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第三話


「エレアが進んで僕に会いに来てくれるなんて、とても嬉しいよ」


 神が直接創ったと言われても納得してしまう美しさのエルンスト様は、にこにこと天使のような笑みを浮かべています。わたくしは彼に促されて、椅子に座ります。彼は流れるようにわたくしの正面に座りました。


 セルナに提案されてから数日後、わたくしはハイリヒ邸を訪れました。エルンスト様にお会いしたいというと、一もにもなく承諾されて簡単に来ることができました。

 世間では、ハイリヒ邸を訪れることは難しいと言われているほど警備が厳重なのに、いとも簡単に来られたのです。わたくしがエルンスト様の婚約者であることが大きな理由でしょうけど。


 屋敷に着いたら、エルンスト様が真っ先にわたくしを出迎えてくださいました。そのまま彼に連れられて、現在は彼の自室にいます。こうやって殿方の部屋に入るのは初めてですから、少し緊張してしまいます。


「今日はどんな用で来てくれたんだい?」


 エルンスト様は赤い瞳をまっすぐわたくしに向け、首を傾げました。さらりと肩を流れる彼の髪がやけに彼の色気を漂わせています。


「わたくし、エルンスト様にお話ししたいことがあるのです」

「エレアが話してくれることなら何でも聞くよ。何度も言っているけど、僕のことは、エルって呼んで」


 これほど、にこにこという擬音語が似合う笑みはないのではないのかと思うほどの笑みを彼は浮かべています。

 今からその笑みを曇らせてしまうかもしれないと思うと躊躇してしまいますが、拳を握って応援するセルナの姿が瞼の裏に蘇ります。大きく高鳴る心臓の音を聞きながら、わたくしは口を開きました。


「あの、エルンスト様」

「エルだよ」

「わたくしと、エルンスト様との」

「エル」


 この人は、本当にわたくしの話を何でも聞こうとしてくれているのでしょうか。


「……エル様」

「何かな?」


 にこり、と微笑む彼から少し視線を外しながら、わたくしは一息で言い切りました。


「わたくしとエル様の婚約を、破棄してください!」

「…………」


 エルンスト様は、変わらず微笑んだままです。あまりにも表情の変化がなかったので、わたくしの声が聞こえていなかったのかと勘違いしそうになりました。


「……こんやく、はき」

「はい」


 繰り返された彼の言葉に頷くと、エルンスト様の笑みが変化しました。にこにこ、だったものが、すんっと暖かさを失っています。口元が笑みをかたどっていますが、赤い目が全く笑っていません。


「……ああ、あれのことか。遠国の紺薬という人物が用いる覇気のことだ。エレアは紺薬殿に会いたいのかい?」

「違います」


 わたくしは紺薬なんて人を知らないし、仮にそのことを話していたにしても文脈がおかしすぎます。


「じゃあ、巷で有名な演劇『今夜、暗闇でハグしよう、君と。』の略語のことだね。今度僕と一緒に観に行こうか」

「違います」


 聞いたことがないタイトルです。ちょっと興味はありますが、略語にしては変なところを切り抜きすぎです。

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