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それぞれの日没

キラリによってかなり遠くまで飛ばされたダイナーは森の中を彷徨い、ようやく人里に出る事ができた。

 軍服こそ着ているがあちらこちら破れており、髪もボサボサで威厳なんてものはかけらも無かった。

「くそ!何で俺がこんな目に遭わないといけないんだ!くそ!くそ!くそ!」

 ダイナーは村の入り口に立っている看板を怒りに任せて蹴っ飛ばした。村を見つけた喜びよりもキラリへの恨みの方が遥かに大きかった。

「あのガキもふざけた女も絶対にぶっ殺してやる!」

 ダイナーは村に入ると一番近くにいた村人の老いた男に詰め寄った。

「おい!ここは何処だ!」

「これは軍人様じゃないですか!こんな村に何の用で?」

 ダイナーはイラついているが老人は呑気な受け答えをしている。それが余計にダイナーをイラつかせた。

「いいから、この村は何処にあると聞いてるんだ!」

「ここはセントミドルの国境近くの村です」

「国境まで飛ばされたのか……」

 コレリア要塞から国境までそれなりに距離があり、ダイナーはハツメによって飛ばされた時よりも更に長い距離を移動していた。

 ぶつぶつ独り言を言うダイナーに老人は心配そうに声を掛けた。

「軍人様は迷子ですか?」

「うるさい!少し黙ってろ!……待て?セントミドルの国境近くと言ったな」

「はい、そうですが」

 ダイナーはある事に気が付いた。

「ここはウェスター帝国なのか?」

「当然じゃないですか、軍人様はウェスターの人でしょう?」

「国境を越えただと!」

「何を言ってるんですか?」

 勝手に騒いだり怒鳴ったり忙しいダイナーに老人は困っている。そんな老人を気にかける事なくダイナーはぶつぶつ独り言を言っていた。

 ひとしきり独り言が終わると今度は「馬を貸せ!」と老人に命令した。

「馬はおりません、ロバなら」

「それでもいい!」

「ならこちらへお越し下さい」

「早く案内しろ!早く歩け!」

「まあまあ、ロバは逃げません」

 ノロノロ歩く老人にダイナーはせっつきながら飼育小屋に向かった。


「報告します。ダイナー中尉の行方は未だに掴めず、隣村の住人に聞き込みをし捜索範囲を広げることになりました」

 野営地のテントの中で部下の報告をジェイドは聞いていた。しかし兜で顔を隠している為ちゃんと聞いているのか分からなかった。

 黙っているジェイドに部下が伝わったかと心配していると、「分かった。これからは私がこの部隊の指揮を取る。明日攻勢を仕掛ける」と感情の読めない声でジェイドが答えた。

「……はい」

 しかしジェイドが返事をしたのに部下の表情は曇ったままであった。返事の歯切れの悪い部下をジェイドは問い詰めた。

「何だ?何か不満か?」

「いえ、度重なる敗走により兵の士気が下がっており、どれだけ活躍できるか……」

 軍の現状を恐る恐る部下は話した。ダイナーは分かりやすく恐ろしい人物であったが、ジェイドは全く分からない。

 表情も兜で隠れており声も籠っている為、怒っているのか、喜んでいるのかさえ分からなかった。

「三度も負け、負け癖がついたか」

「そう言わざるおえないでしょう」

「結局、向こうの魔導士は何なのだ?遠くから見ていたがあんな魔法は見た事がない」

「偵察部隊からは一人の魔導士が要塞内にいる事は確認していますが、それ以上は……」

「何一つ分かっていないのだな」

「申し訳ございません」

 ジェイドの感情が読めない為部下はとりあえず謝った。

「よい、ならば明日は私一人で行く」

「危険です!」

「私の力を忘れたか?如何なる攻撃も効かぬ鉄壁の魔法。それを施したこの鎧を傷付ける者などこの世にいやしない」

 ジェイドの感情は読み取り辛いが自信が溢れている事だけは分かった。これ以上反論しても何をされるか想像がつかなかった部下は「存じております」と早々に引き下がった。

「足手纏いはいらない。一人の方が都合がいい」

 そう言いとジェイドは一人でテントから出て行ってしまった。


 フレイラは寝室代わりの倉庫に入るとそのまま布団に倒れ込んだ。疲労が限界に達しローブも脱がずそのまま泥のように眠ってしまった。

 いつもの様に何か考えながら眠りに落ちるのではなく、まるで気絶するかの様に一瞬であった。

 フレイラがこの要塞に来てから一番疲れた一日であった。

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