流出した機密
翌日の作戦室は敵を退けたのにも関わらず重く張り詰めた空気をしていた。
今日は珍しくフレイラが誰よりも早く入室しており緊張の面持ちで席に座って作戦会議が始まるのを待っていた。
しばらくすると全員が集まり一際険しい表情をしているベイルが口を開いた。
「昨日フレイラから報告があり調査したが、敵に主人公召喚の機密が漏れた可能性がある。更に研究資料も持ち出され向こうも同じ様に主人公召喚を使って来る可能性も出てきた」
その発言にサボは立ち上がりフレイラを睨みつけた。
「おい!どういう事だ召喚士!お前が保管してるのでは無かったのか!」
今は元気に騒いでいるサボだが昨日はジェイドの襲撃により骨折をしていた。それを治したのはサボが糾弾しているフレイラである。
そんなフレイラは俯きながら淡々と事実を話した。
「昨日、私の荷物が荒らされており研究資料だけが無くなっていました」
「その事をフレイラから報告を受け、他に要塞の資料が持ち出されてないか調べたがすべて無事だった。つまり敵は研究資料のみ持ち去った事になる」
ベイルの発言にサボは更に大声を上げた。
「これは重大な過失です!部隊長が機密にしておきながら管理を怠ったのですから」
「申し訳ありません」
「謝って済む問題ではない!」
サボはこれまでの恨みを晴らす様にこれでもかとフレイラを攻め続けた。それをフレイラは黙って受け止めるしかない。
そんなサボの糾弾にミシェルが待ったをかけた。
「私からもいいですか?」
「話してみろ。サボは少し落ち着け」
ベイルはミシェルの発言を許可した。サボはまだ言い足りないといった顔だがとりあえず黙った。
「何故ジェイドは召喚魔法の機密に気付いたのでしょうか?ジェイドはフレイラを見た瞬間に魔導士だと気が付きました」
「それは服装のせいだろう」
ミシェルの考えに間髪入れずにサボが反論する。
「そしてジェイドは召喚された人間を探してました。主人公召喚を知らなければそんな事をしない筈です」
「だからなんだ?研究資料を見たのだろう!」
「要塞に侵入してわざわざ倉庫に入って鞄を漁ったとでも?そんな訳ないでしょう。機密を漏らした人物がいる筈です」
ミシェルはことごくサボの反論を跳ね返し、その考えに作戦室はざわついた。
その中でもベイルだけが冷静である。
「ミシェルの言い分はおそらく正しい。だが今は犯人探しをしてる場合では無い。フレイラ、もしウェンスター軍が主人公召喚を使ってきたらどうなる?」
フレイラは考え始めた。これまで召喚された人間を思い出し敵軍が使った場合どのような事態が想定されるか。
「全く予想がつきませんがこちらと同じように一筋縄ではいかないのでは?何度も使用してるこちらがその点では有利かと」
フレイラは冷静に状況を分析した。敵軍はあの癖の強い人達と仲良く出来るか疑問であった。
フレイラの意見に同意したミシェルは更に加えて話し始めた。
「主人公召喚無しにしても敵軍の脅威は変わりません。向こうにもしもの時の切り札が渡ったと見るべきでは?」
フレイラとミシェルの考えを聞いたベイルは納得をした。
「確かにそうだな。それとハルフルト要塞から伝令が届いた」
ハルフルト要塞からの伝令と聞き一同は気を引き締めた。内容によっては今後の戦争を大きく左右するからだ。
「予定より早く兵が集まっているらしい。早く攻勢を仕掛けられるかもしれない」
「おお」「よかった」「これで一息つける」
一同、緊張が解け安堵の息を漏らす。そんな緩んだ空気をベイルは引き締め直した。
「それも今日を生き延びてからだ。必ずこの戦いに勝利するぞ」
「「はっ!」」
ベイルの言葉に一同は姿勢を正し聞き入れた。
「ではフレイラ主人公召喚を頼む」
「はい!」
ベイルの命令によりフレイラは立ち上がった。いつもの少し開けた場所に行き、いつものように杖を握り魔力を込める。
「英雄譚の主人公よ!契約をここに!我が声に応え、現世に顕現しその力を大いに奮え!」
魔力を込めて呪文を唱えた。そして今回は魔法陣は床に現れた。
「今回はいつも通りだな」
少し心配していたベイルはひとまず安心した。
魔法陣が光ると一人の男性が姿を現した。どこか気怠そうな男は周囲を見回して口を開いた。
「やれやれ、ここは何処だ?地獄って訳じゃなさそうだな」