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初めて学ぶ!国際政治の見方(英国学派を中心に)  作者: お前が愛した女K
【理論編】国際政治を見るレンズ〜リベラリズム〜
9/35

リベラルな国際関係と軍事(四) by Scott A. Silverstone

5.Summary: Liberal International Relations Theory in an Era of Renewed Great Power Competition

1980年代末の冷戦終結と1991年のソ連崩壊後のほぼ20年間、リベラルな世界政治観を支持する人々は、旧権威主義国家の民主化や、経済的開放性および国際機関の拡大に大きな希望を見出していた。ジョージ・H・W・ブッシュ米大統領は、侵略の撃退と人道的苦難の軽減を協調と集団行動によって実現する「新しい世界秩序」の到来を謳った。イギリスのマーガレット・サッチャー首相は、平和の源としての民主主義を早くから提唱した。ビル・クリントン大統領の最初の国家安全保障戦略は、NATOと欧州連合の拡大を通じたリベラルな「平和のゾーン」の“拡大”を呼びかけ、「全体として自由なヨーロッパ」を構築すること、そして民主化と改革を進めるロシアとの新たな制度的関係を築くことに焦点を当てていた。さらに、中国がリベラルな開かれた貿易体制の恩恵を活用して経済的に急成長したことは、繁栄と国力の増大に伴い、同国がリベラル原則に基づく国際秩序の「責任ある関係者」となる有望な兆候と見なされた。


しかし2020年代に入り、世界の政治指導者や学者たちは、大国間競争の新時代が到来したと主張し、国際システムの懸念すべき展開については再びリアリズム理論が洞察を提供しているように見えるようになった。ヨーロッパ全域に広がるリベラルな平和のゾーンは史上最も広い範囲に達したが、リアリストたちはNATOとEUの拡大がロシアに包囲の恐怖を引き起こしたとも主張する。中国は豊かになり、外国市場や投資機会への依存は危険な行動の抑制要因になる可能性があるが、その国力増大はまた、東アジアや西太平洋において米国やその同盟国に挑戦する意欲を高めてもいる。南シナ海での中国の領有権主張をめぐる対立や、核兵器をめぐる大国間競争の再燃は、危険な火種となっている。こうした中でも、リベラルな論理がリスクを抑える役割を果たせる余地は残っているかもしれない。


その一例として、21世紀においても核兵器管理に関するネオリベラル制度論の論理は政策的関連性を持ち、冷戦期の軍備管理の経験はその実行可能性を示している。1960年代初頭までに、米国とソ連という死敵は、核兵器とその実験が拡散する多様な経路を制限すれば、双方の安全保障が高まると合理的に判断するに至った。最初の成果は1963年の部分的核実験禁止条約であり、これは今日に至るまで、大気圏、宇宙空間、海洋での核実験を禁止し、核爆発による環境・健康被害を抑えている。その後、1960年代末には核拡散防止条約(NPT)が成立し、当初核兵器を保有していた5カ国(米国、ソ連/ロシア、英国、フランス、中国)以外への核兵器拡散を防ぐための国際的取り組みに正統性を与える最も重要な制度として機能している。NPTは既存の核保有国に実質的な軍縮義務を課してはいないという批判はあるものの、国際原子力機関(IAEA)による監視・査察・報告活動を支え、北朝鮮のような違反国を国連安全保障理事会が追及する法的・規範的根拠を提供している。


1970年代初頭には、米ソ間の核軍拡競争が激化する中、両国は最も危険な兵器開発を抑えるため軍備管理に乗り出した。その結果、一連の交渉と条約が結ばれ、冷戦や核兵器競争を終わらせはしなかったが、抑止の安定化や脅威の低減に寄与した。主要な条約には、1972年の弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約および第一次戦略兵器制限条約(SALT I)、1987年の中距離核戦力(INF)全廃条約(史上初めて特定兵器の全廃を実現)、1991年の第一次戦略兵器削減条約(START、戦略兵器を80%削減)が含まれる。


冷戦後の軍備管理の実績は必ずしも一様ではない。米国は2002年にABM条約を脱退し、2018年にはロシアがINF条約違反の新型ミサイルを開発していると主張するとともに、中国(非締約国)が禁止されるべき兵器を配備して不当な優位を得ているとし、INF条約からも脱退した。それでも近年では、米露間の深刻な緊張が続く中でさえ、両国は2011年に発効した新START条約を更新し、大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイル、重爆撃機の配備数と、それらに搭載できる弾頭数を上限で制限している。


さらに興味深いことに、包括的核実験禁止条約(CTBT)は正式発効していないにもかかわらず、北朝鮮を除くすべての核保有国がその規定を守っている。これは、米国(署名後に署名撤回)やロシア・中国(未批准)といった主要国も含む。形式的拘束はないにもかかわらず、核実験を自制する背景には、相互主義(reciprocity)というリベラル制度論の核心論理、すなわち「自分が実験すれば他国も追随し、結局は全員がより不安定になる」という自己利益計算が働いていると考えられる。米国は1992年以来、ロシアは1990年、中国は1996年以降、核実験を行っていない。


直接的証拠は乏しいものの、主要国の指導者たちは「一国が実験を行えば他国も追随する」という予測の下で自制している可能性は高い。大国間競争の時代にあっても、無制限な競争の危険性を各国が認識し、相互利益を見出し、相互抑制を通じて安全・繁栄・安定した未来を模索するという、リベラルな規範に基づく行動が成立し得る分野は、核兵器管理以外にもなお存在するのかもしれない。



<解題>

相互依存論:

「グローバリゼーションが進み,国境を越えた経済活動が展開される中で,国家主権の後退が議論

されるようになった。このような状況を受け,国家間の相互依存を背景にした

理論が求められるようになった。コヘイン・ナイ(2012)は,「世界政治における紛争を理解する伝統的アプローチは,相互依存関係の下での紛争をとりわけうまく説明するものではない」とし,リアリズムとリベラリズムの理論の統合を試みた8。そして,相互依存関係の深まりは衝突や紛争を起こす原因となるが,反対に,国家間関係が壊れるコストを考え,協調する可能性も多くなる,と考えたのである。このような相互依存に着目したうえで,O. コヘイン・S.ナイ(2012)は「複合的相互依存(complex interdependence)」という概念の下,リアリズムの提示する世界とは対照的な世界を提示するのである。複合的相互依存関係には以下のような 3 つの特徴がある。

①国家間関係を形成する,多数のチャンネル

非公式のエリート同士の交流や,多国籍な企業・銀行の存在。

②イシュー間の階層性の欠如

各国政府が関心を持つ課題のうち,軍事安全保障が最優先事項というわけではなくなった。

例:エネルギー,資源,環境など,かつてローポリティクスと呼ばれた分野の重要性の高ま

り。

③ 軍事力の役割の低下

軍事力は国家の生存に直結する重要な分野ではあるが,核兵器の危険性のため,軍事力を行

使する可能性が低下した。また,あるイシューをめぐって軍事力を行使した場合,他のイシ

ューにおける国家間関係の利益が破壊されかねない。

「軍事力の行使はしばしば安全保障以外の政策目標にコストのかかる影響を及ぼすのである」」(藤丸真穂「現代国際政治経済体制を捉える視座の検討」2019)


国際レジーム論:

「Krasner(1983)によれば,国際レジームとは「国際関係におけるある領域において,アクター

の期待が収斂する,暗黙・明示的原則,規範,ルール,そして意思決定手順のセット」と定義されており,WTO などの国際的な枠組みを指す。原則や規範とは,貿易レジーム(貿易自由化,互恵,無差別)のように,ある領域における関係を導く,一般的な考えや基準を指す。一方,ルールと意思決定手順は,原則と規範から派生しており,具体的には WTO の,保護主義を制限したり透明性を高めたりするためのルールや意思決定手順を指す(これらは貿易自由化の原則から派生している)。」(藤丸真穂「現代国際政治経済体制を捉える視座の検討」2019)


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