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異世界の生活は原付と共に  作者: 夢見月
第一章 原付「俺様の戦いはこれからだぁ!!」
14/32

原付「!?」

酷い表現があります注意して下さい。

サラは一般街の友人を訪ねるそうなので俺は一人でディスさんがいる商人ギルド街に向かう。


遠く響く鐘の音は十回、つまり今は午前十時。

昼飯にするには早い時間なので乗合い馬車には乗らず歩いて行くことにした。

エアロさんの工房は職人ギルド街の北側よりにあったのでちょうどいい時間にディスさんの所に到着できそうだ。

 ふらふらと工房を覗き見しながらゆっくり歩くこと一時間で北側の大門に到着した。

 王都に到着した時は審査のせいで門の横にある取調べ室から入ったのと暗かったせいで大門を見ることが出来なかったが今ははっきりとその雄姿を見ることが出来た。

 白い石を組み上げて作られた壁の高さはおよそ10m。

 マンションにすれば3階相当。

 門の左右には円筒形の塔が門番の如く見下ろしていて、砦と言われても納得できるほど頑丈な作りをしている。

 門本体は観音開きで重厚な鉄の塊で出来ているが、正直こんな物をよく設置できたなぁ、と呆れてしまうほどデカイ。

 単純計算で片面50トンはするんじゃないか?

 しかも朝と夜はこれを開け閉めするんだから、その労力は半端無いと思う。

 そこから続く南北の大通りは緩やかな坂となって昇っていき、幾つか門を挟んで城まで続いている。

 城が見れたのここに来た時以来だけど相変らず真っ白で綺麗だ。

 しかし、こんな一直線の道で防衛的に大丈夫か?と他人事ながら不安になる。

 でも、上から丸太でも転がせば駆け上がっていく敵兵士をなぎ倒せるんじゃないかとも思えてきたからこれはこれでいいものかもしれない。

 この辺り一面。特に門の前は馬車と人で溢れかえっている。

 商人ギルド街の入口となるところだからこの混雑振りは当然と言えるだろうがやはり圧倒されてしまう。

 そしてそれに拍車をかけているのが露天市場。

 大通りの交差点は円い広場となっているが通りの四隅は完全に露店市場に制圧されている。

 ロープが引っ張られているので最低限道は確保されているがそのせいで露店同士はすし詰め状態。

 露店を見て歩く隙間があるのかも怪しいくらいだ。

 オマイラもうちょっと自重しろ。

 商人や荷物を背負った旅人、街人がいるのはディスさんの屋台があった辺りと変わらないがそれと同じほどの割合でいるのが・・・。


 「奴隷と小間使いか・・・」


 元は白かったと思える茶色いボロ布をまとった人達。

 全員が金属製の首輪をしているのですぐにわかる。

 首輪の色は赤か白。2対8くらいで白が多い。

 年齢も人種も性別もさまざまであるが、ほとんどが痩せていて顔や体に傷や痣がある。

 おもわず笑ってしまいそうになるほどすばらしく待遇が良いようだ。

 ふらっと奴隷の横を通ったが匂いが酷い。

 裕福な商人は香水をつけいるみたいで全体の匂いは中和されているが、一人一人はすさまじく汚く臭い。

 道具扱いでも、もうちょっと綺麗に使えばいいのに、気にならないものなのかね?

 さらに笑えてしまうのが子供なんかが露店市場で檻に入れられ首輪と足枷をされて売られていることだ。

 商品だから怪我とかは無いようだが完璧に動物扱い。

 人権団体が見れば発狂してくれそうだ。

 しかし、ありがたいことにこの世界には人権団体はおらず全てを救う神様も居ないらしい。

 これで世界が回っているんだから問題ないんだろう。

 昔のアメリカだって大規模農園の維持に黒人奴隷が必要だからやってたわけだし。

 つまりは需要と供給。

 コレこそ資本主義?金こそ神様ってやつ?

 そういえば神様で思い出したけど教会はどこにあるんだろうか。

 村でそれらしきものがあったんだからここには大聖堂があってもいいと思うんだけど。

 上の街にあるのかな?

 それとも南の一般街にあるのかな?

 一般の人が行かないと寄付金が集まらないからたぶん一般街だな。

 そうなると一回は行かないとね。

 宗教を知っておかないとどんな禁忌があるかわからない。

 今のところ全然問題なかったけど・・・。

 そういえば戦の神様とかもいないみたいだよね。


『我々には何々のご加護がある!何も恐れることはない!!』


 とかグエンさんが突っ込む時言ってなかったし。

 そうなると一神教?

 これくらいの文化レベルならもっと宗教が幅利かせてそうだけど。

 まだそういった関連イベントに遭遇してないだけかな?

 うーん。でも無駄に俺の生存を脅かしそうなイベントに遭いたくは無いけど・・・。 


 


 ぼんやりと立ち止まって宗教考察をしていると問題に遭遇した。

 まさかのフラグ回収とか?

 

 「泥棒だ!!ガキを捕まえてくれ!!」


 その声で思考に没頭していた頭がピコンと反応する。

 事件発生場所は市場の北西側だ。

 子供、貧相で汚いガキ。

 その外見から恐らく貧民街の住人であろう子供が手に何か持って走ってくる。

 宗教関連じゃないがイベントらしい。


 「誰か!捕まえてくれ!!」


 当然の如く突っ込んで来る子供。

 なんで俺の方にくるかな・・・。



 選択1 捕まえる。


 選択2 スルーする。


 答え。




 


「スルーだよね・・・」


 厄介ごとはノーサンキューである。

 俺の横を抜けようとしていたガキをひらりと避けた。

 すれ違ったのは一瞬。

 泥だらけで汗だくで必死な表情をしながら走り抜けていった。


 しかし人口密度の高いこの広場。

 ガキが走る先にいた男に足を出されて・・・


「うわぁ!!」


 転んだ。


 見たことが無い形の野菜がガキの手を離れて辺りに散乱する。

 ガキはすぐに起き上がって野菜を拾おうとしたが遅すぎた。

 

「このクソガキが!!」

 

 叫んでいた商人が追いつきガキの襟首を掴んだ。

 そして一発、二発と続けて顔面を殴る。

 手加減なんか無いんだろうね。

 顔がすぐに青くなり口から歯と共に血が飛んだ。

 見たところ十歳程度のガキ。

 そんなガキが大人の躊躇いのない暴力を受ければ結果は見えている。

 虫の息?


「クソ!商品も駄目にしやがって、大損だ!」


 怒りが治まらないのか地面にガキを転がして何度も踏みつける。

 三回目くらいにゴキっとなかなかいい音がした。

 腕が折れたかな?

 そこに門から兵士がやってきた。


「おい、泥棒はどこだ?」

「ここだよ!畜生が、貧民街のガキなんか入れんじゃねぇよ!」


 怒りが治まらない商人は兵士にも汚い言葉を返している。

 しかし兵士はの態度は軽い。


「悪いな、馬車の裏にくっついていたみたいで分からなかったんだよ」


 そう言って兵士もガキを足で小突く。

 ガキはうめき声すら上げることもなくピクリともしない。


「やりすぎだな、これじゃ売れもしないぞ?」

「そこら辺に転がってる小汚いガキなんか売れないだろが!!畜生。銅貨25枚が・・」


 おそらくこの商人が売っていた野菜の値段なんだろうけどガキより高いのか・・・命の値段って安いなぁ。


「しかたねぇ、一応あんたが捕らえた犯罪者だが、いらないな?」

「いらねぇよ!」


 いる?いらない?どういうことだ?

 商人は乱暴に返事をすると、とっとと市場に戻っていった。

 兵士はため息一つつくと腰から赤い首輪を取り出し、ガキの首に嵌めるとそのまま引きずっていく。

 周りで面白そうに見ていた人達も散らばりこれで泥棒騒ぎは終わったが・・・。


「首輪の人達、これを見ても全然動こうとしないよね・・・」


 貧民街の同胞?って言えるだろうに誰も助けようとしなかった。

 幾人かは顔が苦々しそうだったが自分達が与えられた仕事を止めるものはほとんどいなかった。

 助けに行ってもボコられるってことなんだろうけど、こういう場合一人でも動けば連鎖反応が起きる。

 ここいら一帯だけならおよそ半分が奴隷と小間使い。

 暴れるには十分な人数がいたはずなのに・・・。

 そんな疑問を抱えながら俺は肉麺の屋台に向かった。






 ディスさんの屋台に着いたときは丁度店じまいのために旗が降りた時だった。

 

「らっしゃい!またこの時間か!!」

「肉麺一杯」

「あいよ!!」


 注文する俺も俺だが仕込みの時間なのに躊躇いないなぁ。

 でも秘密の会話をするには丁度いいのかも。

 今回の肉は下の麺が見える程度だった。

 言ってた通り、最初だけのサービスらしい。

 結構歩いたからもっと食いたかったけど・・・。

 とりあえず昨日の件を後まわしにして俺は麺を食いながら先ほどの泥棒の件と疑問を話した。

 そしてディスさんの答えはあっさりしたものだった。


「逆らえないんだよ。赤い首輪は犯罪者用。白いのは一時雇いか、自分から奴隷になったか、売られた奴用だがどちらにも魔導師が魔石を使って呪文を封じ込めている。その呪文は所有者の市民カードに追加される『鍵』で発動するんだが、それを使うと首から激痛が走るって代物だ。仕事の手を止めなかったのもちょっとでもサボるとそれを食らうからさ」


 うっわ、孫悟空の金剛圏みたい。

 いや、明らかに性質が悪いか・・・『鍵』を持ってるのが善の存在の三蔵法師じゃないんだから。


「ガキを捕まえているか?って聞いたのは?」

「それは市民権を持っていない犯罪者を捕まえると即奴隷にされるんだが、その所有権は捕まえた奴にいくんだ。けど子供なんて仕事にはほとんど役に立たないからあんたが見た結果になるわけだ」

「奴隷になったところで所有者殺しちまえば逃げれない?」


 俺の物騒な発言もディスさんは予想してたというように笑って言った。


「そこは旨く出来ている。所有者が奴隷に殺されると市民カードが感知して奴隷の首輪に伝わる。そうなると奴隷も・・・な」


 ディスさんの親指が首を横切る。

 なるほどせいぜい刺し違えるくらいしか出来ないのか。


「実際はそんなことまれだがよ、あれを付けると暗示がかかるみたいでな、自殺も所有者に対する暴力も起こせなくなるそうだ」


 なんという完璧アイテム。

 でもさ・・・。


「そんなすごいもの、誰が作ったのさ」


 たぶん日本だってそんな完璧なアイテム作れないぞ?


「大昔のどっかの大魔導師が発明したらしい、魔導師ギルドに行けば分かるだろうがさすがに覚えてないな」

「でも、誰にだって付けれない?犯罪に利用とか」


 そうだ幾らでも利用方法はあると思う。


「どの国でも扱いは厳重だ。もし犯罪に使ったら拷問の末に四肢切断の極刑。犯罪者でもない市民に使っても同様。無断使用でも同様。勝手に作っても同様。無許可所持でも同様。割に合わんと思うぜ。ついでに笑い話だがどっかの国が国民全員に付ける事を義務付けたが、その日の内に反乱が起きて滅んだ」


 扱いが厳重って言うわりにはあの兵士あっさり使ってたけど・・・。

 つまり理由なく使うと大変っと。

 まぁ、首輪付きを買うだけで犯罪に使おうとは思ってないから俺には関係ないな。

 ふぅ。ごちそうさま。

 丼を返して水をもらう。

 一息ついて昨日の結果を聞く。


「それで、俺の情報は幾らになった?」


 ディスさんは少し躊躇った後、口を開いた。


「・・・それがだな、ややこしいことになった」


 厄介ごとはノーサンキュー。


「マジで?」

「マジだ」


 真剣に頷かれた。


「俺は事なかれ主義者にして平和主義者なんだけど・・・」

「酒場でケンカを買う奴を事なかれ主義者なんて言わないし、ゴブリン・ロードを倒す奴を平和主義者とは言わない」


 主義主張は自由だと思う。

 その通り行動できるかは別だがね。

 言葉とはなんと無力なことか。

 

「それで、厄介ごとの内容は?お金さえもらえればたいして気にしないけど」

「それだったらおそらく大丈夫だ」

「わかった。聞かないことには始まらない。話して」


 長い話になるのか、ディスさんが酒で口を湿らせた。


「仲間に連絡してあんたが魔石を売ったこと、その魔石がゴブリンとゴブリン・ロードのものであることはすぐに確認された」

「わかるんだ」

「一般の冒険者には知られていないがそういう魔道具がある」


 へぇー。遺伝子でも調べるのかな?


「俺が必死こいて嘘ついてたのに・・・」


 あっても不思議じゃないけどかなりがっくりきた。


「知ってるのはほんの一部だ。続けるぞ。それを受けて上役たちの意見は二つに割れた、本当に倒したのか、たまたま魔石だけを手に入れたのか。倒したのならロードの骨なんかも売るはずだとね」


 うぅ、氷付けにして砕いたのをそんなふうに解釈されるとは考えもしなかった。

 あんまりグロテスクに殺したくないけど素材とかあるなら考えないと。


「結論は結局出なかった。そこであんたに白金貨一枚を渡して、情報としては『倒せる可能性がある』という程度で売ることになった」

「細かいな~」

「情報屋ギルドは情報が命だ。しかし、そこにある情報を探している御仁から連絡があった。その内容は『近隣で聖玉草を持っている人物、または早急に手に入れることが出来る人物』」

「聖玉草?」


 何じゃそりゃ?

 ここの世界特有の草?

 しかし、俺の問いにディスさんは答えなかった。


「ギルドで情報を洗い出しても持っている人物は近辺には居ない、手に入れることが出来る人物も居ないわけではなかったが、全て御仁に断られた後。『割りに合わない』とね」

「答えてよ~聖玉草って何さ~?」


 しかしまたしても無視された。


「そこでギルドは未確定の情報としながらあんたの話をした。御仁はその話に飛びつきあんたに話が出来るなら情報料を肩代わりしてもいいと言った」

「・・・ああ、そういうこと?」

 

 ディスさんが通りの方に目を向ける、俺も続いて顔を向けた。

 車輪が石畳を叩く騒がしい音が響きだし罵声や悲鳴が聞こえる。

 そして冒険者ギルド街方面から人を跳ね飛ばす勢いで馬車が姿を現した。

 その馬車はいかにも高級品です!と言わんばかりに高価な装飾がなされた黒塗りの箱型馬車で、持ち主が金持ちであるとはっきり主張している。

 俺はそれを見ながら言った。


「俺をここに足止めしたってわけだ」

「あんたがさっさとギルドに行かないからさ。お陰で仲間が探し回るハメになった。服が違うから見つけられなかったようだがな」

「それはスマンね。で、御仁というのは?」


 またしても無視。

 馬車は屋台の前で急停止。

 馬が悲鳴を上げる。

 そして中から知った顔が現れた。


 「『魔術師』リョウ=ノウマル様、『ギルド長』ビリド=ノート様がお待ちです。ご同行願います」


 出てきたのはノイン=フィテス嬢。

 ギルドで俺の手続きを担当してくれた人だ。

 微笑と共に揺れる黒髪、きっちりと整えられたギルド服。今日も清楚で素敵だ。


「こんにちは。ノインさん?であってたよね。美人に『様』なんて呼ばれると偉くないのに偉くなった気分だ」


 美人秘書にどうぞこちらへって言われた気分。

 ゾクゾクするねぇ。


「申し訳ありませんが時間が御座いません。お急ぎ下さい」


 笑顔はそのままだけど声は少し硬い。

 はぁ~こういわれると断りたくなっちゃう天邪鬼な俺様。

 でもギルド長の呼び出しだもんだなぁ。

 仕方ないか・・・。


「わかりました。ディスさん、また食べにくるよ」


 前半はノイン嬢に後半はディスさんに振り向いて挨拶をする。


「おう!!気をつけてな!!」


 無駄にうるさい声で送り出された。

 俺が馬車に乗り、続けてノイン嬢が乗ると即座に急発進。

 一瞬引っ張られるが何とか耐える。

 かなりの速度が出ているはずだけど馬車はそれほど揺れない。

 せいぜいぼろい中古車程度の揺れだ。

 さすが高級馬車、バネとクッション様様。


「ご都合も考えずお呼び立てして申し訳有りませんでした」


 対面に座るノイン嬢が深々と頭を下げた。


「急がなくてもカードを取りに行く予定だったのに、一体どういうことです?」


 謝罪については無視する。

 この人はただの案内人、謝罪されても意味はない。


「お聞きになっていませんか?」

「俺がゴブリン・ロードを倒せる程度の実力者・・・である可能性があって、ギルド長は聖玉草とやらを欲している。それだけは聞いた」

「そうですか。詳しくはギルド長から直接お話がありますが、リョウ様に聖玉草を取ってきて頂きたいということです」

「そのままだし、それ全部言っちゃってない?」

「いいえ」


 それだけでノイン嬢が言葉を止めてしまった。

 その先を聞きたいけどなんか話しかけられる雰囲気じゃない。

 さすがにギルドに着いたら教えてくれると思うけど・・・。

 車内が沈黙に包まれて十分。

 馬車は冒険者ギルドに到着した。

 今回は裏側の馬車用入口から入ったが、そこは何やら普通の入口よりさらに高級感溢れる外観をしており、VIP専用入口といった感じだ。

 噴水が設置してあり庭も綺麗に整えられている。

 馬車が停まるとわざわざ執事風の男が扉を開けてくれた。

 そしてノイン嬢に案内されながら豪華な玄関を入り、赤い絨毯がフカフカの廊下を歩いていく。

 




 正直場違いです。

 はい。今の服装は完全に街人です。

 心は一般人の俺です。

 心臓がどきどきと早鐘を打っています。

 当たり前って顔してますが内心冷や汗たらたらです。


 そんな状態で廊下を進み豪華な装飾が施された扉の前でノインさんが止まった。

 そしてノックを数回。

 「入れ」とすぐに低い男の声がした。

 ノイン嬢が扉を開けて一礼。


 「ノインです。リョウ=ノウマル様をお連れしました」

 「通せ」

 「はい」


 完璧なやり取り、惚れるねぇ。

 ゆっくりと中に入りながら視線をすばやく走らせて状況把握。

 ここも豪華に装飾された部屋だった。

 壁には絵画が飾られ巨大な壷なんかも置かれている。

 当然明りはシャンデリア。

 無駄に煌びやかだ。

 中央にはこれまた幾らするかわからないソファーとテーブルが置かれている。

 そしてテーブルの先に座っているのが先ほどの声の主にして『ギルド長』ビリド=ノートその人なのだろう。

 ・・・・・しかしなんというプレッシャーだ。

 年齢は多分七十歳はすぎている。

 髪も髭も白く体も小さい。

 顔も杖を持った手も皺だらけで、どこをどう見ても老人です。本当にありがとうございました。

 で終わらしたいのに・・・体から発する圧力は部屋全体を圧迫しているんじゃないかと錯覚させるほどだ。

 俺を見る眼光も洒落になってないし、怖いし。

 まともにやり合うのは無理。

 絶対無理。

 そうとなれば後は単純。

 ここは全てを受け流す!

 三十六計逃げるが勝ちって偉い人も言ってたっす。

 そんな決意を固めてソファーの横に立って先ずは挨拶。


 「初めまして『魔術師』リョウ=ノウマルです」

  

 しっかりと頭を下げる。

 角度は九十度を維持。





 一分、二分・・・・・・・・・ギルド長は何も言いません。



 へ?

 何コレ?

 俺なんかした?

 入ってきて挨拶しただけだよね?

 『営業マニュアル~初めての取引先編~』にでも載ってそうな完璧な挨拶だったのに。

 俺が馬鹿みたいジャン!

 ・・・・ムカついた。

 受け流すのヤメ。

 なんだこの爺、馬鹿にしやがって。

 爺が何も言いやがらないから勝手に座る。

 ノイン嬢が俺と爺の両方を不安そうに伺いながらコーヒーを置きそのまま壁際に下がった。

 俺は腕を組んで爺を見る。

 爺も俺を見るだけ。

 コーヒーの白い湯気だけがゆらゆらと揺れて時間が経っていることを教えてくれる。

 しかし部屋の中は、時が止まったかのような沈黙と重たい空気が支配している。


 動かないことしばらく、カップから湯気が消えた頃になって爺はやっと口を開いた。

 せっかくノイン嬢が入れたコーヒーの冷めちゃったよ・・・。


「貴様がゴブリン・ロードを倒したのか?」


 ・・・カチン!ときたよ、ええとっても。


「貴様言うな爺、こっちは名乗った。それとも耳が遠くて聞こえなっかったか?」


 俺の言葉にノイン嬢がぎょっとする。

 爺は目をほんの少し動かす程度だった。


「・・・ギルドの長にそんな口を聞くか?」

「こっちは名乗った、急な呼び出しにも来てやった、しかしテメェは俺からすればかなり失礼な態度をとってやがる。こっちが礼を尽くす理由がなくなった」


 足を組んでポケットから携帯を取り出し手の平に隠す。

 魔道具のつもり。

 一応の戦闘準備を整える。


「質問に答えろ。貴様のギルドカードと市民権の発行を止めるぞ」


 ヒャッハー脅しが入りやがりましたよ。

 これは宣戦布告というやつですね、わかります。


「好きにしな、そうなれば別の国に行くだけだ」


 間髪入れずに俺は答える。

 絶対にこの国じゃないといけないことはない。

 こんなクソ爺が頭のギルドじゃなければ何処でも全然かまわないんだよ。

 爺が俺を睨む。

 俺も爺を睨む。

 今度の沈黙はブリザード吹き荒れる南極のど真ん中。

 その中を凛としていたノイン嬢がおろおろしている様子はかわいい。

 かわいいは正義だ。


「・・・貴様が泊まっているのは『鞘の置き場亭』だったな?」


 これは質問じゃなくて脅しだな。

 貴様のことは何でも知ってるんだぜってやつか、呼び出す相手の事くらい調べてるだろ。

 驚くに値しない。

 むしろこんなベタなこと言ってくるから内心は大爆笑だ。

 脅しに対して俺の回答は沈黙を保・・・たない。


「知っていることをわざわざ口に出して確認しないといけないなんて、耳が悪いだけじゃなく頭も呆けているんだな」


 哀れだと嘲り込めて視線で笑ってやる。

 目は口ほどに物を言うって奴だ。

 爺は無視しやっがったが。


「あそこはギルドの加盟店だ。当然わしの命令は絶対だ」

「そんな誇大妄想を抱くようになるんだから権力に囚われた人間は哀れだな。ああ可愛そうに」


 表情も何も変わりゃしない。さらに無視しやがる。

 別にいいけど。


「さっさと質問に答えなければ、貴様が宿に置いている魔道具を破壊するぞ」

「だから。好きにしろって言ってるだろ?」


 さっきから驚きっぱなしのノイン嬢だけでなく。

 爺もわずかに眼を開いた。

 やったね。リョウちゃん、爺が驚いたよ。

 ちょっとすっきりした。

 でも、そろそろ俺の精神力が限界に近い。

 俺が知っている知識をフル活用して爺に対抗しているけどかなり疲れてきた。 

 もう帰ってベットにダイブしたい。

 

「ワシは貴様の魔道具を壊すと言っておるのだぞ!?」

 

 爺は慌てた様子でもう一度繰り返す。

 はぁ~。この馬鹿が。


「あんたのように呆けちゃいないんだ二回も言わなくても聞こえてる。好きにしろ。ただし、そのときはあんたが大切にしているもの全て破壊してやる。いいや、破壊してあげる。砂の一粒になるまでね。できないなんて思わないでください。力も覚悟もすでにここにあるんですから」


 俺は笑みを向けておく。

 憎たらしく。

 挑発的に。

 見下しながら。

 ついでに語尾にハートマークだって付けてやれるぜ!なんてね。

 この笑みは俺の仕様。

 敵に対する俺の作法ってやつだ。

 翻訳するとこのケンカ買ってやるぜ。

 俺はさっと立ち上がって踵を返す。

 向けられた笑顔にたいして爺はいったいどんな表情を浮かべていることやら・・・。

 ノイン嬢が俺をひきとめようと手を伸ばすが無視しておく。

 この人もあっち側の人間。

 気にすることはないね。

 部屋を出て乱暴に扉を閉めて歩き出す。

 そしてかなりは離れたところで盛大に息を吐き出した。

 様にはなっていたと思う。

 でも心は荒れ果てたまま。


 ・・・引籠り一歩手前のオタクが似合わないことするもんじゃないな。


 道が分からんが適当に歩いて外に出る。

 そう長い時間じゃないと思ってたけどすでに夕日が見える。

 もう、疲れたから帰って寝よう。




 帰りの道中は何かをする気なんか起きる筈もなくまっすぐ宿に戻った。


「おかえり!ギルドカード貰えた?」

「へぇ、服とっても似合ってる。綺麗だよ」


 宿に帰るとサラが朝に受け取っていたワンピースを着て出迎えてくれた。

 精神的に消耗した俺は周りの事なんかかなりどうでも良くなっていたがあっさりと褒め言葉が出すことが出来た。

 

「惚れるなよ!」


 まるでマンガに出てくる貴族の令嬢がするようにスカートを摘んで膝を曲げて挨拶。

 ついでにウインクも一つ。

 何時から着ているのか知らないけどすでに結構な人に褒められてるのかもしれない。

 対応が酔っ払いをあしらうくらいに軽いんだもん。


「ああ、姫のその可憐な姿。それを見るだけで俺の心はますます燃え上がってしまう・・・」


 意味も無く安っぽい演劇でもするかのようにちょっと大げさに言ってみた。

 あほっぽいなぁ。 


「なにそれ~下手すぎだよ~」


 あっさり突っ込まれた。

 だめだねぇ、歯が浮くようなセリフはまだまだ練習しないと。

 

「とりあえずご飯もらえる?」

「はい、カウンターで待ってて」


 サラが引っ込んで数分で料理は出てきた。

 今日のご飯は、ビーフシチューにパンとサラダ。

 シチューは苦手だけど肉がしっかりとしていて味もとても好みで、これは美味しく頂けました。

 そして今日も外野に絡まれることもなく食事を終えて部屋に戻る。


 原付は何事も無くそこにありました。


 まぁサラの反応から予想はしてたけど・・・。





 勝った!たぶん爺とのチキンレースに勝った!ヒャッホーイ!!


 ・・・けどカード貰えてないから実質負けだよね~。

 勝負に勝って試合に負けた・・・。

 しかもギルド長にケンカ売られて買っちゃったし・・・。

 はぁ~。

 これからどうしよう。

 うーんうーん。


 だぁ~もうわけわからんし!!



 今日は不貞寝する!

 おやすみ!!



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