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第十二話


 部屋に残されたわたくしは、熱くなった顔を冷やしたいと思いましたが、エルンスト様に微笑まれて逆にもっと熱くなってしまいます。


「エレア」

「はい、なんでしょう」


 できるだけ平静を保って微笑むと、エルンスト様も笑みを深めました。彼が笑みを深めると、やはり芯が冷えていく心地がします。

 彼はわたくしに顔を近づけます。端麗な彼を間近で見ることができず、ぎゅっと目を瞑りました。


「僕はエレアのことが好きだよ」

「……っ!」


 耳元で囁くようにそう言われ、わたくしの前身は沸騰するように熱くなりました。

 くすり、と笑われ、からかわれているということがわかります。


「だから、婚約破棄はしない。僕は、君が思っている以上に君のことを愛しているのだよ。それを教えてあげないと」


 赤くなっているであろう耳を撫でられ、ぞくりと全身に言いようも知れない感覚がめぐりました。

 くすくすと絶えず笑われて、何だか悔しいです。


「エル様」


 わたくしは顔を上げて、エルンスト様の目をまっすぐと見ました。彼は首を傾げ、余裕そうな顔でわたくしを見つめ返します。


「……わ、わたくしも、エル様のことが、好き、みたいです……」


 自分で言っておきながら、とてもとても恥ずかしくなってしまい、尻つぼみになってしまいました。


 エルンスト様の顔を見るのは気が引けましたが、彼がどんな顔をしているのかが気になって、平気を装って顔を上げました。すると、エルンスト様は笑みを浮かべたまま固まっていました。

 彼の周りだけ時間が止まっているように、彼はぴくりとも動きません。わたくしは心配になって、彼の手をつんつんと触りました。


「……夢?」


 エルンスト様は呆然と呟いて、わたくしの顔を見つめ返しました。しばらくわたくしたちは見つめ合って、耐えられなくなったわたくしは何となく微笑みました。

 すると、信じられないことに、彼の顔がみるみると赤くなっていきます。初めて見る彼の照れ顔に、何だかしてやった気分になります。


「……僕もエレアが好きだよ」


 嬉しくてにこにこ微笑んでいたわたくしは、エルンスト様が再び調子を取り戻したことにより余裕を保つことはできなくなりました。


「二度と婚約破棄という考えが思い浮かばないように、これからはちゃんと愛を伝えるようにするよ。愛している、エレア」


 甘く微笑んだエルンスト様は、わたくしの顎に指を添えました。そして、彼の端麗な顔が近づいてきます。わたくしはぎゅっと目を瞑って、彼の美しい顔が視界に入らないようにしました。


 唇に柔らかい感触があって、恥ずかしさから倒れてしまうのではないかと思いました。


「ふふっ。エレア、可愛い」

「エル様、からかわないでくださいませ……」


 む、と膨れっ面を作って見せましたが、にこにこと楽しそうに微笑むエルンスト様を見ていると、つられて笑みを浮かべてしまいました。

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