逆襲の魔導騎士
コレリア要塞で偶発的な辱めを受けたジェイドは鎧に魔法をかけ直して、何事もなく自軍の野営地に帰ってきた。
「ご無事でしたか!」
部下に出迎えられたジェイドは上半身裸にされ胸を鷲掴みにされたのに出発した時と何も変わらぬ雰囲気を醸し出していた。
「当たり前だ。そして奴らの情報も手にいれた」
堂々と自身の戦果を誇るジェイドはまさに帝国の魔導騎士の鑑であった。
「彼らは一体なんなのですか?」
「召喚魔法によって召喚された異界の英雄らしい」
「だから見たこともない力を使っていたのです」」
「召喚魔法にも色々と制約があるらしく一筋縄ではいかないらしい」
「よくそこまでの情報を」
「どこの軍にも少し脅せばペラペラ喋る口の軽い奴がいるものさ」
「なるほど」
「そしてこれも手に入れた」
ジェイドは鎧の中から紙の束を取り出した。紙には多くの走り書きがされており部下はそれを渡されたが何も読めなかった。
「この走り書きは?」
「召喚魔法に関する研究資料だ」
「と言うことはこちらも召喚魔法を使えるのですね!」
部下の声は少し高くなり明らかに浮き足だっていた。これまで散々煮湯を飲まされてきたウェンスター軍にとってこれほど嬉しい成果はなかった。
しかしジェイドは喜んでいる様ではない。
「ただの保険だ。そんなもの使わなくとも攻略はできる」
「いいのですか?」
「私は使わないだけだ。ダイナーが帰ってきたら渡しておけ」
「分かりました」
ジェイドは改めて部下に向き直り命令を伝えた。
「明日、全部隊を動員して再度侵攻を仕掛ける。準備しておけ。奴らの手の内が分かった今、恐れる事は何もない」
「はっ!」
部下を残し一人歩いていくジェイドはつぶやいた。
「必ずやってみせる……誰かの力などいらない」
内に闘志を燃やすジェイドにはそれ相応の理由があった。
騎士の家系で女として生まれたジェイドは冷遇されて育ってきた。そこでジェイドは魔法を習得して誰にも負けない実力を身につけた。
そして多くの戦果を上げたのにも関わらず女と言うだけで同期とは差がつけられて、兵士からは舐められ、命令を無視する者が現れた。
ジェイドは鎧で全身を覆い女である事を隠した。そうしてようやくジェイドは一人の騎士として認められる様になった。
だからジェイドは負けるわけにはいかなかった。これまで冷遇してきた家族に、馬鹿にしてきた同期に、見下す部下たちを見返すために。
そしてそれはジェイドの実力で証明しなければならなかった。
一方ダイナーは村人が引くロバの上に乗ってのんびりと街道を進んでいた。
「遅い!走れないのか!」
ロバの上でダイナーはギャーギャー文句を言ってるが村人もロバも歩く速度を変えない。
「すいません、ロバは早く走れないもので」
イライラするダイナーは遠くを見つめまったく見えてこない目的地を探した。
「それでいつになったら国境に着くんだ?」
ダイナーの質問に村人は振り返りのんびり答えた。
「国境?軍人さんは都に行きたいのでは?ワシらは都に向かっておりますが?」
「違う!国境に向かうんだ!」
村人の勘違いにダイナーは割れんばりの声で怒鳴り散らした。
「軍人さんは知らないかもしれませんが国境は近付いちゃいけないんです」
「そんな事は知っている!だが今は戦争をしてるんだ!」
「あれまーそうだったんですか。おっかねー、知らなかった」
「そんな事はどうでもいい!早く国境に向かえ!」
いつまでも方向転換しない村人にさらに大きな声で怒鳴るとようやく「分かりました」と言い、国境に向けて歩き出した。
ウェンスター帝国によるセントミドル王国への侵攻は軍部だけで内密に進められており、この事を知る民はいなかった。まさか内密にした事によってこの様な弊害が生まれるとは誰も考えていなかったであろう。
フレイラは荒らされた倉庫を片付けていた。
ジェイドに侵入を許した為、持ってきてた荷物を荒らされて鞄から中身が飛び出していた。せっかく収集した研究資料もぐちゃぐちゃにされている。
散らかった荷物を整理しているとフレイラはある事に気が付いた。
「あれ?資料は?まさか!」
召喚魔法の研究資料がごっそり無くなっていたのだ。それに気がついたフレイラは改めて荷物を整理し始めた。
「ない……ない……」
しかしどんなに探しても研究資料は見つからなかった。荷物が勝手に動く訳がないので考えられる可能性は一つ。
「奪われた……」
フレイラはこの事をベイルに伝える為、倉庫から慌てて飛び出していった。