信頼される魔導士
深く眠っていたフレイラを起こしたのは朝を知らせる鐘の音であった。
昨日は鐘が鳴れば起きれたが今日は違う。体が重く、起きたくても体が言うことを聞かなかった。
「うぅぅ……辛い……怠い……」
フレイラはうめき声をあげて布団から這いずるように脱出し、眠気眼を擦りつつ身支度を整えた。その身支度もいつもより数倍時間が掛かり出来栄えもお粗末なものであった。
全ての支度が終わっても一向に眠気は取れなかったが重い体を何とか動かして食堂に向かった。
食堂に向かう途中フレイラはすれ違う兵士達から爽やかな挨拶をされた。それに何の疑問も思わず回らない頭で挨拶を返すと兵士は嬉しそうに去っていく。
食堂の中でもフレイラに対しての接し方は昨日と違った。
厨房から朝食をもらいウトウト食べていると先に食べ終わった兵士達が声を掛けてきた。
「昨日の歌と踊り最高でした!」「これからも応援してます」「次の舞台楽しみにしてます!」
フレイラは眠いこともあり「はあ、どうも」としか返せなかった。
硬い朝食を食べたことにより段々と目が覚めてきたフレイラはやっと兵士達が優しくなったの理由に気づいた。
「昨日のやつか……」
ちょっと歌って踊っただけでホイホイ優しくなった兵士達にフレイラは脱力感を味わい、キラリに今度会った時は文句を言ってやろうと決意した。
その後も多くの兵士に声を掛けられ愛想笑いでなんとか凌いでいった。
食事を終えたフレイラは急いで作戦室に向かった。向かう途中も多くの兵士に声を掛けられ、歩きながら会釈をし愛想笑いで対応した。
作戦室に最後に入室したフレイラは申し訳なさそうにコソコソと席に座った。
ベイルは全員が集まった事を確認すると話し始めた。
「では始めようか。ミシェル、報告を頼む」
「はい、昨日のトゥインクルスターズの初ライブ?のおかげこちらの被害は全くありませんでした。まさかの一番期待していなかった彼女が一番の戦果をあげる結果となりました」
ミシェルの説明に集まった小隊長達はウンウンと頷いている。
「そして兵士達の士気も高くなり、城壁の復旧作業がかなり捗っています。これもトゥインクルスターズのおかげでしょう」
小隊長達は小さな歓声を上げたがフレイラは恥ずかしくて顔を上げられずジッと床を凝視していた。
ミシェルの報告が終わりベイルが話し始めた。
「人は見かけによらないと言う事がこれまでの経験によりよく分かった。そして召喚魔法の有益性も証明されたと考えていいだろう。そこで私はフレイラと召喚された者を全力で支援しようと思う」
突然のベイルの提案にフレイラが慌てて質問した。
「えっと支援とは具体的になんですか?」
「これまでフレイラに召喚された者達への対応を丸投げしてきた。だが今回から我々も彼らの要望に全力で応えよう思う」
ベイルは真っ直ぐにフレイラを見て語った。その目はこれまでの懐疑的なものではなく、ようやくフレイラは認められたと心から喜んだ。
「ありがとうございます」
「これがこの戦争で唯一生き残れる方法だ」
「ご期待に応えられるよう頑張ります」
フレイラとの話が終わったベイルは小隊長を鋭い目つきで見回した。
「そしてこの時より主人公召喚は部隊の最重要機密とする。各小隊は必ずこの事を伝える事」
「了解しました」
ベイルの命令に小隊長達は従った。サボはあまり快くない顔をしているが上官の命令では仕方がなく、渋々従った。
「では早速召喚してくれ」
「はい!」
ベイルの指示にフレイラは杖を持ち立ち上がった。フレイラはベイル達に認められこれまで以上に召喚に気合が入れている。
少し開けた場所に立ち、いつものように杖を握り魔力を込める。
「英雄譚の主人公よ!契約をここに!我が声に応え、現世に顕現しその力を大いに奮え!」
確かに魔力を込めて正確に呪文を唱えた。しかしフレイラが呪文を唱えても魔法陣が何故か出てこなかった。
「ん?出てこない?何で?」
こんな事はフレイラにとって初めての経験であり混乱していた。他の召喚魔法をした時でもこんな事は過去起きた事はなかった。
フレイラが戸惑っていると突如頭上が明るくなった。上を見ると本来床に出現する魔法陣が天井に現れていた。
「え?何で上に?」
天井を見上げて戸惑うフレイラにただ事ではないと感じたベイルが声を掛けた。
「これは大丈夫なのか?」
「分かりません……こんな事初めてなので……」
「中止できるか?」
「いえ、今からでは間に合いません」
フレイラが訳も分からず焦っていると天井で光る魔法陣から男の悲鳴が聞こえてきた。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
魔法陣から聞こえる悲鳴にフレイラが何も出来ず慌てていると、魔法陣から突如十代位の男が現れた。
「きゃあ!」
突然の事でフレイラは逃げる事が出来ず、男はフレイラに覆い被さる形でドスンと落ちてしまった。
「いてて、ん?何だ?この感触?」
男は自身の手にある柔らかな感触を手を握りながら確かめた。モミモミモミ、とそれはそれは柔らかで何処か遠い昔を思い出させるような安心する揉み心地であった。
男のその手はフレイラの胸に丁度当たっており、男が気づいた時にはもう遅かった。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
フレイラは悲鳴を上げると男の頬に全力でビンタをかました。