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異世界の生活は原付と共に  作者: 夢見月
第一章 原付「俺様の戦いはこれからだぁ!!」
12/32

原付「へ、変態だーーーー!!!」

 ギルドの中をうろうろ見て周ろうかと思ったがすでに昼を過ぎていてお腹が空いたので街に出てみることにした。

 北に行けば商人ギルド街。

 道を戻って南東に行けば商店と宿屋街。

 どうせ戻ってくることになるのだから北へ行ってみる。

 歩きで三十分ほどは変わらず冒険者ギルドの町。

 宿、酒、武器、防具、道具屋ばかりだった。

 しかし、それより先は徐々にその姿を変えていった。

 道からは冒険者の姿が少なくなり町人が多くなってきた、さらに大きな荷物を背負った旅人、さらにさらに小奇麗な格好で少し肥えた『商人』が増えだした。

 道の両側には露天が並び始め、道を進むごとにその密度と熱気が上昇していき、いたるところで呼び込みの声と値切り交渉の怒声が響く。

 なんというか、さっきまでの冒険者達がおとなしく見えるレベルだ。

 夜の酒場でもこの喧騒には負けるかもしれない。

 子供の頃、社会科見学で見た魚市のほうがまだ穏やかだったよ。

 しかし恐ろしいのは興味本位で商人同士の会話に聞き耳を立てると笑顔で談笑してるように見えて、実は商談を行っていること。

 そして内容を聞けば震え上がりそうなエグイ会話が当たり前に行われていることだ・・・聞かなかったことにしよう。

 早速記憶から削除して道を進む。

 そろそろお腹の減りがレッドラインを超えそうになってきたので一先ず目に付いた屋台に入ってみる。


 「らっしゃい!!おおぉ!?魔導師がこんなところにくるなんて珍しいじゃねぇか!!」


 声がでかいっての!店主のいきなりの挨拶に思わず耳を塞ぐ。

 店の外観は完璧にラーメンの屋台だ。

 中ではグツグツと煮えている鍋に模様こそ無いがラーメン丼が積まれている。

 違いがあるとすれば暖簾が掛かってないというだけ。

 店主のおやじも鉢巻を巻いていて白い服で・・・何故にコックさんスタイル?

 いや、完璧なラーメン屋の衣装ならさらに驚くけど・・・。

 でもそれなら帽子もかぶって欲しかった。

 違和感が酷いんだもん。

 とりあえず誤魔化すために適当なことを言っておく。


「えっと。初めて王都に来たからちょっと観光しようと思ってね。それにしてもこんなに活気があるなんて驚きだよ」

「あったぼうよ!!ここいらで弱気になったら一発で丸裸の一文無しのスカンピンさ!!それで飯食いに来たんだろ?なんにするんだい!!」


 キーンと耳が痛い。

 店選び失敗したかも。


「えっと、目に付いたから入っただけで、ここは何のみせですか?」

「かぁ~~~こいつは!!ここいらで一番有名な俺様の店を知らないっての不届き千番!!」

 

 馬鹿でかい声と一緒に腕まくりして迫ってくる。うう怖い。

 ビクビクと怯えながらなんとか口を開く。


「す、すいません。さっきも言いましたが初めてきたので・・・」

「おっとそりゃすまねぇ、忘れてたぜ!!こちとらここで肉麺一筋で売ってんだ!!そういわけで肉麺一丁!!」


 ・・・なら聞くな!!しかも出来てるし!!

 ドン!と目の前に丼が置かれた。

 中身はスパゲティっぽい麺とそれがギリギリつかる透明のスープ。

 そして「オラァ!!」っとおっちゃんの一撃、細切れの肉が乗せられた。

 肉は生ベーコンを細切れにしたっぽいものだ。だけど・・・


「・・・乗せすぎじゃありませんか?」


 麺が見えなくなったし。

 丼からも幾つか落ちたし。

 テーブルの上にも飛び散ってるし。


「へへ!初めての客にはサービスするのさ!!くいねぇくいねぇ!!」


 こんなので採算が取れるのか?

 と、微妙に不安になったがとりあえずフォークを貰って食べてみる。

 

 ・・・・・・うっうっう、うまい、だ、と!?


「・・・おいしい。まだ肉しか食べてないけどおいしい。なんで?見た目同じ肉なのに味が違うし・・・」

「お、気がついたな!!それが秘伝の肉さ!!もちろん調理法は秘密だぜ!!」


 そりゃそうか。しかし秘伝の肉。さすが秘伝の肉。むちゃくちゃ旨い。

 肉を零れ落ちない程度まで減らしてスープを啜るが、こちらもあっさりしていて旨い。肉が辛いのもあるからマッチしてるし、麺もこしがあって湯で具合がばっちり、これは当りかも。

 ここのマナーが分からんからずるずると啜らないように注意しつつ食べる。

 肉が多くて食べきれないかと思ったがあっさりと食いきれた。

 なんとなくこっちに着てから食欲が増した気がする。


「いい食いっぷりだ!!いいねぇ!!いいねぇ!!これこそ料理屋冥利に尽きるってもんよ!!」


 うんうんとお玉片手におっさんが感動している。そういってもらえたらこっちも気持ちよく金を払えるね。


「どうも、幾らですか?」

「金貨二十枚」


 結構高いな。

 ポケットから探り出してテーブルにじゃらじゃらと重ねる。

 さて腹も膨れたし行きますかな。

 椅子から立ち上がってわざとらしくお尻の埃を叩く。


「ちょちょっとまて!!冗談だ!!嘘だ!!兄ちゃん!!銅貨二十枚だ!!銅貨!!こんなにもらえるか!!」


 重ねられた金貨を見つめて停止していたおっさんが再起動。慌てて歩き始めた俺を止めにきた。


「わかってましたよ。宿屋が銀貨1枚もしないのに麺一杯が金貨二十枚だったら驚きです」


 金貨を返してもらい銅貨を渡す。

 おっさんが冗談をかましてきたのが分かったからちょっと悪乗りしてやった。

 一度やってみたかったんだよ。駄菓子屋でハイ、百万円!って言われてマジに出すの。

 しかしここまで面白い反応が帰ってくるとはね。 

   

「はっはっは!!なるほど、さすが魔導師だ!!人が悪いぜ!!」

「それはどうも。でも私は魔術師です」


 これからは訂正する。


「どう違うのか分からんがまあいい!!」


 あまりこだわらない人なのかな?

 ま、こんなのでも役に立つだろ。

 俺は座りなおして半銀貨を置いた。


「なんでぇ!もう一杯か!?」

「いえ、知りたいことがあるだけです」

「・・・・・・・何が知りたい?」


 さっきまでうるさかったおっさんが急に静かになった。ありゃ?

 まるで人が変わったかのような態度にちょっと驚いたがとりあえず聞いてみる。


「一つ目、何か噂はありませんか」


 おっさんは仕込みのようなことをしながら小さく答えた。


「これは確定情報だ、王都近くのトト村が襲われた。生き残りはなし。近頃魔物の動きが活発になっている。今まで近辺でみなかったCランク以上の凶悪な魔物があちこちで確認された」


 おっとここでトトの名前を聞くなんて思わなかった。

 来る途中でも魔物に襲われたけど異常なことみたいだな。


「原因は?」

「不明」


 さっきまでが嘘みたいに淡々と静かに話す。

 うーん、次の質問は。


「二つ目、おっさん何者?」


 俺の質問におっさんがびっくり。


「知っていたんじゃないのか?」


 何がさ?こっちはあまりの変わりように驚いてるんだけど。


「さっき言いました。初めて来たって」


 おっさんはそれを聞いてしゃがみこんでしまった。

 屋台のカウンターで見えないけど・・・どうやら笑っているらしい。

 しばらくして立ち上がったおっさんの目と顔が少し赤い。


 「くっくっく。すまない。いや、すまない。こっちの勘違いか。普通の魔導師に見えなかったからてっきりな」


 てっきりなんだというのだろうか?

 おっさんは何も言わずこつこつと金貨を出してテーブルを叩いた。

 おっと追加料金が必要らしい。

 俺は金貨二枚を出した。


「俺は情報屋ギルドのディスだ。ここで情報収集と仲間の繋ぎをやってる。小さいのは販売もやってるがな」


 うわ、そうだったのか。

 てか情報屋ギルドなんかあるのか。


「情報屋?」

「一人じゃ調べるのに限度がある。それで繋がりをもったのがこのギルドだ」

「なるほどね。でもあっさりばらしていいの?」

「俺のミスもあったが金は貰った。それなら俺達のことだって情報として売る。それが情報屋ギルドだ。あとはあんたが黙っていてくれれが問題ない」


 ふーん。でもさこういう場合。


「もし俺がどっかでディスさんのことしゃべったら俺のよからぬ噂がながれるんでしょ?」


 ディスさんはしっかりと頷きやがった。

 へたすると社会的に抹殺されるらしい。

 こういうのに出会えたのは好運だけどなんかなぁ。


「そっか。わかった言わないよ。でもあんたらのことって公然の秘密ってやつでしょ?」

「いや、少なくても金貨を躊躇い無く払える人間程度には限られている」


 それでも条件が多そうだけどあまり気にしないでおこう。


「こっちからも聞かせてくれ。『魔術師』あんたの名前は?」


 当然知りたいよね。


「リョウ=ノウマル」

「ほう、あんたがそうなのか!」


 ディスさんの淡々としていた声が跳ね上がる。

 どうやら知られてるみたいだ。

 まだ何もしてないのに・・・。


「その反応を見るに俺のこと知ってるの?」

「昨日『疾風の槍』と共に王都に来た魔導師。『ブラック・ドッグ』に怯えていたがCランクの冒険者を見たことの無い技であっさり倒す程度の実力者。特徴として二輪で変な形の大きな魔道具を持っている。魔道具を持ってなかったからわからなかったぜ」


 まじかよ・・・。

 静かに成金生活する夢が崩壊しそうだ・・・。

 いや、ギルドの試験があったからどうにもならんかったんだけど。


「その情報、どこまで知れ渡ってる?」

「少し耳がよければ」


 だよね~。パタリとカウンターに突っ伏す。


「その様子だと知られたくなかったようだな?」

「静かに金溜めて美人の奴隷買ってウハウハな生活を送りたかっただけ。目立って余計なしがらみ抱え込みたくなかったんだよ」

「ほう~なかなかいい夢だが残念だったな。気晴らしに酒でも飲むか?」

「自白剤入り?」


 冗談で言ってみた。

 おっさんは酒を用意しながら笑った言った。


「そんなことはせんよ。これはサービスだ」


 はぁ~。こういうときは飲まずにはいられない。

 ジョッキに入ったビールをちびちびと飲みだす。


「酒も飲めるんだな」


 ディスさんの声が普通程度になった。

 最初の馬鹿でかい声もわざだったようだ。


「味覚が子供で酒が美味しいと思えないだよ。たまに飲みたくなるけどね・・・。ディスさんはいつもここにいるわけ?それと他の情報屋はどこにいるの?」


 丁度いいから聞けることは聞いておこう。

 情報は大事だ。


「俺はだいたいここいら当りで店を出しているぜ。他の奴については・・・」


 追加料金ね。別に今は知りたくないからパス。


「図書館ってある?」

「冒険者ギルド内にあるぜ。あとは南に一つ。他にもあるが一般人は入れない」


 そーなのかー。


「美人の奴隷はどこで買える?値段は?」

「急に饒舌になったな酔ったか?」


 どんなに飲んでも今まで正体を失うほど酔ったことがないってのか自慢。

 ただ酒を飲むと頭がクリアになるんだけどね。

 空回り気味に。


「酔ってないよ。開き直っただけ」

「そうか、どう違うのか聞かないでいてやる。商人ギルドで奴隷商人を紹介してもらえば買える。良し悪しはあるがそこらへんは、な?値段はピンキリだが美人となると最低白金貨10枚必要だ」


 最低でも十枚はするのか・・・。

 こちらも先は長い。


「富裕街で家を買うには幾らくらい?」

「夢のためか、同じく商人ギルドで言えばいい。富裕街なら小さい家でも白金貨20枚はするな」


 うううう。高い。

 俺に自由はないのか・・・。

 なんかくじけそうだ。


「さっきからお客が来ないけどそれもなんかしてるわけ?」


 そうなのだ、俺が来る前から誰もいないし今も来ない。

 情報屋っていうから何かしているはずだ。

 しかしおっさんは呆れて言いやがった。


「単純に店が閉まってるだけだよ」


 なんですと!驚いて顔を上げる。

 おっとジョッキを倒すところだった。

 危ない危ない。


「あんたが来たのは昼の掻き込み時期を過ぎた後、夕方の仕込みの時間だぜ?魔導師、じゃなかった、魔術師が来るなんて珍しいから相手しただけだよ。旗立ってないだろ?」


 ぐはぁ~。またバッタリ倒れる。

 お酒はちゃんと押さえていますよ。

 なるほど、そりゃそうだよね。

 二十四時間のファミレスじゃないんだ、仕込みの時間があって当然。

 日本のように暖簾じゃなくて旗で営業中かどうかを見分けるわけだ。

 こんなところで文化の違いを知ることになるなんて・・・。


「仕込みを邪魔して悪かったけど人が悪い!」


 恨み言を呟いたっていいじゃないか。

 いいよね?


「あんただって金貨そのまま出しただろ?」


 おっと。それもそうだった。

 騙し騙され世は情け、なんとか無常の響きアリ。なんだろうねぇほんと。


「世間知らずってのは本当なわけだ。で、どこの出身なんだ?」

「そこら辺の情報は白金貨1万枚。俺の魔道具についてもね」

「そうかそれは払えないな」


 互いに悪い笑みを浮かべる。

 こういうのも楽しいかもね。

 ああ、やっぱり酔ったかも。

 体がぽかぽかしてきた。


「酔ってきたみたいだ」


 俺はこういう場合言うことにしている。

 もし変な行動とって周りに迷惑かけたときの予防線だ、今までそういうことは無いけどね。


「そうか?顔色かわってないぞ。それにしゃべりもしっかりしている」

「いつもそういわれている。中身は酔っているんだ」


 疑わしい視線を向けられた。

 心外だなぁ~。


「酔ったついでにお願い。さっきの夢の話、俺の情報として売らないで欲しい」

「どういうついでかわからんがそれくらいは構わんよ。誰でも考えることだ。出来る出来ないは人それぞれだがね」


 たしかに。

 白金貨の値段によっては日本で1億円稼ぐ程度になりかねない。

 いや。さっきの家の値段からすると案外白金貨一枚100万円くらいかも知れない。

 それなら20枚で2000万円。

 ちょっとやすいけど金額としては妥当かも。

 サラリーマンがローンで買うにはぴったりだ。


「お金欲しいなぁ~」


 本音が駄々漏れになってきた。


「ほんとに酔ってやがる。これ一杯で酔うなんて酒に弱いな」


 かもしれない。普段なんらチュウハイ10杯は飲めるのけど今は弱ってるから駄目だ。


「もう帰りな。ここは酒場じゃないんだ。仕込みの邪魔になる」


 邪険にされだした。

 でも開きなおった俺にはまだやることがある。


「情報買わない?」

「なんだ酔っ払い。そんな状態じゃ話せないだろ?」

「水頂戴」


 黙って渡された。

 一口飲んで眼を瞑る。

 そして三秒数える。

 

 一

 

 二

 

 三


 とりあえず大丈夫なフリをする。


「情報買わない?」


 同じセリフを吐く。

 しばらくじっと見詰め合うが相手が折れた。

 

「物による」


 短いがとりあえず買う気になってくれたらしい。


「さっき出たトト村のこと、それに関する俺のこと」

「・・・秘密じゃなかったのか?」

「開き直った。金が欲しい。俺の慎重さじゃ情報屋にゃ敵わない」


 そうだ。すでに失敗し続けている。

 それならある程度自分から売って金にしてしまったほうがいい。

 ディスさんはしばらく悩んだようだが口を開いた。


「金貨1枚。情報によっては白金貨半枚」

「安いな」


 もっとなるかと思ったのに・・・。


「開きなおったんならすぐに別のところから入るだろ?」


 うぐ、痛いところを突かれた。

 俺は交渉には向かないみたいだ。


「失敗した。確かにそうだ。でも言うつもりはないのもある。金貨10枚。最大白金貨10枚」


 こういう場合は吹っかける。

 とういか俺が知ってる交渉方法はこれだけだ。


「それでもだ。金貨2枚と半枚。白金貨最大1枚」


 うぐぐぐぐ。


「もう一声!」

「交渉が雑すぎるな。とりあえず金貨3枚。最大は聞いてからだ」


 ここら辺が妥当なんだろうか?

 全然わからないな。


「それじゃあ・・・」


 もったいぶって上で真面目に真剣に声を小さくして体を乗り出して話す。


「トトの村を襲ったのはゴブリン・ロードとゴブリン18匹。それを倒したのは俺。方法は教えない。真偽は俺が今日ギルドで売った二等級の茶魔石とその他の魔石」


 一気に言ったからのどが渇いた、水を一口飲む。

 ディスさんは話を聞いて目を丸くしている。


「本当か?」

「調べてもらえば売ったのは確認できるはず。師匠から貰ったって嘘ついたけど」

「・・・・・・」


 ディスさんがすっかり黙ってしまった。

 沈黙と周りの喧騒が痛い。


「情報料は幾ら?」

「・・・上に確認しないと払えない。まずはこれを」


 金貨が3枚出された。

 約定通りだけど上限がわからないと素直に喜べない。


「残りは明日ギルドの連絡係が持って行く」

「いや、どうせ明日はギルドにカード貰いに行かないといけないからまた明日ここに来るよ」

「わかった」

「ちなみに勘で幾らくらい?」


 ディスさんは腕をくんでかなり悩んでいるようだがやがて顔を上げた。


「事実なら白金貨2枚」


 必要な分には足りないけど結構なるな。

 ぬか喜びになりそうだから期待はしないけど。


「そこそこにはなるね」

「本当に世間知らずだな。自分がしたことを分かってない」


 そんなこと言われると不安になる。

 

「どういうこと?」

「ゴブリンがトトの村を襲ったのは確認されていた。死体が残っていたからな」


 俺が半焼きで放置した奴か。


「『疾風の槍』から連絡があってゴブリン・ロードとその集団が村を襲ったと結論が出された。しかし、その後の足取りは不明。どこか別の所に行ったんじゃないかとギルド調査員は結論を出して警戒の触れは出したが依頼として出さなかった。これが今日の朝までの出来事だ」


 ゴブリン・ロードがいたと俺が嘘ついた話がそういう風に流れたわけね。


「腕に覚えがある奴らはこういう話でも動いて素材を売ろうと企む。が、今回の話で近辺のパーティが動いたという話は今のところ無い。どうしてだと思う?」


 なぜだろうか?いやそこまで言われたらわかる。


「素材の報酬だけだと割りにあわないから?」

「・・・わざと言ってないか?まぁ確かにそういえなくも無いが純粋に勝てないからだ」

「うそぉ!」


 たかがゴブリンだよ!?外したショックよりそっちの方に驚ろきだよ。

 周りの喧騒が無ければみんなが注目するレベルの声が出た。


「世間だけじゃなくて魔物のことも知るべきだな。ただのゴブリン一匹ならランクはE+かD-、ちょっと腕があれば倒せるレベルだ。しかし、五匹以上の集団になるとランクD+になる。やつらは群れると一気に面倒になるからな。さっきの話が本当で十八匹ならさらにC。そこにランクB+のゴブリン・ロードが加われば総合依頼として低く見てもA-にはなっている。報酬が出たらパーティーの人数にもよるが何組かが連合して当たるランクだ。あんた風に言うなら死人は何人か出るだろうがそれで割りに会う。が、素材だけだととてもじゃないが割りに会わない。そうなると一組で当たったることになるが、そうだな・・・よくてリーダーだけが生き残って後は全滅だろう。そうなるとパーティーは解散はっきり言って『割りにあわない』だけどよ『魔術師』殿はそれを一人で倒してしまったわけだ。真実ならこの情報はとても高いだろうな」


 つまり俺は最低でもランクAの実力者だと思われるわけだ。

 情報屋達はそういう風に判断するだろう。

 ううう早まったかも。

 いや、でもでもでも、予定通りかも。

 こうなると俺に秘密裏に高額な依頼が舞い込む可能性が出てくる。

 そうなれば金が入ってウハウハ。奴隷も買えるし家も買える。

 そうだ、間違っちゃいない。

 面倒は増えるけど突っぱねれば何とかなる。

 最悪別の国に逃げる。うん、大丈夫大丈夫。


「いいさ。せいぜい俺に金が入るようにしてください」

「いいのか?今なら俺の所でとめることも出来るぞ?」

「どうせ依頼をこなしていかないといけないんだ。そうなれば自然と『魔術師』として腕が知れ渡る。早いか遅いかの違いだけ」

「本当に開き直ったな。それが酒の勢いじゃないことを祈るぜ」


 ディスさんがそう言って笑った。


「大丈夫、頭はクリアだよ」


 ぐっと背筋を伸ばしてから水を煽る。

 温くなってしまったが旨い。


「ああ、でも真正面からの殴り合いは苦手だよ。それは情報として流しておいて。ゴブリン達倒せたのだって遠くからやったんだから」


 これは言っておかないとまずい。

 下手な依頼でいきなり敵陣の目の前に放り込まれたら死ぬ。

 呪文唱える間がないとただの貧弱引籠り一歩手前のオタクでしかないんだから。


「それは大丈夫だ。あんたは一応魔導師だからな。接近戦が苦手なのは誰だって分かる話だ」


 そっかひとまず安心。


「最後に三つ聞いていい?」

「この際だ。いいぞ」

「一つ目。旅の途中であったブラック・ドッグの襲撃。10頭だったけどそれの総合依頼のランクは?」

「そうだな・・・Bってころか。あれは突っ込んでくるだけで連携があるわけじゃない。並みの奴には辛いが旨く動けば怪我だけですむ」


 なるほど。それでもBなわけだ。


「二つ目、『疾風の槍』ならさっきのゴブリンの依頼。単独で成功できる?」

「7:3だな。あのユエっていう魔導師。彼女がゴブリン・ロードを倒せる術を撃てるようになるまで彼女を集団から守れるかどうかしだいだな」

「ロードにグエンさん一人じゃ勝てない?」

「倒せるはずだ。AAランクだからな。でもそうなれば残りが集団に狩られることになるはずだ。18匹は五人には多すぎる。でもあくまで予想だぞ?」


 そっか。時間さえあれば彼女は俺と同じことができる。

 その時間を稼げるかどうかが勝負の分かれ目。

 そしてそれまでグエンさんたちが他のザコを抑えればなんとかってことか。

 ・・・案外グエンさん一人のほうが楽に倒しそう。

 馬にでも乗ってヒットアンドアウェイに徹すればゴブリンどもは余裕でしょ。

 後は残ったゴブキンを殺れば終わり。

 チーム組むのも良し悪しだな。


「それじゃ最後の質問。あの肉麺の肉、なにを使ってるの?」


 がくっとディスさんがこけた。


「最後がそれかよ!まぁいい。製法は秘密だがココリスの肉だよ」

「ここりす?」

「外の草原にいただろ?鳥形の魔物。あれだよ」

「魔物って食えるの?」


 なんかイメージ的に無理だと思ってた。

 ゲームだと死体は消えるものだし、こっちに来て倒したゴブリンは食べるきなんかさっぱりだもん。


「世間知らず。普通ココリスなら食用にされるぞ。他だってそうだ。超高級食材だがドラゴンだって食べるぞ?」


 まじかよ人間はすごいね、さすが雑食。

 でもドラゴンステーキとかゲームでもあるか。

 実際に食べれるかどうかは見た目次第だけど。


「そっか、ありがとう。そろそろ行くよ。また明日」

「おう!!またきな!!」


 最後だけ最初のノリかよ!油断してたから耳がキーンとなった。

 さて、とりあえず大通りを見る。

 酔ってはいるけど普通にしていられるレベルだ。

 そうとくれば帰るついでにお店を見て周ることにする。

 ひとまず来た道を戻り始めたが相変らずここいらは騒がしい。

 なるべく端を通って露店の商品を視界に入れていく。

 ほとんどの商品には値札が付いているのでわざわざ聞くことも無く値段の把握ができた。

 リンゴが一個銅貨5枚。ニンジンが一本銅貨4枚。

 何かの肉が銅貨8枚。食事用ナイフが銀貨10枚。

 サバイバルナイフが銀貨75枚。鉄?の剣が金貨15枚。

 ショートスピアが金貨17枚。

 宝石の付いた指輪が金貨23枚・・・・・・。

 食料品がやけに安い。野菜のほとんどが銅貨の単位だ。

 果物が少し高いものがあるがそれでも銀貨一枚以下か。

 それに比べて武器類が高いなぁ。

 高いものは白金貨半枚するものもある。

 うーん。日本円との換算は難しいみたいだ。

 銅貨の価値が高かったり安かったり。

 銀貨も微妙だし・・・。

 金貨一枚が一万円くらいで、白金貨はやはり百万円くらい。

 それ以下は適当・・・いや、そうか、先進国と新興国って状態っぽい。

 日本円で数十円でもそういう国では日給レベルとか。

 そんな気がしてきた。

 だから食べ物関係はやたらに安かったりするわけだ。

 うん、すこしすっきりした。

 そうなると冒険者ってのはほんと高給取りだ。

 ギルドの女性が狙うだけのことはあるなぁ・・・。

 道具類はピンきりすぎて分からない。

 白金貨の薬とかどんな効果があるんだろうか。

 今度お金に余裕が出来たら買ってみよう。

 それにしても商人ギルド街だなぁ。

 これら全部が露天品とか。

 品質に不安が出るから剣とかはちゃんとした店で買うと思うけど、全部がなんか訳あり品に見えてくる。

 掘り出し物とかあるのかな?

 見てもさっぱり分からないけど・・・。


 そうこうしているうちに商人ギルド街も終わり、今はどことなく閑散としている冒険者ギルド街に戻ってきた。

 今は夕方四時前。

 ギルド本部の周辺には冒険者がそれなりにたむろしていたが宿屋と酒場通りにはほとんどいない。

 まだ依頼をこなしている時間なんだろうか?

 四時の時間を知らせる鐘の音を聞きながら携帯の時計を見るとまったく一緒。

 一致しすぎだと思う。俺としては混乱しなくていいから助かるけど。

 携帯の電池だって無限じゃないし、とうかすでに二つに減っている。

 早々に携帯は使えなくなるな。電波が入るわけじゃないから時計位にしか役に立ってなかったけど。

 『鞘の置き場亭』に帰ってきたがここも早めの食事をしている三名くらいだ。

 

「あ、お帰り。手続き終わった?」


 机を拭いていたサラが顔を上げて迎えてくれた。


「手続きはね。カードは明日の午後にならないと出来ないそうです」

「プレートは特注品だからね。魔石も使って色々と情報を入れるから大変なんだよ?」

「へぇ~」


 なんか本当の電子カードみたいだ。


「それで、もうご飯にする?」

「いや、昼が遅かったんだ。まだお腹空いてないから部屋で一眠りしてから・・・。いや。お湯もらえるかな?体を洗おうと思って」

「わかったわ。沸かしたら持っていくから部屋で待ってて」

「頼みます」


 サラは笑顔で手を出してきた。

 そういえばお金が必要だったな。

 銅貨5枚を渡す。

 しかし手が引っ込まない。あれ?


「か弱い女の子が持っていくのよ?」

 

 そういうことですか・・・。

 ヨーロッパ的なチップってことね。

 さらに五枚渡しておく。

 サラの笑みが深まった。十分なようだ。

 部屋に帰ってトトの村から貰ってきたタオルと村人服を出しておく。

 そしてベッドで倒れていることしばらく、扉がノックがされた。

 ベッドで転がっていたから眠たくなったが気合で起き上がって扉を開ける。


「ハイこれ桶ね。あとタオル。お湯はすぐに持ってくるから待ってて」


 扉を開けた瞬間に桶とタオルを押し付けられた。

 そしてすぐに引っ込む。

 ・・・早いなぁ。ごろごろと桶を転がして部屋に入れていると大きな壷を持ってサラが戻ってきた。

 それを桶に入れて完成。湯気が上がって眼鏡が曇る。


「ふう。重たかった。終わったら言って、全部片付けるから。何なら洗濯もするわよ?」

「当然別料金?」

「もちろん!」

 笑顔が眩しいぜ!!

「この服一着しかないんだ。換えは別の二着なんだけど、出来ればこれと似たようなものが欲しいんだけどなんとかできないかな?」


 俺は着ている作業着をつまんで見せる。

 日本で着ていた楽な服が欲しいけど魔術師として仕事をするならこれの方が気分的に引き締まる。

 それに作業着だから丈夫だしね。

 サラは近づいて作業着を確認していくが顔を曇らせた。


「魔導師にしては落ち着いた衣装だけど・・・。良く見ると複雑ね。しかもこの金具!これをまるっきり再現は無理じゃないかな。ボタンで代用するくらいなら出来ると思うけど・・・。職人ギルドに持っていって頼んでみるしかないんじゃない?」


 金具というのはファスナーのことだ。

 工業が発展していないとこんな細かい物は大量生産できない。

 やっぱりこの世界では再現は難しいみたいだ。


「そっか。というかこれでも魔術師に見られるんだ」


 そう言えば手続きのことで頭が一杯になっていて気がつかなかったけど原付を持ってなくても当たり前みたいに魔導師って言われてたな。


「街見て周ったんだよね?もっとシンプルだったでしょ?魔導師は自分の力を高めるためにローブや変な衣装が多いって聞くけど、まだこれは大人しいわね」


 物に眼が行くことが多くて人まで観察してなかったけどぼんやりと思い出せば確かに服はシンプルだった気がする。


「なんなら明日一緒に職人ギルド街に行く?私も用事有るし、馴染みの店に頼んでくれると助かるわ」


 うーん。下手な所に頼むより良いかもしれない。


「わかった。持っていくにしても汚れたままっていうのもあれだから洗濯頼むよ」

「うん、けど着替えの服。それも辞めたほうがいいわ。なんというか田舎者丸出しでダサいもの。兄さんの服があるから貸してあげる」


 村から貰ってきたのだけど町人からしたらダサイのか・・・。

 なるべく良さそうなの選んだけどちょっとショック。

 普段ファッションなんか気にしてないから俺の美的センスはカラス並だ。


「兄さんいるんだ、ここでは見なかったけど」

「兄さんも冒険者やってるのよ。でも連絡なんてこの三年全然無いからどこで何やってるのやら・・・っとお湯が冷めちゃうわ。服は外においておくからごゆっくりどうぞ」

「わかった。そうさせてもらうよ」


 サラはヒラヒラと手を振って出て行った。

 俺は作業着を脱いできっちり畳んで銅貨数枚と供に外に出しておく。

 後は桶に入っての湯浴み。

 久しぶりのお風呂もどきで多少さっぱりしたがやはりちゃんとした風呂に入りたい。

 シャンプーも石鹸も無いし・・・。

 せめて公衆浴場とかあればいいんだか話の流れから察すると無いと思われる。

 家を買うときは風呂付か金を出して大きな風呂を作ろう。

 そんなことを考えているとノックされた。


「これは洗濯するね。服は置いておくからまた後で」

「わかった」


 とりあえずお湯が冷たくなるまでゆっくりと入ることにする・・・保温なんかされてないから冷めるのは早い。

 ぬるま湯にゆっくりつかる派の俺としては熱くなくてもいいがちょっと物足りない・・・。

 ぴちゃぴちゃとぬるま湯を叩いているとピロン!と頭に電球が浮かんだ。

 魔術で温かく出来ないかな?

 こっそりチャレンジ!呪文を唱えて


 「ホット・ウォータ!」


 お、成功!触れている手の先から徐々に温度が上がっていき・・・熱い!!

 慌てて飛び出す。

 イメージと少しずれた・・・。

 熱い温度って湯気が出るくらいだけど今は部屋もぬくもっている、そうなると湯気が出る温度は少し高い。

 失敗失敗。

 少しかき混ぜながら待って再度桶に入る。

 何度か魔術を使って温めなおしてのぼせる寸前までお風呂を楽しむ。


 今日は1時間ほどのゆったりとした風呂タイムになった。


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