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当然の主人公召喚

フレイラを心地よい睡眠から叩き起こしたのは昨日と同様、朝を知らせる鐘の音であった。

 突然の騒音に驚いたフレイラは目を覚ました。昨日と違うのは瞬時に今の状況を理解できた事だ。

 フレイラは直ぐに身なりを整えて倉庫から出た。食堂に向かう途中、壊れた壁を補修している兵士がいたり、補修の為の物資を運ぶ者もいたりと昨日の朝とは少し違っていた。

 フレイラは食堂につくと列に並び食事を受け取った。昨日と同じ硬いパンに干し肉。スープだけは具材が変わっていた。

 食堂の端っこの席に座りフレイラはモソモソ食べ始めた。相変わらず硬いパンと干し肉に悪戦苦闘していると一人の兵士が声を掛けた。

「フレイラさんおはようございます。昨日はありがとうございました」

 それは昨日負傷した兵士の一人であった。

「あ、傷の具合はどうですか?」

「痛みはありますがちゃんと動きます」

 兵士は負傷していた肩を軽く回しながら笑顔を答えた。

「本当ならしっかりと治療をしたいのですが……私の魔力にも限りがあるので」

「いえ、傷が塞がるだけで十分です。では失礼します」

 兵士はそう言って持っていた皿を厨房に返しに行った。

 その後も昨日治療した兵士からお礼や挨拶を受け取った。初日のフレイラを値踏みする様な視線から嘘のような対応の変化であった。

 だがフレイラを快く思わない兵士もいる。フレイラが魔導士である事からの偏見、召喚しているが本人は戦わないという不公平感など、難癖をつければいくらでもあった。

 それだけ兵士と魔導士との確執は根深いものであった。

 こうやってフレイラがお礼を言われている時でも遠くの席ではフレイラを睨みつけている兵士がい何人もいた。

 フレイラも直接何か言われた事はないがその雰囲気は感じ取っていた。

 兵士達への対応があり昨日より遅れて朝食を済ますとフレイラは急いで作戦室に向かった。

 作戦室には既に全員揃っており、フレイラは最後の到着となった。

 フレイラは会釈して扉に一番近い席に座った。それを確認したベイルはミシェルに合図を出した。

「全員揃ったようだな。始めてくれ」

「はい、まずは現状報告です。昨日、一昨日の戦闘による要塞の壁の崩落や亀裂が多数確認されました。夜通し修復作業をしていますが耐久性には問題があります。死者こそいませんが負傷者も出ており、戦線復帰に時間を要する兵士は五人、後方任務に配置転換したのが二十三人となっています。このまま戦力差により押し切られるのも時間の問題だと考えられます」

 ビクト、ハツメの活躍により圧倒したかに見えたが現状はそうではない。敵軍の攻撃は確実にコレリア要塞を破壊していた。

「それと原理は不明ですが、昨日負傷したと見られる敵兵が活動しており、敵軍の人的被害は皆無と言って差し支えないでしょう」

 その報告にベイルとフレイラは何故か元に戻った自身の髪を触った。

「向こうの世界ではそれが普通なのだろう」

 謎の理屈でベイルが片付け、ミシェルが続きを話した。

「依然劣勢ですが、ウェスター軍が主人公召喚について全く情報がないのが救いでしょうか。こちらの戦力を計れずにいるでしょう」

「こちらも何が出てくるか分からないからな」

 サボが嫌味ったらしく呟いた。そんなサボはフレイラから離れた所に座っており、また何か起きた時に巻き込まれないよう警戒していた。

「サボ小隊長の言いたい事は分かる。不確定なものを戦力として数えていいのか。だが戦況は厳しいままだ。情けない話だがやはり君を頼りにしてしまう」

 ベイルはフレイラの方を見た。

「その為にここに来たので」

 フレイラもベイルを見て強く頷いた。お互いの意思を確認しあったところでベイルはフレイラに一つのお願いをした。

「それと無理を承知で言うのだが、分かりやすい人物を召喚してくれると嬉しい」

「と言いますと?」

「強そうだとか要塞を修繕してくれるとか何でもいい。戦闘が始まるまでどんな力を持っているのか分からないのは危なかっしいのだ」

 ベイルは言いづらそうにフレイラにお願いした。ベイルも無茶な要望だと理解しているからだ。フレイラはベイルから目を逸らし「ぜ、善処します……」とだけ気まずそうに呟いた。

 フレイラは席を立ち杖を握り呪文を唱えた。

「英雄譚の主人公よ!契約をここに!我が声に応え、現世に顕現しその力を大いに奮え!」

 フレイラの演唱に呼応し魔法陣が現れて光り出した。これで三回目なので皆は落ち着いた雰囲気で見ていた。

 しかしこれまでと雰囲気が違う。それに徐々に気付き出した。

 これまでなかったのに光の中からキラキラと光る星屑のようなものが混じっている。それは視覚的に非常にうるさかった。

 その星屑は部屋中に飛び散り、触れれば消え去り、触れたところでなにも起こらない。何の為に出てきたのか全く分からない星屑が溢れ出ている。

「何だか……昨日までと違わないか?」

「……何ででしょう?」

 これまでとは明らかに違う演出が入った召喚にベイルは困惑してフレイラに聞いているが、もちろんフレイラも何が何だか分からない。

 そしてやたらと明るい曲が流れ始めた。この世界では聞いたことのない音楽であり、どんな楽器を使っているかさえ見当がつかなかった。

「歌?なんで?どこから?」

 フレイラが慌てていると光の中から人影が見えてきた。

「迷える声に導かれ星の国からやってきた。夢と希望の魔法少女!星川キラリ!キラッと登場!」

 明るい音楽と共に星屑を撒き散らして現れたのは、やたらとヒラヒラした服を着た派手目の少女であった。

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