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『追放された掃除屋の俺、全自動の「洗浄結界」を張ったら聖域が爆誕した。〜ボロボロの女騎士を洗ったら神話級の英雄に覚醒したんだが、俺はただの清掃員なんだが?〜』  作者: ジキルぅ
第1章:帝都ピカピカ計画編

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第9話:【急転】皇帝の命令。リト、隣国との和平交渉(大掃除)に向かう。

 フラウレルム王女の離宮を襲った「腐蝕の魔煙」を、リトが文字通り根こそぎ洗い流してから一夜が明けた。帝都は昨日にも増して輝きを放っている。リトが最大出力で放った洗浄結界の影響により、帝都の石畳からは微かな芳香が漂い、空には七色の魔力虹が定着して消える気配がない。

 そんな奇跡の余韻に浸る間もなく、リトは帝国の中枢――玉座の間へと召喚されていた。

「面を上げよ、救国の聖者リト」

 玉座に鎮座する皇帝ゼノス十二世が、重々しく、しかし隠しきれない敬意を込めて語りかける。皇帝の隣には、昨夜リトに「魂のシミ抜き」をされて以来、恍惚とした表情を隠そうともしないフラウレルム王女が控えている。そしてリトの背後には、一歩も譲らぬ構えでアルテミスが控えていた。

「はあ……。あ、こんにちは。……ちょっとここ、天井の隅に数百年分の煤がこびりついてますね。後で脚立借りてもいいですか?」

 皇帝を前にしても、リトの関心は「汚れ」にしかない。謁見の間を埋め尽くす大臣たちがその不敬さに肝を冷やすが、皇帝は「おお、なんと謙虚な……! 玉座の汚れまで気にかけてくださるとは!」と勝手に感動して涙ぐんでいる。

「リト殿。貴殿の『洗浄』の力、もはや一都市に留めておくにはあまりに惜しい。今、帝国は隣国バルディア王国と長年の国境紛争を抱えておる。……といっても、それはもはや政治の問題ではないのだ」

 皇帝の表情が曇った。

「バルディアとの国境線には、かつての古戦場に充満した『呪詛の泥濘』が広がっておる。その毒気ゆえに交渉の使者すら通れず、両国は互いの不信感を募らせるばかり。……そこでだ。リト殿、貴殿に帝国特派全権大使――いや、『全権清掃総督』として、国境の洗浄を依頼したいのだ」

「国境の掃除、ですか」

 リトは指を顎に当てて考える。

「そんなに広い場所が汚れたままなのは、衛生的によくないですね。わかりました。お受けします」

「おお……! 感謝する! して、護衛はどうする? 我が帝国最強の第一軍を――」

「不要です、陛下」

 遮ったのはアルテミスだった。彼女はリトの前に進み出ると、鋭い眼光で皇帝を射抜く。

「リト様の清らかな旅路に、泥臭い軍隊など邪魔なだけです。私が一人いれば十分。リト様を汚そうとする不純物は、この私がすべて切り捨てます」

「あら、アルテミス。貴女一人ではリトの身の回りの世話が不十分ではないかしら?」

 フラウレルムが、扇子で口元を隠しながら冷ややかに笑う。

「私も同行しましょう。私の『潔癖』の感覚があれば、リトが気づかない微細な汚れも見逃さないわ。それに……リトに洗われた私の魂が、彼を離そうとしないの」

「王女殿下、貴女は公務があるでしょう! リト様を独占しようなどと――」

「あら、それは貴女の台詞ではなくて?」

 玉座の前で火花を散らす二人。皇帝は「仲が良いのは結構なことだ」と現実逃避気味に頷き、リトは「まあ、賑やかなのはいいことかな」と呑気に考えていた。

 数日後。リト一行は、帝国とバルディア王国の国境、通称『嘆きの沼地』に到着した。

 そこはまさに、この世の地獄を具現化したような場所だった。

 どす黒い泥がどこまでも続き、そこからは腐敗臭を伴うガスが絶え間なく噴き出している。かつての戦争で亡くなった兵士たちの未練が「怨念のシミ」となって大地にこびりつき、植物は枯れ果て、空は常に灰色の雲に覆われていた。

「……うわぁ。これは、大掃除のやりがいがあるなぁ」

 リトは、持参した特製のバケツを下ろすと、腕捲りをした。

「リト様、無理をなさらないでください。この沼は、教会の高名な司祭たちが数十人がかりで浄化を試みて、全員が発狂したと言われる呪いの地です」

 アルテミスが剣を抜き、リトを守るように構える。

「大丈夫だよ、アルテミスさん。……汚れがひどいときは、まずは『つけ置き』から始めるのが基本なんだ」

 リトはバケツから、自作の「超高濃度・魔力界面活性剤(リトの魔力を水に溶かしたもの)」を取り出した。それを、沼の端にほんの一滴、垂らす。

 シュワァァァァァ……ッ!!

 劇的な変化は、そこから始まった。

 一滴の洗浄液が触れた瞬間、周囲の泥濘が猛烈な勢いで白く泡立ち始めた。

 リトの魔力は、怨念や呪いを「頑固な油汚れ」と同等に定義する。一滴の波紋が広がっていくにつれ、数百年解けなかった呪詛が、まるでお湯で流されるバターのように溶け去っていく。

「【大規模展開・浸透洗浄結界ディープ・クリーニング】!!」

 リトが両手を地面に突いた。

 純白の閃光が沼地を駆け抜ける。

 それは破壊ではない。大地に対する「洗濯」だった。

 泥の中から湧き出ていた死霊たちが、光に包まれて「あ、なんかサッパリした……」と満足げな顔をして昇天していく。どす黒かった泥は瞬時に清らかな湧水へと変わり、そこから見たこともないような美しい睡蓮の花が次々と咲き誇った。

「な……なんだ、これは……!?」

 国境の向こう側、バルディア王国の国境守備隊が、腰を抜かしてその光景を見ていた。

 彼らが数世代にわたって「死の壁」として恐れてきた沼地が、わずか数秒で、楽園のような美しい湖へと変貌したのだ。

 灰色の雲はリトの放つマイナスイオンによって霧散し、 国境には、帝国からバルディアまでを跨ぐ巨大な「二重の虹」が架かった。

「……ふぅ。これで、お互いの顔もよく見えるようになったね」

 リトが爽やかに笑う。

 洗浄されたばかりの空気を通じて、帝国とバルディアの兵士たちが、初めて互いの姿をはっきりと確認した。

 そこには、これまで抱いていた憎しみや不信感はなかった。

 あまりに清浄な空気を吸い込み、あまりに美しい景色を見せられたことで、彼らの闘争本能(汚れ)までもが綺麗さっぱり洗い流されていたからだ。

「……和平交渉だ。今すぐ、交渉の準備を!」

 バルディア側の将軍が、涙を流しながら叫んだ。

「こんな美しい景色を見せられて、まだ血を流そうなどと思う者は……不純物だ!」

 リトの掃除によって、戦争という名の「歴史の汚れ」が一つ、消去された瞬間だった。

 しかし、アルテミスとフラウレルムの視線は、平和になった国境よりも、その中心で輝くリトに注がれていた。

「リト様……。貴公はまた、世界を美しくしてしまった」

 アルテミスが、リトの背後からその腰を抱きしめる。

「ですが、この湖よりも……私の心の方が、もっと深く洗われたがっているのです。……今夜も、お願いしますね?」

「私もよ、リト。バルディアの王族にあなたを見せるなんて、本当は嫌だったけれど……。……あ、でも、あそこの将軍の鎧、まだ少し曇ってるわ。後で私が『処分』しておきましょうか?」

 二人の愛(汚れ)だけは、リトの最強の洗浄スキルを以てしても、なかなか落ちる気配がなかった。

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