戦場に届け!キラキラスマイル!
コレリア要塞に進軍するウェスター軍は昨日と同規模のものである。至る所が崩れ落ちた要塞に少ない戦力、セントミドル軍は今日も圧倒的に劣勢であった。
頼みの綱である召喚された主人公も見たところ戦力に全くならない。
ベイルはときおり部下からフレイラ達の様子を報告されていたが、最初から最後まで歌って踊っていたらしい。
毎度失望しては活躍してきた主人公達だったが、今回ばかりはベイルも主人公召喚は失敗したと思っていた。
ズンズンと進軍してくるウェスター軍が弓の射程圏内に入ったと同時にベイルは一斉掃射の指示を出そうとした。
しかしウェスター軍の動きが突如止まった。ウェスター軍を遠くから見ていると動揺しているようにベイルの目には映った。
そして何かを指差している。それはコレリア要塞のさらに上、ウェスター軍は明らかに何かを見ていた。
ベイルが振り向くとやたらとキラキラした円盤が空から降りてきていた。
「これがキラリの力なのか?」
その戦場に現れた謎の円盤はゆっくりと移動している。円盤がウェスター軍とコレリア要塞の丁度間に降りてくると、円盤の上に二人の人影が見えた。
フレイラとキラリである。ただ二人は何だが言い争っているようにベイルは見えた。キラリが座り込み騒ぐフレイラに対して何やら説得している。その声がベイルに届くと実際二人は言い争っていた。
「キラリさん!こんな服着るなんて聞いてません!」
そうキラリに訴えかけるフレイラの服はキラリと同じような服で青の色違いであった。丈は短く生足がこれでもかと露出していた。
「ステージ衣装だよ?着るのは当たり前でしょ?」
「無理です!無理です!丈が短すぎます!」
フレイラはしゃがんで足を隠そうと必死であるがどう頑張っても足の露出は少なくならない。
「大丈夫!中は絶対見えない仕様だから」
「それでもこんなに足を見せるなんて!」
「これから観客の前でパフォーマンスをするんだから、これくらいで弱音を吐いちゃダメ!ほらキラキラ笑顔!もう曲が始まるよ!」
「あーもう!」
フレイラがヤケクソ気味に立ち上がり位置についた。
「何やってんだ?」
ベイルは二人が何をやっているか分からない。ただその異常な光景を黙って見守ることしか出来なかった。
二人は円盤の中央に立ち、ポーズを決めて静止した。
戦場にやたらと明るい曲が流れ始めると円盤から色とりどりのライトが光り、戦場を華やかに照らした。
「「君もフレ!フレ!フレ!勇気出して!空を!ホップ!ステップ!ジャンプ!駆けていく!今日の辛い思い出も明日には笑顔に変わるーからー」」
フレイラとキラリは歌い、踊り、周りの兵士は唖然として動きを止めた。完全に理解が追いついていない。
この場で理解できているのはキラリだけでありフレイラさえも何も分かっていない。
「何だこの聞いた事のない明るい曲と元気が出そうな薄っぺらい歌詞は……」
ベイルの辛辣な感想を述べたがそんな声は円盤で踊る二人には届かない。
フレイラが一歩前に出て一人で歌い出した。
「願いを星に込めて涙を流した長い夜、明日が不安で逃げ出しそうになった日々」
次にフレイラと入れ替わる形でキラリが前に出て歌い出す。
「だけど隣を見て、そこにきっといるはず、思いがつながる仲間達の笑顔が」
二人が並ぶとサビに入った。
「「君もフレ!フレ!フレ!勇気出して!悩みなんてキック!蹴り飛ばして!仲間といればどんな壁も乗り越えられるはず」」
キラリは軽やかに踊っているがフレイラの動きはぎこちない。
――ステップ、ステップ、手を振って……あんなに練習したのに上手くいかない!
焦るフレイラにキラリは笑顔を見せる。そして口をパクパクさせて声を出さずフレイラに何か伝えた。
言葉を発せずとも練習中ずっとキラリが言ってた言葉である為フレイラには十分伝わった。
――え・が・お
フレイラはうまく踊ることを諦めて笑顔を作りぎこちないながらも全力で踊った。
――そうだ!私はみんなに笑顔を届ける為にアイドルになったんだ!私の思いを歌と踊りに乗せて伝えるんだ!
フレイラは疲れからかキラリに思考を毒され始めていた。
「「僕とホップ!ステップ!ジャンプ!飛びそう!みんな大好き!ありがとう!希望の星が必ず君に降り注ぐかーらねー」」
曲の最後に向けてフレイラは思いを込めて手を振りステップを踏む。
「キラッ!キラッ!キラッ!ホープユアスター!また明日!輝くからー!」
最後に二人で決めポーズをすると曲は終わり、小さな星屑が辺りに降り注いだ。
呆然とする戦場に一人テンションの高いキラリが手を振りながら挨拶を始めた。
「みんなー!トゥインクルスターズの初ライブに来てくれてありがとう!トゥインクルスターズの元気担当!星川キラリと!」
曲が終わり急に冷静になったフレイラはあり得ない程の羞恥心に襲われて縮こまった。
「……クール担当……フレイラです……」
フレイラは小声で俯きながら自己紹介をした。そんなフレイラの事などお構いなしにキラリは喋り続ける。
「今日は頑張るみんなの為に元気がでる歌で応援したいと思いまーす!いい人も悪い人もみんな一緒に盛り上がって行こうね!」
「いや、あのセントミドル兵だけを応援して下さい!」
「観客は多ければ多い方がいいの!ライブの常識だよ!」
「いや、戦場なんですけど」
二人で言い争いをしているとウェスター軍の中から怒りで体を振るわすダイナーが現れた。
「舐めるな!」
そう叫ぶと杖を掲げて火の玉を出した。ダイナーは昨日ハツメに奪われてしまったので代用品の杖を使っている。
円盤に火の玉が迫り大爆発を起こした。
「きゃあ!なに!」
突如揺れ出す円盤に態勢を崩したキラリは座り込んでいるフレイラの肩に掴みかかり何とか転ばすに済んだ。
「ダイナーです!爆発魔法を使うウェスターの魔導士です!」
フレイラがダイナーの姿を見てキラリに説明をする。
「あのガキはどうした!出てこい!」
ダイナーは二人に向かって叫んでいるがキラリは何のことか分からない。隣でへたり込んでいるフレイラにコソッと聞いてみた。
「あのガキって誰の事?」
「昨日召喚したハツメちゃんです。もう元の世界に帰りました」
「そうなのね!分かったよ!」
するとキラリはダイナーに向かって無邪気に大声を出してフレイラから聞いた事を伝えた。
「先に帰ったってーー!ダイナーさーん!ここにはもういないよー!」
「ちょっと!キラリさん!」
フレイラが止めようとするがキラリは止まらない。
「ごめんねー!また来てねー!」
額に青筋を浮き上がらせるダイナーはキラリの悪意なき煽りを聞き、遂に我慢の限界を迎えた。
「どんだけ俺を馬鹿にすれば気が済むんだ!」
ダイナーが杖に魔力を込めると無数の火の玉が現れた。
「撃ち落としてやる!」
ダイナーは火の玉を全て円盤に向かって放ち、当たった火の玉は爆発を起こして円盤を破壊していく。
円盤は激しく揺れ、衝撃に耐え切れず緩やかに墜落していく。
「きゃあ!ステージが!」
「落ちます!落ちます!」
二人で必死に円盤にしがみつき振り落とされないように耐えていると、ドーンと大きな音を立てて円盤は遂に地面へと墜落してしまった。
「もう!なんて事するの!大切なライブを滅茶苦茶にして!もう許さないんだから!」
キラリはバラバラになった円盤のから這い出ると先端に星が付いた杖を手に取った。
「許さないのは俺の方だ!喰らえ!」
ダイナーは特大の火の玉を出した。それは辺り一体を赤く照らし、周りにいるウェスター兵も巻き込まれてはいけないと逃げ出すほどの大きさであった。フレイラは見上げて口を開け呆然とした。
「どうした!恐怖で声も出ねーのか?」
「いや……違う……」
フレイラが指差したのは火の玉よりさらに上。
「なんだ?……なんだありゃ……」
フレイラが見ていたのは特大の火の玉の更に上に現れた巨大な星である。それはダイナーが出した火の玉を軽く凌駕するほどの大きさであり、火の玉が照らした大地に大きな影を落とした。
「ちょっと待て!待て!待て!待て!」
ダイナーは焦り、火の玉を星に当てるが最も簡単に爆発は消えてしまった。
「星になっちゃえ!トゥインクルビックバン!!」
キラリの掛け声ともに巨大な星はダイナーの真上に落ちて特大な爆発を起こし辺りに小さな星が飛び散った。
「ぐうああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
死んだかと思われたダイナーだが何故か生きており、爆発の衝撃で空高く飛びキラリと光って遥か彼方へと消えていった。
「うわあああぁぁぁ逃げろぉ!!」
とんでもない攻撃を見せられたウェスター兵は撤退していった。明らかに人間が放っていい攻撃の規模を遥かに超えていたからだ。
「もう!ステージを壊すし、勝手に帰るしなんなの!」
ウェスター軍に対してプンスカ怒るキラリの後ろからヌルリとフレイラが立ち上がった。
「キラリさん……ちょっといいですか?」
「なに?」
呑気な声を出すキラリとは裏腹にフレイラの声は冷めた感情のないものであった。
「キラリさんは確か戦えないと言っていませんでした?先程の魔法は?」
「戦いは苦手だけど出来ないとは言ってないよ?」
「それと今の魔法はこれまでの歌と踊りに関係はあるのですか?」
「関係ないよ、唱えればいつでも出せるよ?」
キラリの説明にフレイラの顔は悪魔のようになりキラリに襲いかかった。
「殺す!殺す!お前を殺して私も死ぬ!」
「ちょっとフレイラちゃーん?!どーしたのー!?」
先程まで戦場であったこの場所でフレイラはキラリを追いかけ回した。
「契約は果たされました。さっさと帰って下さい」
キラリに対して辛辣な対応をするフレイラだが、周りの兵士はキラリの思いが届いたのか毒されたのか定かではないが悲しんでいる。
「うぅキラリちゃん……帰らないで」「また来てください!」「ライブ最高でした!」
キラリを取り囲み感謝を述べ、泣き、叫ぶ者もいる。そんな異常な空間でキラリは真摯に対応していた。
「ごめんねキラリも他の人の願いを叶えないといけないからずっとはいられないの」
「そんなー」
兵士達の悲痛な声にキラリは人肌脱ぐことにした。
「じゃあ、最後に二人で歌って終わろう!トゥインクルスターズのさよならライブ!」
「いえーーい!!」
キラリと兵士達は盛り上がっているがフレイラは違う。
「やりません!ほら早く!帰った!帰った!」
フレイラがキラリの背中をグイグイ押して魔法陣に押し込もうとすると、魔法陣が勝手に光り出して謎の小さな生物が飛び出した。
「ここにいましたか!姫様!」
「げっ!爺や!」
爺やと呼ばれたのは小さな謎の生物は立派な髭を蓄えていた。どういう原理か分からないが宙に浮いており、キラリの周りをぐるぐる周り怒っている。
「げっ!ではありませんぞ!勉強をから逃げてこんなところで遊んでいたとは!」
「遊んでなんかいないよ!魔法少女としてみんなの願いを叶えていたの!」
「嘘はいけませんぞ!そんな事を言って好き勝手に歌っていたのを女王様は見ておいです」
「お母様に見られてたの!」
爺やが女王の名を出すとキラリは焦り震え出した。
「後できつく叱ると仰られておりました」
「そんなー」
周りを完全に無視する愉快な二人にフレイラは恐る恐る質問をした。
「あのーキラリさん?姫様とか女王様って?」
フレイラを見た爺やは「やれやれ」と呆れ質問に答えてくれた。
「また身分を隠していたのですか?全く……皆様姫様がご迷惑をおかけして申し訳ありません。こちらの方は星の国の第一王女、スターロード・キラリ・ホイップ様でございます」
「ごめんねーお姫様って言うとみんな畏まっちゃうから」
お姫様と自称している割には軽い対応するキラリの背中を爺やはグイグイと押して魔法陣の上へと連れていく。
「ほらほら帰りますよ。女王様のお説教に勉強とやることは沢山あるのですから」
「もう!分かったよ!最後にお別れの挨拶だけ」
「手短に頼みますぞ」
爺やの許可をもらうとキラリはフレイラに駆け寄った。
「じゃあねフレイラちゃん!キラキラ笑顔を忘れたら直ぐに呼んでね!どこでも駆け付けるから!」
「あ、ありがとうございます……」
キラリはフレイラと握手をして無邪気な笑顔を振りまいたがフレイラは固まったままである。
「みんなもじゃあねー!バイバーイ!」
キラリは大きく手を振り魔法陣に乗ると頭を深々と下げる爺やと共に消えてしまった。
キラリがいなくなった瞬間、フレイラは膝から崩れ落ちた。その顔は生気が完全に抜けており真っ青であった。
「やばい、やばい、私お姫様になんて口の聞き方を……星の国ってどこ?不敬罪で捕まったりするのかな」
項垂れるフレイラに周りの兵士は励ます。
「大丈夫です!同じトゥインクルスターズでしょ!」「クール担当フレイラさん!頑張って!」「これからも応援します!」
兵士達の励ましにフレイラは叫んだ。
「その名前で呼ぶなーー!」