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さよならラララ  作者: mihiro☆
19/26

長い夜〜エミ〜

混沌とした長い夜の始まり。

<エミ目線>

 ケータイが鳴る。

 メールではない着信音。

 時間はもうすぐ21時。

 ディスプレイされてる名前を確認する。


「アヤカ? どうしたの?」


――でも聞こえてきた声は予想外の相手だった……。


「新藤……俺。ユウキ」



 その声の深刻さと異常な事態に私は嫌な予感がした。

 手短に話を聞く。


「ユウキくん、今どこにいるの?……とにかく、私もすぐ行くから」

 家族に一言言って家を出る。


 自転車を跨ぐ。心臓が不安に煽られて大きな音を立てる。


――アヤカ……!


 場所は学校から余り離れてないコンビニ。

 その前にある車止めにうなだれて座ってる人影に目を止める。


「ユウキくん!」


「……新藤」

 ひとしきり走って探したんだろう。疲れと不安でひどい顔してる。


 その傍にあるアヤカの鞄が目に入る。沸き上がる焦燥感。

 息の上がった呼吸を整えながら聞く。

「……警察には?」


「学校のすぐ傍の、あそこにある交番には行った」


「なんて?」


「まだ誘拐や事件とは言えないし、捜索願いは家族からしか出せないとか……とにかく話にならなかった」


 無力な自分に憤りを感じているように震える肩。

 見ていても胸が痛む程のユウキくんの焦りを感じる。

 そして、私の胸にも現実として同じ物が広がっていく。


「兄貴に……」

「兄貴ってヒロキ先輩?」

 ユウキくんのお兄さんは中・高ともOB。人気があって有名で、私も数回面識があった。

 ユウキくんは頷いて続ける。

「サキおばさん。アヤカの母さんにも伝えるように頼んだ……兄貴ももうすぐここに来るって」


 話ながら思い詰めたように俯く。


「……アヤカが連れ去られてからもう一時間近く経つんだよ! なのに俺は何もできない」

 苛立たしそうにアスファルトを叩く。

 よく見るとユウキくんの制服の膝も肘も汚れていた。手にはもう何度も何かに当たったのか擦り傷があり赤くなっている。

 

「……私達に出来る事を探そう」


 気付かないうちに強く握っていた拳を開きハンドルを握りサドルを跨ぐ。


「心当たりあるのか?」

 ユウキくんにすがるように見つめられて目を逸らす。

 まだ何とも言えない。


「特には無いけど……一つだけ。また連絡するから!」

 そう言い放って私は走りだした。



 学校に寄り、

 必要な情報を手に入れる。


 先生達もほとんど残っていなかった。

 一応職員室を覗く。


「どうした?新藤。こんな時間に」


(あぁ、この人じゃダメだ)


 委員長なんかやってると、理解ある教師とそうでない教師が嫌でも分かってくる。悪いけどこの人は「使えない」教師だ。


 声をかけてきた先生をみてすぐにそう思ったけど一応話を通す。


「三組の住谷さんが不審者に連れ去られた可能性があるんです」


「はぁ!? 住谷って住谷アヤカか? 確かか? 誰か見た奴がいるのか?」


 目撃者はいないと言うと


「やっぱりな。まだ21時過ぎだぞ。住谷も彼氏なんかとデートじゃないのか?」

 したり顔でそう続ける。


(……やっぱり役に立たない)

 

 他にも同じ様なタイプの先生しか見当たらなかった。

 時間を無駄にしたくない。まだ話し続ける先生を適当にかわして学校を後にする。


 一分でも早くアヤカを見つけたかった。

 ペダルを踏む足に力がこもる。


――アヤカに謝りたい。


 アヤカの一番傍にいて

 アヤカに近づく危険に一番早く気付く事が出来たはずなのに……。


 私は結局自分の事しか見てなかったんだ。


 気を抜くと涙腺がゆるむ。

 心配で心配で、

 今のアヤカの状況を想像するだけで鼻がツンとした。でも……。


(泣かない)

 まだ何があった訳じゃない。

 まだアヤカの顔を見ていない。

 今泣いても何も解決しないから……。

 泣かない。


 ただ悔しかった。

 こんなことになるなんて……。

 と思う半面、

 私はこうゆうこともあり得ると知っていたんじゃないかと自分を疑う。


 アヤカに目を付けていた三年の女子に派手な付き合いがあるタイプの生徒がいる事には気付いていた。

 

 それも関係してるかもしれない。


 私はもっと色々注意すべきだった。

 それが出来るのにしなかったんだ。

 

 アヤカの信頼を裏切っていた。

(大好きなのに……)

 どこかで嫉妬していたんだ。

 私も……。

 アヤカの魅力を。


 だから理解できるつもりだった。



――彼女の気持ちも。

 


 調べた住所を頼りに家を探す。分かりやすく大通り沿いにあって助かった。

 息を整えた後「有川」の表札の横のインターホンを押した。


 優しそうなお母さんの声にホッとする。

「夜分遅くすいません。委員長の新藤です。今度の学校行事の事で急ぎの伝言があるんですが、ユリさんご在宅ですか?」

 私は用意しておいたセリフで答える。


 本人はさぞかし驚いているだろう。私達の接点はほとんど無い。直接家に来るなんて今時少ないし。しかももうすぐ22時。


 深呼吸をする。


(陰口を言っていた、あの三年の女子の内一人はマネージャーだったはず)


――ユリちゃんが何か知っているかもしれない。


 

 私は不安を押し殺し

 僅かな希望をかけて


 祈るような気持ちで本人が出てくるのを待った。

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