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コレリア要塞の朝

朝日がのぼり、空気が澄んでいる静かな朝が訪れた。遠くに鳥の囀りが聞こえてくる心地の良い朝だ。

 フレイラはスヤスヤと気持ちよさそうに眠り、楽しげな夢を見てた。フレイラはあれから一度も起きずに朝を迎えた。

 いつの間にか眠ってしまったフレイラを夢から叩き起こしたのは朝を知らせる鐘の音であった。

 カンカンカンと要塞に響き渡る鐘の音にフレイラは驚き飛び起きた。

「え?何?ここどこ?」

 ボサボサの髪に半開きの目、まだ寝ぼけているフレイラは辺りを見回し状況の理解に努めた。

 そして少しずつ目が覚めていくと昨日起こった怒涛の一日を思い出した。

「そうだ……私、要塞にいるんだ……」

 廊下ではバタバタ走る音が聞こえている。フレイラも急いで身支度を始めた。魔法で少量の水を出して顔を洗い髪を整えた。

 人前に出れる程度に身なりを整えたフレイラは寝室代わりの倉庫から出た。

 廊下では慌ただしく兵士が走っており、フレイラの事など気にも留めない。

「私はどうしたら……」

 フレイラが困っていると丁度ミシェルがやってきた。ミシェルは朝早いのに既に身なりはきっちりと整えられ目もしっかりと開いていた。

「おはようございます。もう起きてきたのですね」

「おはようございます。鐘の音が大きくて……」

「毎朝この鐘が鳴るので慣れてください。それでは食堂に行きましょう」

「はい」

 ミシェルの後をついて行きフレイラが食堂に入ると大勢の兵士が既に朝食を食べ始めていた。

 給仕の前に兵士達が列を作り朝食をもらっている。ミシェルとフレイラも列の一番後ろに着き、列が進むのを大人しく待った。

 フレイラが給仕から渡された朝食はパンとスープと干し肉であった。見た目としては決して美味しそうには見えなかった。

 ミシェルとフレイラは席につき食事を始めた。

 フレイラはパンを口に入れると渋い顔をした。

「これは……」

 口に入れたパンは正直美味しくはない。そして硬かった。フレイラの言いたい事が分かっているのかミシェルが声をかけた。

「あまり美味しくはないでしょ?ですがいつまでこの状況が続くか分かりません。なのでなるべく少なく贅沢しない食事になっています」

「大丈夫です、研究費の為に食事をよく削っていたので慣れてます」

「それは心強い」

 フレイラはそう言ってスープに干し肉とパンを浸して柔らかくしてから口に入れた。多少柔らかくなったがそれでも食べている途中から顎が痛くなった。

 フレイラが朝食に苦戦しているとミシェルから今日の予定を聞かされた。

「この後は隊長達による会議があります。そこにはフレイラさんも参加してください」

「私は隊長じゃないですよ?」

「召喚魔法は非常に強力だと昨日証明されました。もしかしたら今後も使うかもしれません。その為にはフレイラさんも会議に参加しなければ作戦が立てれませんから」

「分かりました」

 そう話している間にミシェルはさっさと食事を終え、皿を厨房に返しに立ち上がった。

「作戦室は分かりますね?昨日の部屋です」

「は、はい」

「食後直ぐに来てください」

 フレイラは硬い食事を必死で飲み込み朝食を無理矢理終わらせた。

 作戦室に急いで向かったフレイラだが、作戦室に扉を開くと既にベイル、ミシェル、小隊長達が全員揃っており座っていた。

「すいません、遅れました」

 フレイラは頭を下げながら部屋に入った。

「大丈夫だ、まだ開始時刻まで少しある」

 ベイルはフレイラに心配しないよう優しく伝えた。そんなフレイルに文句を言う男がいた。

「何故魔導士がここにいるのですか!」

 フレイラの参加に異議を唱えたのはサボであった。

「昨日の戦果を見ただろ。この状況では彼女の力が必要だ」

「全く……」

 ベイルが理由を話すもサボはぶつぶつ文句を言っている。

 ベイルは全員揃った事を確認して時計を見た。

「全員揃ったな、定刻通り始めてくれ」

 ベイルの合図にミシェルが話し始めた。

「はい、それでは現在の戦況をお伝えします。ウェスター軍は国境近くに拠点を構えており、夜襲はなかったものの未だ進軍を諦めておりません。昨日の戦果としては投石機を十機破壊に留まり、敵兵の戦死者は確認できていません」

「ここを落とせるだけの戦力はまだ十分あるのだな」

 ミシェルから伝えられた危うい戦況にベイルは顔をしかめた。

「何故戦死者が一人もいないのですか!」

「それはフレイラから説明してくれ」

 サボからの質問にベイルはフレイラに話を振った。フレイラは立ち上がりビクトとの約束を説明した。

「はい、ビクト君は人殺しをしないという条件で戦いには参加してくれました」

 フレイラの説明にサボは立ち上がり叱責した。

「何を甘い事を言っている!これは戦争なんだぞ!さっさと殺しておけばこの戦争は終わったんだ」

「無理強いは出来ません」

「それをやれと言ってるんだ!どうせ元の世界に帰るんだ!こっちの殺しなど関係ない!」

「ビクト君の心の傷になります!」

「戦争で勝つ方が重要だ!」

 サボの一方的な言い分にフレイラは熱くなり言い返してしまった。

「やめないか!」

 そんな言い争う二人をベイルが怒鳴り大人しくさせた。

「サボ小隊長の言い分は分かるがビクト君は多大な戦果を上げた。批判される言われはないはずだ」

「ぐっ……」

 ベイルがフレイラを庇ったことでサボは苦虫を噛み潰した様な歪んだ顔をした。

「だがウェスター軍の戦力は維持されたままだ。このまま戦い続ける事は困難ではある。なのでフレイラ、また主人公召喚を頼みたい」

 ベイルの提案にサボがくってかかった。

「私は反対です!あのガキが来ても役に立ちません!敵兵を殺せないんですよ!」

「主人公召喚は召喚されるまで誰が来るか分かりません。ビクト君がまた来る可能性もありますが」

 サボの発言にフレイラが丁寧に訂正した。

「より問題じゃないか!誰が来るか分からない、そんな魔法を作戦に組み込んでいい訳ない!」

 必死に拒否するサボにミシェルが質問をした。

「昨日は主人公召喚に前向きでしたよね」

「考えが変わったのだ!私は英雄が召喚されると聞いたのだ!あんな問題児がまた来ては兵の士気に関わる!」

 ミシェルの指摘にサボは弁明するがベイルの意思は変わらない。

「司令部から要求されている二週間にはまだ掛かる。撤退戦をするにも敵兵が多過ぎる。今は危険な賭けだとしても主人公召喚に頼らざるおえない」

 ベイルの考えを真っ向から否定できる判断材料も画期的な作戦もサボは持ち合わせていなかった。

「うぬぬ、ではどんな奴が来たとしても、魔導士!お前が責任持って世話をしろよ!」

「召喚した者として責務は当然果たします」

「ならいい……全く魔導士風情が偉そうにしおって……」

 サボは不貞腐れたながら椅子に座った。

 サボが大人しくなったのを確認するとベイルは話し始めた。

「他に異議がある者はいないな?なら早速やってくれ、敵軍が動かないうちに作戦に組み込めるか見極めたい」

「分かりました」

 ベイルの指示の下、フレイラは立ち上がり杖を握り緊張の面持ちで呪文を唱えた。

「英雄譚の主人公よ!契約をここに!我が声に応え、現世に顕現しその力を大いに奮え!」

 魔法陣が現れて光り輝くと、突然魔法陣から大量の煙が吹き出した。その煙は部屋全体を覆い尽くすような勢いで噴出される。

 これには作戦室にいる全員がみっともなく慌てている。ただ一人ミシェルだけが急いで窓を開けて煙を外に逃がしている、

「なんだ!失敗か!」

「大丈夫です!召喚は成功したはずです」

 心配しているベイルにフレイラもそう言ったがフレイラ自身も何が起きているのか分からない。

 誰もが混乱している中、煙から可愛らしい女の子の声が聞こえた。

「おんぎゃあぁぁぁぁ!!また失敗なのじゃ!」

「やはり失敗なのか?」

「いや私の声じゃありません」

 フレイラが声を漏らし煙を凝視すると小さな人影が見えた。

「げほっ!げほっ!うーん出力が強すぎたのじゃ……あれ?ここは何処なのじゃ?」

 煙の中から現れたのは小さな女の子であった。

 

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