普通の朝
翌日、朝を告げる鐘の音で目を覚ましたフレイラは大量の寝汗をかいていた。
悪夢を見たような気がするが鐘の音で全て吹き飛んでしまった。それでも喉につかえる気持ち悪さとベタベタする汗はしっかりと残っていた。
「行かなきゃ……」
重い体を起こし、いつものように朝の準備に取り掛かる。精神的にも肉体的にも重く気分は悪いが慣れてた手つきで準備を淡々とこなしていく。
全ての準備を終えたフレイラは大きく深呼吸わしてから両手で自分の頬を叩いて気合いを入れた。どんなに辛くても周りに悟られるような真似はしたくなかった。
フレイラが倉庫から出て食堂に向かう最中に多くの兵士から声をかけられた。
「フレイラさん!おはようございます!」
「少し顔色が悪いが大丈夫か?」
「昨日はカッコよかったぞ」
兵士達の明るい声がフレイラの気持ちを楽にする。
食堂に着き、朝食を食べている最中にも兵士達がフレイラを気に掛けて話しかけてきた。
「昨日はありがとうございました」
「今度は俺達が守ります」
「無茶するなよ」
皆フレイラの事を心配しているのだろう。どんなに無理に表情を作っても簡単に悟られてしまった。
もしかしたらベイルから気にかける様にと言われているのかもしれない。
「ありがとうございます」
フレイラは精一杯の笑顔で兵士達の労いの言葉に答えた。
そうやって褒められて、心配されて、応援された事によりフレイラは自分がやった事は間違ってなかったと思えるようになった。
少なくともあの戦闘は無駄では無かったと、目の前にいる優しい兵士達の為になったのだと安心する事ができた。
食事を終えて作戦会議室に行くと席が一つ空いていた。今日も自分が最後だと思っていたフレイラは少し驚いたが軽い挨拶を済ませて席についた。
「集まったな?会議を始める前に報告がある」
フレイラが座った事によりベイルが話し始めた。集まったと言ってるが席は一つ空いたままだ。
「捕虜にしたジェイドから聞き取りした結果、やはり召喚魔法に関する書類はジェイドが持ち去ったらしい」
ベイルから告げられた事実は薄々分かっていたとはいえ小隊長達に動揺を与えた。
「やはりか……」「向こうも使えるのか……」「どうするか……」
次々に声を漏らす小隊長達を無視してベイルは続けた。
「そしてその事を漏らしたのはサボである事も判明した」
ベイルの報告に納得した顔や呆れた顔など様々な表情があったが誰一人驚く者はいなかった。それほどサボは信用されていなかった。
「サボは捕まっているのですか?」
一人の小隊長が質問した。一つだけ空いた席にはいつもサボが座っていたが今日はいない。そうした質問が出るのは当然の事であった。
しかしベイルの表情は芳しく無い。
「それが昨日から行方が分からない。おそらくジェイドが捕まった事により機密を漏らしたのがバレる事を危惧して早々に逃げ出したのだろう」
会議室にため息が充満した。
「正直さっさととっ捕まえて一発ぶん殴ってやりたいが奴を探す時間も人員も無い。戦争が落ち着くまで放っておく事になる。だが必ず奴は軍法裁判にかける。それでいいか?フレイラ」
ベイルはフレイラに確認した。今回の一件ではフレイラが執拗にサボから攻められ冤罪をふっかけられた。フレイラからしてみれば許し難いだろう。
「はい、私は気にしていませんのでそちらの規則に乗っ取って対処して下さい」
ベイルは何かフレイラから言われると覚悟していたがフレイラはサボについて興味が無くどうでもよかった。フレイラも今の状況がいっぱいいっぱいでサボの事を気にしている余裕が無かったのだ。
「分かった。じゃあ報告を頼む」
ベイルはミシェルに指示を出した。
「はい、昨日の戦闘での死者こそいませんが多くの負傷者を出てました。負けはしませんがジリジリとこちらの戦力は減っています」
ミシェルの報告は喜ばしいものではなかった。敵軍を退けたといえど状況は悪くなるばかりであり毎日がギリギリの綱渡りであった。
「偵察隊からの報告によると魔導騎士ジェイドが捕虜になった事によりウェンスター軍に動揺が広がっているらしく。昨日の段階では目立った動きは見せていません」
ミシェルの報告を聞き終わるとベイルはフレイラの方を見た。
「敵軍の戦意は低下しているがそれでもその戦力は脅威には変わりない。フレイラ、召喚魔法を頼む」
「はい!」
ベイルに頼まれたフレイラは立ち上がり杖を構えた。
「英雄譚の主人公よ!契約をここに!我が声に応え、現世に顕現しその力を大いに奮え!」
フレイラがいつものように呪文を唱えたが魔法陣は出ない。レンスケを召喚した時のように魔法陣が上に現れたかとベイルが見上げた。
「どういう事だ?また上か?いや、ないか……」
「ですが必ず魔法陣は出てるはずです」
フレイラも出ると言ってるが本人でさえも何が起きているか分からない。
会議室の中でキョロキョロ魔法陣を探していると何やら外が騒がしい事に気が付いた。
「何だ?外がうるさいな」
ベイルが窓から中庭見ると巨大な魔法陣が中庭に現れた。これまで人一人を召喚する為の魔法陣が中庭いっぱいに描かれており、中庭にいた兵士は壁に身を寄せて魔法陣から可能な限り離れていた。
「なんだこれは……いったい何が出てくるんだ……」
ベイルは魔法陣のあまりの大きさに驚きを隠せなかった。召喚したフレイラもその光景に口を開けてただ見つめるばかりである。
そして魔法陣が光出すと中から巨大なロボットが姿を現した。




