第17話:教会の闇「禁忌の地下書庫」。埃の中に潜む数千年の悪意。
エルナを弟子に迎え、リト一行が次に向かったのは、聖都の地下深く、歴代の教皇ですら入室が制限されている「禁忌の地下書庫」だった。
そこには、神話の時代から続く「呪われた魔導書」や、世界を崩壊させかねない「不浄なる真実」が封印されているという。
「リト殿、ここは本当に危険なのです。……空気が、淀んでいるという次元ではありません」
教皇インノケンティウスが、入り口で震えながら警告した。
扉が開かれた瞬間、リトの清掃眼が捉えたのは、文字通りの「闇」ではなかった。
それは、数千年分の埃とカビ、そして本から漏れ出した「インクの魔力的腐敗」が重なり合い、物理的な質量を持ってうごめく「ゴミの海」だった。
「……うわ。これはひどい。『埃の悪魔』が定住しちゃってるよ」
リトが指差した先では、蓄積された埃が巨大な獣の形を成し、侵入者を威嚇していた。通常の武器では触れることすらできず、魔法を放てば埃が舞って肺を汚染する。まさに掃除屋にとっての最凶のダンジョン。
「アルテミスさん、エルナさん。鼻と口をしっかり塞いで。……今からここを『真空洗浄』するから」
リトが愛用の箒――「星塵を払う(リト命名:万能ブラシ)」を構え、大きく一振りした。
「【超広域展開:真空・旋回洗浄】!!」
書庫内に猛烈な竜巻が発生した。しかしそれは破壊の風ではない。対象を「埃」のみに絞り、それを分子レベルで捕獲・圧縮する特殊な重力結界だ。
数千年動くことのなかったゴミの山が、リトの風によって吸い上げられ、一つの巨大な「埃の玉」へと凝縮されていく。
「グアァァァ……ッ! 我は数千年の闇……塵となって消えぬ……っ!」
埃の悪魔が断末魔を上げるが、リトは容赦なく霧吹きで追い打ちをかける。
「はい、消臭スプレー(魔王の瘴気分解用)。……しつこい臭いには、やっぱりこれが一番だね」
シュッ、と一吹き。
その瞬間、書庫を満たしていた重苦しい呪いの臭いが消え、代わりにミントのような清涼な香りが広がった。埃の玉は砂金のようにキラキラと輝いて消滅し、現れたのは、磨き上げられたように美しい黄金の背表紙の魔導書たちだった。
「見て……。呪われていたはずの本が、あんなに美しく……」
エルナが震える手で一冊の本を手に取る。そこにはかつて呪詛が刻まれていたはずだが、今はただ、清らかな叡智だけが宿っていた。
「汚れを落とせば、真実が見える。……本も人間も、同じだね」
リトの言葉が、地下書庫に静かに響いた。




