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ギャグ漫画のそれ

「ハツメは?」

「部屋に寝かしています」

「それがいいだろう」

 ベイルと合流したフレイラは手短な報告をした。ベイルはそれだけ聞くとすぐに何処に行き全体の指揮をした。

 フレイラが地上を見るとウェスター軍がコレリア要塞に向かって進軍しており、その数は昨日よりも多かった。

「弓を放て!要塞に近付けさせるな!」

 ベイルの指示で兵士達は矢を放つが敵軍は大盾を構えて進んでいく。その大盾の間から矢が要塞に向かって放たれた。

 いくらセントミドル軍が矢を放っても一向に敵の進軍速度は緩まず、それどころか向こうから放たれる矢に負傷者が出始めた。

「数が多すぎる!」「負傷者を下がらせろ!」「矢を寄越せ!」

 負傷した兵士がフレイラの下へ運ばれていくる。

「負傷者はこちらに!私が治します!」

「うぅ、肩が……」

 肩を矢で射抜かれた兵士が苦しそうに血を流している。フレイラは即座に杖に魔力を込めた。

「癒しよ!」

 魔法を唱えると兵士の肩からの出血が止まった。苦しんでいた兵士の顔色も良くなり直ぐに立ち上がって戦線に復帰した。

「ありがとう」

 去り際お礼を言った兵士と入れ替わるように次の負傷兵がフレイラの下へ運ばれてくる。

「こいつも頼む!」

「分かりました!」

 フレイラは次々運ばれてくる負傷兵を休む暇なく治していく。何度も魔法を使うフレイラにも疲れが見え始めた。

 一方ベイルは目の前に迫り来る大軍の対処に追われていた。入ってくる報告はどれも苦しいものばかりで事態が好転する兆しは全くない。

「このままでは包囲されるのも時間の問題です。要塞を捨てますか?」

「ぐっ、どうする……」

 ミシェルの提案にベイルは頭を悩ませた。司令部から言い渡された二週間の防衛は絶望的であり、ここから撤退戦に移行しても何日持つかは不透明であった。

 事態は一刻の猶予もない、ベイルが思考を巡らせ次の一手を考えていると、どこからともなく自身たっぷりな笑い声が響いてきた。

「わっははは!ならばこの天才発明家!ハツメの出番なのじゃ!」

 フレイラが声のする方向を見ると寝ていた筈のハツメが要塞の屋上に何故か現れた。

 これにはフレイラも驚き、治療を中断して慌ててハツメに詰め寄る。

「ハツメちゃん!危ないよ!来ちゃダメ!中にいて!」

「何を言ってるだ!フレイラのピンチに駆け付けるのは当然なのじゃ!なんせ仲間じゃからの!」

 ハツメはフレイラの忠告を無視してドカドカと矢の雨が降る屋上を歩いていく。それに気付いたベイルもハツメに忠告する。

「君の相手をしてる暇はないんだ!早く下がれ!」

「ふふふ!そう言ってるのも今のうちになのじゃ!刮目するのじゃ!これが最強兵器!ムキムキアシュラ君なのじゃ!」

 ベイルを無視してハツメが取り出したのはセントミドル兵の鎧を装備した人形であった。それも何故か腕が六本ついており、その異形な姿にフレイラは動揺を隠せなかった。

「ハツメちゃん、それどうしたの?」

「さっき起きてから作ったのじゃ!ちょっと倉庫にある鎧を借りたがの!」

 確かに倉庫には装備が多く保管されており、その部屋を使っていいとは言われたがまさかハツメが備品に手を出すとは思ってもみなかった。

 フレイラの心配をよそにハツメはコントローラーを取り出して叫んだ。

「ムキムキアシュラ君発進!」

 アシュラ君の目が光り、動き出すと屋上から地上に飛び降りた。ハツメもそれに合わせるように地上の敵兵を見下ろせるギリギリの所に立った。

「ハツメちゃん!そこに立つと危ないよ!」

 フレイラが止めようとするが下手に触ったら落ちてしまう可能性がある為、無闇に手出しできないでいた。

 一方、地上のウェスター兵は要塞から落ちてきた奇妙な鎧に足を止めた。アシュラ君の二本の腕は腕組みをしており謎の威圧感を放っていた。

「なんだこれは?」「人か?」「気にするな!」

 ほんの少しの戸惑いを見せたが敵兵はアシュラ君に弓矢を向けて射抜こうとする。

「アシュラ君!見せてやるのじゃ!」

 ハツメがコントローラーで操作するとアシュラ君の六本の腕を広げて敵軍目掛けて走り出した。

 そして一人の敵兵を片手で掴むと最も簡単に投げ飛ばして見せた。アシュラ君の腕は六本ある為、休む事なく敵兵が宙を舞い落ちていった。

「うゎ!」「来るな!」「やめろ!」

 敵兵の情けない悲鳴が戦場にこだまする。そんな信じがたい光景をフレイラは呆然と見ていた。

「凄い……人を投げてる……」

「ムキムキアシュラ君の中にはスーパーウルトラムキムキ君が入っているのじゃ!だから人なんて簡単に投げ飛ばせるのじゃ」

 ハツメは自信満々にアシュラ君の性能を説明しているが敵も黙って見ているだけではない。距離を取り槍を構えてアシュラ君をぐるりと逃げられないように包囲した。

「でも囲まれちゃったよ!」

「ふふふ!甘いのじゃ!アシュラ君の真の力を見せてやるのじゃ!」

 フレイラの心配をよそにハツメは余裕たっぷりに笑っている。コントローラーのボタンを押すとアシュラ君の腹部が開き中から扇風機が顔を覗かせた。

「腹部解放!足場固定よし!ハリケーン君起動!」

 アシュラ君の足が大地にめり込むと腹部に搭載された扇風機が起動した。

「うわぁぁぁぁ!!」「何だこれは!」「か、風が!」

 アシュラ君から発せられる豪風に敵兵は顔を上げることができず、目の瞑りその場で耐え忍ぶ事しかできなかった。

「あのお腹にあるのって」

「そう!大変ハリケーン君を内蔵してるのじゃ!ムキムキ君の力で地面にしっかりと固定してるから安定させてるのじゃ!」

「ハツメちゃん!凄いよ!」

「ハツメは一度失敗したらちゃんと反省して次に活かせるタイプの天才なのじゃ!」

 フレイラに褒められてハツメは嬉しいそうな顔してしたり顔である。

 ハツメの圧倒的な発明により戦況が一変した事によりセントミドル兵の顔に明るさが戻った。

「これは勝てるかもしれない」「いけるぞ!」「さらに弓を放て!」

 活気付くセントミドル兵に乗せられてハツメも更に調子に乗った。

「よし!景気付けにフルパワーで吹っ飛ばしてやるのじゃ」

 ハリケーン君の風速を最大限に上げると群がる兵士達は次々に吹き飛んでいった。

 顔を上げるどころか立つこともままならない敵兵は地面に這いつくばり必死に襲いかかる暴風に耐えている。

 そんな圧倒的な状況の中、アシュラ君の足に異常が起きた。大地に突き刺さるアシュラ君の足がガタガタ震え出した。そしてバキン!っと大きな音を立てるとアシュラ君の両足が外れてしまったのだ。

 アシュラ君の足はハリケーン君が送り出す暴風に耐えきれなくなったのだ。

「ぎゃー足が外れたのじゃ!制御がきかない!」

 焦るハツメだがアシュラ君は暴風を送り続ける。一旦風を止めればいいもののハツメは焦り続けその事に気付いていない。

 アシュラ君は自身が送る風により宙に舞い、全くデタラメの方向に暴風を振り撒いていく。

 誰もその動きを予測する事が出来ず、敵兵は不規則な動きをするアシュラ君から逃げ回っている。

「こっちに来る!」「うわー!くるな!!」「誰か止めてくれ!」

 それを見たハツメは落ち着きを取り戻した。

「なんかさっきより敵が吹っ飛んでるのじゃ……まあ、結果オーライなのじゃ!流石ハツメなのじゃ!」

 逃げていく敵兵を誇らしげに眺めるハツメだが突如アシュラ君の目の前に火の玉が現れた。

「なんじゃ?あれは?」

 するとその火の玉が突然爆発してアシュラ君を飲み込んだ。

「ぎゃーアシュラ君が!」

 アシュラ君は無惨に粉々になり、辺り一面に原型も無く散らばっていった。

「ほら退けよ!てめーらいつまで遊んでんだ?」

 戦場の時が停止する中、ウェスター兵に道を開けさせて歩いてくる魔導士がいた。

「あれはダイナー!奴までここにいるのか!」

 ベイルの表情が一気に険しくなった。フレイラは魔導士とだけあってその名を知っていた。

「ダイナーって爆炎の魔導士ですか?」

「そうだ、帝国の魔導士ダイナーだ。あんな奴まで連れてくるなんて……帝国は本気でこの要塞を落とすつもりだ……」

 セントミドルでのダイナーの評判は最悪であった。圧倒的な魔法の実力を持ち、幾つもの戦場で名を上げた男だが、その加虐性にセントミドルでは要注意人物として警戒されていた。

 ダイナーが地上からハツメをジロジロ見ていると持っている杖が光り出した。

「報告にあったガキと違うがあれをやればいいんだろ?」

 そうダイナーが言うとハツメが立っているすぐ下で要塞を揺らす爆発が起きた。

「うわぁ!!」

 ハツメは声を上げて手足をバタバタさせているが崩れていく足場になす術はなかった。

 フレイラは必死で手を伸ばしてハツメの手を掴もうとするが後少しのところでハツメの手はスルリとフレイラの手から離れしまった。

「ハツメちゃん!!!」

 フレイラは絶叫して更に深い追いしようとしたところでベイルに体を掴まれた。

「行くな!」

「ハツメちゃん!そんな……そんな……」

 ハツメは要塞の屋上から地上に落ち、瓦礫が散乱する大地に頭から突き刺さった。

「呆気なかったな、こんな奴にルザルは負けたのか」

 ダイナーは馬鹿にしたような笑みを浮かべて勝利を確信した。それは当然の反応であった。この高さから頭から落ちて無事な人間などいる筈がなかった。いる筈がなかったのだ。

 頭から地面に突き刺さったハツメの足がピクピクと動き出した。両手で地面を押し頭を引き抜こうとしている。

 そしてスポンっとハツメの頭が地面から抜けた、

「ぷっはー死ぬところじゃったのじゃ!」

 人間なら即死の筈の高所、しかも瓦礫の上に落ちたのにも関わらずハツメはピンピンしていた。

「え?生きてる……」

 フレイラも驚きのあまり声を漏らし動けないでいた。それはこのあり得ない状況を見た全員が同じ反応である。

 先程まで余裕そうな笑みを浮かべていたダイナーも戸惑いを隠せないでいた。

「え?な、なんだ?何をしたかは分からねーけど爆発されば同じ事だ!」

 ダイナーの杖が光ると火の玉が現れてハツメに向かって飛んでいった。それを見たフレイラが叫んだ。

「ハツメちゃん逃げて!」

「何か言ったのじゃ?」

 フレイラの必死の呼び掛けも虚しく火の玉はハツメの前で爆発した。

「おんぎゃーーーー!!」

「ハツメちゃーん!」

「行くな!フレイラ!」

 フレイラは悲痛な叫び声をあげた。取り乱してハツメ下へ向かうとするフレイラをベイルは必死で止めている。ベイルも幼い子供が戦場で命を散らしたことに憤っていた。

 爆炎がハツメを包み込み辺り煙が立ち込めた。爆発の規模を見るだけで分かる。人間に当たれば死は免れないと。

 フレイラすらもハツメの死を覚悟したが煙の中から小さな人影が出てきた。

「何をするのじゃ!殺す気か!」

 ハツメは服がところどころ焦げていて、死ぬどころか髪の毛がチリチリになった程度である。即死級の爆発を直撃してもまるで効いていなかった。

 ハツメはプリプリ怒っており周りとの温度差に全く気付いていない。ダイナーも必死に取り繕うとしてるが焦りを隠し切れていない。

「か、かわしたか……運がいい奴め、ならこれでどうだ!」

 ダイナーは更に火の玉を出しハツメに向かって幾つも飛ばした。

「ハツメちゃん!避けて!」

「ぎゃー!熱い!うわぁぁぁ!!」

「喰らえ!」

「ハツメちゃん!」

「熱い!アチチなのじゃ!」

「これでどうだ!」

「……ハツメちゃん?」

「熱い!死ぬのじゃ!」

「いや……死ねよ……」

 ダイナーの反応は真っ当である。ハツメのお尻に火がつき大きな悲鳴を上げて悶えているが一向に死ぬ気配はない。

 ようやく地面にお尻を擦り付けて消火はしたハツメはダイナーを涙目で睨んだ。

「許さないのじゃ!これでも喰らえ!」

 そう言って白衣の中から取り出したのはミサイルランチャーである。それはフレイラも見たハツメの発明品である。

「ハツメちゃん!それは!ダメ!」

「ブッコロ君!連続発射!」

 フレイラの忠告も聞かずハツメはブッコロ君から四つのミサイルを発射した。

「何だそれは!」

 ダイナーは身構えたがミサイルはダイナーに向かわず四つともバラバラに一般兵士に向かって飛んでいった。

「当たれー!そっちじゃない!あいつなのじゃ!」

 ハツメは騒いでいるがミサイルは言う事を聞かない。兵士達は逃げても逃げても追いかけてくるミサイルから必死の形相で逃げ回っている。

 先程まで殺し合いをしていた戦場とは思えない間抜けな光景がそこに広がっていた。

 醜態を晒し続ける部下達にダイナーはついにキレてしまった。

「しゃらくせー!全部撃ち落としてやる!」

 ダイナーがそう言うと頭上に巨大な炎の玉を出した。この魔法で一気にミサイルを落としてやろうと考えたのだ。

 しかし火の玉を出した途端今までダイナーの事を無視していた四つのミサイルが突如方向転換をしてダイナー目掛けて飛んできた。

「いや、何でこっちに!待て!やめろ!来るんじゃぁない!」

 ダイナーは必死に叫ぶがミサイルに心は無い。この戦場で最も熱い熱源に向かってただひたすらに飛んでいった。

「「ドッカーーーーン!!」」

 ミサイルがダイナーが出した火の玉に当たると大きな爆発が起こり、辺りに突風を巻き起こした。

 風邪が吹き荒れる中ハツメだけは無邪気に喜び小躍りをしている。

「やったー!当たったのじゃ!ブッ殺してやったのじゃ!」

 爆煙の中からダイナーが飛び出して遥か彼方まで吹っ飛んだ。当たれば死んでしまいそうな大規模な爆発だが、しっかりと人の形をしており一筋の煙を出しながら飛んでいくダイナーの姿は不思議と生き残りそうな、そんな吹っ飛び方であった。

「退却!退却!」

 指揮官を失ったウェスター軍はすぐに撤退の判断を下した。アシュラ君の暴走で壊滅的な打撃を受けたウェスター軍、頼みの綱であったダイナーがいなくなれば作戦の継続は困難である。ウェスター軍は飛んでいくダイナーの後を追うように早々に退却していった。

「これで二度とハツメに逆らおうと思わないのじゃな!今度来たらもっと凄い発明でボコボコにしてやるのじゃ!」

 その情けない後ろ姿をハツメは誇らしげに見て高らかに宣言をしていた。


 戦闘が終わり、ハツメとの別れの時が来た。

 前回同様、功労者を送り出す為多くの兵士が集まった。その中心にはハツメ、フレイラ、ベイルがいた。

「契約は果たされました。ハツメちゃん、助けてくれてありがとう」

「仲間だから当然なのじゃ!それにあいつが置いてった杖も貰ったからハツメはご機嫌なのじゃ!」

 ハツメはダイナーが持っていた黒い杖を抱えてご満悦である。

「ハツメちゃんは魔導士じゃないから杖があっても魔法は使えないけど、それでもいいの?」

「何だかこの杖から凄いエネルギー的なものを感じるのじゃ!だからこれを使って新しい発明を考えるのじゃ。だから魔法が使えなくても問題ないのじゃ」

「ハツメちゃんがそう言うなら」

「完成したらフレイラに一番最初に見せてあげるのじゃ」

「楽しみにしてるね」

 フレイラとの別れの挨拶を終えたハツメにベイルが話しかけた。

「君のおかげで何とか敵軍を退ける事ができた。部隊を代表して感謝する」

「いいのじゃ!ハツメの偉大さが分かれば。それにバラバラになったアシュラ君も回収してくれてありがとうなのじゃ!」

「ああ、君は偉大な発明家だ」

 ベイルに褒められたハツメはニヤニヤが止まらない。

「じゃあ早く分解したいから帰るのじゃ!バイバーイ」

「うん、またねハツメちゃん」

 ハツメの下の魔法陣が光ると何故か爆発して爆煙が辺りに立ち込めた。

 ハツメが立っていた場所にはもうハツメはおらず床が焦げているだけであった。

 被害としてはフレイラやベイルの髪がチリチリになったことぐらいであろう。

「フレイラ、これは帰還に失敗したのか?」

「いえ……多分これであってます……」

「なるほど……爆発はゴリゴリだな」

「そうですね」

 チャンチャン。


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