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お姉ちゃんと婚約者は政略結婚の予定でしたがあなた達は自由恋愛の末に結ばれるのでしょう?苦労しなさい

作者: 砂塵精魔
掲載日:2026/02/14

「エルン、すまないな。だが僕はようやく真実の愛を見つけたんだ」


「お姉様、アリアルもこんな事になって大変申し訳ないと思っておりますの」


 特に悪びれる様子もなく私の婚約者と私の妹はそう言い切った。

 場所は彼の自室のベッドの上、お互いに一糸纏わぬ姿でである。


 なるほど、やっぱりそういうことだったのですか。


 だって明らかに婚約者のジタルクは私だけといるより私の妹のアリアルも一緒にいる時の方が楽しそうだったし、妹の方も彼には満更でもない態度を見せていたからである。

 いずれこうなるだろうとは思っていた。


 それに婚約者の前でするにはジタルクと妹のスキンシップは度を越えていたのもある。

 私とは手さえ繋いだ事が無いのに、妹に対してはやけにベタベタしていたのだ。

 またジタルクの顔だけ私も良いと思っていたし、妹は私のものは何でも欲しがっていたし、状況証拠をあげていたらキリがない。

 だから別に驚くような事では無かったのである。


「お二人はそういう間柄だったのですね。ジタルク、妹と末長くお幸せに」


 私は踵を返して帰ろうとしたが、それを二人に止められた。


「待てエルン!お前の言いたい事はそれだけなのか?」


「そうです!もっとお姉様は悔しがるような表情を見せるべきです!」


 私は立ち止まって今一度振り返ると、今度は逆に妹に向かって尋ねた。


「お姉ちゃんが今まで自分の思い通りにならないからと、泣きわめいたり怒ったりした事がありましたか?むしろ、あなたの方がそういう事は多かったはずです」


「確かに、それはお姉様の仰る通りなのです」


 妹は恥ずかしげにシーツで自分の顔半分を隠す。

 私はやれやれと首を振ると言った。


「それよりお二人とも、いつまでそんな格好をしているのですか?そろそろフリーレ様が宮廷のサロンから戻られるお時間ですよ」


 フリーレ様はジタルクの母である。

 今日は私もフリーレ様に用件があって彼の屋敷に来ていたのだが、その件はまた後日で良いだろう。


「君に言われるまでもない。ママが帰って来たら君との婚約を破棄して、アリアルと新しく婚約する事を伝えるつもりだったんだ」


「それには問題が山積みだと思います。まずアリアル、あなたには商家の帳簿を付けるのが出来るとは思えません。フリーレ様は家でずっと遊んでいるなど、決して許されないと思います」


 物事を簡単に考えていたジタルクに対して私が反論する。


 ジタルクの家はこの国では有数の老舗商家。

 そして私の父は商人ギルドとの繋がりが欲しくて私と幼馴染みのジタルクを政略結婚させようとしていたのだった。

 だから嫁ぐのが私になろうが妹になろうが、私の父は気にしない。


 だが、フリーレ様は別だ。


 自らも営業に出て、商人ギルドのパイプ役となり、毎晩夜遅くまで帳簿の管理をなされていると聞く。

 そんな彼女がいくら愛する一人息子の嫁とはいえ、甘やかすはずがないのは容易に推測できる事だった。


「それは……これから勉強するのです!」


「本当に?この間のあなたの期末テストの点数を見ましたよ。その点数を見て、お姉ちゃんは今のこの状況よりも大変悲しく思いました。あなた、せっかくテスト前に私が渡した勉強ノートを見もせずそのままにしていたでしょう」


「そんなことはありません!でもジタルク様とのお誘いがあったので、あまり読む事が出来なかっただけです!」


「何だとアリアル、つまりテストが悪かったのは僕のせいだと言いたいのか?」


 妹の反論がきっかけとなり、あられもない姿のまま二人は言い争いを始めてしまった。

 私としても流石にこの状況は看過できないので仲裁に入ることにする。


「お二人ともお止めなさい。ともかく今日は妹を連れて帰ります。ジタルクもこの状況でフリーレ様に婚約をご報告するおつもりではないでしょう」


 私が諌めると二人は渋々頷く。

 という訳で、その日は妹を連れて屋敷に戻ったのだった。


 ◇


 次の日から、私による妹の猛勉強が始まった。

 学園は先日期末テストが終わり、夏の長期休暇に入っていた。

 なので私としても時間があったし、その点では時期は良かったとも言える。


 だが、妹はせっかくの休暇が箱詰めで勉強することになって不満タラタラの様であった。

 我が家の屋敷は海辺に面しているのだが、妹は勉強中に何度も海と砂浜の方に目線を向けていたのである。

 砂浜にはたくさんの海水浴客、海には泳いでいる人達の姿も見受けられた。


 妹はそんな楽しそうな人達の姿を見るたびにため息をついている。

 こんな妹のことだから、休みに入る前はジタルクと毎日バカンスを楽しむ自分を想像していただろうと言うのは容易に考えられた。


「アリアル、ちゃんと集中しなさい」


「お姉様、ちょっと涼みに部屋の外に出てもよろしいでしょうか?」


「ダメです。さっき休憩したばかりでしょう。喉が渇いたのであれば、そこの水差しからコップに注いで自由に飲んで良いと伝えたはずです」


 私は心を鬼にして叱る。

 妹は私の言葉を聞いて眼をうるうるとさせたが、手でそれを拭うとようやくまた問題を解き始めた。


 それからしばらくして屋敷の外で馬の嘶きが聞こえてきたと思ったら、遅れて部屋にメイドが入ってきた。


「お嬢様、婚約者のジタルク様がご到着されたのですがお通ししてもよろしいでしょうか?」


 メイドは恐る恐ると言った様子で私にお伺いを立ててきた。

 まだ私とジタルクは形式上は婚約者の間柄である。

 しかし、噂が立つというのは早いものでもうジタルクと妹がどういう関係なのかは使用人達の間でも話が拡がっていた。


「別に構わないわ、お通ししてあげて」


 私が素っ気なく言うと、メイドは頭を下げて部屋を出る。

 それから程なくしてジタルクが部屋に入ってきた。


 彼の姿を見るなり、妹は席を立つと彼に泣きながら飛び付く。

 ジタルクはそれを抱き止めると、彼女の頭を撫でた。


「ジタルク様!お姉様ったら酷いんですの。アリアルはこの3日間、日が昇ってから日が暮れるまでずっとお勉強をさせられて、もう耐えられませんわ!」


「よしよし、可哀想な僕のアリアル……エルン!お前よくもアリアルを苛めたな!」


「結構、私にはジタルクが邪魔をしてアリアルの勉強が進まなかったと、フリーレ様に報告することも出来ますよ」


 フリーレ様の名前を出されてジタルクは一瞬ビクッと体を震わせる。

 その余波か、妹も不安げにこちらを窺う様子を見せた。


「それにジタルクは馬術の強化合宿で忙しかったはずでは?」


「今日は休みだ!本当だぞ、ママにも学園にも確認したらいい。だからアリアルを誘いに来たんだ」


「まあ良いでしょう。たまには外に出て運動と息抜きも必要ですし。夕飯前には帰ってくるのですよ」


 私の許可が出たことでジタルクと妹はお互いにホッとしたように顔を見合わせると、そそくさと部屋を出ていった。


 二人が部屋を出ていくのを見送り、私は肩を竦めるのだった。


 ◇


 今日も真夏の日差しが強い。

 長期休暇も残りあと半分になった日。

 私とアリアルは馬車に乗ってジタルクの屋敷に向かっていた。

 今日から実習としてフリーレ様の業務を手伝う事になっているのだ。


「お姉様、私だけこのまま馬車に残ってお屋敷に戻ってはいけませんか?」


「今さら何を言っているのですか、お姉ちゃんはあなたがお忍びでジタルクの屋敷に何度か行っていた事もメイドから聞きましたからね」


「それは、今まではジタルク様のお母様がお出掛けをされている時に行っていたのです」


 妹はフリーレ様にお会いしたくないと駄々を捏ねたが、その時既に馬車はジタルクのお屋敷の門を過ぎてしまっていた。

 今さら戻ることは出来ない。


 そして私が馬車の窓からお屋敷の玄関の方を見ると、灰色の髪をした貴婦人が取り仕切っている姿が見えた。

 ジタルクのお母様、フリーレ様が直々に出迎えの指導をされていたのだ。


「おはよう、よく来てくれたわね」


 馬車から私達が降りるとフリーレ様が労りの言葉をかけてくださった。


「おはようございます。本日は妹のアリアルも連れて参りました」


 私はカーテシーをしてフリーレ様にご挨拶をする。

 妹も私に続いた。


「おはようございます。ザインメル夫人、本日はよろしくお願いいたします」


「お久しぶりねアリアルちゃん。わざわざ家名の方で呼ばなくて大丈夫よ。何だったら昔のようにジタルクのお母様呼びでも、ここでは構わないのだから」


 そう言うとフリーレ様は朗らかに笑われた。


 緊張をほぐそうとされたようだが、妹の方は何か隠し事でもあるかのように、実際にジタルクとの件で隠し事はあるのだが、もじもじとしている。


 妹にはあなたのお義母様になるかもしれない人の手前なのだから、もっとしっかりとして欲しい所だ。


「さっそく説明するから付いていらっしゃい」


 こうして私達はフリーレ様に連れられて屋敷に入ったのだった。


 ◇


 そして屋敷の書斎につくと、フリーレ様が今日の業務の簡単な説明をされる。

 私達は業務のお手伝いとして転記作業を任される事になった。

 帳簿に記載されてる品名や金額などを別の帳簿に書き写すという単純な作業で、私は何度もやったことがある。


 また私と妹が通っている学園は商業科なので会計分野で資料作成を習うことがあるから、そこでも何度か転記作業をすることがあったのだ。


「お姉様、この備品費というのにはどの値を書けば良いのですか?」


「それはこの値を書くのですよ。雑費とは違うので注意するように」


「そうだったのですね。お姉様、ありがとうございます」


 妹は私に礼を言うとまた作業に戻った。


 この休暇中のお勉強でも妹には転記を何度かやらせていたが、一朝一夕では成熟しないものである。

 頻繁に質問してくるので、やはり苦労しているようであった。


「アリアルちゃん、ここなんだけど、書く場所を間違えてるわね。あとこっちは金額の桁が違うみたい」


「も、申し訳ございません!」


 フリーレ様が妹に間違いを指摘すると、妹は何度も頭を下げて謝った。


「そんなに謝らなくても大丈夫よ。気付いたら修正すれば良いだけなんだから」


 そう言ってフリーレ様は帳簿をパラパラとめくるが、少し苦い顔を浮かべられる。

 どうやら他にも修正しなければいけない箇所が散見された様だ。


「そこは私が修正させて頂きます」


「助かるわ、じゃあ後はよろしくね」


 私はフリーレ様から帳簿を受けとると、間違いの修正作業に入る。


「お姉様、私の犯した間違いなのに。お姉様がやらなくても」


「大丈夫ですよ。それに私の方がこの作業には慣れてますから、あなたは休んでて」


 妹はそれから業務が終わりの時間を知らせるまで、私の作業をずっと見ていたのだった。


 ◇


「二人とも今日はお疲れ様、また明日もよろしくね」


 夕方になった帰り際、フリーレ様は私達の馬車が見えなくなるまで手を振ってお見送りをして下さった。


 そのお姿が見えなくなってから、馬車の中で妹は姿勢を正すと私に向き直った。


「お姉様、本日はありがとうございました。一つお願いがあるのですが、聞いて頂けませんか?」


「良いですよ、何でしょうか」


「お屋敷に帰ったら私の転記の練習に付き合って頂きたいのです。お願いいたします」


「分かりました。でも、あまり遅くなると明日に響きますから程々に致しましょう」


 私に向かって頭を下げた妹の頭を優しく撫でながら、私は約束してあげるのだった。


 ◇


 まだまだ秋の気配には早かったが、今日は学園の夏の長期休暇の最終日である。

 そして、いよいよフリーレ様に直談判する日でもあった。

 内容は私とジタルクの婚約解消、それと妹とジタルクの交際の認可である。


 ジタルクの屋敷の一室で私とフリーレ様、そして妹とジタルクがそれぞれ向かい合う様に1つのテーブルを挟んで四者面談のように座っていた。


「なるほど、あなたが乗馬が趣味と言うのは意外に感じました。きっかけとかはありますか?」


 妹の釣書を見ながらフリーレ様が言う。

 この釣書は私の時もそうだったので、妹にも書かせた物だ。


「ジタルク様がお上手に馬を調教されているのを見て、私も乗ってみたいなと思ったんです。まだ誰かに曳いて貰ってないと怖いですけれども」


「結構、お互いに共通の趣味があるのは良いことだと思います」


 妹への印象は今の所悪くないようだ。

 この日のために私は妹の勉強を手伝い、一緒にフリーレ様の業務を手伝い、釣書まで書かせた。

 その結果が今下されようとしている。


「さて、あなた達の交際を認めるかの話ですが、実はアリアルちゃんがこれまでもお忍びでお屋敷に来てた事はこちらも知っていたの」


「え!?」


 フリーレ様の突然の告発に妹とジタルクは顔を見合わせる。


「アリアルちゃんの方は上手く隠せてたと思うわ。ジタルクちゃんの後始末の方で気付いたんだから、だって貴方……ねぇ」


 思い当たる節があるのだろう。

 ジタルクはしまったとでも言うように両手で頭を抱えた。


「だから気付いたその日にはエルンちゃんに私が直接謝罪に行ったのよね」


 そう言われてから、私はあの日の事を思い出した。

 慌てた様子で屋敷に来られたフリーレ様の姿を見て、私は驚いたのだ。

 そして眼に涙を浮かべながら息子の不始末を謝罪されるフリーレ様に対して私は、「ジタルクが私に謝る時までそのままにしましょう」と言ったのであった。


 この件があり、私は二人が男女の関係であることを見せつけてきても特に驚かなかったのである。


「ママが、いや母上がそんな……」


 フリーレ様の言葉に触発されたのか、ジタルクは席を立つ。

 妹もこれから彼がしようとしていることを察してか一緒に立ち上がった。

 そして二人は私に向かって深々と頭を下げる。


「エルン、本当にすまない。君との関係を解消してから僕達は交際を始めるべきだったんだ」


「お姉様、私からも今度は本当に申し訳ないと思っております」


 二人の様子からは初めにあったような悪びれた印象は少しも感じられない。

 真剣に謝ってくれているのだと思った。


「分かりました。今回だけは二人を許しましょう」


 私は二人の謝罪を受け入れると、フリーレ様の方を窺う。

 こくりと頷かれたのを見るに、フリーレ様にも私の意思は伝わったようであった。


「禊も済んだし、今度は貴方の番ね。馬術大会で良い成績を取れたらママからパパに口添えをしてあげるから」


「本当ですか、がんばります!」


「ジタルク様、アリアルもジタルク様が果敢にお馬に乗られているお姿を拝見させて頂きたいです!」


 妹は羨望の眼差しでジタルクの方を見る。

 ジタルクはよし行こうと、妹の手を取り部屋を出ていった。


 そんな二人が部屋から出ていくのを見送ると、フリーレ様は肩を竦められた。


「まったく、調子の良い事だけが取り柄の困った子達ね。本当はあなたが嫁入りしてくれるのを昔から心待ちにしていたのだけれども、上手く事が運ばないものなのかしら」


「ご期待に添えず申し訳ありません。私も昔からフリーレ様が私のお義母様になって頂けるのなら何度幸せだと思ったことか、その数は数えきれません」


 私が謝ると、謝るのはむしろこちらの方とでも言われる様にフリーレ様は片手を振られた。


「息子とあなた達二人で遊んでいた姿がもはや懐かしく思うわ。それにしても、私でもしっかり者のあなたより泣き虫だったアリアルちゃんを息子が選ぶなんて、思いもよらなかったけど」


 私と妹とジタルクは幼少期によく三人で屋敷近くの砂浜で遊んでいた。

 その頃にはもう私とジタルクが将来は政略結婚する事は決められていたし、その頃から妹とジタルクは仲が良かったように思う。


「私とジタルクは、何があっても結ばれる関係でした。それが窮屈だったのかもしれません」


 だから、幼馴染みで婚約者でもあったと言うのに私とジタルクはお互いに手を繋いだことさえなかった。

 そんな事をしなくても二人は将来結婚するのである。

 だから知らず知らずに、お互いどこか冷めた関係になってしまっていた。


 こんな私達だから仮に結婚したとしても、それは白い結婚になっていたと思う。

 そうなれば世継ぎも生まれず、フリーレ様は孫の顔も見ることが出来ずで落胆されるに違いなかっただろう。


「もしあなたがその気なら、今度は私がエルンちゃんにぴったりなお相手を紹介しましょうか。私のサロン仲間で適齢期の息子を持つ親が何人かいるのよ」


「お気遣い感謝致します。ですが、私も今度は自由恋愛でお相手を見つけたいんです」


 これからはジタルクと妹の婚約の件で忙しくなる。

 その間は私への話は持って来ないとお父様は明言して下さっていた。


 とはいえ、その期間は短いはずだ。

 権力欲の強いお父様のことだから、妹の結婚話が終わったら次は私にとすぐに縁談を持って来られるだろう。


 それでもこのチャンスを活かして、今度は私が自分で殿方を見つけたいし、見つけられると思う。


 そんな恋の予感がする新学期はもう明日に迫っていた。

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