ホットケーキの塔の崩壊
濃い茶色を基調とした喫茶店で、男女の仲睦まじい様子が、自分の背後から聞こえてくる。カウンター席に座っている自分の目の前には、店主がコーヒーを作ろうとしたまま、意識を失っている。静かに倒れた店主の方を、後ろの男女が気にすることはなく、先ほど店主によって運ばれてきたホットケーキを食べようとしている。カチャリとフォークの音が聞こえ「これ何枚? 五枚?」と、女性が数を数える。五段積みあがったホットケーキの、一番上を男女は食べ始める。
客はそれ以外おらず、喫茶店の外でメニューのレプリカを見ていた、また別の男女は外で倒れているはずだ。今頃、街の全員は声を上げて叫び出す前に、倒れ始めている。駅も、デパートも、道路、歩道、すべてに居た人々は、もう倒れている。男女は一枚目を早くに平らげた。テーブルの端に置かれている蜂蜜をかけて、二枚目を食べ始める。
もうすぐそこまで来ているはずだ。この喫茶店の隣にあった、バス停で列をなしていた人々の中の、たった一人が、誰かに助けを求めて喫茶店の扉に手をかけている。そして、そのまま掴んだまま意識を失っている。女性は「ちょっと休憩」と言い、三枚目は男が勢いよく食べ始める。
ゴシック調のたくましい喫茶店の扉から、魔の手が入り込んできている。すぐそこまでやってきて、足元まで来ているというのに、気づくことができない。世界の誰もが、自分の既知に属さないものを感知することができない。今頃、世界のどこかで、ニュースのネタにするよう台本が作られている。だが、台本を作る人もまた気を失っている。番組に使う映像を撮るカメラ映像が、たくさんの画面で、倒れている人を映している。四枚目は、女性と男が半分で食べるようだ。
コーヒーがなかなか来ないことに気が付いた男が、様子を見にカウンターの方にやってくる。倒れている店主を見た瞬間、男は眠るようにカウンターに伏せた。女性は気がついていなかった。四枚目を意外と食べられたのか、男の名前を言いながらこちらに近寄ってくる。何やら心配している口調で、とうとう店主の様子も見つけた時、女性は初めて叫んだ。すぐに女性は倒れた。
盲目であることは、デメリットだと思っていたが、どうもこの現象においては唯一の生きるすべだった。きっと共に来た妻も、倒れているのだろう。そう思ってしまうほどに、喫茶店は静かで、妄想しがいがあった。




