ウクライナ侵攻に対するEUの対応:根本的断絶の時代に規範と価値観を呼び起こす(一) By Giselle Bosse
Bosse, G. (2024) The EU's Response to the Russian Invasion of Ukraine: Invoking Norms and Values in Times of Fundamental Rupture. JCMS: Journal of Common Market Studies, 62: 1222–1238.
1.Introduction
ロシア連邦(以下「ロシア」)による2022年2月のウクライナ侵攻に対する欧州連合(EU)の対応は前例のないものとして広く語られており、とりわけ侵攻後最初の4か月間において、加盟国間における稀有な団結を示した。EUは、第三国に対してこれまでに課した中で最も厳しい、広範に及ぶ経済的・金融的制裁に合意した。また、EUは歴史上初めて「欧州平和ファシリティ(EPF)」を通じてウクライナに軍事支援を行った。さらに前例のない措置として、EUは「一時的保護指令(TPD)」を発動し、ウクライナ国民および永住者に対し、EU域内で生活し就労する一時的な権利を付与した。加えて、ウクライナとモルドバにはEU加盟候補国の地位が与えられた。加盟国がこれまでロシアや安全保障・防衛に関して相反する利害を有し、移民問題では大きな違いを抱え、また連合拡大や加盟申請国への候補資格付与に消極的であったことを考えれば、この最初の数か月におけるEUの迅速かつ断固とした対応は多くの点で予想外であった。では、このような高い重要性と争点を含む問題に対し、EUがどのようにして力強い対応を取り得たのだろうか。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻に関する新たな研究は、主として変化する国際秩序や欧州の安全保障(例:Bollfrass & Herzog, 2022; Fazal, 2022; Raik, 2022)、そしてロシアの侵攻そのものの説明と評価(例:Freedman, 2022; Götz & Staun, 2022; Hurak & D'Anieri, 2022)に焦点を当ててきた。さらに、戦争が欧州のエネルギー政治(Osička & Černoch, 2022)、欧州経済(Jones, 2022)、さらには世界経済や貿易に与える影響(Mbah & Wasum, 2022)についても分析が行われている。他方、EUの対応については、ロシアに対する制裁を評価した少数の研究(Cardwell & Moret, 2022; van Bergeijk, 2022)や、EUの外交・安全保障・防衛政策に対する影響を検討した政策志向の分析(例:Gressel, 2022)は存在するものの、詳細に分析されたとは言い難い。
これらの分析の大半は、EUの予想外で前例のない迅速かつ断固とした対応を認めつつも、特に侵攻直後の数か月間に加盟国間で合意を可能にした要因についてはほとんど検討していない。EUの対応の主因は、ヨーロッパ大陸で全面的な軍事侵攻が開始され、欧州安全保障の根本を脅かす事態が生じたという事実そのものにあったと考えられている(例:Rabinovych, 2022)。したがって、安全保障上の考慮は、2022年のロシア侵攻に対するEUの対応において極めて重要な役割を果たした。しかし、そのような考慮は侵攻後最初の4か月間のEUの対応を直接的に動かしたわけではない。現実主義の学者(例:Hyde-Price, 2006)によってEUの共同行動に不可欠とされるEUの最有力加盟国であるドイツとフランスは、当初、この侵攻を自国の安全保障への直接的脅威とは認識しておらず、後には自国外交政策の再定義をめぐる国内議論に吸収され、EUの対応を主導する能力が制約されたためである(Bunde, 2022)。
別の角度から見れば、EUが力強い対応を取り得たのは、国際法や主権・自決の原則に結びついた規範への集団的なコミットメントがあったからだとも主張できる。ロシアによる2014年のクリミア併合に対するEUの対応に関する研究では、当時加盟国がロシアへの制裁による政治的・経済的コストを受け入れたのは、そのような集団的規範へのコミットメントによるものであったことが示されている(Sjursen & Rosén, 2017)。これらの規範は2022年にも明確に見られ、EUはウクライナの「領土的一体性、主権、独立」を強調した(European Council, 2022, p.1)。しかし、2014年にロシアのウクライナへの戦争に対して広範な経済制裁を課さなかった「穏やかな」対応と比べると、2022年のEUの対応はより厳しく、加盟国にとってはるかに大きなコストを伴うものとなった。
これにより、2022年にEUがより迅速かつ断固とした対応を取るに至ったのは、国際法規範への集団的コミットメントに加え、どのような追加的要因が作用したからなのか、という問いが生じる。特に、侵攻後最初の4か月間に主要加盟国の安全保障上の選好が大きく揺れ動いていたことを考えると、この点は重要である。
このような背景の下で、本稿は、EUが2022年に下した決定が、どのような変化した状況において意味を持ち、合理的なものとなり、加盟国間で前例のない一連の措置に合意することを可能にしたのかを問う。本稿は、2022年のロシア侵攻による劇的な状況の変化を踏まえると、EUが2014年の戦争に対応して用いた主要な理解、合理性、発話行為が2022年には新たに、あるいは根本的に異なる意味を帯びるようになり、EU内の主要なアクターが過去の誤った判断(「プーチンを挑発しない」ことを根拠に政策選択を正当化するなど)を認めたり、ロシアに対する過去の警告や最後通牒を実際に行動に移したりすることを促したと論じる。要するに、2022年のEUの対応を十分に理解するためには、2014年のロシアによるウクライナ戦争にEUがどのように反応したかを振り返ることが不可欠である。本稿は、2014年にEUが用いた同様あるいは類似の規範的な議論や発話行為が、根本的な断絶の時代においていかに意味を変化させ、主要なEUアクターが2022年のロシア侵攻に対して厳しい対応を正当化することを可能にしたのかを明らかにする。
本稿の構成は以下の通りである。まず、ロシア侵攻直後の加盟国の安全保障上の選好を簡単に分析する。次に分析視角を提示し、2014年のロシアによるウクライナ戦争に対するEUの対応を、EU内の主要なアクターによる最も重要な理解、合理性、発話行為に焦点を当てつつ検討する。その後、2022年の侵攻に対するEUの反応を考察し、この変化した状況の中で過去の理解や意味がどのように変容し、EUを合意と行動へと駆り立てたのかを明らかにする。
2.1 Member States' Security Preferences in Flux
2022年2月のロシアによるウクライナ全面侵攻は、EU加盟国、特にEU内で長年ロシアと関係を持ってきた国々の安全保障上の利益を大きく再定義するきっかけとなった。2022年3月に発表されたEUの新しい「安全保障・防衛のための戦略コンパス」では、「ロシア政府が全面的に責任を負う攻撃的かつ修正主義的な行動は、欧州の安全保障秩序および欧州市民の安全を深刻かつ直接的に脅かしている」と強調された(European Council, 2022, p.7)。したがって、加盟国が自国の安全保障への脅威に直面して単独で行動するよりも共同行動に合意する方がコストが低いという前提に基づく現実主義的な視角(例:Hyde-Price, 2006)によって、EUが取った前例のない行動を説明することも可能である。
しかし、すべてのEU加盟国が根本的に変化した安全保障環境を認識していたとはいえ、ロシアによるウクライナ侵攻後最初の数か月間においてEUの迅速かつ断固とした対応を主導したのは最も影響力のある加盟国ではなかった。フランスとドイツは、当初ロシアの侵攻を自国の安全保障に対する直接的な脅威とは認識しておらず(Dempsey, 2022a)、また経済的依存のため、国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの銀行を排除するなどの欧州委員会による最初の大規模な制裁提案を支持することに非常に慎重であった(The New York Times, 2022)。さらに、両国は侵攻に対して明確な国家的選好を打ち出すのに大きく苦労しており、それは北大西洋条約機構(NATO)内でも同様であった(Bunde, 2022; Dempsey, 2022b)。このことが、侵攻直後の数か月間においてEUの集団的対応を主導することを妨げた。フランスでは、大統領選挙において戦争の経済的影響やフランスの国家的(安全保障上の)利益の定義が大きな争点となっていた。ドイツでは、オラフ・ショルツ首相率いる連立政権が、ロシアに関するドイツの国家安全保障利益の再定義をめぐって深刻に分裂し、「時代の転換(Zeitenwende)」をめぐる国内議論に没頭していた(Bunde, 2022)。さらに、米国は侵攻前からドイツとフランスに対して厳しい制裁準備を行うよう圧力をかけていたが、両政府は当初これを無視していた(The New York Times, 2022)。言い換えれば、共通の脅威認識に基づくEU共同行動の条件や、EU最強の加盟国が共同行動の推進役を担うという現実主義理論の前提(例:Gow, 1997; Hyde-Price, 2006)は、侵攻後最初の数か月間におけるEUの力強い対応を完全には説明できない。つまり、EUの前例のない対応を可能にしたのは、他の要因であったと考えられる。




