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第36話 絶望的な総力戦


「全員、応戦態勢!ちーちゃんは、テントの中へ!」


如月の叫び声が、地響きに負けないほど強く響いた。イザベラは千尋の前に立ち塞がると、剣を抜き放つ。それは、まるで嵐の前の静けさを破る雷鳴のようだった。迫り来る魔物の群れを、彼女の剣が次々と薙ぎ払っていく。その圧倒的な剣技は、まるで揺るがない鋼鉄の壁だった。


「リラ!エリオット!後方支援に回れ!」


イザベラの声に、リラは回復魔法を、エリオットは解析魔法を構える。しかし、押し寄せる魔物の群れはあまりに多く、リラの魔力はみるみるうちに尽きていく。


「くっ…魔力が…足りない…!」


リラが焦りの表情を浮かべる中、エリオットもまた苦悶の表情を浮かべていた。


「ダメだ…解析が追いつかない!魔物の変異が早すぎる…!」


シドとカノンは、広範囲攻撃で魔物の数を減らす。シドが稲妻を、カノンが風を操り、連携した魔法で魔物の群れを一掃する。しかし、それでも押し寄せる魔物の勢いは止まらなかった。


「こんな数の魔物、いつもの倍以上だ!」


「キリがねぇ!このままじゃ…いずれ俺たちが飲み込まれるぞ!」


二人の焦りが、言葉となって響く。



「こんな…こんなの、どうすればいいの…!」


千尋はテントの中から、濁流のように押し寄せる魔物の群れに、絶望を感じていた。その時、如月がテントに入ってきた。


「ちーちゃん、大丈夫だから。このテントは、地球から持ち込んでいる。女神の加護が付与されるから、魔物の攻撃は一切通さない」


どういうことなのか分からなかったが、如月が大丈夫だと言っているのだから、大丈夫なんだと千尋は自分に言い聞かせた。


(それなら、私にできることをするまでだ)


千尋はマメ太に指示を出し、次々と迫りくる魔物の瘴気を、鞄の中の魔石に吸収させていく。魔物の動きが鈍り、レオンハルトとルークの連携が光る。


「千尋様、必ずお守りします!」


レオンハルトは、千尋を守るように前線で戦い続ける。しかし、その顔には疲労の色が濃く浮かんでいた。


そんな中、グレンは巨大なハンマーを力強く振り回し、魔物の一団を吹き飛ばした。彼の盾役としての圧倒的なパワーに、千尋は目を見張る。


「グレン、援護する!」


リリィが叫び、白銀の矢を放つ。その矢は、グレンのハンマーが作り出した隙を縫い、正確に魔物の急所を貫いた。二人の完璧な連携が、押し寄せる魔物の波を一時的に押し返した。


だが、その隙も長くは続かない。彼らの消耗は激しく、全身に疲労が滲み出ているのが千尋にも分かった。皆が、今にも倒れそうな状態で戦い続けていた。


「皆さん!このテントに避難してください!」


千尋の呼びかけに、全員が戸惑いながらも、テントへと向かう。ルークの頑丈な体と、レオンハルトの剣が、彼らの撤退を援護した。


全員が中に飛び込み、最後のひとりが入った瞬間、千尋はテントの入り口を閉じた。


ドォン!ドォォン!


テントの外では、無数の魔物がテントに体当たりする音が響いていた。しかし、テントはビクともしない。千尋のテントは、まるで強固な結界に守られているかのように、魔物の猛攻に耐え抜いた。


「凄い…本当に…」


イザベラが、呆然と呟いた。テントの中は、外界の喧騒が嘘のように静まり返っていた。しかし、押し寄せる魔物の気配は、はっきりと肌で感じられる。全員が息をひそめる中、如月が口を開いた。


「このスタンピードを止めるには、魔物の発生源を特定し、破壊するしかない。だが、この数だ。下手に動けば、各個撃破される。ここは持久戦に持ち込む」


如月の言葉に、皆が頷く。


「ダンジョン探索は、五日間の予定だった。それなりの準備を各々しているはずだ。今、持参しているアイテムを全て出してくれ」


如月の指示に従い、皆がマジックバッグからアイテムやポーションなどを取り出す。


「今日が二日目でよかった。このスタンピードが最終日に起きていたら、何も残っていなかっただろうな」


レオンハルトが、そう言って安堵の息をつく。


「作戦を立てる。ちーちゃんとリラはテントの中で待機だ。ちーちゃんは、魔物から受けた傷の瘴気回収とマメ太に指示をしてくれ。マメ太、頼む」


「ワォン!」


マメ太が元気よく鳴く。


「リラは、ちーちゃんが瘴気を回収し終えた負傷者の回復に専念してくれ。エリオットは後方支援だ。残りのメンバーは交代で魔物を倒していく。負傷したり、疲労を感じたら、すぐにテントに戻ってこい」


皆が頷き、それぞれの役割を確認する。その時、如月はテントの入り口付近にいるソウマに目を向けた。


「ソウマ、お前は皆の支援を頼む」


如月はソウマをよく見てみると、口の周りや爪先に、魔物の血が付いていることに気づいた。


「ソウマ、お前……戦えたのか」


如月の驚きに、イザベラが笑いながら答える。


「瞬、知らなかったのかい。私と張り合うくらい、魔物を薙ぎ倒していたぞ」


「今まで一度も魔物を倒したことなんて無かっただろ」


「確かにいつも、魔物を汚なさそうな目で見てたからね、ソウマは」


カノンの言葉に、シドがニヤリと笑い、ソウマに問いかける。


「まさかお前、汚れるのが嫌で、戦ってなかったのか?」


ソウマは何も答えず、不機嫌そうにぷいっとそっぽを向いた。


「まあ、作戦会議は終了だ」


イザベラが、場を切り替えるように立ち上がって声を張り上げる。


「冒険者の底力、見せてやろうじゃないか!」


イザベラの言葉に、皆の顔に再び闘志が宿る。彼らは、互いに顔を見合わせ、深く頷いた。誰一人として言葉を交わさなかったが、その眼差しに宿る闘志は、すべてを物語っていた。王都の希望を守るため、そしてこの絶望的な濁流を止めるため、彼らは再び、魔物の群れへと飛び込んでいく。


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