊ぶ余裕がなくなった俺は舌打ちを一つかましてから早口に呪文を唱えて、手を地面につけて発動。


「アース・ニードル!」


触れた地面がボコボコと膨らみながら走っていき、ゴブキンの目の前で弾けた。

瞬間巨大な土杭が出現、ゴブキンへと伸びていく。

ゴブキンは眼を大きくしながらなんとか避けようとするけど、アレだけの巨体を形作る質量、それから発生した慣性に逆らえるはずも無く自滅分も合わせて深くざっくりと突き刺さった。

緑色の体液が杭を伝って流れ出す。

しかし、無駄にデカイだけあって生命力もあるみたい。

虫みたいに針で標本にされてもまだ動いてる、そしてしばらく暴れているとデカイ剣で杭の根元を叩きつけると杭が形を保てなくなり崩れ落ちた。


ニヤリとゴブキンが笑いやがった。


俺もニヤリと笑ってあげた。


あーあ。知らない。そのままならもうちょっと長く生きられたのに。

ゴブキンは分かりにくい緑色の顔を青く染めそのまま大量の体液を撒き散らしながら轟音と供に倒れた。

そりゃね、腹に穴があいてたら血も沢山流れるよ。

杭が刺さったままならまがりなりにも止血されてたのに。

応急処置の基本だね。適切な処置が出来るところで刺さったものは抜きましょう。


「ふぅ~・・・」


息を吐き出してクールダウンをはかる。なかなかに緊張したがなんとかなった。

怒りのままにだったが貴重な戦闘サンプルも取れたし、村から化物もいなくなったから漁れる。

いい事ずくめだ。

鞄からペットボトルを取り出し、お茶を一口。




思ったよりも口の中は乾いていた。

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