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恋はきっと、魔法だ  作者: そそで。
一章 沈黙を破る光
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8話 早まる思考に現実は追い付かない




 上手くいかない。

 何回やっても、何を変えても、失敗続き。


 目の前の安価な宝石が、音を立てて崩れる。

 また魔力に耐えきれなかったのだ。

(っ……また、だ)


 崩れた物はこれだけじゃない。

 もう数日間で、幾つもの素材を無駄にしている。

 宝石、動物の歯、花の種子や石。

 数多の種類の物に魔力を込める。しかしどれも結果は崩壊。


 魔力波形はほんの一瞬跳ね上がり、すぐ最底辺で沈黙する。

 一瞬すら耐えられない。


(何がダメだ? 石や宝石は魔力を馴染ませやすいはずなのに)

 自分の魔力の込め方が悪いのだろうか。

 考えれば考えるほど、分からなくなる。

(このままじゃ“また”、見限られる)

 いつの間にか止まっていた息を、吐き出した。


 ーーそれは情けなく、すこし、震えていた。




 西陽が沈んでいく。

 ほんの少し開けたシャッターから覗くオレンジは、床を照らしていた。

 それは徐々に小さくなり始めている。


 暗くなるにつれて、魔力灯の灯りが鮮明になっていく。


 壁に設置されたすべての魔力灯が不自然に数回、瞬いた。

 魔力の補充合図だ。

 しかし、リフィエルの視線はそこにはない。

 明滅に気付く事すらない。


(一度魔力を込めるための魔術式を作る? もっと微細な魔力を流せるようにすれば、何か分かるかもしれない)


 砕いてしまった宝石を、手のひらで集める。

 破片が指を引っ掻き、痛みで片目が引き攣る。

 目の前の魔力波形が急激に上昇して、すぐに鎮まった。



 魔力灯の灯りが、遂に消える。


 西陽は落ち、影に包まれた部屋で魔力波形だけが青白い光を灯している。

 顔に落ちるその光だけが、彼女の顔を映し出している。


 遠くで扉の開く音がした。

 意識はその音に向くことはない。


「何をしている」


 その一言が部屋を震わせる。

 少し語気の荒い声が、耳に届かず消えていく。


 僅かに速い靴音が響き、彼女のすぐ傍で止まった。


「リフィエル・ローベイン!」


 大きな声に、彼女の肩が震えた。

 一瞬魔力波形が乱れ、沈黙する。


 深い青の目が、ルーディスを見た。

 薄暗い部屋に、彼の赤い瞳が青白い光を反射している。


「………かん、りかん……」

「何をしている。魔力灯が切れている事にも気付かず」


 リフィエルは、数回目を瞬かせた。

 頭が追いつかず、思考がまとまらない。


 少しの間の後。


 彼女はようやく、部屋の暗さに意識が向いたようで、椅子から立ち上がる。

 一瞬、右足を気にする素振りを見せた。しかし何事もなさそうに真っ直ぐスイッチに向かい、触れる。

 それから魔力を通した。


 ふわ、と淡く緑に光る魔力灯が少しずつ光を帯びていく。


(………ああ、やって、しまった)

 光が強くなるにつれ、後悔も浮き彫りにされていく。手のひらを血が伝っていく。


 そうして漸く見えた、彼女の手の傷に。

 ルーディスの眉間が鋭い影を落とした。

 

「怪我すら治療せず何をしていた?」


 ぴくり、スイッチに触れている手が震える。


「……実験に、夢中になってまして」


(何してただなんて。それ以外に何がある?)

 震えた息を隠すように、唇を噛む。

 怪我をしてしまった指が痛む。それをサッと、彼の視線から隠した。

(それともボクのやってることは、実験ですら、ないとでも?)


 ルーディスの視線が、先ほどまで彼女のいた場所へ向かう。

 砕かれた宝石、沈黙した魔力波形画面、デスクから遠ざかった椅子、床に散らばる紙の束。

 どれも、普段の彼女とは結びつかない乱雑さを見せている。


「………何を焦っている」


 ルーディスの声は、叱責の色を持たなかった。

 それすら彼女は理解できない。

 瞳はルーディスを見る事なく、床を見た。

 手が片腕を支え、髪が頬に落ちる。


 彼女は唇をやわく、噛んでいた。


「焦るな。根を詰めるな。

 そんな事をしても結果は付いてこない」

「ーーっ、けど、今だって結果は出てません」

「短時間で出せるのなら、別の誰かがとっくに出している」

「そんなこと、言われなくたって分かってる!」


 つい、声を張った。リフィエルは口元を抑え、彼を見る。

 ーー上官に、口ごたえをしてしまった。

 胸が張り裂けそうで、緊張で喉が狭まる。

(ボクは、また、見捨てられる……っ)



 しかし彼は、何も言わず椅子を動かした。

 キャスターの音が床を這う。


 椅子をデスク前に戻し、それから目が彼女を見る。


「座れ」


 びくり、肩が震える。


「まずは怪我の手当だ。……それから、話し合いだ」



(話し合い……?)

 彼の声はもう、怒気を孕んでいなかった。

 ゆるり、リフィエルの手がそっと下がる。



 彼の視線はただ、リフィエルの怪我した手に、向けられていた。


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