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異世界の生活は原付と共に  作者: 夢見月
第一章 原付「俺様の戦いはこれからだぁ!!」
17/32

原付「やっぱり自分の力で走るのが一番楽しいかな」

 どうもこの日は厄日だったようだ。


 帰り道で三度もイノシシ(もどき)な魔物に襲われて足止めをくらった。

 残り少ない体力はさらに削られ、頭はクラクラ、足もフラフラとしておぼつかないほどだった。

 村に帰ってきたときは完全に日が落ち月が空高く上ったとき。

 そんな遅い時間なのに村人達は俺を心配してか火を焚いて待っていてくれた。

 感動で少し涙がにじんだ。


 僕にはまだ帰れる場所があったんだ・・・的な。


 はっきり言って方向音痴な俺は明かりが無ければこの山道と森の中を迷わず帰れなかった。

 これが災い転じてって奴なのかもしれない。

 ボロボロの傷だらけになって帰ってきた俺は村長宅で裸に剥かれて薬草を塗りたくられた。

 良薬・・・かどうかはわからないが口に苦しとはよく言ったもので、あまりの臭さで鼻が馬鹿になってしまった。

 これで効果が無いとちょっと恨むかも。

 そして約束通り暖かい食事も頂けた。

 俺が翼竜の巣から無事に帰還したことを祝して肉も振舞ってくれた。

 豚の丸焼きなんて始めてみたぜ。

 もちろんがっつりと頂いたが、無茶苦茶うまかった。

 そんな食事の席で聞いたが、俺の使った魔術の音は村まで響いてかなり心配されたらしい。

 そのため何が起こっても大丈夫なように寝ずの番をきめていたそうな。

 これはかなり迷惑をかけてしまったな。

 あまり働かない頭でそんなことを考えていたが、腹が一杯になった俺は魔術の多様と疲れと薬のせいもありすぐに寝てしまった。

 


 起きたのは昨日と同じ昼前。


 来るときの猛ダッシュのおかげで余裕があるとはいえ急いで出発した。

 薬はかなり利いたのか痛みはほとんど抑えられている。

 独特の臭い匂いはまだ残っていてちょっと辛いが我慢する。

 結局金貨は薬代として全部貰ってもらった。

 ズヒさんたちもかなり固辞したが感謝の印と迷惑料込みで受け取ってもらえた。

 感激した村長たちは俺をこの村で立派な『魔術師』として語りついでくれるらしい。

 正直恥ずかしいからやめてくれ・・・。

 こうして別れを済ました俺は二日前に通った道を戻っている。

 体力の関係もあって少しゆっくりとしたスピードだが、それでも原付のフルスピードレベルだ。

 無茶はせずに休憩も挟んで進み。

 途中の小川で魚を取ったりもした。

 もちろん釣竿がないから魔術を使用してのガチンコ漁法だったが大量に取ることができた。

 櫛にさしての丸焼きは塩味が欲しかったがそこそこに旨い。

 ついでに残っていた薬草の臭いを落とすため魔術製露天風呂も作り体を洗った。

 あれだけの傷だったのにほとんどがふさがっていたのには驚いた。

 これもファンタジー的薬草の力か?

 熱い湯は体に染みたがそれでも体はかなり楽になった。

 それからさらに道を進めたが王都が見えることなく夜になったので道の端で野宿。

 王都に帰ってきたのは俺がここを出発してから4日目の朝だった。






「よう『魔術師』無事に戻ったな」

「・・・誰だっけ?」


 東門を通るためにギルドカードを見せているといきなり兵士に挨拶された。

 兜に半分隠れた顔をじっと見るけど思い出せない。


「最初にあんたがここに来たとき通してやったのをわすれたのか?ああ!?」


 不良ですね。怖いっすね。

 だけど思い出しました。


「やだな、ワザと言ったに決まってるじゃないですかガリレイ=マンボさん」

「カリオス=サンホだ!てめぇ本気で忘れてやがったな!!」


 自慢だが俺は物覚えが悪い。

 ほんのちょっと会っただけの人の名前なんか一分で忘れる。

 それにここ最近忙しかったから一週間前の人なんか塵のひとかけらも覚えてなかった。

 

 ・・・・・・


 そうか、まだここに来て一週間、異世界に来てからでも2週間も経ってないのか・・・。

 かなり濃い生活送ってるからもっと時間がたっているように感じてた・・・。

 ほとんど変化の無い向こうの日常とは比べ物にならないな。


「いや、思い出しましたよ色々とね。それでなんで東門に?」


 たしか最初に会ったときは南門だった。


「なんでぇ、爽やかな顔しやがって。・・・まぁいい。俺達の持場は月によって変わるんだよ。今月はここが担当だな、ってそんなことはどうでもいい。さっさとギルド行きな」

「どうしてギルドに?」

「あんたは・・・相変わらず世間知らずだな」


 どういうことよ?


「冒険者ギルド長の孫を助けるために単身で翼竜の住処に薬草を取りにいった『魔術師』!!さて、彼は薬を取ってくることが出来るのか!!!」


 首を傾げている俺にカリオスが大仰に演出を加えて言った。


「あんたが出発するする時、そいつで派手なことしたろ?それを見てた奴が面白可笑しく語ってるってわけだ」


 そいつとはもちろん原付のこと。

 それにしても最悪、ほんと調子に乗りすぎだわ。


「ここしばらく面白い噂なんてなかったから、賭けにもなってるぜ?」


 うう、娯楽の無い世界はこれだから困る。


「ちなみに、カリオスはどっちに?」


 返答次第で苛めることにする。


「もちろん儲けさせてもらったぜ」


 グっと親指を立てやがった。

 そっか。本当によござんしたね~。

 まぁ、どっちの答えでもきっと腹が立たった。

 俺が苦労したってのに・・・ギャンブルにはまって破滅すればいいんだ!

 尻の毛までむしられてしまえ!!


「あっそ。よかったね。ギルドに向かうよ」

「おう、行ってこい」


 内心の罵倒を押し込めて俺は手を振って大通りに入る。

 すでに知られているそうなので王都内部でも原付を走らせる。

 ギルド本部に向かう道中、人の視線が集まってくるけど無視無視。

 スルースキル全開、なにごとも開き直るのが勝ちってね。

 そうして到着した本部の前には人だかりが出来ていた。

 誰を待ち受けているのか知りたくなかったがその中心は爺さんとノリドさん。

 まぁわかっちゃいたが待たれているのは俺のようだ。

 どうやって俺の帰還を知ったのかは気になるが、集まるのが早すぎると思う。


「リョウ殿!聖玉草は!?」

「若造!聖玉草はどこじゃ!?」


 こういう場合俺の心配はしてくれないんだな・・・。

 原付を本部前に止めてことさらゆっくり降りる。

 そしてもったいぶって箱を取り出してノリドさんに渡した。


「聖玉草、無事に取ってきました」


 ノリドさんは震える手で箱を開ける。


「間違いない・・・間違いない!よかった。これで娘が助かる!!ありがとう!ありがとう!!」


 涙ながらに箱を抱きしめる。

 ふぅ、よかった間に合ったらしい。


「早く持っていってあげてください」


 俺のお金のためにもね。


「はい・・。はい!!」


 ノリドさん涙をこぼしながら走って本部に入っていった。

 嬉しいのは分かるが顔を拭けよ。渋い顔が台無しだぜ。

 群衆からおお!と言うどよめきと一緒に拍手が巻き起こった。

 こういうのは慣れてない・・・恥ずかしいっす。


「若造・・・。ありがとう」


 爺さんも眼に涙を浮かべながら礼を言う。

 へぇ、最初はあんなに人をコケにしてくれた爺さんがねぇ。


「礼は早いと思います。お孫さんがちゃんと回復してからです」


 俺はいい人みたいに言っておく。

 人の目があるからね、ぼろぼろの猫でも被っておかないと。


「そうだな。しかし礼はさせてもらうぞ」

「期待しておきます。かなり苦労させられましたから」


 そこにノイン嬢が群集をかきわけてやってきた。


「リョウ様。良くご無事で・・・」


 ノイン嬢は涙を流して喜んでくれている。

 美人の涙もこういう場合はいいね。


「あまり無事じゃないんです。体ぼろぼろなんですよ?服も破れたし。でも臨時収入はゲットしました。囲まれた時は死ぬかと思いましたけど、なんとか切り抜けてしっかりお返ししてやりましたよ」


 よっこらしょっと鞄から魔石を取り出す。

 笑いながらさらに二個三個と取り出して見せる。

 それを見ていた群集がどんどん静まり返っていく・・・あれ?


「若造・・・まさかと思うがやりあったのか?」

「見つかったからには戦わないわけにはいかないでしょ?それとも俺におとなしく食われろと?」

「うーむ・・・」


 爺さんが唸って黙りこくってしまった。

 

「あそこにはかなりの数がいたはずです。魔物から逃げてこっそり取ってきたのではないのですか?」


 会話を引き継いだのはノイン嬢だ。

 ああ、しまったな。

 流れでなんとなく魔石出しちゃったけどこれも失敗だ。

 けど、ま、いいや。お金入るし。


「囲まれたんだから逃げることなんか無理でしたよ。そうなったからには近くにいた奴は全滅させましたよ」


 周りがざわめく。化け物だ、とか、嘘だろ?、とか、何者だよ、とか聞こえてきた。

 酷いなぁ。ただの『魔術師』なのに。


「これでも倒した奴の半分しか魔石持ってかえってこれな」


 たぶん俺の言葉はそこまでしか聞こえなかったと思う。


「いそげー!!」「俺のものだー!!」「金ーーーー!!」


 聞いていた冒険者がいっせいに走り出した。

 埃がすごい。軽く咳き込んだ。

 残ったのは俺と爺さん、ノイン嬢他ギルド職員数名と野次馬町人がほんの少しだけ。

 呆気に取られて見ていたが爺さんがため息をつきながら言った。


「ワシらが若造に頼んだのは、最悪、聖玉草を取ってこれなくても生きて帰ってこれるだろうと思うたからだ・・・。まさか、B+の翼竜を全滅させて取ってくるとは思わなかったぞ」


 残った人達の尊敬一割と畏怖九割の眼差しが痛いです。


「さっきも言った通り不可抗力です。こんなこと二度とやりませんよ。出来る物じゃないです。ただでさえ時間節約に無理したんだから」

「そうですよね。五日かかる所を実質三日で帰ってきたんですから無理をしてないわけありません」


 なにやら納得するためかノイン嬢が必死に頷いている。

 唸っていた爺さんが顔を上げた。


「若造をこのままFランクにしておくわけにもいかんの。B-のロードにB+の翼竜を狩れるのだからそれに見合ったものにせんと色々と困る。本来なら正規のテスト依頼を受けてからじゃがこれはワシの権限で特例を出すべきじゃな」

「テスト依頼?」

「普通ならCランク以上は依頼をこなしてギルドが問題ないと判断した時点で上位のランクに上がるための試験を受けてもらうんです」


 疑問にはノイン嬢が答えてくれた。

 しかし、なるほどね。


「つまり俺は一足飛びでCランク以上にされるわけだ」

「そうじゃの、最低でもBランクにせんと示しがつかんじゃろ」


 おお!!っと残っていた人たちが驚いた。


「つまり二等市民入り?」

「そうなるかの、前例は無いわけじゃないからなんとかなるじゃろ」


 きた・・・


 俺の時代来た・・・


 二等市民。


 家が買える。


 富裕街に家が買える!!


 金も手に入る!!!


 奴隷も買える!!!!


「よっしゃぁぁぁぁぁ!!キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」



 あまりの嬉しさにその場で叫びまくってしまった。


 周りからちょっと冷たい目で見られたのはいい思い出。



いかがでしたでしょうか?


『異世界の生活は原付と共に』

今さっき決めた第一章 原付「俺たちの戦いはこれからだ!?」でした。


最初はまったく予想してなかったほどの評価を頂き沢山の感想ご意見もいただくことができました。

その上で色々と考えさせられることも多く自分に対して考えるべきことが沢山ありました。

作者の成長につながるであろう沢山の物。

本当にありがとうございます。感謝感激です。ついでに雨あられも追加します。



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