主人公召喚
「本当に皆さんありがとうございました」
フレイラの前にはキラリを始めフレイラの助けに応えて駆け付けてくれた仲間が並んでいた。
「仲間なのだから当然なのじゃ」
「フレイラの姉ちゃんと約束したからな!」
頭を下げるフレイラにハツメとビクトは笑顔で返事をしてくれた。二人の発言は心の底からのものである。
「あれ?カラスさんは?」
フレイラはこの場にいないカラスをキョロキョロと探した。初めて召喚した時も突然いなくなっていたのでこれで二回目である。
「あの人なら先に帰りました。なんでも賑やか過ぎて落ち着かないと」
カラスはローレンに一言残してさっさと帰ってしまっていた。あまり人と関わらないのもカラスらしいがフレイラは残念がった。
「そうですか……しっかりとお礼を言いたかったのに」
派手な活躍こそないがカラスがいなければハツメもフレイラも死んでいたのは確かである。そんな彼にお礼の一つも言えないのはフレイラにとって心苦しかった。
「大丈夫だよ!固い絆があればいつでも会えるから!」
落ち込むフレイラにキラリは根拠があるのか分からない励ましをした。だが実際にキラリが召喚したので可能なのだろう。
「じゃあ俺もそろそろ行くわ」
レンスケはキラキラと光る星の輪の前に立った。
「レンスケさん、ありがとうございました」
「いいっていいって。それより何で少し距離があるんだ?」
フレイラは深々とレンスケに頭を下げているが、妙に距離が空いていた。
「いえ、また胸を触られるかもしれないので」
フレイラの発言にキラリがプンスカ怒り出した。
「えー!レンスケ君サイテー!」
キラリの軽蔑の眼差しがレンスケに突き刺さりレンスケは必死に弁明した。
「いや、あれは事故だし!あーもういいや!じゃあな!」
レンスケは説得を諦めて走って星の輪に入っていった。お別れとしては最悪の部類である。
「じゃあ俺も帰るから!」
レンスケに続きビクトが星の輪の前に立った。
「ビクト君、ありがとうございました」
フレイラはビクトにしっかりと近付いて別れの挨拶をした。
「今度は姉ちゃんがこっちの世界に来てくれよな!俺の試合を見て欲しいんだ!」
ビクトは手を差し出した。その手をフレイラが握り二人はガッチリと握手をした。
「はい!ぜひ観戦したいです!その日を楽しみにしています」
「じゃあなー!また会おうなー!」
ビクトが手を振りながら元気に星の輪に入っていった。
星の輪の奥からも聞こえてくるような元気な声が聞こえなくなるとハツメが大きな欠伸をした。
「ハツメも眠たくなってきたからもう帰るのじゃ」
「ハツメちゃん、ありがとうね」
フレイラはハツメの目線に合わせるように屈みお別れの挨拶をした。
「全然問題ないのじゃ。それとジャジャーントジャイアントはフレイラにあげるのじゃ」
ハツメの後ろにはジャジャーントジャイアントがドシンと立っている。フレイラはあれに乗って帰るものだと思い込んでいた。
「え?でもハツメちゃんの大切な発明品じゃ?」
「造ったのはいいけど場所とって他の発明に支障が出てるのじゃ。それにあれはフレイラの為に造った発明品なのじゃ」
「でもどうやってこの大きさの物を運んだらいいか……」
ジャジャーントジャイアントは要塞の最上階よりも更に高く、そんな物を気軽にあげると言われてもフレイラは困ってしまう。
「それならキラリに任せて!魔法のブレスレットに収納してあげるから」
キラリは星型のブレスレットを取り出すとジャジャーントジャイアントの周りがキラキラと光りだした。光に包み込まれてその巨大が姿を消すと、光はブレスレットに吸い込まれていった。
「はい!声に出してお願いすれば出し入れ出来るから!」
「本当に私の知る魔法とは全く違うのですね……」
キラリはドン引きしているフレイラにブレスレットを渡した。それを見届けたハツメは手を振り星の輪に歩いていった。
「じゃあバイバーイなのじゃ!次は自力でこの世界に来れる発明品を作って見せるのじゃ!」
「ハツメちゃんに会えるのを楽しみにしてるね」
ハツメは眠そうな顔をしているが最後まで手を振り星の輪の向こうに消えて行った。
「じゃあ私も帰るね!爺やに怒られちゃうから!」
「キラリさん。貴方のおかげでこうして無事に生きいられます。本当にありがとうございました」
明るく振る舞うキラリにフレイラは深々と頭を下げた。
「いいの!なんてったって私達トゥインクルスターズでしょ?」
「トゥインクルスターズ?」
「ローレンさんはいいから」
何の事か分からないローレンに必死でフレイラは誤魔化した。
「今度はお城に招いて一緒にライブしよ!」
「招かれるのはいいですが……ライブは……」
フレイラはあのヒラヒラとした衣装を着るのも人前で踊るのもかなり抵抗があった。ましてやもう戦いとは関係のないのだ。
悩んでいるとキラリが近付きフレイラの顔を下から覗き込むんだ。
「ダメ?」
キラリの断る事が出来ないような上目遣いにフレイラの心が揺らいだ。
「いえ!命の恩人の頼みです!必ずライブをしましょう」
半ばヤケクソ気味にフレイラはライブを承諾した。これにキラリは満点の笑顔で両手を上げた。
「やったー!約束だからね!それじゃあまたね!バイバーイ!」
キラリが飛び跳ねながら星の輪に飛び込むと星の輪ごと消えてしまった。
そうしてこの場にはフレイラとローレンだけが残された。
「ローレンさん。無事契約は果たされました。戦ってくれて本当にありがとうございます」
フレイラはローレンに頭を下げた。
「僕も中々貴重な体験をさせてもらったよ」
「私もです。ふふっ」
「ははっ」
二人は何だかおかしくなって誰もいない廃墟で笑い合った。だがフレイラは気付いたローレンの目が少し悲しそうだった事に。
「戦場に戻るのが嫌なのですか?」
「そうですね。元の世界に戻ればまた終わりの無い戦争の始まりです」
「この世界に残る事は?」
「まあ、クソみたいな世界ですけど向こうには仲間も家族もいますから」
ローレンは不器用な笑顔を見せた。そんなローレンにフレイラは真っ直ぐ目を見た。
「生きてくださいローレンさん」
「もちろんです」
ローレンは自分の足でジークムントに乗り込んだ。するとジークムントの周りに魔法陣が光り出した。
「さようならローレンさん。この世界から貴方の無事を祈っています」
「僕もフレイラさんの平穏を祈ります」
ジークムントの周りの魔法陣が強く光り出し、ジークムントはこの世界から消えて行った。
フレイラは廃墟となった要塞に一人になった。さっきまであれほど賑やかだったこの場には何も聞こえない。
数日後、ハルフルト要塞の正面門にはコレリア要塞の部隊が集まっていた。これはフレイラ一人を見送る為に全員整列しているのだ。
「みんなでお見送りしなくてもいいですのに」
「この戦争の英雄なんだ。これくらいさせてくれ」
戦争は終結したのだ。あれ以降撤退したウェンスター帝国は再度侵攻する事なく国境を閉ざした。反対の国境で大規模軍事演習をしていたイリイスト王国も撤収しこの数日間だけの短い戦争は終戦したのだ。
そしてフレイラは終戦の功労者である。そんなフレイラをコレリア要塞の皆で見送るのは当然のことであった。
最初は見送り断ったフレイラだがベイルがそれを拒否して全部隊での見送りとなった。そんなフレイラは申し訳なそうにオドオドしていた。要塞に残った時の頼もしい顔はどこにも無い。
「そんな私は英雄なんかじゃ」
「いや、君がいなければここにいる大半の者が命を落としていただろ。本当にありがとう。コレリア要塞の人間を代表して感謝する」
ベイルが頭を下げると後ろにいる兵士達も次々に感謝の言葉を叫んでいく。
「ありがとうございます!」「フレイラさん!いかないで!」「また歌って下さい!」
終わらない感謝の言葉にフレイラは恥ずかしそうに笑いながらなりペコペコと頭を下げ続けた。
「これから学園に戻るのか?」
ベイルは今後のフレイラの予定を聞いた。
「はい、報酬も頂きましたし。ゆっくり研究室に篭ろうかと」
「そんな姿想像できないな」
「そっちが本来の私です」
ベイルのからかいをフレイラは笑顔で応えた。
「そうだったな。じゃあ道中気を付けて」
「はい、皆さんもお体に気を付けて下さい。さようなら」
フレイラが最後に深々と頭を下げて旅立とうとした瞬間、フレイラの足元に突然魔法陣が現れた。
「え?なんで!」
「また誰か召喚するのか!?」
「いえ、私のじゃないです」
ベイルの質問に即座に否定したフレイラだったが全く理解が追いつかない。その時ベイルはある可能性に気が付いた。
「フレイラを召喚するつもりか!」
「何で私が!」
「主人公に相応しい英雄だから……」
「え!私が英雄!?」
その言葉を最後に魔法陣が強く光るとフレイラは消えてしまった。魔法陣もなくなると辺りは騒然とした。
「やはり君は英雄だよ」
ベイルは空を見上げて呟いた。ベイルはフレイラの無事を祈った。
フレイラが目を開けると知らない場所に召喚された。
どこかの村かもしれないが所々荒れておりあまり環境はいいとは思えない。フレイラの目の前には数十人の人だかりができておりフレイラを驚きの目で見ていた。
「本当に現れた」「だが本当にこんな子が戦えるのか?」「もうお終いだ」
勝手に召喚しておいて無責任な事を言っている人々の中で一人杖を持った小さな女の子がフレイラの前に出てきた。
「勇者様!私たちを助けて下さい。ギルガンド軍が迫っているのです!村が!村が!」
小さな魔法使いは不安そうな目でこちらを見ていた。おそらくこの子が自分を召喚したのだろうとフレイラは察した。
震える手で杖を握りしめて、涙目でフレイラに懇願していた。
――そうか……この子はあの時の私なんだ。不安を抱えて微かな希望に縋りついてるんだ……
フレイラは初めて戦場に出た時を思い出した。絶体絶命の中、微かな希望を主人公召喚に託したあの頃を。
――今度は私が助ける番だ!ならやる事は決まっている!
フレイラは覚悟を決めたが周りはそうでは無い。
「やはりダメだ。我々はここで死ぬんだ」
一人が項垂れて諦めの言葉を言ったがフレイラは持っている杖をカンッと地面に叩き注目を集めた。
「任せて下さい!私に任せれば戦争なんて楽勝です!」
フレイラのそう言い放つと小さな魔法使いが不安にならないようにニッコリと笑って見せた。




