ユウキの混乱
アヤカのこと
<ユウキ目線>
「お前とアヤカちゃん、本当に付き合ってなかったのな」
もう何度言われただろう。前からちゃんと答えてたのに……。
それにしても、聞かれる回数に驚く。こんなに聞かれるようになったのはいつからだろう。放課後の少し疲れた動きの鈍い頭でぼんやりと考える。
廊下で、校舎裏で、下駄箱で、アヤカが男に話し掛けられてるのを見かける。あんなに男友達だち多かっただろうか?
(……違うよな)男友達って雰囲気じゃない。
――なんていうか……。もっとこう……。
放課後部室に向かいながら考えがまとまる前に、アヤカの友達の新藤 エミの姿が目に入った。
「新藤!」
思わず呼び止める。
驚く顔で振り返る。
「ユウキくん」
「これから委員会か?」
「そう。ユウキくんは部活?」
「あぁ、うん」
呼び止めたものの言葉が続かない。
「アヤカは……帰った?」
「アヤカならさっき男子に呼び出されてたけど?」
胸の奥の方からざわざわっと嫌な感じがする。
「呼び出されてたって……。」
「気になるの?」
思わず黙る。新藤は少し苦手だ。何もかも見透かされてる気がする。自分でも気付かないことも。
「……少し」
クスッと笑う新藤
「アヤカがモテたら、ユウキくんは困るの?」
(やっぱり……)
最近のアヤカの周りの男はみんなそういう目的なんだと思うとなんだか落ち着かなくなる。
「アヤカは……どう……」
言いかけて、意地悪く光る新藤の目になんとなく居心地が悪くなって目を反らす。
「アヤカがどう思ってるかわからないけど……。アヤカにも恋する権利はあると思うけど。
近いうち彼氏とかできるかもね」
ハッとし新藤の顔を見る。
「ユリちゃんは元気?」
突然の会話の切り替えについていけず思わず生返事。
「あ、あぁ。」
「そぅ、仲良くね。」
意味深に笑って立ち去る新藤をなんとなく姿が見えなくなるまで見送った。
そろそろ部活に急がなければ。混乱している頭を整理しようと歩き出す。
――アヤカにも恋する権利はあると思うけど
――近いうち彼氏とかできるかもね。
なぜか胃の辺りが重くなりまた、思考が止まる頃部室につく。
今日は紅白戦がある。その前にミーティングも。来週は練習試合がある。その為にサッカーモードに切り替える。(とりあえず、急ごう)
急いで入った部室には同じ二年のタカヤだけ。
「おう、めずらしく遅かったな」
「あぁ……」
「あ、先生も少し遅れるってよ。ミーティング前に自主トレしとけって」
「そうか……」
少しホッとして肩の力を抜く。
「そういえばさっきアヤカちゃん見かけたわ」
タカヤがベンチでスパイクの紐を結びながら言う。
――ギクンッ。
まただ……変な感じ。無言で見つめると
「男に告られてたぜ」
とニヤリと笑う。
――あぁ、そう
何気ない返事の言葉が出てこない。無言で見つめつづけられて何か思ったのか手を止めるタカヤ。
「おまえら本当になんでもなかったの?」
繰り返される問いかけに少しうんざりしながらいつもと違うニュアンスに気付く。
「……なんで?」
「まぁ、ユウキには可愛い彼女も出来たしな。ずっとアヤカちゃんとあんまりなんでもないとか言ってるから、俺はまた嘘か女に興味ないかと思ってたぜ」
相変わらず極端な発想のタカヤに苦笑する。
「……まぁ、今まではサッカーばっかだったし、
アヤカは幼なじみだし……」
タカヤの言わんとすることがはっきりせず、なんとなく答える。
「幼なじみだって恋愛できるだろー?」
「そうだけど……」
考えたことのない言葉に目を逸らしながらごまかすように着替えを続ける。
「しかもあんな可愛い子じゃん。……まぁユウキらしいっちゃらしいか」
少し馬鹿にされてる気がして 勝手に頬が熱くなるのをジャージの襟で隠す。
「でも本当なんでもなかったんなら。俺も狙っちゃおうかなぁ?」
なかば独り言のように呟くタカヤ。
ガチャンッ。
驚いて思わずスパイクを滑り落とす。
「わっビックリした。おいおい、大丈夫かよ」
「あ、あぁ……ゴメン」
動揺を隠すように俯いてごそごそとスパイクを履きながらタカヤの様子を伺う。
「タカヤ……アヤカのこと、好きだったのか?」
「好きっつーか、うちのガッコウ女子のレベル結構高い方だけどアヤカちゃんはかなりハイレベルでしょ」
(ハイレベル……?)
「今まではユウキがくっついてて声かけられなかった奴らとか上級生も結構狙ってるみたいだし
ライバルはかなり多そうだけどなぁ」
何も言えずにノロノロと着替えてると
「さて、行こうぜ。ってお前まだスパイク履いてんの?」
早々と準備の終わったタカヤが笑いながら茶化す。
「何?アヤカちゃんのことそんな気になる?」
かぁっと熱くなる頬。
「……お、幼なじみだし」
「またそれかよ。まぁアヤカちゃんも急にわらわら言い寄られてビックリだろうけどね」
先に行くというタカヤを見送りながら
いろんな男達に言い寄られて途方にくれてるアヤカの背中を思い浮かべる。
――困ってるのだろうか。
なんだかますます頭が混乱して、考えが続かない。 まだ自分に彼女が出来たことにもいっぱいいっぱいなのだ。
思考を止めて再び着替えを再開する。(今は、自主トレのメニューを組み立てよう)
自分は器用な方ではない。ただ、目の前のことをこなすことしか出来ない。とりあえずアヤカのことは出来るだけ頭の奥へ閉じ込めた。
――今度アヤカにも聞いてみようか。
「よしっ!」
そう区切るとパンッと顔を叩いて部室を出た。