理論と実践の間:軍事実務家にとっての国際関係理論の有用性(五) by Miguel Cruz; John Brabazon; DeDe Halfhill; Scott Ritzel
6.Conclusion
理論は実践と実行に対して優位性を主張することはできないが、その理解は両者にとって有用な前提条件である。これが本稿の中心的な議論である。上級顧問として、我々が国家安全保障問題をどのように説明するかを選択することが、我々が提案する解決策を方向付ける。国家安全保障政策は軍事問題の実践にとって重要であるため、軍の上級指導者が政策策定に影響を与えるそれらの側面について十分な理解を深めることが極めて重要である。この理解を深めることは、軍の上級指導者が防衛関連政策について文民指導者とより効果的に関わるためのより強固な基盤を提供することができる。
IR理論は、政策立案者が世界をどのように見ているか、そしてこれが政策決定にどのように影響するかを説明するのに役立つ。理論は彼らの視点に影響を与え、彼らのバイアスを方向付けるため、研究と分析に値する。国家がどのように振る舞うかを説明しようとする3つの主要な学派がある。現実主義、自由主義、そして構成主義である。一般的に、現実主義は国家の権力に、典型的には他国との関係において焦点を当てる。米国にとって、現実主義的政策は、世界における卓越性を維持するために設計された覇権的行動につながることがある。自由主義は、民主的制度と経済的相互依存の重視を強調する。これは、防衛関連能力を犠牲にして、国際機関や貿易を通じて国際協力を最大化するように設計された政策を促すことがある。構成主義は、共有された規範、価値観、観念が国家行動に与える影響を浮き彫りにする。規範的政策は一般的に、外交および法的な領域に重きを置いて、国家が従うことが期待される国際的な行動ルールと規範を確立することに焦点を当てる。しかし、理論は万能薬ではない。これらの理論は国際関係を観察するための有用な枠組みを提供するが、権力の優位性、相互依存の重要性、あるいは規範の必要性といった国家行動の属性を過度に強調したり、過小評価したりする傾向がある。
したがって、他の理論を排除して一つの理論に依存する政策決定およびその後の実行は危険である。軍の上級将校や政策顧問は、単に政策が何であるかを知るだけでは満足できない。彼らは政策が何をするのか、そして適切かつ効果的な政策を提言するために利用可能なメカニズムを理解しなければならない。世界と国家行動の認識が政策決定にどのように影響するかを理解することは、そうするための一つの方法である。この点において、IR理論は、世界の出来事を理解し、その原因を説明し、その影響を評価し、適切な解決策を提案するために不可欠であり続ける。スナイダーが示唆するように、「他の理論の不合理な熱狂を抑制する手段として、三つの理論的伝統それぞれの洞察を利用する」のである。理論には有用性があるが、それらをどのように適用するかを決定するのは実践者の役割である。最も重要なことは、国家目標を推進するためにそれらを最大限に活用することが実践者の仕事なのである。
<理論の限界>
「国際関係理論は、政策立案やインテリジェンスの大枠を示すことに役立つものであるが、理論そのものを用いて個別の出来事を予測するには限界もある。インテリジェンスにおける国際関係の一般理論(システム理論)の1つの役割は、ある事象の将来的な展開の道筋を示す「ロードマップ」や、情報もしくは諜報の断片を関連づける「シナリオ」を提供することであろう。とりわけ、国際システム理論は、アクターの関係がどのように進展していくのか、そのパターンを大局的に示してくれるので、この分析枠組みに個別の情報を位置づけることで、それらに意味を与えられる。実世界で起こっていることを意味づける、こうした「フレームワーク」は、実務家が研究者に最も求めるものであろう。他方、国際関係理論が、依然として「あいまい」で「抽象的」なものであることは、理論の限界を示唆している。おそらく、国際関係理論は、「適用範囲条件」を満たした状況において、どのような事象が起こりそうかを明らかにするにとどまっている。つまり、国際関係理論は、政策決定者が何を選択しそうかを明らかにできるかもしれないが、何を選択するかを明らかにすることはできない。」( 野口和彦「国際関係理論は将来を予測できるのか―― 政策とインテリジェンスへの含意を探る ――」2015)
<用語解説>
ペロポネソス戦争:前5世紀の終わり、ギリシアにてアテネとスパルタの対立から起こった戦争。スパルタの勝利に終わったが、長期化によりポリス社会は衰退に向かった。トゥキディデスの『戦史』に記録された。