歌ってよさぁピアノマン 歌ってよ此の夜に
《クソボケ!! ふざけんな!!》
鉄で覆われた星の無線の通じる範囲内の全てに若い声が響いた。鉄の大地に立つ数多の鉄塔と、それらを繋げる鉄橋。灰色と赤錆の戦場に立つロボットから。
人形だが脚部が推進器を加えられて長大。仰け反ったような上半身は両腕と背負う二つの電磁砲とそれを挟むような推進機を支える為だけにある。電磁砲を背に向けた今は遠目には三本足にも見える異形だ。
《こちらシュテルネ・フェアタイルン所属雇用傭兵No.023ワタル・カイ!! 企業第三大陸司令部に応答求む!!》
《こちらシュテルネ・フェアタイルン第三大陸司令部!! どうした!!》
《敵の待ち伏せだ!! 指揮官以下が敵のレーザーで溶けちまった!! 企業正規兵文字通り全滅!!
傭兵で階級が一番高いのは今俺だ!! 撤退するぞ!!》
《待てNo.023!! その戦線の維持は可能か!! 兵力は!!》
《出来るかボケッ!! 十機もいねぇよ!! ほうほうの体で逃げたとこだぞ!!
そっちの指揮官様が地図もよこさねぇから退路もわからねぇんだよ!! さっさとデータ送らねぇと組合と傭兵派遣システムに通報してやるからな!!》
《ま、待て!! 今送る!!!》
「急げ!! バカがァッ!!!」
怒鳴りつけて通信を完全に切ったのは外見15歳の青年だった。幾つかのレバーと操作版が敷き詰められた戦闘機のコックピットを想起させる操縦席でチョコバーを加えて水筒から紅茶を飲む。それを平らげ口を拭うと偶然死地に揃った傭兵仲間達に通信を繋げた。
「ったく!! 名前的にラーグルフ文化圏の企業かと思ったら騙された!! どこの企業だここ!!」
『御託は良い坊ちゃん!! 俺達はアンタに従うぞ!! 次どうする?!!』
思わず漏らした言葉が聞こえていた事を恥ずかしく思いながらカイはようやく送られた戦場マップを開き。
「ありがとよオッちゃん!! だがマップは共有するから勝手に逃げたい奴は行け!! 俺は下層エリアを突っ切っていく!!
追ってきた連中は数こそ多いが索敵能力が特に低いグラデニェッツ文化圏のダウングレードモデルだからな!! しかも乗ってるのは数が多いだけのテロリストカス供だ!!」
その言葉の後に最も高所の橋からヤタガラスの渾名を付けられた機体が重力に任せて落ちた。
その機体が落ちるのに続いて低所で控えていた人型の機体達が橋から飛び降りる。数千㍍の距離を自然落下し地面の寸前で推進器を一瞬唸らせ粉塵を撒き散らして着地。
続けて傭兵達の機体が各々着地して地面を鳴らす。
「マップH7の惑星軌道エレベーターが目的地だ!! 全員、静音機動の準備とレーダーの探査範囲を広げとけ!! この中にナンダカ文化圏系企業製のレーダー持ってる奴は居るか!!」
傭兵仲間から通信が入り全周モニターの邪魔にならない端に透過された状態で傭兵の一人が映る。それは人型で肩から先が無いが六つの肘から指までを浮かせた青い肌の細身の宇宙人。
『傭兵No.257だ!! 私の機体はティースリー・アーンク0585を搭載してる!!』
「アスラ星人がティースリー・アーンクって絵になり過ぎだろ。ありがてぇ!! アンタを中心に円陣を作る!! 0585なら燃費もいいしサイバネティック技術が頭抜けてるからな!!
アンタも相当出来るだろ!! 探索範囲は広くしてくれ!! カナリアは俺がやる!!」
『わかった!!』
宇宙人が二つの腕でレバーを握り、二つの腕で操作板を操作した。その映像を最後に通信が切れカイも静音起動装置を発動させる。
「おっし」
ヤタガラスの長方形の推進機噴気孔内側の羽が波打ってから最後に大きく開き掻き集め圧縮された粒子を吐き出した。脚部推進器がホバーの容量で僅かに機体を浮かせ背中の羽が前へ押し出す。
鉄塔の根本をカラスが滑り進む。
目視確認をする為に自動操縦に切り替え、しかしレバーには手を添えたまま。
『No.023!!』
音声通話が入る。アスラ星人の傭兵からだ。今の部隊の目。
「どうした257!! 敵か!!」
『ああ!! だが上を通って行った!! 全てでは無いだろうがアンタのブラフにかかったぞ!!』
「おう!! そりゃあ良い!! だがサッサと逃げよう!!」
『同感だ!!』
「全体通信!! こっからE13からH13まで直進!! 尚、F13からG13は水上を飛ぶ!!」
『待った坊ちゃん!!』
オッサンが通信を入れてくる。
「どうした033のオッサン!!」
『水上をいくんなら適中を遮蔽物無しに進む事になるが考えはあるのか!?』
「257のレーダーと俺の電磁砲がある!! それに確かオッサンのメンバーは汎用ミサイルを積んでたろ!! それでどうにかなると踏んだ!!
根拠としちゃあアホ指揮官様の通信からして戦線は押されてたくせぇ!! だから敵の増援部隊ぐらいしかいねぇはずだ!!
水中の敵は前線!! 水上なら探知して俺が初撃で敵の腰を抜かしてやれる!! そしたらタコ殴りだ!!」
『考えがあるなら良い!! 下は俺らに任せとけ!!』
「頼りにしてるわオッサン!!」
進んで行けば直ぐに貯水海だ。小惑星帯から拾ってきた氷の塊を一時的に保存する為の人工惑星の人工の淡水海。その凪いだ海面へ宇宙まで続く鉄塔達を背に何の感慨も無く進み出した。レーダーとモニターを見つめる。
時折No.257からの連絡で敵部隊を事前に察知し水面下に潜ったり進軍を止めるなどでやり過ごし対岸が視界に入った。
『No.023!! 大規模敵輸送部隊だ!! 船団護衛が居るぞ!! 輸送艦五!!』
「了解!! その規模じゃバレた!! 一発かます!! 後は好きにしろ!! 257座標だけ頼む!!」
『了解!! 頼むぞ!!』
ヤタガラスの背負っていた超砲身電磁砲の砲口が前を向く。モニターにカイの目線に合わせた円が二つ表示された。アスラ星人の傭兵から送られた座標が同期され推定敵影が映し出される。
「音声操作ユニット起動。ガン1」
目線は敵艦影の中央に向き円もそこに。
「ロック」
円が固定された。
「ガン2」
その後ろを進む艦にも同じ様に円が。
「ロック発射」
移動を続行したまま水上を滑りつつ無音で発射され海を進む巨大な箱へと着弾した。宇宙船間で荷物をやり取りするバージに推進器を付けただけのソレ。ものの見事に機関部を撃ち抜かれて射出された徹甲杭が炸裂し燃料に引火して爆発した。
一隻は船のみで済んだが二隻目は誘爆を起こし護衛機も含めて四散し人口の水面の底に沈んでいく。その頃には目視が可能で慌てた様に護衛機が向かってくる。カイはそれに顔を顰めて。
「迎撃砲台も無けりゃ高々五十機?! 普通は一隻に五十機は護衛を乗せるもんだろ。これだからテロリストの暇人は。
戦の要所も人材の使い方も分かってねぇ。まぁ今は有難いがな」
電磁砲を左右交互に撃つ事で砲身のオーバーヒートを気にせず撃ちまくる。そのまま双方が速度を上げて接敵し乱戦になった。近付けば長物の電磁砲は御役御免だ。
重力で落ちる事を意識しながら飛び回り粒子刀を二本振るう。ビームと弾丸の合間を飛び回り時には蹴りさえ叩き込んで。
「25機か。エネルギーがもっと使えりゃあ楽だったんだが」
ヤタガラスのダメージを見て推進機の買い替えを必要と判断して、しかし極めて上機嫌に傭兵仲間へ通信。
「全員無事っぽいな!! 敵船漁ってから行くぞ!! タイマーは00:30!!」
傭兵達が海上の方舟。推進力を失った宝箱へ殺到する。エネルギーや武器弾薬。何よりも嗜好品を掻き集め空間圧縮倉庫へ放り込む。傭兵達はありったけの役得を得て残りの船を沈めた。
そのまま直進し敵の大部隊を迂回して撤退拠点へと向かう。だが目的地の海岸を前にアスラ星人の機体が敵を捕らえる。
『目的地が攻撃を受けてる!!』
「マジか!! 拠点を救うぞ!! ソーセージは大して食えねぇしビールは不味いって言われてるし戦いはお粗末だし!!
やっぱりラーグルフ文化圏の企業だってタカりやがったなクソ!!!」
海岸沿いの起動エレベーターを中心とした軍事施設バベル目掛けて進んでいた敵が電磁砲が射出され敵機体が貫かれていく。更に補充したフォトンマシンガンが光線を幾度と吐いて大型ドローンを落とし乱戦。
足と背の推進器と言う翼を唸らせ重力を無視した機動を描きながら射線の合間を縫って敵を撃ち抜いて進んで行く。
機体と技量の差でテロリストを鶴瓶撃ちにして漸く機動力を上げる為に装甲を削った骸の様な機体が迫るがヤタガラスが武器を持ち変え切り捨てて味方基地に入り込んだ。
「ニャンコ社長!! まだ居るかい?!!」
カイが叫べばモニターの端に猫の顔がドアップに映る。白味の強い灰色毛並みなブリティッシュショートヘアーっぽいモフォっとした感じの顔。片耳を出しベレー帽を決めていた。
『ナーオ!! カイ!! やっぱり無事だったにゃ!! やっと馬鹿企業の第三大陸司令部が落ちたから逃げるとこにゃんだ!! 悪いけど手伝ってくれにゃいか!!』
「任せとけ社長!!」
『助かるにゃー!! しかもこの資料後でいいから見て欲しいのにゃ!! あの惑星統治企業テロリストと取引して戦争長引かせて補助金得てやがったにゃ!! 連中絶対許さにゃいぞ!!』
「やっぱ助成金目当てのカスか!! 本元にも後で御礼参りに行くしかねぇなオイ!!」
『ニャ!! 傭兵組合の方にも文句言ってやるにゃ!! シャァ!!』
「マジそうしろ!! て言うか俺も一緒に連れてけ!! で、どうすりゃ良い?!」
『にゃん西、すまんにゃ!! 南西の部隊が押されてるにゃ!! そっち頼むにゃ!!』
「分かった!! 行くぞ!!」
その後敵を押し返し惑星軌道上で待機していた傭兵企業ソラネコの艦隊に間借りして帰還した。人類が宇宙にまで居を移した当初に住居とした小型コロニーを改造する事から進化した宇宙船。その3キロの円筒状の船中に癖の強い毛髪を腰まで伸ばしタンクトップにカーゴパンツを着てブーツを履いた不機嫌そうな15歳程の外見の少年が歩く。
ベレー帽を頭に被る軍服のデカい猫を肩車して食堂に向かう。
「いやぁ給料がどうなるかは心配だが一先ずは腹ごなしだなニャンコ社長」
「にゃーッハッハッハァッ!! カイ、急がにゃダメにゃ。この前いい拾い者をしたから」
「拾い者?」
「社員の福利厚生にゃ。まぁーそれは最後のお楽しみゃァ」
艦内の広域スペースで合成食料と言われれば聞こえが悪いが実態として元の世界とは隔絶した美味な食事を楽しみながらカイは戦終わりの宴を楽しむ。殻まで食えるロブスターの香草焼きを模した料理に柑橘類の汁を垂らし殻諸共口に運ぶ。
猫の社長はマタタビジュースを飲んで酷い絵面になっている。彼らの部下が食器を投げ喧嘩を始め私的な賭けが始まった。
オッサンが酒を飲みながら部下に何かを語っており、アスラ星人が死線を潜り抜けた戦友たちに囃し立てられカレーを平らげてから踊っている。
「んぁ……?」
自身も含めてしとどに酒と空気に酔った傭兵達が微睡と心地よさに揺蕩う中でピアノの音が一つ。落ち着いた調律と心を震わせる歌声が流れる。
「どうかにゃカイ。にゃにゃなうなうにゃにゃうにゃー」
「ニャンコ社長。通訳オンにしとけって。宴の時は」
「ニャーごめんごめん。高級ホテルでも聞けない生の演奏だ。良いだろ?」
「ああ。コッチの世界でピアノなんて……。前の世界でも数える程しか聞いてねぇわ」
「酔ってるなぁ」
「そらね。で、どしたの。きょうび配信じゃなくて生でピアノ弾くなんてプロでもやらねぇじゃん。金持ちの酔狂で大金積まれたらくらいだろうに」
「逃げ遅れたのを助けたんだよ。それを恩義に感じたらしくてね」
「なるほどな。あぁ、良い歌だ」
ピアノの旋律と歌声に溶けて宇宙船の作った暗闇と共に傭兵達の夜が更けていく。




