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魔王♀と勇者♂がお茶会に行く話

掲載日:2026/05/17

「お茶会よ!」


バンッ!


私は机を叩いて勢いよく立ち上がった。

講義室中の視線が針のように突き刺さる。


「う、うふふ…

そうそうお茶を買わないと…」

スマホの画面をコッコッと操作し、さもメッセージを読み上げてしまったかのように演じた。


「何の誤魔化し?」

隣でノートを取っていたリリシアが視線を上げた。

眼鏡の奥に灯った憐憫が見える。


おずおずと腰を下ろすのを見届けた教授は無言で板書を再開した。


『さっきのなに?』

スマホのディスプレイにはリリシアの文字。


うふふふふ、そうね。

説明してあげるわ。

まあ、講義が終わったらね…




【昼休み】

「…つまり例の勇者君を誘おうって話なのね」

カチャカチャとフォークにパスタを巻き付けながらリリシアは口を開く。


「そ、そうなの…

あの子まだ未成年でしょ?

飲み会でお祝い!って訳にもいかないじゃない」

私はコップの波紋を見つめていた。


「あーお茶会ってそれで」

リリシアは歯切れよく言い切ってから、フォークに巻き付けたナポリタンをパクリと頬張った。


「その…負けた側からお祝いさせてって変よね?

やっぱり気持ち悪いって思われるかな…」

カレーを掬い上げたスプーンを空中で右往左往させた。


「普通に魔王からお誘いとかおかしいけどさ」

「うぅ…」

やっぱりそうだよね…


カチャリ…

スプーンが静かに着地した。


「でもお祝いしてあげたいんでしょ?

いんじゃね」

「え…」

「もう誘ったの?

ライン知ってるんでしょ?」

「う、うん…」


決戦の日は2日後、土曜日に決まった。




【土曜日】


駅前の奇妙な銅像はこの町の待ち合わせスポットとしては定番中の定番だ。

日が昇りきる前の時間、人混みとまではいかないが、既にそわそわと誰かを待ち望む若者で賑わっている。


目に飛び込むのは道路、草木、人、人、犬、人、勇者君。

見慣れたはずなのに…

鮮やかに彩度高く描かれた映画のワンシーンに、自ら踏み込んでいく。


「お、お待たせ…」

目元を隠す重い前髪、隙間からチラチラ覗く大きな垂れ目、皺一つ見当たらない、丁寧に剥いたゆで卵みたいなツルっとした肌、薄く柔らかい耳、低い鼻、指先で触れたくなるほど潤った唇。

一つ一つ刻み込むように、水晶体の奥に摂取していく。


「ま、待ってないよ…

その…服…

似合ってる…ます…」

彼は私の目を見てくれない。

それは知っていること。

でもいいよ。

何処なら見ても大丈夫なのかわからないんでしょ?

大丈夫、どんな思いが籠っていようと私は怒らないよ。


今すぐ抱き締めたい衝動と、さながら敵同士となった学友との決戦かの如き血涙の葛藤を乗り越え、彼の手を取った。


靴底がご機嫌にアスファルトを蹴る。

終焉の地へ逸る気持ちと、道中にこそ魂が宿ると脳内に上がるシュプレヒコールが衝突を繰り返す。


「あなたの服も似合ってるわ

自分で選んだのかしら?」

たぶんお母さんかな?

ホント感謝感謝。

まず短パンがベネ。

脱毛の概念すら浮かばない脛と日々の鍛練が伺える脹ら脛の引き締まった筋肉。

肌の綺麗さは再生魔法のおかげだよね。

今は感謝しかないよ。

ポロシャツのボタンを上まで留めてるのもわかってる。

そうなんだよね。

嫌がって外しちゃうのも、そのまま留めっぱなしなのも結局良いってなるんだけど、留めたくなるよね。

オレンジと水色のコントラストも映えてる。

後で写真撮ろ。


「…さん!

サクラさん!

危ないよ!」

「え?」

グッと力強く腕を引かれた。

間一髪、排水口の直上で左足が停止した。

一張羅のワンピースが本番前に台無しにならずに済んだ。


「ありがとう、助かったわ」

目線をあわせてお礼を言った。

そのまま自然な動きで頭を撫でにいく。

ピンチはチャンスとはこのことね。

これくらいなら神様も許してくれるでしょう。

魔王ではあるけど。


「ところでさっきなんて言ったのかしら」

頭に手を乗せたまま問いかけた。


「え、危ないよって…」

「そこじゃなくて

私のこと呼ばなかった?」

「ごめんなさい…」

「怒ってないわ

普段から心の中では名前で呼んでたの?」

「う…はい…」

「勘違いしないで

責めてる訳じゃないの

名前で呼びたいなら呼んで良いのよ?」

「え…」

「ほら、もう一度呼んでみて」

「サクラ…さん…」


全身の血液が全て沸き立って、魔力が天変地異を起こしそうなくらい心臓をざわめかせていたけれど、魔王の矜持は一欠片の動揺すら許さない。

極めて冷静に、自然な流れで彼からの名前呼びという結果に導いた私は無敵だった。


「うふふ、じゃあ私も名前で呼ぶわね

カイリくん!」




【ラウンジ】

「予約した禍谷です」


広々として落ち着いた店内を、自然光を利用した控えめな照明が優しく照らす。

2人で3万円を超えるアフタヌーンティーのコース。

大学生の懐事情には少々背伸びした金額だ。


だが私は怯まない。

あくまでも"慣れた大人"なんだ。


テーブルに着いた彼は落ち着きがない。

「こんなとこ初めて!

うわー天井高いね!

それにすっごく良い匂いするよ!」

ピョンピョンと小動物のように、彼の視線が跳ね回る。


「うふふ」

この日の為に作り出した、見た映像を自宅の魔石に記録する魔法を思い出し発動した。

最初から使っておくべきだった。

じわじわと後悔が蝕んでくる。


「これから美味しいものがたくさん来るからね

なんてったってお祝いだもん

ほら、紅茶を選んで」

私は葉書サイズのメニュー表を差し出した。


運ばれてきたアフタヌーンティーセットは見た目にも華やかな、苺のフルコース。

蒸らしが終わったポットからアールグレイティーを注ぐ。


「うわぁ!

これ何ですか?」

「うふふ、それは苺のムースよ」


「ところでさっき訊いたことなんだけど

お洋服はお母さんが選んだのかしら?」

なーんか解釈が合いすぎて母じゃないかもって気がしてきたのよね…


「あれ?さっき言ったよ?」

カイリくんが首を傾げている!

いいの?今時ナチュラルにこんな動きする子なかなか居ないよ?


「お姉ちゃんだよ」

なーんだ姉弟か…


「お隣の」

「は?」

はあ?


カチャカチャと食器がなっている。

紅茶の湯気が立ちのぼり、お冷やの氷が溶けていく。


「そ、そのお姉ちゃんとは…な、仲良しなの?」

「うん!よくご飯一緒に食べるし、泊まりに行ったこともあるよ!」

「なっ!と、泊まりぃ!?」


お、落ち着くのよ!

「え、ええっとぉ…

カイリくんは好きなの?

そのお姉ちゃんのこと」


「えっとね…」

「ま、待って!

やっぱりいい…

ほら、紅茶が冷めちゃうよ」

「え、う、うん…」


何をビビってるのよ…

私は魔王!

種族とか年齢とか、そんな些末なことにかかずらわっている場合なの!?

尊大で!傲慢で!超越した存在なはずでしょ!?


何でもないことのようにこなすのよ、ほら、お行きなさい。


「あ!あのさ…

カイリくん…

私の家にも泊まりに…

来る…?」

「え!?いいの!?

行きたい!」


完?

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。

感謝してもしきれない思いです。


もし本作をお読みになった結果、ほんの少しでも「面白い」「良い暇潰しになった」等、思っていただけましたら、ページ下部にある星マークからの評価、感想、ブックマーク等いただけますと、とんでもなく励みになります。


ではでは、今後ともよろしくお願いいたします。

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