第26話:究極の洗浄液 vs 概念の墨。リト、魂の「二度拭き」を決行!
「放置された汚れは、ただのゴミ」。
リトのその一言は、ネフィリムの誇りに初めて傷をつけた。彼女にとっての「汚れ」は、世界が積み重ねてきた重厚な歴史そのもの。それをゴミ呼ばわりされることは、彼女自身の存在を否定されるに等しかった。
「ゴミ……? 言ってくれるじゃない。なら、その薄っぺらな『白』を、私の墨で一生消えないシミにしてあげるわ!」
ネフィリムが放つ『概念の墨』が、津波となってリトに襲いかかる。
それは一度触れれば、対象の記憶や存在意義すらも黒く塗りつぶし、別の何かに書き換えてしまう不可逆の汚染。
だが、リトは『エターナル・シャイン・ウォーター』を染み込ませた箒を、静かに一閃させた。
「【清掃奥義:次元・二度拭き(ディメンション・ワイプ)】!!」
一振り目。
箒から放たれた光の飛沫が、迫りくる墨の津波と衝突する。
瞬間、墨の表面が「乳化」し、その侵食力を失った。ネフィリムの墨が、ただの「少し黒い水」へとダウングレードされたのだ。
「な……!? 私の概念を、乳化させたというの!?」
「油性の汚れには、乳化剤が一番だからね。……そして、二振り目」
リトが流れるような動作で、もう一度箒を振る。
今度は、一振り目で浮き上がらせた汚れを、空間ごと「吸い取る」ための乾拭きの一撃。
シュパァァァァン!!
清涼な風が吹き抜け、回廊を満たしていた墨が一滴残らず消滅した。
それどころか、ネフィリム自身が纏っていた漆黒のドレスまでが「漂白」され、汚れのない純白のワンピースへと姿を変えてしまった。
「あ、あぁ……。私の……私のアイデンティティ(汚れ)が……っ!」
ネフィリムは自らの白い服を見て、まるで裸を見られたかのように顔を赤くして震えた。
「ネフィリムさん。……君の後光も、実は本当は金色なんだよ。……ほら、ちょっと屈んでみて」
リトは抵抗する間も与えず、ネフィリムの頭上に浮かぶ黒い光輪を、直接手で掴んだ。
「ちょ、ちょっと! どこを触って……っ! ひゃんっ!?」
リトが光輪を「キュッ」と揉み洗いするように魔力を通す。
すると、黒いメッキがボロボロと剥がれ落ち、中から、あまりに眩い、太陽のような黄金の輝きが溢れ出した。
「……あ。眩しい」
アルテミスが目を細める。
「これが……ネフィリムの本当の姿?」
エルナが呆然と呟く。
そこには、世界の汚れを引き受ける生け贄ではなく、世界のあらゆるものを照らし、輝かせるために生まれた「真の聖女」の原石があった。
「よし、これで『一次洗浄』は終わり。……でも、根っこにある『寂しさのシミ』は、もう少しつけ置きが必要かな」
リトの優しすぎる「仕上げ」に、ネフィリムはもはや戦う気力を失い、真っ白な顔でリトを見上げていた。




