表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/27

キラッと!ピカっと!星川キラリ登場!

「さあ!みんなの悩みを言ってみて!キラリがキラッと解決しちゃうから!」

 キラリと名乗る少女は特徴的な長い金髪のツインテールを楽しげに揺らしていた。薄いピンクのフリフリしたやたらと丈の短いドレスのあちこちに星のマークがあしらっており、見るもの全てに強烈な印象を叩きつけていた。

 そのテンションと存在感に皆は圧倒され言葉を発することが出来ず固まっていた。

「ん?どうしたの?私を呼んだのは貴方よね?」

 キラリが不思議そうな顔をしてフレイラを覗き込んだ。キラリの存在感に圧倒されていたフレイラはようやく口を開いた。

「あ、すいません。私の名前はフレイラです。召喚魔法により貴方を呼び出しました」

「私の名前は星川キラリ!魔法少女見習い!よろしくね!」

 キラリはフレイラの手を握りギュッと握手をした。キラリの手にも派手な手袋とブレスレットをつけていた。

「召喚魔法って事は貴方も魔法少女?魔法少女からのお助け要請は初めて!」

 キラリはフレイラの手を握り嬉しそうにしているがフレイラの反応は微妙である。

「少女と言える年齢ではないのですが……」

「大丈夫!まだまだ魔法少女だよ!」

「ありがとうございます……」

 何が大丈夫かフレイラは全く分からなかったがキラリのテンションと圧に押されてしまい、お礼を言うしかなかった。

「私にどんな悩みでも言ってね!恋の相談も美味しいお菓子の作りもなんでも手伝うから!」

 フレイラから手を離したキラリは瞳の近くでピースサインを作り、バッチリとポーズを決めた。

フレイラはベイルの方を向き「それはベイル部隊長から説明があります。お願いします」とキラリを押し付けた。

「う、私か……まあ、そうだよな……」

 キラリのテンションに圧倒されたベイルは話を振るなと言わんばかりの嫌な顔をしたが、丁寧に今の戦況にキラリに説明した。

 ベイルの説明を大きな反応したり驚いたりとキラリは忙しく表情をコロコロ変えながら聞いた。ベイルはキラリが反応する度に苦い顔をしたが途中から無視して話を続けることにした。

 ひとしきり説明が終わると、

「なるほど、じゃあみんなは悪の帝国から国を守る為に頑張っているのね」

「まあ、ざっくりと言えばそうだ」

 あれだけ大袈裟に反応したのにキラリはあっさりと話を纏めた。ベイルは本当に話を理解したのか不安になったがこれ以上話すのも辛かったのでそのまま流した。

「でもキラリは夢と希望の魔法少女だから戦いは苦手なの」

 キラリは申し訳なさそうにしょんぼりして話しているが皆は、

 ――だろうな

 と心の中で思い、誰もキラリの活躍に期待していなかった。

 そんな中、キラリは衝撃の提案をした。

「そう、だから代わりに頑張ってるみんなを歌と踊りで応援しちゃう!」

「言うほど代わりか?」

「キラッキラなステージを見れば必ずみんな頑張れるから!心のキラメキは明日への希望だから!」

「そうか、とりあえずやってみてくれ」

 キラリの発言に段々とベイルの対応が雑になっていた。そんな事を知ってか知らずかキラリは元気よく返事をした。

「はーい!じゃあ行くよフレイラ!いっぱい練習しなきゃね」

「頑張ってください」

 呑気に返事をしたフレイラにキラリはキョトンとした顔をした。

「なに言ってるの!フレイラもやるんだよ?」

「え?私も!」

 完全に他人事だと思っていたフレイラは目を見開き驚いている。

「同じ魔法少女なんだから!サボっちゃダメ!」

「いや!魔法少女じゃないです!本当です」

「安心して!魔法を使う女の子はみんな魔法少女だから!フレイラもその資格があるんだよ!」

「いや、そうじゃなくて」

「フレイラ、頑張ってくれ」

「頑張って下さい」

 ベイルとミシェルがフレイラに応援の言葉を送るがフレイラは納得していない。

「ベイル部隊長!ミシェルさん!助けて下さい!」

 ベイルはフレイラの言葉を無視して全てを押し付けた。そんなベイルの対応にフレイラは初めて裏切りを感じた。

 そんなフレイラの胸中を知ってか知らずかキラリはお構いなしに話を進めていく。

「ほら!みんなも応援してくれてる!これを更に大きな応援にして返そうね!」

「話を進めないで!こら!引っ張らないで!力強くない?!」

 フレイラはキラリに腕を掴まれて作戦室から強引に連れ出された。フレイラは最後まで抵抗する姿勢を見せたがやたらと力強いキラリになす術はなかった。

 

 食堂の机と椅子を端によせてキラリとフレイラは一緒に踊りの練習していた。

「はい、ワンツー!ワンツー!ステップ、ステップ!クルッと回ってニッコリ笑顔!」

「はぁ……はぁ……」

 一向に疲れの見せないキラリと違い、フレイラは顔からダラダラ汗が流れ息は完全にあがっていた。そんな様子のフレイラにキラリは容赦なくレッスンを続ける。

「フレイラちゃーん!笑顔!笑顔!」

 キラリの指導が入るがフレイラは笑顔を作る気力も無かった。

「ちょっと………休憩を……」

「いいよー少し休もう!」

 キラリの慈悲によりレッスンは一時中断しフレイラはその場に座り込み肩で息をした。目の焦点も合わず、ただ荒い息遣いと弾け飛びそうな心音だけがフレイラの耳に届いていた。

「……これ……本当に必要な事なんですか?」

 少し喋れる余裕が出るとフレイラはキラリに根本的な質問をした。

「みんなを笑顔にする為にはまずは自分が笑顔じゃないとね!幸せはとびっきりの笑顔から来るの!」

「いや……そっちじゃなくて……この踊りの事です……」

「みんなを応援するには歌と踊りって決まってるの!」

 同じ魔法を使う者の筈なのにこれまでの誰とも話が通じなくフレイラは価値観のすり合わせを諦めかけていた。ただそれでも魔導士として聞かなければならないことがある。

「キラリさんは魔法を使えるのですよね?何か魔法でできないのですか?敵軍が迫ってる時にこんな事をしてる場合じゃないのでは?」

 フレイラの問いは当然のものである。戦場のど真ん中でこんな事をする暇があるなら魔法の一つや二つで解決するべきだと考えるのが普通だろう。しかしキラリはそれをする気配が一向にない。

「あのね?フレイラちゃん。魔法は確かにみんなを笑顔にできるよ?でも心の底から頑張ろうって思わせるには楽しちゃダメなの」

「……」

「高級な指輪より心を込めて描いてくれたお手紙の方が嬉しいでしょ?」

「それは贈り物に限った理屈ですよね?」

「応援も一緒。頑張ってる人に応える為には自分も頑張らないとね」

 命の危機でもキラリの主張は一切ブレない。あまりにも真っ直ぐした曇りのない目で話すのでフレイラはキラリの主張があっているかもとさえ思えてきた。

 そしてこれまでも戦力にならないと思っていたビクトやハツメが活躍したように、この応援にも何か意味があるのかもと考えるようになった。

「仮に応援が届いたとして戦いに勝てるのですか?」

「うーん……わっかんない!」

 キラリはあっさりと答えた。これにはフレイラも迷わず聞き返せざるおえない。

「えっ!それじゃあ困ります!」

「応援って結果だけを求めちゃダメだから」

「結果が出ないと死んでしまうんですよ!!」

 フレイラはキラリの両肩を掴みガクガク揺らした。それでもキラリは笑顔のままである。

「大丈夫!きっと私達の応援が届いて願いは叶うから!それに言ったでしょ?私、戦いは苦手なの」

 事の重大さにキラリは気付いておらずフレイラは頭を抱え悩んだ。

 ――本当にこんな事をして意味があるの?でも召喚されたのは間違いないし……ビクト君もハツメちゃんも活躍してくれた。きっとこれにも何か意味がある筈……あるはずなんだ……あると言ってくれ!

 そして半ば自己暗示のように自身を納得させたフレイラは投げやりに気味に納得した。

「分かりました……やってみます」

「うん!一緒に頑張ろう!それで世界一の歌姫になろうね!」

「いえ、それは遠慮しておきます」

 学園青春ドラマみたいな流れになるところをフレイラは冷静にやめさせた。あくまで踊るのは戦争に勝利する為であり、決して世界の歌姫になる為ではない。

 キラリはフレイラに手を伸ばして無理やり立たせた。

「ほら休憩終わり!フレイラちゃんは歌も踊りも下手っぴだから練習しないと」

「もうですか!」

 フレイラはまだガクガクする足でなんとか立ち上がった。

「フレイラちゃん、物覚えはいいんだけどねー」

「まあ、勉強は得意ですから」

「すごーい!私、勉強苦手だからいっつも爺やから逃げてるんだよねー」

「そうなんですね」

「あ!そんな事より練習!練習!私の事はいいから!」

 キラリはプンスカ怒るふりをしているがフレイラにそれを相手する余裕はない。

「キラリさんが勝手に喋ったんでしょ?……爺や?……まあいいか……」

 フレイラは疲れからかキラリの言葉を深く考えなかった。


 それからも二人で何の為にやっているから分からない歌と踊りのレッスンは続いた。

 フレイラの体は途中から完全に悲鳴を上げていたが回復魔法でそれを無理やり治してレッスンを続けた。

「はい!ピタッと止まって決めポーズ!」

「はぁ……はぁ……」

「うん!だいぶ形になってきたね!フレイラちゃん凄いね!」

 キラリがフレイラを労うがフレイラはその場にへたり込んだ。

「ありがとう……ございます」

「後は笑顔がぎこちないから力まず笑ってみて」

「善処します……」

「キラキラ笑顔のところに幸せがやってくるんだから!」

 キラリがフレイラにお手本の笑顔を見せていると、

「「敵襲!敵襲!」」

 コレリア要塞に警報の鐘が鳴り響いた。その瞬間要塞内は騒がしくなる。

「もう少し詰めたかったけど……開演の時間のようだね」

 これまでずっと笑顔であったキラリの顔がほんの少しだけ真剣な表情になった。そんなキラリとは反対に今日はフレイラの表情が真剣味のない疲れきった顔をしていた。

「本当にやるのですか?」

 フレイラは最終確認をキラリにした。キラリは戦闘中にライブを行う常軌を逸した計画をしていた。

「あったりまえじゃない!何の為に頑張ってきたの?」

「さあ……私には分かりません」

「とにかくトゥインクルスターズの初ライブだよ!絶対成功させようね!」

「あ……そう言う名前なんですね、私達」

 食堂から元気に出ていくキラリの後をフレイラは疲れからトボトボついていく。

 もはや選択肢は無い。フレイラはキラリから教わった歌と踊り、そしてキラキラ笑顔を戦場で披露することになる。理由はよく分からないが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ