第27話:魂の「つけ置き」タイム。ネフィリムの心に宿る、寂しい黒。
魂を丸洗いされ、漆黒の反・聖女から「真っ白な美少女」へと変貌してしまったネフィリム。
彼女は現在、リトが即席で作った「結界の洗濯桶」の中に、首までどっぷりと浸かっていた。
「……屈辱。死ぬほど屈辱だわ」
ネフィリムは頬を膨らませ、お湯に浮かぶ泡を指でツンツンと突いた。
だが、彼女の表情に、先ほどまでの刺々しさはない。リトの洗浄液に含まれる「癒やしの成分(魔力)」が、彼女の神経に溜まっていた数千年の疲労を、じわじわと溶かし去っていた。
「我慢してね、ネフィリムさん。……君の心は、ずっと一人でいたせいで、冷えて固まっちゃってるんだ。……こうして温めてあげないと、奥の方の『寂しさ』が落ちないから」
リトは桶のそばに座り、彼女に温かいタオルを差し出した。
アルテミスは、リトが他の女性(しかも元敵)を甲斐甲斐しく世話している様子に、般若のような形相で背後の壁を磨いていた。
「……リト様。その……『つけ置き』は、いつまで続くのでしょうか? 私は、そろそろそのバケツを、物理的に破壊してしまいたい衝動に駆られているのですが」
「あはは、あと少しだよ。……ねえ、ネフィリムさん。君は、汚れが歴史だって言ったけど……。本当は、誰かに『綺麗だね』って言ってもらいたかっただけじゃないの?」
リトの言葉に、ネフィリムの動きが止まった。
彼女は神の影として生まれ、汚れを押し付けられるだけの存在だった。誰も彼女自身の輝きを見ようとはせず、ただ「汚いもの」として封印した。だから、彼女は自分を汚すことでしか、自分の存在を守れなかったのだ。
「……そんなの。……今更、言われたって」
ネフィリムの瞳から、一滴の涙が零れ落ち、桶の水に波紋を作った。
「今更じゃないよ。……ほら、見て」
リトが指差した先。
洗浄されたばかりのネフィリムの手は、透き通るように白く、美しい。
「君が触れるものは、もう黒くならない。……これからは、君が触れるものを、もっと輝かせることができるようになるんだよ」
その瞬間、ネフィリムの心の中で、何かがパリン、と音を立てて割れた。
数千年の呪縛。
自分を嫌い続けてきた「心の汚れ」が、リトの優しさという名の水で、綺麗に洗い流されたのだ。
「……掃除屋さん。……リト」
ネフィリムが、桶の中からリトの服の裾をぎゅっと掴んだ。
「私……。あなたのその、バケツの中に入れて。……ずっと、あなたのそばで、洗われていたい……」
「え? バケツに入るのはちょっと狭いと思うけど……。一緒に掃除するのは、大歓迎だよ」
リトの無自覚な「掃除仲間」に、ついに伝説の反・聖女までが加わろうとしていた。




