新たなる敵
「ダイナー様ー!どこですかー!」
ウェスター兵はダイナーが爆発によって飛ばされたであろう森を手分けをして探していた。
ダイナーが受けた爆発、飛んでいった高さ、そして距離を考慮したらダイナーが生きている筈はないのだが、兵士達は何故か生きてると考えていた。
森の中を大捜索していると呻き声のような音が聞こえた。
「いたぞ!こっちだ!誰か来てくれ!」
一人の兵士がダイナーを見つけ応援を呼んだ。
ダイナーは頭から地面に刺さりバタバタと足を動かしていた。皆に恐れられていた魔導士の姿はどこにもない。
集まった兵士はダイナーの足を持ち、えっちらおっちらとダイナーを引っ張った。
兵士の尽力によりスポン!っと音を立ててダイナーの頭は地面から引き抜かれた。
「ごっほ!ごほごほ!」
引き抜かれたダイナーは地面に両手をつき咽せた。そして息を整えるとフラフラと立ち上がり息を大きく吸った。
「ご無事ですか?」
兵士の一人がダイナーを心配したがそれがダイナーの癇に障ったのだろう。兵士に胸ぐらを掴み怒鳴りつけた。
「お前はこれが無事に見えるのか?!ああ!?無事だ!不思議とな!天高く飛んでさながら鳥のようだった!だが気分は最悪だ!こんな屈辱は初めてだ!」
「心中お察しします……」
「分かられてたまるか!お前に分かるわけないだろ!それとも何か?今ここでお前を吹き飛ばしてもいいんだぞ?それなら俺を気持ちが少しは分かるだろ?」
「も、申し訳ございません……」
ダイナーの目は完全にキマッており部下はただただ謝る事しか出来なかった。
ダイナーが部下を突き出し「野営地に戻る!さっさと案内しろ!」と命令すると部下達は急いで野営地に向けて歩き出した。
ダイナーは野営地に戻る間に何度も部下に怒鳴りつけ一向に怒りが収まる気配は無かった。部下は怒鳴られる度に命の危険を感じ、震えながら怒りを収まるの待っていた。
怒鳴りながらダイナーが野営地のテントに戻ると全身に鎧を装備した兵士が待っていた。それを見た瞬間、ダイナーは声を荒げて詰め寄った。
「ジェイド!お前の部隊はここではない筈だ!」
「指揮官が行方不明になったと報告にあったからなわざわざ来てやったのだ」
ジェイドの声は兜によって籠り気味になっており中身の人間が男か女か分からなかった。ただ淡々とした喋り方をしており全く感情が読めない。その喋り方もダイナーを苛立たせた。
「ここは俺の戦場だ!邪魔をするな!」
「お前が無事ならそれでいい。ただ上官を殺してまでついた指揮官の座だ。結果が出せなければどうなるか分かっているな?」
ジェイドはダイナーの顔に当たるギリギリまで自身の顔を近付けて忠告した。ジェイドの言い分には正当性がありダイナーは反論することができない。
「言われるまでもない!」
「ならもう言う事はない。明日にはコレリア要塞を落とせ」
「俺に命令するな!」
ジェイドはダイナーの発言を無視してテントから出て行った。
テントの中で一人なったダイナーは椅子を蹴っ飛ばした。怒りをぶつけられた椅子は転がりバラバラになってしまった。
「どいつもこいつも俺を侮辱しやがって。必ずあのガキを殺してやる」
ダイナーの目は飛び出る程開けられ血走っていた。
一方、寝室代わりの倉庫で一人横になるフレイラは今日起きた事をぼんやりと考えていた。
フレイラが髪を触るとハツメが帰還する際の爆発でチリチリになった髪は何故か元に戻っていた。
「……どういう原理?」
魔法学院で学び多くのことを知ったフレイラだがこの原理についてはまるで検討がつかなかった。そしてハツメがどんな攻撃を受けても無事であったことも。
「ハツメちゃんは生きていた……でも他の人なら確実に死んでいた……」
まるで夢のような出来事であった。高所から落ちても無傷で爆発に巻き込まれても熱い程度で済む。まさにこの世界の理屈が通用しない異世界の住人である。
だがハツメが落ちた瞬間、フレイラは恐れ、悲しみ、絶望した。その感情は紛れもなく本物であった。
あの時、空を掴んだ手をフレイラはジッと見つめた。終わりよければ全てよし、なんて都合の良すぎる考え方だ。次に召喚する人間がハツメと同じ特徴を持つとは限らない。
「絶対に死なせない……あんな思いはもう嫌だ」
新たな決意を胸にフレイラは明日の為に目を瞑り深い眠りについた。この日も随分と疲れていた様で眠るまでに五分と掛からなかった。