繋ぐ絆と召喚魔法
熱線を受けたジークムントの装甲は破壊されていた。
怪獣が立て続けに放った熱線は威力こそ半減していたがジークムントを半壊させるのには十分過ぎる威力であった。
瓦礫に寄りかかるように倒れたジークムントのハッチは破壊されてコックピットが外から見てるようになっている。
激しい衝撃に見舞われたフレイラだったがなんとか意識だけは保っていた。
「ローレンさん!無事ですか!ローレンさん!」
フレイラが操縦席のローレンを見ると、ローレンは頭から血を流していた。しかし息がありまだ死んではいない。
フレイラは杖を握り魔法を唱えた。
「癒しよ」
ローレンの額から流れていた血は止まったがローレンは気を失ったらままである。
気を失っているローレンと半壊したジークムントを見たフレイラは覚悟を決めた。杖を握りしめて一人コックピットから出た。
「本当にすみませんローレンさん。貴方は必ず私が助けます」
届かない言葉を送ったフレイラは熱線で崩壊した壁に向かって歩いた。瓦礫を上り切り眼前に広がる光景を眺めた。
巨大な怪獣に目の色を変えて迫り来る大軍。フレイラ側には崩壊した要塞に壊れて動かなくなったジークムントに気絶したローレンしかいない。
必ず助けると言ったがたった一人でそんな事を出来るはずなかった。
覚悟を決めたフレイラの心は簡単に折れてしまった。
――怖い……怖い……勝てるわけない……私は今までずっと誰かに頼ってきた……そんな私が一人で戦うなんて……
フレイラは杖を両手で抱きしめるように握り震える足で何とか立っていた。しかし現実は非常である。怪獣の口が光り始めたのだ。
熱線が来る。そう理解した瞬間、フレイラは遂にその場にへたり込んでしまった。もはや立ち上がる気力は残されていない。
「誰か……助けて……」
フレイラは誰にも届くかも分からない助けを呼んだ。
怪獣の口から熱線が放たれた。
熱線は真っ直ぐにフレイラに向かって迫ってくる。フレイラはその眩しさと熱に目を閉じた。
しかしいつまで経っても熱線はフレイラに届かなかった。瞼の裏では確かに光を感じている。
恐る恐る目を開くとそこにはキラキラと光る巨大な星がフレイラの目の前に現れて熱線を防いでいた。
「これは……」
フレイラがまさかの事態に戸惑っているとこの世の全ての闇を明るく照らすような元気溢れる声が聞こえた。
「もー約束したでしょ?キラキラ笑顔を忘れないでって!」
声のする方に顔を向けるとそこにはフリフリのドレスを着た少女が自信満々に立っていた。
「キラリちゃん!どうしてここに!」
星川キラリ、かつてフレイラが召喚した人物の一人が何故か現れたのだ。
そんなフレイラの驚きにキラリは当然の如く答えた。
「言ったでしょ?キラキラ笑顔を忘れたら必ず駆けつけるから!なんたって私達トゥインクルスターズでしょ?」
全く理屈は分からないがキラリはフレイラの危機に駆け付けたのだ。おそらく何らかのキラリが使える魔法であるがそんな事をフレイラは気にする余裕は無かった。
キラリは笑顔で手を差し出してフレイラを立ち上がらせた。
「ありがとう……キラリちゃん」
フレイラは涙目になりながらキラリにお礼を言った。
「お礼はあのこっわーい怪獣を追い払ってから!」
そう言いキラリは怪獣を見た。キラリが来たからといってフレイラは怪獣に恐怖を抱いている。
「キラリちゃんだけで勝てるの?」
「うーん無理かな?ここキラキラが足りないんだよねー」
絶体絶命的な状況なのにキラリはあっさりと答えた。フレイラはキラキラが何なのか未だに理解しかねていたが、確かにこの場にキラキラしたモノは無い。
前回はコレリア要塞の仲間がいたためキラキラが溢れていたのだろうが今は全部隊撤退しフレイラとローレンしかいない。
「じゃあどうすれば!」
「大丈夫!フレイラちゃんが繋いだ絆は私だけじゃないでしょ!」
「それって……」
フレイラはキラリの言葉の意味を考えた。フレイラが繋いだ絆。それの意味を理解する前にキラリは先に星が付いている小さな杖を掲げた。
「私のとっておきの魔法を見せてあげる!」
杖の先からキラキラした小さな星屑が溢れ出した。
「フレイラちゃんが助けを呼んでるよ!みんな!力を貸して!」
星屑が辺りに散らばり軽快に動き出すと人が通れる位の大きさの星屑の輪っかを作り出した。
輪っかの内側が光り出すと中から真っ赤な髪の毛を揺らしながら一人の少年が走りながら出てきた。
「大丈夫か!フレイラの姉ちゃん!」
「ビクト君!来てくれたの!」
輪っかから出てきたのは初めてフレイラが召喚した少年、熱血河原ビクトであった。
ドッジボールというフレイラの知らない競技を行っている少年は何故かボールを投げると虎を出せるという途轍もない力の持ち主だ。
「おう!光る星の向こうから姉ちゃんの助けてって声が聞こえたからな!急いで来たぜ!」
「ありがとう、ビクト君」
ビクトの真っ直ぐな言葉にフレイラは勇気付けられ涙が出て溢れそうになる。だが今は泣いている暇はない。
「いいって事よ!ってなんじゃありゃー怪獣だ!すげー!カッケー!」
ビクトは気付いていなかったのか怪獣を目の前にして飛んだり跳ねたり大興奮している。巨大怪獣はビクトにとってあまりにも刺激が強すぎた。
「ビクト君、あのカイジュウを一緒に倒して欲しいの」
「いいぜ!怪獣相手なら本気で投げてやる!怪獣退治だ!」
ビクトの必殺技、ビクトリータイガーボールはその威力の反動でビクトの身体に大きな影響を及ぼす。フレイラがそれを回復することにより乱発出来るのだ。
「ちゃんと回復させるから」
「それなら大丈夫!あれから特訓してビクトリータイガーボールを完璧習得した!だから怪我はしないぜ!」
「すごい!ビクト君!」
「その代わり新しく習得したビクトリーワイバーンボールを使うと肘が痛くなるんだ」
「分かった。それはここぞと言う時まで使わないで」
「分かったぜ!」
初めて会った時は度々ツッコミをしていたフレイラだが度重なる激闘の末、ビクトが何を言っても全てを受け入れるようになっていた。もはやビクトリーワイバーンボールが何なのか気にもしない。
「私もどうにかして戦わないと……」
ビクトだけに任せるわけにはいかない。フレイラが呟くと何処からともなく少女の声が響いてきた。
「はーはっはっは!そう言う事ならこの天才発明家に任せるのじゃ!」
見上げるとどういう原理で飛んでいるか分からない半球状の乗り物に乗った少女が空中で高笑いしていた。
「ハツメちゃんも来てくれたの!」
比津栗ハツメ、フレイラがかつて召喚した自称天才発明家。まだ可愛らしいながらダイナーを撃退した恐ろしい少女である。今日もダルダルの白衣を着てフレイラの為に駆け付けたのだ。
「仲間が困っていたら助けるのは当然の事なのじゃ!」
「すげー!空飛んでる!」
ハツメが地上に降りるとビクトが駆け出して謎の乗り物の周りで大興奮した。そんなビクトを見てハツメは得意気である。
「中々いいセンスをしてるのじゃ!少年!だが驚くのはまだ早いのじゃ!出よ!ジャジャーントジャイアント!」
ハツメが乗り物についているボタンを押すと光の輪の中から巨大な人型ロボットが現れた。
そのロボットはローレンが乗っているジークムントと違い、手足が太く大きくずっしりとした体型をしており、関節部分もどうなっているか分からない謎の構造をしていた。
ドシンと音を立てて大地に降り立った巨大ロボットは怪獣と比べると少しばかり小さいがそれでも大きな戦力になる事は間違い無かった。
そんなロボットを見て喜んでいるのは勿論ビクトである。
「すげースーパーロボットだ!カッケー!!」
「この世界で手に入れた杖を動力にして遂に完成したのじゃ!」
これにはビクトだけではなくフレイラも興奮を抑えられない。
「すごいよハツメちゃん!これならあのカイジュウも倒せるよ!」
「じゃあフレイラ乗るのじゃ!」
「え?私?」
ハツメの言葉にフレイラの時が一瞬止まった。そんなフレイラを無視してハツメは勝手に解説を始めた。
「杖をコアにしたせいでハツメは上手く動かせないのじゃ!だからジャジャーントジャイアントはフレイラ専用機なのじゃ!」
「無理だよ!私動かせない!」
フレイラは全力でそれ拒否した。ジークムントを動かせなかったフレイラは全く構想が分からないジャジャーントジャイアントも動かせないと思っていた。
「大丈夫!ハツメも助手席に座ってサポートするのじゃ!まずはフレイラをパイロット登録するのじゃ!」
そんなやり取りをしている間、ダイナーは遠くからハツメとキラリが現れた事に気が付いた。
「あのガキと女!やっと出てきたな!ぶっ殺してやる!オラ!お前らもビビってねーで戦え!」
ダイナーは突如巨大ロボットが現れてすくんでしまった兵士達に更に精神魔法を施した。
度重なる精神魔法を受けた兵士達はもはや正気ではない。口から涎を垂らして怪獣がいようが巨大ロボットがいようが関係なく突撃を始めた。
「早くしないといっぱい目つきの危ない人達が来てるよ!」
キラリは星屑を兵士達の前に飛ばして足止めしているが数が多すぎて対処しきれていない。
「ちょっと待つのじゃ!パイロット登録には時間がかかるのじゃ!!」
「分かった!でもどうしよう……」
フレイラがロボットを操縦する事を受け入れたのはいいが敵は直ぐそこまで迫っている。
「矢が飛んで来たよ!」
キラリの忠告にフレイラが上を見上げると無数の矢が降り注いできた。
「任せろ!ビクトリータイガーボール!」
ビクトは手頃な瓦礫を手に取り飛んでくる矢に向かって投げると、虎が出現して矢を撃ち落としていった。
「早くこれに乗るのじゃ!」
ハツメが半球状の謎の乗り物にフレイラを乗せると、これまた謎の被り物をフレイラの頭に被せた。
「読み込み開始なのじゃ!この進捗バーがここまできたら完了なのだ!」
ハツメがスイッチを押し、フレイラのパイロット登録が始まった。モニターに映し出された進捗バーが徐々に伸び始めた。
その間フレイラはこれからどうすればいいか必死に考えた。
――どうしよう、ビクト君は人を攻撃しない約束だし……キラリちゃんも頑張っているけどキラキラが足りないらしいし……
フレイラは目の前のモニターに映し出される進捗バーをジッと見つめていた。まだ半分も満たない表示に不安と焦りがフレイラの心を支配した。
「おーいフレイラさーん?」
その時、気の抜けた謎の男性の声が聞こえた。フレイラが乗り物の外を見るとそこには制服姿の男子高校生が立っていた。
「レンスケさん!」
愛染レンスケ、フレイラが召喚したごくごく普通の男子高校生である。その身なりから分かるが何の特技も才能もないのにこの世界に呼び出された極めて特殊な人間であった。
「あのーこれどういう状況?」
レンスケは謎の乗り物に謎の被り物を被ったフレイラを見て困惑した。
しかしフレイラはレンスケとハツメを見てある事を思い付いた。
「ハツメちゃん!アレある?」
「あれって何なのじゃ?」
ハツメが何の事か分からない中、フレイラはかつてハツメが使った発明品をレンスケに使用できないか質問した。
「あばばばばばばばばばばばば!!」
戦場ではレンスケが間抜けな悲鳴を上げながらとんでもない速さで走り回っている。その体には謎の装具が装着されており、背中には巨大な扇風機を背負っていた。
「うーん流石装備型アシュラ君なのじゃ!」
フレイラがアレと言った物はハツメが戦場を引っ掻き回したアシュラ君の事であった。ハツメはそれを人間に装備出来るように一瞬で改良してレンスケに装備させたのだ。
レンスケが装備型アシュラ君を装着しながら戦場を駆け回ると強力な扇風機によって送り出される暴風に敵兵は最も簡単に吹き飛ばされていった。レンスケが縦横無尽に戦場を駆け回るだけで敵兵は完全に無力化された。
「あの兄ちゃんはあれでいいのか?」
先程まで興奮していたビクトもちょっと心配していた。
「多分大丈夫です。それよりハツメちゃんそろそろ終わりそうだよ!」
フレイラはレンスケにだけ対応が若干雑になっていた。それは胸を触られたとかそういう個人的な理由である。
「ちょっと待つのじゃ!」
フレイラに呼ばれたハツメが進捗の確認をする為にフレイラの下へ歩き出した。
その時フレイラはハツメの後ろに弓で狙う敵兵が見えた。あの暴風吹き荒れる中ここまで迫っていたのだ。しかしハツメはそれに気が付いていない。
敵兵は弓を引きハツメに狙いを定めて矢を放とうとしていた。
「ハツメちゃ……!」
フレイラが叫ぼうとした瞬間、突如兵士が倒れ矢は力無くあらぬ方向に放たれた。突然の事でフレイラも何が起きたか分からない。ただ一瞬血飛沫のようなものが見えたので何らかの攻撃を受けたのだと思った。
「どうしたのじゃ?」
ハツメは背後起きた事に何も気が付かずスタスタとフレイラの下へ歩いてきた。
「いや、なんでもないよ……」
フレイラが曖昧な返事をして辺りをキョロキョロ見回すと要塞の屋上に人影が見えた。ロングコートを靡かせたその姿は誰よりも心強かった。
「カラスさん!」
フレイラは思わず叫んでしまった。
カラスはフレイラが雇った用心棒であり。先日の戦いにフレイラに戦場での覚悟を説いた男である。スナイパーライフルを持ち立つ姿はフレイラを奮い立たせた。
「やれやれ、放っておけない嬢ちゃん達だ」
カラスはやれやれと独り言を言いながらも脅威となる兵士を次々と狙撃していた。
「よし!読み込み完了なのじゃ!合体するのじゃ!」
ハツメも謎の乗り物に乗り込み、フレイラと一緒に飛び立った。
乗り物は空を飛び巨大ロボットの腹の部分にピッタリ収まった。
「ジャジャーントジャイアント!ドッキング完了!出力よし!視界良好!オールオッケーなのじゃ!フレイラはそこに立つのじゃ!」
ハツメが指示した場所にフレイラが立つと床が上がり、フレイラを巨大ロボットの頭に運んだ。
頭の中は人が立つには十分なスペースがあり、周囲は外の状況が見えるようにモニターで囲まれていた。
「そこが操縦室なのじゃ!フレイラ!少し動いてみるのじゃ!」
ロボット内部に備えられているスピーカーからハツメの声が聞こえる。その指示にフレイラが右手を動かすと巨大ロボットの右手も同じように動いた。
「すごい!自分の身体みたいに動かせる!ハツメちゃん凄いよ!」
「ふふーん!天才じゃからな!」
ジークムントと違い直感的な操縦が出来るジャジャーントジャイアントはフレイラでも簡単に扱えた。
「じゃあフレイラちゃん!ハツメちゃん!任せるよ!」
「行けー!頑張れよー!」
キラリとビクトの応援を背にジャジャーントジャイアントは怪獣に向かって歩き出した。怪獣も目の前にいる巨大な敵に反応して雄叫びを上げた。
「ひぃ!とにかく巻き込まれないとこまで行かないと!」
それを真下の戦場で見ていたレンスケは慌てて戦線から離脱しようとした。しかし、「止まれ!」と誰かに呼び止められた。
怪獣との戦いは混沌としていた。
直感的にロボットを動かせる事はできるがそもそもフレイラは肉弾戦なんてやった事がない。
武器もない素手で殴り合うその姿はまさに女の子が駄々をこねるような可愛らしい動きであった。一方怪獣も人間のような知能がない為獣のような引っ掻きや噛みつきといった攻撃となる。
遠目から見たら獣に襲われてイヤイヤと抵抗している女の子と言った図だ。しかしそのサイズ感は全く可愛くない。
両者が動く度に大地は揺れて途轍もない轟音が辺りを襲う。精神魔法で凶暴化している兵士達も流石に散り散りに逃げ出して、この混沌とした戦場から少しでも遠くにと駆けていく。
本人達は必死だが見栄えが悪いこの戦いもいつかは終わりが来る。
ハツメの目の前にあるモニターには燃料が減っていると警告メッセージが出た。
「エネルギーが減ってるのじゃ!フレイラ大丈夫なのじゃ?」
「魔力が……尽きそう……」
フレイラは荒い息をしながら必死に立っていた。ジャジャーントジャイアントはその巨大を動かすのに膨大な魔力を必要とし、フレイラが動かすと十分と持たなかった。
「ここはイナズマカカト落としで一気に決めるのじゃ!」
「何それ?!」
「ジャジャーントジャイアントの足にパワー溜めて相手にぶつける必殺技じゃ!」
踵落としなんて生きていてやった事はないが今はそれどころじゃない。考える前にやろうと構えようとしたが暴れる怪獣がそれを邪魔をする。
「ビクト君!力を貸して!」
フレイラが叫ぶとビクトが瓦礫を持って構えた。
「任せろ!」
「私も協力するよ!」
キラリも杖を掲げた。
「ビクトリーワイバーンボール!」
「トゥインクルスターメテオ!」
ビクトが投げた石は天高く上がりながら竜の姿へと変貌した。そして怪獣目掛けて急降下していく。
キラリが空から出した巨大なキラキラした星は怪獣に降り注いだ。
二つの大技は怪獣の背中に直撃して喰らった怪獣は大きな音を立てて地面に倒れ込んだ。
しかし、この二つの技を受けてもなお怪獣は死ななかった。
「今なのじゃ!」
「うん!」
ハツメの合図にフレイラが右足を上げるとジャジャーントジャイアントも連動して大きく右足を上げた。その姿勢を維持するとジャジャーントジャイアントの右足にエネルギーが溜まっていく。
「もう少しなのじゃ!」
しかし怪獣も自らの危機を察知したのか口の中が光り始めた。怪獣による決死の熱線である。
「ダメ!!」
フレイラは声を上げるが技を止める訳にはいかない。しかし怪獣の口から熱線が放たれようとしている。
怪獣が口を開けて熱線を放とうとしたその時、突如怪獣の頭にビーム射撃が当たった。
「ギユアオオォ!!」
それに怯んだ怪獣は熱線を放てなかった。
「え!」
ビームが放たれた方向は要塞である。
フレイラが見るとそこには半壊の状態ながら右手を上げてビームを放ったジークムントがいた。そしてコックピットの中には操縦席に座るローレンとそれをサポートするようにカラスが立っていた。
「いい腕だ」
カラスはローレンを褒めた。ローレンはフレイラに向かって叫んだ。
「フレイラさん!やって下さい!」
ローレンの思いを託されたフレイラは叫んだ。
「ハツメちゃん!行ける!?」
「行けるじゃー!パワー全開!今なのじゃ!」
ハツメの合図にフレイラは上げた右足を思い切り下ろした。
「はああああああああぁぁぁ!!イナズマ踵落とし!」
ジャジャーントジャイアントの右足が怪獣の顔面に振り下ろされた。
「グギャアアアアアアアアアァァァァァァ!!」
怪獣の叫び声と共に大地に亀裂が走り、周囲を巻き込む土煙が巻き起こった。
要塞にいたビクト達もその衝撃に立つのがやっとである。
しばらくして土煙が風にやって流されるとそこには大地に横たわりピクリとも動かない怪獣とその前に堂々と立つジャジャーントジャイアントの姿があった。
「やったぜ!」
ビクトは飛び跳ねて喜んだ。
「すごいよ、フレイラちゃん!」
キラリもキラキラ笑顔を爆発させている。
「ははっ、フレイラさん……やっぱりロボットに足はいるじゃないですか……」
ローレンは微かに笑いながら操縦席に体を預けた。ガックリと力抜けて大きく息を吐いた。
「ひぇーすげー」
レンスケは別の場所でその衝撃的な光景を眺めていた。
「ここでいい、下せ」
「あ、はい」
レンスケは命令されて両腕で抱えていたジェイドを地面に下ろした。
レンスケは戦場を逃げ回っている時にジェイドに声を掛けられてこの場に運ぶよう命令されたのだ。
勿論レンスケは断る事が出来たが戦場に女性が一人いるのは危険だと思い言われるがままジェイドを運んだのだ。
「じゃあ俺はこの辺で……」
「ああ、感謝する」
ジェイドはぶっきらぼうに感謝を伝えたがジェイドの声に聞き覚えがあったレンスケは何となく質問してみた。
「あのー?もしかして何処かで会ったことありますか?」
「無い。早く行け」
「すいません」
ジェイドが睨みつけるとその圧に押されたレンスケは逃げる様に要塞に走って行った。
ジェイドが少し歩くと地団駄を踏んで発狂しているダイナーがそこにいた。
「まだだ!魔力はまだ残ってる!」
ダイナーは怪獣が倒されてもまだ戦争を続けようとしていた。そんな無様なダイナーにジェイドは呆れるように声を掛けた。
「もう諦めろ」
「ジェイド!生きていやがったのか!」
「部隊は壊滅。敵には巨大兵器。この戦争は続けられない」
ジェイドの言葉に憤慨したダイナーは唾を撒き散らしながら叫んだ。
「黙れ!まだ終わっていない!またアレを召喚すればいいんだ!」
もはや正気では無いダイナーに愛想を尽かしたジェイドは腰に携えた剣を抜き、ダイナーを切り裂いた。
突然の事にダイナーは反応出来ず、力無くその場に倒れ込んだ。
「な……何を……!」
掠れるような声を出しながらもダイナーはジェイドを睨みつけた。それを哀れな物を見るようにジェイドは見下した。
「精神魔法の乱用に、上官の殺害。お前は本来軍法会議に掛けられるべきだが国には混戦により不運の死を遂げたと言っておこう」
「くそ……が……」
それだけ言うとダイナーは息を引き取り動かなくなった。
ダイナーが死んだ事により召喚された怪獣は光り輝き何処かへと消えてしまった。おそらく元の世界に戻ったのであろう。
そして同時に精神魔法が解けた兵士達も正気に戻った。
ジェイドは全軍に向かって叫んだ。
「全軍撤退だ!本国まで帰還する!」
ジェイドの命令により兵士達は次々に撤退していった。その足取りは疲れ果てて重かったが一歩一歩確実に故郷へと帰って行った。
その光景を見たフレイラは力が抜けて座り込んでしまった。
「撤退してく……勝ったんだ……私達……」
ジャジャーントジャイアントもフレイラと同じ態勢になり敗走していく兵士達を見送った。




