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怪獣大進撃

「これはいい!最高だな!」

 怪獣の熱線を見たダイナーは高らかに笑っていた。

 ロボットはおろか要塞諸共焼き尽くしてしまいそうな怪獣の攻撃はこの戦争を終結させるのには十分過ぎる程の威力を誇っており、ダイナーは勝利を確信していた。

 それでもダイナーの腹の虫はまだまだ治らない。

「さあ!何をしている!さっさと進軍しろ!」

 ダイナー杖を掲げて改めて精神魔法を使った。未知のロボットの登場、怪獣の出現、熱線による攻撃と驚愕の展開に完全に目が覚めていた敵兵は再び興奮し、その目付きは更に鋭いものとなった。

「殺せ!殺せ!俺をコケにしたあのゴミ屑共を皆殺しにしろ!」

 ダイナーの卑劣極まる命令にウェンスター兵は従い煙立ち込めるコレリア要塞に向けて進軍を始めた。


 怪獣から放たれた熱線の衝撃はジークムントに乗っていたフレイラにも襲いかかった。激しい揺れに眩い光にフレイラは死を覚悟をした。

「生きてる……?」

 フレイラは体は傷一つなくジークムントのコックピットも特に損傷しているように見えなかった。

「ジークムントのエネルギーバリアーで何とか防ぎました。要塞も無事ですね」

 こんな状況でもローレンは冷静に説明してくれた。ローレンの言う通りコレリア要塞に熱線は直撃しておらず手前の地面が焼けて煙が上がっているだけであった。

「よかった……」

 皆の無事を確認したフレイラは安堵し力が抜けそうになった。足に力が入らないが操縦席に手をかけて何とか立っている。

 フレイラの気は抜けているがローレンは次の行動について考えていた。

「ベイルさん!流石にジークムントでもあの攻撃は何度も防げません!」

 ジークムントの中からローレンがベイルに話しかけた。

「分かった!撤退する!」

 ローレンの言葉を聞きベイルは即決した。

「コレリア要塞は捨てる!全部隊、ハルフルト要塞まで即時撤退!繰り返す!全部隊、ハルフルト要塞まで即時撤退!負傷者を担ぎ出せ!一秒たりとも無駄にするな!」

 ベイルは大声で命令を下した。その命令を聞き兵士は一斉に駆け出した。

「妥当な判断ですね」

 ローレンはジークムントの中から撤退する兵士達を悠長に眺めている。

 指示を出すベイルはジークムントに乗るフレイラに向かって叫んだ。

「フレイラも早く撤退するんだ!」

「私はここに残ります!」

 フレイラも迷いなく答えた。これにはベイルも驚きの声を上げる。

「何を言っているんだ!」

「私が撤退するまでの時間稼ぎをしますこのロボットがいるだけで敵軍も好きには動けない筈です」

「危険だ!君はそこまでやる義理はない!」

「ですが誰かがやらないといけません!」

 ベイルの説得虚しくフレイラは聞く耳を持たない。実際ベイルはフレイラをジークムントから引き摺り出す手段は無いのでこうなってしまったらベイルには何もできない。

「なら僕も残ります」

 今度はローレンが残ると宣言した。しかし自分は残ると言ったフレイラはそれを認めなかった。

「駄目です!これは私達の戦争でローレンさんまで危険を冒す必要はありません!」

「僕がいないとろくに動かせないでしょ?」

「でも……」

「それにこれ僕のです。勝手に使わないで下さいよ」

 フレイラとローレンのどちらの考えが正論か考えるまでもなかった。その為フレイラは何も反論が出来なかった。

「本当にいいのか?」

 ベイルは要塞に残る決断をしたローレンに確認をした。殿になる以上その危険性は誰よりもある。

「危なくなればジークムントに乗って逃げます。歩いて撤退するよりよっぽど安全です」

 ベイルの心配をよそにローレンは淡々と答えた。それは本心かもしれないしベイルを心配させまいと強がっているだけかもしれない。

「すまない。ありがとう」

 ベイルは頭を下げてローレンとフレイラに感謝の意を示した。

「なら俺も残ります!」「フレイラさんだけ残すなんて出来ません!」

 ベイルとのやり取りを聞いた兵士達がジークムントの周りに集まってきた。か弱いフレイラと戦争に巻き込まれたローレンだけを残すまいとその誰もが熱い心を持っていた。

「駄目です。邪魔だから撤退してください。周りに人がいるとジークムントを動かせません」

 そんな熱い心を冷め切った声でローレンは突き放した。これには少しばかり興奮していた兵士達も意気消沈である。

「そういうことだ!この場はフレイラとローレンに任せて我々は撤退する!」

 ベイルは改めて指示を飛ばした。

 この戦争が始まってからいつでも撤退出来るように準備は既に済ませており、兵士達は驚くほど迅速に行動していた。

 必要最低限の荷物だけ待ち、各部隊が中庭に集まっていく。要塞の門を開け負傷を乗せた荷馬車が次々に出発していく。

 ミシェルは先行部隊に同乗して先にハルフルト要塞に向かった。

 フレイラはジークムントから降りて中庭で全部隊が要塞から出ていくのを見送った。

 ベイルは最後の部隊が要塞から出るのを確認すると、フレイラに向かって敬礼した。

「幸運を!」

「ベイル隊長もどうかご無事で」

 短い別れの挨拶を済ませるとベイルは最後尾の部隊と共にコレリア要塞を後にした。

「これで撤退は終わったみたいですね……」

 あれほど騒がしかったコレリア要塞にはセントミドル兵の一人もいない。

 そんながらんとした要塞の中をフレイラは一人歩いていく。

 要塞の中にあるやけに厳重な地下への扉の前に着くと大きく深呼吸をして扉を開けた。

 カツカツと地下に繋がる階段を慎重に降りていくとそこは独房であった。

 そしておる独房の前に立つとそこの鍵を開けた。その独房には一人の捕虜が囚われていた。

「何のつもりだ?」

 ウェンスター帝国の魔導騎士ジェイドである。

 ジェイドは壁を背にして床に座わりながらフレイラを睨みつけた。全ての装備を押収されているのにも関わらず、その威圧感は健在であった。

 敵意を剥き出しのジェイドにフレイラは臆する事なく事情を説明した。

「我々はこの要塞を捨てます。この要塞はいずれウェンスター軍の攻撃によって崩壊します。貴方も逃げて下さい」

「要塞が崩壊?先程のあの地響きか……どうやらダイナーが召喚魔法を使ったのだな」

 ジェイドは死ぬかもしれないと言うのに驚くほど冷静に推測した。

「そうです。ここにいては貴方も死んでしまいます」

「いいのか?ここで私を解放すればお前を殺すかもしれんぞ?」

 ジェイドはフレイラを睨みつけた。これまでより更に強い圧がフレイラを襲うがフレイラは一歩も引かない。

「貴方は誇りある騎士なのでしょ?そんな事はしません。では私は急ぎますので」

 フレイラは独房の鍵を開けたままその場を去った。ジェイドは遠くなっていくフレイラの足音をその場で静かに聞いていた。

「甘いな……」

 ジェイドが呟いた声は誰もいない地下の独房に消えていった。

 

 フレイラはローレンのところまで戻り、ジークムントに乗り込んだ。

「撤退完了しました。敵軍の様子は?」

 フレイラが撤退の確認をしている間、ローレンはジークムントの中で敵軍を監視していた。

「地上部隊は迫っていますが、怪獣はあれから動かないですね」

 怪獣は熱線を放った後、微動だにしなくなった。大地に立ったままその場から動かず、その圧倒的な存在感だけを放っていた。

「何で動かないのでしょう?」

「分かりませんがあの熱線を撃つと少し時間が必要なのかもしれません。相当なエネルギーを放出していますから」

 ここでフレイラは根本的な質問をした。

「あの?そもそもカイジュウってなんですか?ローレンさんの世界にいる生き物ですか?」

 この世界にも魔物がいるが怪獣とは呼ばない。フレイラは魔物と怪獣の区別はついていない。

「いや、空想上の生き物です。僕も初めて見ます」

「では倒し方とかは分からないのですね」

「そうですね。ですが生物には変わりないので頭を狙います」

「ですがこちらから手を出さないで下さいね?動かないのであればそれに越した事はありません」

「分かってます。僕もあれと戦いたくないです」

 フレイラとローレンは怪獣を見た。だが怪獣は動かずじっとその場に立ち尽くしていた。


 一方、怪獣が動かない事でダイナーは苛ついていた。

「しばらく様子を見てたが何でコイツは動かないんだ?召喚魔法で使役してるんじゃないのか?」

 召喚魔法の紙の束を確認してみたが肝心の使役の仕方は書いていない。それもそのはず、主人公召喚で召喚された者は使役できないからだ。

「おい!動け!何をしてる!」

 ダイナーは下から怪獣に向かって叫んでいるが怪獣はダイナーの声が聞こえているのか聞こえていないのか分からないが反応しない。

「ちっ、まあいい。それなら精神魔法を使うだけだ」

 ダイナーは杖を掲げて魔力を込めた。

「昂れ!」

 そう唱えると不気味な光が怪獣を包み込んだ。すると、

「グオオオオオオオォォォォォォ!!!!」

 突如怪獣は雄叫びを上げた。それは遠く離れたコレリア要塞まで響きフレイラを震え上がらせた。フレイラは咄嗟に操縦席を手で掴んだ。

「動き出しました!」

「要塞を盾にします!」

 ローレンが操縦桿を握るとジークムントは飛び上がり中庭に降り立った。怪獣がいる方向にシールドを張り熱線に備えた。

 要塞の壁の向こうで強烈な光が見えた。

 その瞬間、要塞の壁は簡単に破壊され熱線がジークムントに襲いかかった。

 激しい衝撃がフレイラとローレンを襲ったがジークムントは熱線をシールドで受け止めた事により何とか無傷で済んだ。

 強烈な攻撃を受けてもローレンは冷静である。

「これでまたしばらくは動きが止まるでしょう。それまでにシールドのチャージを……」

 ローレンは途中で声を出すのを止めた。

 破壊された要塞の壁の向こう側は大量の煙で怪獣が見えないが、あの眩い光が空を照らすのが見えた。

「嘘だろ……」

 ローレンが呟くと怪獣から大量の煙を割く二発目の熱線が放たれた。


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