第21話:漂白された教皇は「偽物」!? 教会過激派の強襲と異端宣告
聖都ルミナリスがリトの「概念洗浄」によって、太陽の光を反射する真珠のような輝きを取り戻してから数日。教皇インノケンティウス三世は、かつての権力欲を綺麗さっぱり洗い流され、現在はリトから教わった「効率的な床の拭き方」を実践する、清々しい好々爺へと変貌していた。
「おお、リト殿。見てくだされ、この回廊。わしの磨き方が甘かったようで、まだ霊的な曇りが残っておりますな。もっと腰を入れて……」
「いい感じですよ、教皇様。でも、あまり力を入れすぎると石材が疲れちゃうから、優しく『撫でる』のがコツです」
リトと教皇が仲良く雑巾を絞るという、教会関係者が平伏するような平和な光景。だが、その背後では不穏な影が蠢いていた。
教会の影の実行部隊――「異端審問過激派・鉄の純血」である。彼らにとって、教皇が「掃除」にうつつを抜かし、慈悲深い老人に変わったことは、教会の崩壊を意味していた。
「……嘆かわしい。我らが教皇聖下は、あの『掃除屋』という名の魔術師に魂を抜き取られ、操り人形にされたのだ」
聖都の外れ、古びた礼拝堂に集まったのは、漆黒の法衣を纏った司祭たちだった。その中心に立つのは、過激派の長、審問官枢機卿マルドゥク。彼の瞳は、かつてリトが「漂白」したバルタザールよりも深く、冷たい拒絶に満ちていた。
「リトは掃除という欺瞞を用い、人々の『闘争心』や『信仰の熱』という名の不純物を消去している。奴の正体は、世界を無色透明な虚無へと変える『魂の空洞化魔導師』に相違ない!」
マルドゥクが掲げたのは、教会の禁忌「異端抹殺の鉄鎖」。
「今こそ立ち上がれ、兄弟たちよ。偽りの聖者を捕らえ、その『掃除用具』という名の魔導具を破壊するのだ。教皇聖下を、あの白すぎる呪縛から救い出すために!」
一方、リトの屋敷では、アルテミスが「リト様専用・特製防水エプロン」の補強に余念がなかった。
「リト様、このあたりに新しい魔力撥水加工を施しました。これで、どれほど激しい返り血……いえ、泥跳ねがあっても、貴公の清らかさは保たれるでしょう」
「ありがとう、アルテミスさん。助かるよ」
リトが微笑むと、アルテミスの心拍数が跳ね上がる。彼女にとって、リトの「白さ」を守ることは、もはや自身の存在意義となっていた。
そこへ、聖女エルナが血相を変えて飛び込んできた。
「リト様! 逃げてください! 異端審問官のマルドゥクが、貴方を『魂を抜く魔女(掃除夫)』として指名手配しました! 現在、数百名の武装神父たちがこの屋敷を包囲しています!」
「えっ、指名手配? 僕、ゴミの出し方はちゃんと守ってるはずだけど……」
リトの困惑を余所に、屋敷の周囲には不気味な黒い霧が立ち込めていた。
それはマルドゥクが展開した「異端封絶結界」。内側からの魔法を無効化し、物理的な攻撃すらも「罪」として跳ね返す、教会の最古にして最凶の処刑結界である。
「掃除屋リトよ! 貴様の『白き呪い』もここまでだ! 大人しく縛につけ! 貴様のそのバケツには、一体どれほどの汚れなき魂が詰め込まれているのか、じっくりと暴いてくれるわ!」
マルドゥクの声が響き、黒い鎖が空から降り注ぐ。
アルテミスが即座に抜剣し、リトの前に立った。
「……不浄な鎖ですね。リト様、少しの間、目を閉じていてください。……この『鉄くず』、私がまとめて産廃処理場に送って差し上げます」
「ダメだよ、アルテミスさん。この鎖……すごく錆びてる。こんなものを振り回したら、周囲の空気が鉄臭くなっちゃうよ」
リトは、自分に向けられた殺意よりも、鎖の「メンテナンス不足」に目を向けた。
彼はゆっくりと一歩前に出ると、腰に下げていた霧吹きを手に取った。
「まずは、その古臭い殺気を『除菌』しないとね」
リトの戦い――という名の「一方的な大掃除」が、再び始まろうとしていた。




