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異世界の風を浴びながら

「おいおい、何か説明をして欲しいんだが、無視するのはあんまりだぜ?」

 魔法陣から現れた男は突然異世界に召喚されたのにどこか真剣味に欠ける喋り方をしていた。

 真っ黒なロングコートに身を包んだ男はヘラヘラしているがその目は鋭く、周囲の警戒を怠っていなかった。左手に持ったアタッシュケースは男を直ぐに守るように周りに気付かれぬ位に構えられていた。

 これまで召喚されたどの人物よりも掴みどころが無く、怪しく、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。

「あっ!すいません。私の名前はフレイラと言います」

 男の雰囲気に飲まれていたフレイラは慌てていつもの説明をした。その間も男は真剣に聞いてるのか聞き流しているのかよく分からなかった。

「なるほどねー異世界ときたか……」

 それでもフレイラの説明が終わると内容を理解している口ぶりであった。

「あの……貴方の事を聞いてもいいですか?」

 フレイラは恐る恐る男に質問をした。捉え所のない男にフレイラは距離を測りかねていた。

「俺か?俺はまぁ何でも屋って奴だ。名前は何でもいい」

「何でもいいと言われても」

「とっくの昔に名前を捨てからな。まあカラスって呼んでくれ。周りはそう呼んでいる」

 カラスと名乗る男との会話は言葉が通じているのに中々噛み合わない、そんなまどろっこしいものであった。

「じゃあカラスさん。何でも屋と言う事なので私達と戦ってくれますか?」

「断る。俺は国の戦争には関わらないってのがポリシーなんだ」

 やっと質問に即答したかと思えばフレイラからのお願いは断られてしまった。カラスとの会話に疲れが見え始めているフレイラに代わりベイルが会話を試みた。

「だとした何なら依頼できる?」

「まあ、用心棒くらいだな」

「ではこの要塞を守る事は?」

「無理だな。生憎俺の手は二本しか無い。守ってやれるのは一人だけだ」

 どうしてもカラスは戦争には参加しないらしい。そこでベイルはある提案をした。

「ならフレイラを守ってくれ。これは国からではなく私からの個人的な依頼だ」

「え!ベイル部隊長!」

 ベイルの提案にフレイラが驚いたが話し始めたどんどん進んでいく。

「いいぜ。だけど金はきっちり貰うぞ」

「問題ない。国の金を使わせてもらう」

「おいおい、お前個人の依頼じゃないのか?」

「戦争では物の紛失や略奪などよくある話だ。それに君が元の世界に帰れば証拠もなくなる」

「ふっ、いいじゃねーかお堅くなくて。引き受けた」

 そうして護衛対象の意見は聞かないままあっという間にカラスとの契約をベイルは取り付けた。

「その前に実力を見せてくれるか?金が絡む以上その腕を見せてもらいたい」

「いいぜ。俺の得物はこれだ」

「なんだそれは?」

 ベイルが疑問に思ったのは無理もない。カラスがロングコートから取り出したのは一丁の拳銃であった。その見たことの無い武器にカラス以外は不思議そうな顔をしている。

「どうやらこの世界では銃は無いみたいだな。この先端から鉛玉が出て相手を撃つんだ。そうだな……まあ進化したパチンコ見たいなもんさ」

 カラスの説明が終わるや否やサボが立ち上がり大声を上げた。

「ベイル部隊長!コイツを雇うなどやめましょう!これまでもタダで働かせてきたのですから、それでいいではありませんか!」

 サボが声を荒げているがカラスの態度は変わらない。

「おいおい、俺はタダ働きなんてしないぜ。それにどうした?イライラなんかして。朝食のピザが固かったか?」

「うるさい!それとそのくどい喋り方をやめろ!鬱陶しい!」

「朝から大きな声を出すもんじゃないぜ?彼女が隣で寝てたら起きちまう」

「いや、寝てませんが」

 カラスは隣にいるフレイラを見たがもちろんフレイラは寝ていない。

 サボいよいよ耐えきれなくなり更に大声を出した。

「意味が分からない事を言うな!大体何がパチンコだ!そんな物で戦争ができると思ってるのか!ふざけるのも大概にしろ!」

 パンッ!と部屋につんざく様な銃声が響いた。カラスがサボに向かって銃を使ったのだ。サボが座っていた椅子の足が弾けて砕けた。

 しかし部屋にいた者達はその銃声に驚き、何が起きたか全く分からなかった。カラスの隣にいたフレイラは耳を両手で塞いで身を屈めていて何一つ見ていない。

 銃声の後、誰一人口を開かず硝煙の香りだけが漂う中、カラスがサボに忠告をした。

「少し口を閉ざそうぜ?今からその実力とやらを見せてもいいんだ。まあ、お前さんは見ても無駄になるかもしれんがな」

 銃口はサボに向けて動かない。サボは粉々になった椅子を見てようやく事態の深刻さを理解した。

 恐怖のあまり口を開こうにも開けないサボの代わりにベイルが話し始めた。

「もういいだろうサボ。今の威力を見て脅威だと分かった」

「そう言う事だ。銃を舐めてちゃいけないぜ?」

「改めて正式に依頼したい」

 ベイルの言葉にようやくカラスは銃をしまった。それを見て緊張感に包まれていた部屋はほんの少しだけ空気が緩んだ。

「オッケー。依頼料から椅子の修理費を引いといてくれ」

「真面目だな」

「俺は金にはきっちりするんだ」

 ベイルはカラスと握手を交わして正式にフレイラの護衛を依頼した。

 諸々の契約金の話が終わったカラスはフレイラの下へやってきた。

「さて、瞳の綺麗なお嬢さんを守ればいいんだな?」

「改めてフレイラです。よろしくお願いします」

 フレイラは深々とお辞儀とカラスにお辞儀をした。

「契約は必ず守るから安心しな。その為に要塞を案内してくれないか?戦うにしても隠れるにしてもまずはそれからだ」

「フレイラ案内してくれ」

 ベイルはフレイラに案内を頼んだ。

「はい、では行きましょう」

 フレイラとカラスは部屋から出た。カラスが部屋から出ると作戦室から大きな息が聞こえた。皆緊張して息を潜めていたのだ。

 それはミシェルとて例外ではない。ミシェルはベイルに話しかけた。

「カラスはかなりの実力者ですね」

「ああ、口調は軽いがずっと隙が無かった」

「分かりやすく戦力になりそうですね」

「後はどれだけ戦ってくれるかだ」

「それはフレイラさん次第ですかね?」

「そうだな。フレイラを信じよう」

 安心しきる部屋の中でサボ一人だけが恥をかかされた事を根に持ち、悔しそうに噛み締めていた。


 フレイラはカラスを要塞の中をぐるっと案内している。

 カラスは目に映るものを物珍しそうに眺めていた。

「本当に違う世界なんだな。びっくりだな」

「あまり驚いている様には見えませんが」

「知らない世界に来てはしゃぐのは子供までだ。この世界に来るには歳を取り過ぎたな」

「そうなんですね」

 一言喋るたびに何か付け加えるカラスの独特な喋り方にフレイラは段々と慣れ、受け流す様にしていた。

 カラスが外を眺めていると森の中で動くものを見つけた。

「あれは狼か?でもやけにデカいな」

「魔物ですね。街道を外れなければ大丈夫です」

「おっかないな」

 二人は場所を移動して武器庫を見た。武器庫には剣、槍、盾、弓矢など戦争で使う武器が整頓されていた。

「武器は主に剣や槍か……弓矢が怖いかな」

 兵士達の装備を見たカラスは呟いた。カラスから見たら随分原始的な武器であろう。

「戦えそうですか?」

「心配するな。戦場ってのはやるかやられるか。本質はどこも同じさ。酒に夜風が合うようにな」

「はあ、そうですか」

 いまいち言ってる事が分からないフレイラは他の場所に向かう為に武器庫から出た。

 武器庫から出ると背後からズカズカと大きな音を立ててサボが歩いてきた。

「邪魔だ退け!」

 通路の真ん中を嫌がらせのように歩くサボは怒鳴り声を上げて近付いてくる。そんなサボにカラスは変わらぬ対応をした。

「随分な挨拶だな?」

「五月蝿い!本来ならお前らのような部外者は自由に歩き回れないんだ!」

「すいません」

 怒るサボにフレイラは頭を下げるがカラスは決して動じない。

「まあまあ、そう怒りなさんな。さっきは脅かして悪かった。ここはお互い仲良くいこう」

 そう言ってカラスはサボの肩に手を置いた。それをサボは瞬時に払い除けた。

「触るな!いいか!私の邪魔だけはするなよ!」

 そう言い残しサボは不機嫌そうにズカズカと去って行った。

 それを見送ったカラスは肩をすくめた。

「やれやれ、俺もお嬢さんも嫌われてんだな」

「はい、それと機密を漏らした嫌疑をかけられているのでピリピリしてるのかと」

 それを聞いたカラスの微妙な表情の変化をフレイラは気付かなかった。ただ少し黙ってしまったフレイラはカラスを気に掛けた。

「どうしました?」

「なんでもない。それよりあんな奴よりお嬢さんの話が聞きたいな」

 カラスの表情は直ぐに戻り先程と同じ様にヘラヘラした態度に早変わりした。

「私ですか?」

「そう、護衛対象の事を知らないとな。お嬢さんはここに来て長いのか?」

「私は五日前にここに来ました」

「その前は?」

「魔術学校で研究を」

 フレイラの話を聞いたカラスは納得した表情をした。

「通りで場違いな子がいる訳だ」

「おかしいですか?」

「そうだな。戦場にいるには瞳が綺麗すぎる」

「よく分かりませんが褒められてます?」

「ああ、戦争なんて知らないそのままの綺麗な瞳でいてくれ」

 相変わらずカラスの言ってる事が分からないフレイラだが詳しく聞いても望むような返答が返ってくるとは思えずそのまま聞き流した。

「分かりました。じゃあ次は私から質問です」

「なんだ?」

「カラスさんはどうして用心棒に?戦いを毛嫌いしてるようですが?」

 フレイラの質問にカラスは遠くを見つめ黙ってしまった。

「つまらない話さ。生きる為にはこれしか無かった。それだけさ」

「他に選択肢は?」

「あったかもな。だがコイツを手に取った時点で他の何者にもなれない」

 そう言ってカラスは銃を取り出した。カラスはその銃で多くの命を奪ってきたのだろう。初めて見る物であるが使い込まれているのがフレイラでも分かる位であった。

「今から別の仕事に就くのは?遠い土地で静かに暮らすとか」

「それも考えたが俺はそれなりに有名人でな?周りが放ってくれないのさ、いい奴も悪い奴も」

 カラスは銃を眺めながら寂しそうに答えた。

「こういう世界に入ったら簡単に足抜けはできない。死ぬその時まで安寧は訪れないのさ」

「でしたらこちらにいる間は安心して下さい。ここには貴方を知る人は誰もいません」

 フレイラの言葉にカラスの頬が僅かに緩んだ。

「それもそうだな。せっかくの異世界、楽しまなきゃ損だよな」

 そう思った矢先、要塞に警報が響いた。

「敵襲!敵襲!」

 警報を聞いたカラスは大きくため息を吐いた。

「やれやれ、のんびりバカンスとはいかないようだな」

「すいません、カラスさんよろしくお願いします」

「ああ、地獄の悪魔からだって守ってやるさ」

 二人は屋上に向かって走り出した。

 

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