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第四話


「……やっぱり、婚約破棄?」

「そうです」


 大きく頷くと、エルンスト様はゆっくりと目を細めます。なんだかその瞳が孕んでいる色が、かなり不穏で身の危険を感じます。


「……どうして? 僕は君に嫌われるようなことをしてしまったのかな?」


 彼のにーっこりとした微笑みに戦々恐々としながら、わたくしは忙しなく目をさ迷わせます。


「エルンスト様には——」


 その瞬間、氷点下の場所にいるような冷気と寒気を感じました。発生源は、わたくしの正面からです。


「エ、エル様には、何も嫌う点はございません。エル様は、いつもかっこよくてお美しいです」


 何か変なことを口走った気がしますが、そのお陰で冷気が薄れたのでよしとしましょう。


「じゃあ、どうして婚約破棄してほしいの? ちゃんとした理由がないと、僕も納得できないよ」


 なるほど。エルンスト様は、理由型タイプでしたか。

 わたくしは今回の件、流行雑誌を読み込んでちゃんとお勉強してきたのです。婚約破棄を提示された相手の反応をタイプ別に分けて、相手がどのように思っているのかを探ります。いわば心理テストのようなものです。


 大まかに四つのタイプがあります。


「え? ああ、いいよ」、許諾型。相手はあなたのことを全く好いていないでしょう。それどころか、別に好きな人がいる可能性が高いです。


「は? 無理に決まってるだろ?」、反対型。相手はあなたのことを好いている可能性が高く、引き留めるために反射的に言ってしまうのでしょう。


「…………」、沈黙型。何を言われたのかすぐに理解できず、頭の中で考えをまとめています。もしかしたら、当日中に返事をもらえない可能性もありますが、それはあなたのことが好きだからかもしれません。


「どうして? 理由を教えて?」、理由型。婚約破棄の理由をとことん問い詰めて、穴が多かったら拒否されます。相手はあなたのことが好きでとやかく理由をつけて反対しようとしているのか、もしくはただ単に婚約破棄の手続きが面倒だからか……。


 答える理由にもテンプレートがあります。


 その一。「あなたと一緒にいるのは辛いのです」と答える。これを理由にするにはエルンスト様に申し訳なさすぎるので、却下します。


 その二。「あなたが浮気していたからです」と答える。エルンスト様はカタリナと親しくしていたので、候補の一つです。


 その三。「あなたの他に好きな人ができたのです」と答える。婚約者相手になんてことを言うのかとは思いますが、これが一番相手の本心を探り出せるそうです。わたくしは最後のこれを選びました。


 赤い瞳をそのまま見つめ返すのは気が引けるので、少し視線を下げながらわたくしは口を開きました。


「わたくし、エル様以外に好きな方が——」


 ぞくり、と。

 全身に悪寒と、本能からくる恐怖を感じました。


 わたくしは恐る恐るエルンスト様を見ます。彼は変わらず微笑んでいるように見えて、今日初めて表情を変化させました。


 確実に、彼の瞳が冷えています。どうしてわたくしは婚約者相手にこんなにも恐れているのでしょう、と疑問に思わないほど、その瞳は見る者を凍えさせてしまいます。


「……いるということはありえません」

「そうだよね、びっくりしたよ。良かった。もしエレアに僕以外の好きな人がいたら、きっと僕はその人を殺してしまう」


 彼の目は本気です。冗談を言っているようには見えません。

 いるはずもない空想の中の好きな人が、彼に無残に殺される姿が思い浮かびました。


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