第15話:皇帝と教皇の握手。リト、聖都の「守護清掃聖者」に任命される。
元パーティ『暁の牙』が放った禁忌の汚染兵器『万魔の元パーティ『暁の牙』が放った禁忌の汚染兵器『万魔の煤』。それを「高圧洗浄」の一撃で消し去り、さらには襲撃者たちの魂まで漂白してしまったリト。
この事件は、帝都と聖都の両陣営に決定的な事実を突きつけた。リトという存在は、単なる「便利な掃除屋」ではなく、世界の理そのものを浄化し、秩序を再定義する唯一無二の存在である、と。
事件の翌日。聖都の中央広場には、歴史的な光景が広がっていた。
帝国の支配者、皇帝ゼノス十二世。
教会の最高権威、教皇インノケンティウス三世。
長年、世俗と宗教という二つの頂点として牽制し合ってきた両雄が、今、リトが磨き上げた「慈愛の噴水」の前で向かい合っていた。
「……教皇よ。この空気、この輝き。これほどまでに澄み渡った聖都を見るのは、わしも初めてだ」
皇帝が、白く輝く石畳に目を細める。
「左様ですな、皇帝よ。我らは神の言葉を説きながら、その実、自らの足元に溜まった埃(欲)に気づかぬふりをしてきた。……それを、あの方がすべて洗い流してくださった」
両者は無言で右手を差し出し、固い握手を交わした。
リトの「掃除」が、物理的な汚れだけでなく、両勢力の間にあった「長年のわだかまり」という名のシミまでも抜き去った瞬間だった。
そして、その中心に呼ばれたのが、当のリトである。
彼は現在、アルテミス、フラウレルム王女、そして聖女エルナという、大陸屈指の美女三人に囲まれ、式典用の礼装(リトの要望で、防水加工と防汚魔法が施されたエプロン付き)に身を包んでいた。
「リト殿、前に。貴殿の功績に対し、我ら二人は全会一致で一つの称号を贈ることに決めた」
皇帝と教皇が声を揃えて宣言する。
「貴殿を、帝国および教会の共同守護職――『大陸守護清掃聖者』に任命する! 今後、貴殿の掃除を妨げる者は、国家と神の両方に対する反逆と見なし、我が軍と教会騎士団が総力を挙げて『排除』する!」
広場を埋め尽くした数万の民衆から、嵐のような歓声が上がった。
「掃除屋」が、ついに大陸で最も不可侵かつ尊い存在として認められたのだ。
「ええっと……。その、称号はよくわかりませんが、これからも自由に掃除させてもらえるなら、喜んでお受けします。……あ、教皇様。そのメダル、純金ですよね? 放っておくと指紋が目立つので、後でコーティング液を塗っておきますね」
リトの相変わらずの「掃除脳」っぷりに、教皇は苦笑し、民衆は「なんと謙虚な……!」と再び涙を流した。
その夜。盛大な祝宴が執り行われる中、リトはバルコニーで一人、夜空を見上げていた。
帝都と聖都。二つの大きな場所を綺麗にしたという達成感はあるが、リトの直感は、まだこの世界に「洗わなければならない大きな汚れ」が残っていることを告げていた。
「リト様。お疲れのようですね」
背後から、アルテミスがそっと歩み寄る。彼女の鎧は、リトの称号授与を祝してさらに磨かれ、月光を受けて真珠のような光を放っていた。
「アルテミスさん。……なんだか、不思議な気分だよ。僕、ただ『綺麗にしたい』と思って箒を振ってただけなんだけどな」
「それがリト様なのです。貴公の無私なる情熱が、汚濁に慣れきった人々の目を覚まさせた。……ですが、リト様。忘れないでください。貴公が世界を白く染め上げるほど、その白さに嫉妬し、黒く塗り潰そうとする者も現れるでしょう」
アルテミスはリトの隣に並び、その手を優しく握った。
「その時は、この私が貴公の『雑巾』となりましょう。汚れを一身に引き受け、貴公の清らかさを守り抜く。それが、私の唯一の願いです」
「……ありがとう、アルテミスさん。でも、アルテミスさんが汚れるのは嫌だから、僕が一緒に洗うよ」
リトが微笑み返すと、アルテミスの頬が朱に染まった。彼女の愛(依存)は、もはや後戻りできない深さまで達している。
そこへ、空気を読まずに(あるいは完璧に読んで)フラウレルム王女と聖女エルナが飛び込んできた。
「あら、二人きりなんてずるいわ、アルテミス! リト、『清掃聖者』としての初仕事は、私の部屋の模様替え(徹底洗浄)に決まっているでしょう?」
「いいえ! 教会のステンドグラスの『二度拭き』こそが優先されるべきです、リト様!」
リトを巡る、賑やかで重すぎる愛の攻防戦。
こうして【帝都ピカピカ計画編】は、リトが名実ともに世界の救世主として認められる形で幕を閉じた。
だが、その平和な光景の裏側で。
聖都のさらに北、太陽の光も届かぬほど深い「魔の森」の奥深くでは、どす黒い波動が脈動していた。
「……清掃聖者、だと? 癪に障る言葉だ」
それは、人々の恐怖と絶望、そして数千年の「腐敗」を糧とする魔王軍の幹部――四天王の一人。
彼は、リトによって漂白された『暁の牙』の末路を見て、その冷徹な瞳を細めた。
「世界を白く染め上げるというのなら、我らが『深淵の汚れ』で塗り潰してやろう。……まずは、あの男が次に目指すであろう『呪われた聖堂』に、我が愛毒を仕込んでおくか」
リトの次なる戦場は、教会の暗部であり、本物の「聖女」がその力を試される試練の地。
【第2編:教会浄化と聖者認定編】がいよいよ幕を開ける。
リトは、バルコニーの欄干に残った微かな指紋をキュッ、と布で拭き取り、決意を新たにした。
「……よし。明日は、もうちょっと強力な洗剤を自作してみようかな」
リトの掃除道は、まだ始まったばかりである。煤』。それを「高圧洗浄」の一撃で消し去り、さらには襲撃者たちの魂まで漂白してしまったリト。
この事件は、帝都と聖都の両陣営に決定的な事実を突きつけた。リトという存在は、単なる「便利な掃除屋」ではなく、世界の理そのものを浄化し、秩序を再定義する唯一無二の存在である、と。
事件の翌日。聖都の中央広場には、歴史的な光景が広がっていた。
帝国の支配者、皇帝ゼノス十二世。
教会の最高権威、教皇インノケンティウス三世。
長年、世俗と宗教という二つの頂点として牽制し合ってきた両雄が、今、リトが磨き上げた「慈愛の噴水」の前で向かい合っていた。
「……教皇よ。この空気、この輝き。これほどまでに澄み渡った聖都を見るのは、わしも初めてだ」
皇帝が、白く輝く石畳に目を細める。
「左様ですな、皇帝よ。我らは神の言葉を説きながら、その実、自らの足元に溜まった埃(欲)に気づかぬふりをしてきた。……それを、あの方がすべて洗い流してくださった」
両者は無言で右手を差し出し、固い握手を交わした。
リトの「掃除」が、物理的な汚れだけでなく、両勢力の間にあった「長年のわだかまり」という名のシミまでも抜き去った瞬間だった。
そして、その中心に呼ばれたのが、当のリトである。
彼は現在、アルテミス、フラウレルム王女、そして聖女エルナという、大陸屈指の美女三人に囲まれ、式典用の礼装(リトの要望で、防水加工と防汚魔法が施されたエプロン付き)に身を包んでいた。
「リト殿、前に。貴殿の功績に対し、我ら二人は全会一致で一つの称号を贈ることに決めた」
皇帝と教皇が声を揃えて宣言する。
「貴殿を、帝国および教会の共同守護職――『大陸守護清掃聖者』に任命する! 今後、貴殿の掃除を妨げる者は、国家と神の両方に対する反逆と見なし、我が軍と教会騎士団が総力を挙げて『排除』する!」
広場を埋め尽くした数万の民衆から、嵐のような歓声が上がった。
「掃除屋」が、ついに大陸で最も不可侵かつ尊い存在として認められたのだ。
「ええっと……。その、称号はよくわかりませんが、これからも自由に掃除させてもらえるなら、喜んでお受けします。……あ、教皇様。そのメダル、純金ですよね? 放っておくと指紋が目立つので、後でコーティング液を塗っておきますね」
リトの相変わらずの「掃除脳」っぷりに、教皇は苦笑し、民衆は「なんと謙虚な……!」と再び涙を流した。
その夜。盛大な祝宴が執り行われる中、リトはバルコニーで一人、夜空を見上げていた。
帝都と聖都。二つの大きな場所を綺麗にしたという達成感はあるが、リトの直感は、まだこの世界に「洗わなければならない大きな汚れ」が残っていることを告げていた。
「リト様。お疲れのようですね」
背後から、アルテミスがそっと歩み寄る。彼女の鎧は、リトの称号授与を祝してさらに磨かれ、月光を受けて真珠のような光を放っていた。
「アルテミスさん。……なんだか、不思議な気分だよ。僕、ただ『綺麗にしたい』と思って箒を振ってただけなんだけどな」
「それがリト様なのです。貴公の無私なる情熱が、汚濁に慣れきった人々の目を覚まさせた。……ですが、リト様。忘れないでください。貴公が世界を白く染め上げるほど、その白さに嫉妬し、黒く塗り潰そうとする者も現れるでしょう」
アルテミスはリトの隣に並び、その手を優しく握った。
「その時は、この私が貴公の『雑巾』となりましょう。汚れを一身に引き受け、貴公の清らかさを守り抜く。それが、私の唯一の願いです」
「……ありがとう、アルテミスさん。でも、アルテミスさんが汚れるのは嫌だから、僕が一緒に洗うよ」
リトが微笑み返すと、アルテミスの頬が朱に染まった。彼女の愛(依存)は、もはや後戻りできない深さまで達している。
そこへ、空気を読まずに(あるいは完璧に読んで)フラウレルム王女と聖女エルナが飛び込んできた。
「あら、二人きりなんてずるいわ、アルテミス! リト、『清掃聖者』としての初仕事は、私の部屋の模様替え(徹底洗浄)に決まっているでしょう?」
「いいえ! 教会のステンドグラスの『二度拭き』こそが優先されるべきです、リト様!」
リトを巡る、賑やかで重すぎる愛の攻防戦。
こうして【帝都ピカピカ計画編】は、リトが名実ともに世界の救世主として認められる形で幕を閉じた。
だが、その平和な光景の裏側で。
聖都のさらに北、太陽の光も届かぬほど深い「魔の森」の奥深くでは、どす黒い波動が脈動していた。
「……清掃聖者、だと? 癪に障る言葉だ」
それは、人々の恐怖と絶望、そして数千年の「腐敗」を糧とする魔王軍の幹部――四天王の一人。
彼は、リトによって漂白された『暁の牙』の末路を見て、その冷徹な瞳を細めた。
「世界を白く染め上げるというのなら、我らが『深淵の汚れ』で塗り潰してやろう。……まずは、あの男が次に目指すであろう『呪われた聖堂』に、我が愛毒を仕込んでおくか」
リトの次なる戦場は、教会の暗部であり、本物の「聖女」がその力を試される試練の地。
【第2編:教会浄化と聖者認定編】がいよいよ幕を開ける。
リトは、バルコニーの欄干に残った微かな指紋をキュッ、と布で拭き取り、決意を新たにした。
「……よし。明日は、もうちょっと強力な洗剤を自作してみようかな」
リトの掃除道は、まだ始まったばかりである。




