表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

天才発明家!?比津栗ハツメ

「ん?お前達は誰なのじゃ?」

 煙の中から姿を現した少女の格好はやはりこの世界の住人と比べて変わっていた。

 栗色をした癖っ毛の髪にやたらとデカいゴーグルを乗っけており、体に似合わないブカブカの白衣は袖を腕まくりして無理矢理着こなしていた。

 そして皆を驚かせたのはその小ささである。フレイラより小さく、昨日召喚されたビクトより更に小さかった。

「何じゃ?誰も答えられないのか?言葉が分からんか?」

 不思議な喋り方をしている少女にフレイラは膝をつき目の高さを合わせた。

「えっと、ごめんね、私の名前はフレイラ。貴方をこの世界に召喚した魔導士」

「召喚?魔導士?なーに言ってんのじゃ?」

「貴方の名前を聞かせてほしいの」

「ハツメか?ハツメの名前は比津栗ハツメ!世界にその名を轟かせる予定の天才発明家なのじゃ!」

「ビツクリハツメちゃんね」

「天才発明家の!」

「ごめんね天才発明家ビツクリハツメちゃんでいい?」

「うむ、それでここはなんなのじゃ?ハツメはワープ装置は開発してないのじゃ」

 フレイラはハツメにこの世界の事、そして今の状況を説明した。ハツメはうんうん言いながら大人しくフレイラの話を聞くと自信たっぷりの顔になった。

「なるほど!天才であるハツメは一瞬で全てを理解したのだ!」

「ありがとうね」

「それじゃあその敵を全員ボコボコにすればいいのじゃな?」

「まあ、そうね。差し支えなければだけどね……」

 まさかこんな小さな女の子が戦いに乗り気なのをフレイラは心の中で心配した。

「天才発明家に不可能などないのじゃ!この戦争に勝ってみんなを笑顔にしてあげるのじゃ!」

 ハツメが真っ直ぐな目で堂々と宣言したことにより小隊長達は戸惑いを見せた。

「まさかまた勝てるのか……」「こんな小さな女の子だぞ?」「だがビクトの実力は本物だった」

 作戦室のざわつきをハツメは無視して勝手に喋り続ける。

「ただ残念ながらハツメは兵器を開発した事はないのじゃ。だから今ある物で使えそうな発明を特別に使わせてあげるのじゃ」

 するとハツメは白衣の中をゴソゴソ漁り明らかに白衣に入りそうにない大きさの発明品を取り出した。

「まずはこれ!身体能力向上パワーアシスト!スーパーウルトラムキムキ君なのじゃ!」

 スーパーウルトラムキムキ君と呼ばれた発明品は人間の体を支える骨組みをしており、見た目はギプスの様であった。

「何言ってるか殆ど分からない……それよりどこから出したの?」

 フレイラはムキムキ君よりどこからともなくムキムキ君を取り出した白衣の方が気になった。

「これを着れば身体能力を向上させる事ができるのじゃ!しかもおよそ十倍!これを着れば人も丸太も片手で簡単に持ち上げられるのじゃ!」

 自信満々に発明品を紹介するハツメに歓声が上がる。

「おおすごい!」「そんなものがあるのか」「全ての兵に配備されれば戦争が変わるぞ」

 ハツメは小隊長をキョロキョロ見回してサボに目をつけた。

「それじゃあ、そこの顔つきの悪い弱そうなおじさんで試してあげるのじゃ!」

「私のことか!」

「そうなのじゃ!早くこっちに来るのじゃ」

「おい、やめろ!触るな!」

 嫌がるサボを無理やり立たせるとハツメは目にも止まらぬ早さでスーパーウルトラムキムキ君をサボに着せた。

「それじゃあ、片手を出すのじゃ」

「全く……何で私が」

 ぶつぶつ文句を言っているがサボは大人しく指示に従い片手を出した。

「そしてスイッチオン!これで稼働したのじゃ!見てるのだ!ハツメの偉大な発明を!」

 ハツメがテーブルに乗りサボの手のひらに乗りうつるがサボは微動だにしない。いとも簡単にハツメを片手で支えている。

「どうなのじゃ!このスーパーウルトラムキムキ君を使えばこんな事も可能なのじゃ!」

これには多くの歓声が上がった。ハツメのデモンストレーションは完璧に成功した。と思われた……

 ハツメがサボの手から飛び降りる更に続けた。

「だけど一つだけ問題点があるのじゃ」

「何だと!それを早く言え!」

 ハツメの発言に反応してサボが振り返るとサボの体は思い切り腰が捩れ、バキバキと身体が軋む音を出した。

「ぐおおおおおぉぉぉぉぉ!!痛い!痛い!何だこれ!体が!捩れる!」

 情けない悲鳴を上げるサボに対してハツメはいたって冷静である。

「簡単な動きも十倍にするからちょっと早く動くだけでこうやって暴走するのじゃ。だから動く時はゆっくりやらないと怪我するのじゃ」

「早く!早く!これを止めろ!痛い!」

「はいはい、分かったのじゃ」

 ぎゃーぎゃーサボが騒ぐのでハツメは面倒臭そうにサボからムキムキ君を解放してあげた。

「はぁはぁはぁ」

 サボは息が切れ床に倒れ込んで動けない。そんな状況を見たベイルは、「これは使うのは危ないかもしれないな」と冷静な判断を下した。

 それならとハツメは別の発明品を白衣の中から取り出した。

「それじゃあこれはどうなのじゃ!高火力扇風機!大変タイフーン君じゃ!」

「何だそれは?それより何処から出した?」

 ハツメが取り出した明らかに白衣の中に入りそうにない扇風機はこの世界では見慣れない物でベイルは色々と困惑した。

「これは物凄い風が出せるすごい扇風機なのじゃ!」

 ハツメが大変タイフーン君のリモコンでスイッチを入れるとサボに向かって送風した。その風は非常に強く、サボの髪はボサボサになり目も開けれなかった。

「止めろ!止めろ!」

「もーやれと言ったり止めろと言ったりうるさいのじゃ」

 サボの体を丸めて風を耐え忍びながら命令してハツメはスイッチを切った。

「今のが一番弱い風で五段階強くできるのじゃ!一番強い風だと人間なんて簡単に吹き飛ばせるのじゃ!」

「確かにこれを活用すれば敵軍を壊滅できそうですね」

 扇風機の威力にミシェルは感心している。新たな戦術も考案できそうである。

「ただ威力の強すぎてこれを使う為には地中深くまで杭を刺して固定しないとタイフーン君ごと何処かに吹き飛んでしまうのじゃ。それだけは気をつけて欲しいのじゃ」

「それはちょっと困りますね。要塞に杭を打ち込むわけにもいかないので……外に設置するにも時間がかかるでしょうし」

 ハツメから後出しされた注意点にミシェルは難色を示した。

「全くワガママな連中じゃ。しょうがないハツメのとっておきを出すしかないのじゃ」

 ハツメはハリケーン君を白衣の中に入れると今度はミサイルランチャーを取り出した。

「ジャーン!ハツメが気に食わない奴にぶち込む為に発明した自動追尾ミサイル!地獄の果てまでブッコロ君なのじゃ!」

「ミサイルが何か分からないけど中々物騒な名前だね……」

 フレイラはハツメのネーミングセンスに疑問を呈した。

「このミサイルランチャーは自動追尾ミサイル……は言っても分からないか……えっと、爆弾が出てきて狙った相手を当たるまで追いかける優れものなのじゃ!」

「で?それの欠点は?」

 ベイルはハツメが話し終える前に質問した。

「全く我慢の出来ない大人じゃの。これは熱感知で対象物を追いかけるから対象物より熱いものがあったらそっちに飛んでっちゃうのじゃ。だから人が多い場所では使えないのじゃ」

「残念だが戦場で使うのは難しいな……味方に当たる恐れがある」

 ブッコロ君の問題点にベイルは即座に言い切った。

「あれもダメ、これもダメ、何なら納得するのじゃ?」

 ハツメはブッコロ君を白衣の中に入れながらプンスカ頬を膨らまさせて怒っている。

「うーむ、どうするか……」

「元々賭けみたいなものですし。今回は我々だけで防衛したらどうでしょう」

 ベイルとミシェルはコソコソ二人で話し合っている。

「そうだな。ハツメ君、突然呼び出して済まなかった」

「なんじゃ?もういいのか?じゃあどこから寝れる場所はないのじゃ?いつもはお昼寝の時間なのじゃ」

「フレイラ、君の部屋に連れて行ってくれ」

「分かりました。じゃあ案内するねハツメちゃん」

「お願いするのじゃ!」

 フレイラはハツメの手を引き部屋から出て行った。ベイル達は今後の作戦を立てる為にそのまま部屋に残った。

 

 フレイラがハツメを部屋に案内するとハツメは訝しげな目をしてフレイラに質問した。

「ここがフレイラの部屋?倉庫にしか見えないのじゃ」

 ハツメは部屋をキョロキョロ見回して倉庫にある武器や防具を眺めている。

「急に私が来たから部屋が用意できなかったの」

「それでここで寝てるのか。大変じゃのう」

「ハツメちゃんはお昼寝のするんでしょ?そこにある布団を使って」

「ありがとうなのじゃ」

 ハツメは遠慮なく布団に入り横になった。フレイラは横になるハツメの隣に腰掛けた。

 フレイラはやり切ったぜと言わんばかり満足そうな顔して眠ろうとしているハツメに話しかけた。

「ねえ、ハツメちゃん」

「なんなのじゃ?」

「ハツメちゃんは何で落ち込んでないの?」

 フレイラは先程のハツメの失敗について気になっていた。

「落ち込む?なんでじゃ?」

「だってハツメちゃんが作った発明品が使われないんだよ?」

「別に?戦争の為に作った発明品じゃないからの」

「誰にも使われなくていいの?役に立ちたいとか」

「ハツメは発明が好きだから開発してるだけで、別に誰かの為とか思ってないのじゃ。それに発明に失敗は付きものじゃ」

「そうなんだ……」

「そりゃ誰かが喜んでくれたら嬉しいのじゃ。だけどそれだけを目指してると発明が楽しいって本当の気持ちを忘れちゃうのじゃ」

「本当の気持ちか……」

 フレイラは自身の本当の気持ちが分からなくなっていた。何故魔法を学んでいるのだろう。何故こんなにも苦労してお金を稼いでいるのだろう。

「私の本当の気持ちってなんだろう……」

「フレイラは魔法使いなのじゃろ?」

「うん……」

「何で魔法使いになったのじゃ?」

「なんでだろう……昔見た魔法が綺麗だったから……かな?」

「じゃあ今は綺麗な魔法を使えるようになったのか?」

「うん、誰でも使える簡単な魔法だったから」

「それはよかったのじゃ。これからもどんどん綺麗な魔法を使えるようになればいいのじゃ。そうすればフレイラは幸せ者になれるのじゃ」

 ハツメの言葉に忘れかけていた気持ちをフレイラは思い出した。小さい頃初めて見た魔法の美しさ、初めて魔法を使えた喜びを。

 学院に入ったのは好きな魔法をもっと知りたいからであった。

 だが学院に入り常にお金の事を考えていた。学費を払う為に仕事をし、食事を切り詰め、お古の魔導書を貰うために頭を下げた。

 そんな苦労が重なるうちにフレイラは魔法を楽しむ事を置き去りにしてしまっていた。

「そうだね、だから私はもっと研究したくてここに来たんだ。ここでお金を稼いで好きな研究をする為に」

「ハツメもお金の悩みは尽きないのじゃ。だけど発明が楽しいから全然苦しくないのじゃ」

「私もそう。もしかして私とハツメちゃんって似た者同士なのかもね」

「そんなにハツメとフレイラは似てるかのう?」

「何かもっといい言葉は……同士?うーん仲間?そうだ、ハツメちゃんと私は仲間だね」

「仲間……」

「そう、好きな事を全力で楽しむ仲間。どんな困難があっても絶対に挫けない仲間」

 フレイラの言葉にハツメは飛び起きた。そしてフレイラに向けてとびきりの笑顔を見せた。

「初めて仲間ができたのじゃ!ハツメは友達はいっぱいいるのじゃ。発明品で遊んでくれる。だけど同じ気持ちの仲間はいなかったのじゃ!」

「ハツメちゃんの初めての仲間になれて嬉しいよ」

「ふふふ、天才とは孤独なものなのじゃが、仲間がいるのも悪くないのじゃ!」

「私も学院に友達はいるけど仲間はいないかな」

「おお!フレイラも天才なのじゃ!やっぱり天才同士は惹かれ合うのじゃ」

 ハツメはフレイラの手を取りブンブンと振り回して喜んでいる。

「そうだ!魔法を見せて欲しいのじゃ!これからの発明の為に」

「ハツメちゃんは魔法を使えないよね?」

「発明とはインスピレーションなのじゃ!魔法なんて誰も見た事がないからハツメだけの特別なものになるのじゃ」

「よく分からないけど。やってみるよ」

 フレイラはハツメの言われた通り魔法を唱え、ハツメはそれを見て喜びはしゃいだ。

「すげーのじゃ!その杖に秘密があるのじゃ?一度分解して調べてみたいのじゃ!」

「それはダメかな、これがないと私が困るから」

 その後もフレイラはハツメの言われるがままに魔法を使った。ハツメは年相応にはしゃぎ楽しんだが遂に疲れて寝てしまった。

 布団の中で幸せそうに眠るハツメを微笑みながらフレイラは眺めた。

 そんな穏やかな時間を過ごしていると耳に突き刺さる警報が鳴り響いた。

「「敵襲!敵襲!」」

 敵襲を知らせる鐘にフレイラの顔は険しくなった。ハツメは警報に顔をしかめながら起きてしまった。

「んー?朝にはまだ早いのじゃ」

「ハツメちゃんはここで寝てて。みんなで敵軍を追い払うから」

「うーん……そうなのか……?ハツメは寝てるのじゃ……」

 寝ぼけたままハツメはまた眠ってしまった。

 フレイラは幸せそうに眠るハツメを守る為に部屋を飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ