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戦争が始まる

セントミドル王国の東に位置するイリイスト王国が国境近くの平原に突如大部隊を派遣した。

 その規模、実に五万。

 イリイスト王国は国境近くの非武装地帯で大規模軍事演習を行うと発表したのだ。演習と言えどその装備は侵攻するのには十分であった。

 セントミドル王国とイリイスト王国のいざこざは数百年に及ぶ長きに渡るものである。

 今の国境も両国が前回あった長期間の戦争に耐えられなくなり渋々定めたものでどちらも納得はしていない。その時の休戦協議も揉めに揉めて今の国境となったのだ。その為両国とも機会さえあればいつでも国境を越えて占領するつもりであった。

 そして大規模軍事演習の報告を受けたセントミドルの王はすぐさま国境に大部隊を派遣した。

 国中から兵を集めてイリイスト王国との国境に集められた兵は四万。イリイスト王国を迎え討つのには十分の戦力であった。

 両国は国境を挟み今にも戦争が始まりそうな雰囲気であった。

 しかしセントミドル王国の考えとは裏腹にイリイスト王国の部隊は侵攻してこなかった。

 かと言って撤退する訳でもなくセントミドル王国の再三にわたる忠告を無視して非武装地帯で軍事演習を行った。

 日増しに緊張感が増し、大規模軍事演習が始まり三日が経った頃、遂に国境で動きがあった。

 それはイリイスト王国との国境ではなく、西のウェスター帝国との国境であった。

 突如ウェスター帝国の部隊がセントミドル王国の国境を越えて侵攻してきたのだ。

 そう、イリイスト王国の軍事演習は陽動であったのだ。

 気付いた時には既に手遅れであった。軍の大部分をイリイスト王国との国境に送ってしまったセントミドル王国は急いで部隊の一部を反対のウェスター帝国との国境に向かわせた。

 ウェスター帝国はガラ空きの国境を越えて進軍している。セントミドル王国は常在兵だけで防衛戦をしなければならなくなった。


 ウェスター帝国との国境近くにあるセントミドル王国の要塞、コレリア要塞。そこでは部隊長のベイルが司令部からの報告を読んでいた。

 ベイルは五十代の男性であり、このコレリア要塞に配属されてから二十年の月日が経っていた。

 ベイルは白髪混じりの黒い短髪を片手でガシガシと掻きむしった。

 その様子を副官であるミシェルが心配そうに見守っていたが我慢できず声を掛けた。

「それで司令部から何と?」

 ミシェルの問いにベイルは大きくため息を吐いて答えた。

「援軍が到着するまで二週間は掛かるから耐えて欲しい、だとさ」

「二週間って!敵軍はすぐそこですよ!」

「それに軍を集めるのはこの要塞ではなく、ハルフルト要塞だ」

「ここを捨てるつもりなのですか!」

「その様だ、俺達はハルフルト要塞に援軍が到着するまでの二週間を何とか耐えろって事だ」

「そんなのあんまりです!見殺しって事ですか!」

「あまり大きな声を出すな、士気に関わる」

 ミシェルは悔しそうに黙った。ベイルの顔にも悔しさが滲んでいる。

「まあ、作戦としては悪くない。チマチマ援軍をよこすより、ハルフルトに兵を集めてどっしり構えてそこから戦線を安定させ、反転攻勢に出る」

「……」

「俺達の事を度外視したら堅実な作戦だ」

「イリイストとウェスターが裏でどんなやり取りをしたから知らないが、まんまとうちの司令部はハメられましたね」

「仕方ない、上の失態は下が拭うもんだ」

 ベイルは仕方ないと言いつも全く納得しておらずため息を吐いている。

 ミシェルは感情的になるのをやめて、これからについて冷静に話し始めた。

「二週間耐える蓄えはありますが、援軍の到着が期待できないのであれば蓄えの底が尽きる前に占領されるでしょう」

「敵の数は?」

「陽動作戦ですので先行部隊はそれほど数はいません。ですがウェスターの援軍の方が早く着くでしょう」

「そうだろうな」

「命令を無視して要塞を捨てるのも手かもしれません。ハルフルト要塞まで撤退しつつ二週間、時間を稼ぐのも手かと」

「そうだな、どの道この要塞を捨てるつもりなら戦力を温存できる方が賢い選択だな」

 ミシェルの作戦にベイルは肯定的だが問題はそんな簡単な事ではない。

「自分で言っておきながらあれですが、その時は部隊長はどうなるのです?」

「まあ、ここで死ぬよりマシな結果になるだろう。心配するな」

「そうですか……」

 司令部からの作戦無視はコレリア要塞を預かる身からしたら許されない事である。戦争が終わってからのベイルの処遇は降格、除隊、勝手に作戦を変更し失敗したとなれば処刑も考えられた。

 その事はベイルが誰よりも理解していた。

「それでも一度は防衛戦をしないとまずいがな。何もせずに撤退したら敵前逃亡で問答無用で処刑されてしまう」

「では撤退を前提とした防衛戦でよろしいですね」

「ああ、それと一人優秀な魔導士を派遣してくれるらしい」

 ベイルの言葉にミシェルは露骨に嫌そうな顔した。

「魔導士?それも一人だけですか?」

「何でもたまたま近くにいたらしい」

「この辺で魔導士なんて見た事ないですがね」

「だからたまたま近くにいたんだろ?」

「怪しいですがそれも一応頭数に入れて作戦を立てましょう」

 その時、作戦室の扉が叩かれた。

「入れ」

 ベイルが入室を許可すると伝令の兵士が扉を開けて敬礼をした。

「失礼します!国からの要請で派遣されたと言う魔導士が見えています!追い返しましょうか?」

「噂をすればだ……通せ、作戦室までお連れしろ」

「え?いいのですか?ですが……」

 あまりにあっさり受け入れたベイルに伝令の兵士は困惑した。

「ああ、大丈夫だ。さっき報告があった」

「分かりました。直ぐにお連れします」

 兵士は扉を閉めて走り去った。

「これで戦力は全て揃っちまったな」

「一体どんな方でしょう」

「所詮魔導士だ、期待するな」

 ベイルがこう言うのもしかない事なのだ。

 魔導士は兵士と比べて体力も筋力も無く、行軍するのに必ず遅れをとる。

 戦場では魔力が切れると何もできなくなる為お荷物になる。

 では要塞などに配備すれば良いかと言われればそうでもなかった。

 そもそも兵士と魔導士は馬が合わない。貧しい家庭で成人になる前に入隊し戦闘の訓練をしてきた兵士と、裕福な家庭の出身で学校の椅子に座り魔法を学んでいた魔導士。

 そんな魔導士は兵士を野蛮と言い、兵士は魔導士を頭でっかちと馬鹿にした。

 そんな両者が一つの空間に押し込めようものなら互いの価値観の相違から反発するのは目に見えていた。

 過去、何度も魔導士の配備が検討されたがどれも実現は叶わなかった。セントミドル王国では王都のみ王室魔導部隊がいるだけである。

 ベイルも魔導士に対しては恨みこそないが面倒臭いという認識であり、問題が起きるなら早々に帰ってもらう事も厭わなかった。

 しばらくするとまた扉が叩かれた。

「魔導士様をお連れしました」

 ミシェルが扉を開けるとそこには一人の女性が立っていた。

「女……?それもまだ子供じゃないか……」

 思わず口出してしまったベイルだが無理もない。

 目の前に現れたのは学校指定のローブを羽織った、まだ幼さが残る女の子であった。

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