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さよならラララ  作者: mihiro☆
15/26

キミの痛みボクの想い

いとしいキミに想いよ届け

<ユウキ目線>

 その瞬間信じられない事が目の前で起きた。


 バランスを崩すように、階段の上から落ちてくるアヤカ。咄嗟に駆け上がり彼女の体を受け止める。


 血の気の引く思い。


 重力の勢いに押され、アヤカを抱き留めたまま一番下まで何段か滑り落ちる。


 ドンドンと鈍い痛みが背中に響く。なんとか受け身が取れたようで頭は余り強く打たずに済んだ。

「いてっ……」

 思わず漏れた声につむっていた目を開けるアヤカ。「なんで……」

 何が起きたのか分からない様子。


 まじまじと顔を見て、ゆっくり状況を理解していく。真っ青な顔。

「ユウキ……! ごめん、大丈夫? 大丈夫!?」

 心配するアヤカに怪我もないようでホッと一息つきながら腕から離す。


「俺は鍛えてるから大丈夫だよ。アヤカは? 怪我ない?」

「私は、大丈夫……」

 悔しそうに悲しそうに俯く。

「ありがとう……ごめんね」

 最後は消え入りそうな震える声。まだ少し顔色が悪くみえる。


 何人か野次馬が集まってくる。

 上にいた三年らしき女子達はすでにいなくなっていた。


 落ちてくる瞬間、確かに誰かアヤカにぶつかっていた。


「ユウキ、保健室行こう」 大丈夫だと言っても信じられないのか立ち上がって手を引く。

「アヤカの方が顔色悪いよ」

「私はいつもの貧血だから……」

 有無を言わせぬ勢いで手を引いたまま歩きつづけるアヤカ。

 こんな時なのに引かれる手が懐かしく。久しぶりに話せた事が嬉しかった。


「軽い打撲かな。湿布張っとくわね。大丈夫、高森くんはよく鍛えてるし」

 ハハハッと大きな口を開けて笑いながら

 保健の白井先生が背中と肩にパシンパシンと湿布をしてくれる。

 大袈裟な気がして逆に恥ずかしい。


「住谷さんは、貧血ね。顔色悪いわよ。いつも言うけどしっかり鉄分取ってね。また階段で目眩が起きたら大変よ〜。今回は高森くんに助けてもらえて本当に良かったわね! 運動神経良くない人だったら一緒に怪我しちゃうとこだったわよ〜」

――これからは足元に気を付けてね。


 何も知らない先生はそう言っただけだったけど。


「本当、これからは気を付なきゃね。今回はユウキがいてくれてラッキーだったな」

 保健室から出て渡り廊下を歩く。

 急に明るくなり眩しいのか目を細目るアヤカ。まだ少し蒼白い顔が痛々しい。


 無理に明るく振る舞ってるように感じて


「偶然じゃないだろ?」 つい強い口調で言う。

「明らかにわざとだったよ」

 もし自分が通りかから無かったらと思うとゾッとする。


 一瞬にして曇るアヤカの顔。真上に上がった太陽とは正反対の空気。

 気になってた事を口にする。

「他にも何かされてるんだろ?」

 黙ったまま目を合わさないアヤカ。


――住谷さん嫌がらせされてるらしいよ。

 女友達が多いタカヤから昨日聞いた。


 アヤカの様子がおかしい事には気付いていた。

 いつもと違う少し暗い雰囲気を纏って、よく通る笑い声も最近は余り聞こえなかった。

 初めは小さな嫌がらせだったのが、今は三年からも目を付けられてるらしい。とタカヤが言っていたのを思い出す。


 聞いているだけで胸クソ悪くなる話。

 そんなことされてるなんて思いもしなかった。

 

「最近アヤカちゃん、目立ってたからなぁ。三年からもかなり告られてたし。アヤカちゃんが原因で振られた女子の逆恨みって話も聞いたな」

 

 アヤカが原因で?

 ちらりとユリちゃんの顔が過る。

 聞いたような話に胸に苦いものが広がった。


――だからと言ってアヤカを攻撃するのは明らかに逆恨みだ。


 誰かを想うことが、誰かを傷つけることだとしても、それをアヤカが望んだわけじゃない。


 目の前のアヤカを見つめる。嫌がらせに戸惑い、陰りのある横顔。

 アヤカのいつもの笑顔が見たい。

 誰よりもその笑顔を守れる者になりたい。


 何よりも、理由なく傷つけられているアヤカを黙って見ていられなかった。


「アヤカ、俺の事避けてなかった?」

「……そんなこと、ない」 アヤカの目が気まずそうに泳いでいる。わかりやすくて笑ってしまった。

「相変わらず嘘が下手だな」

 真っ赤になって顔を背けるアヤカを単純にかわいいと思う。

「ユウキに言われたくないよ」

 ボソッと言われる。

(確かに)

 嘘の下手さ加減は人の事を言えない事は自覚している。


 アヤカに避けられていた事には気付いていた。

 自分の気持ちに気付いてから、こんな風に向かい合うのは初めてだ。


 深呼吸を一つして、

 気持ちを落ち着かせる。


「俺、ユリちゃんと別れたんだ」

 アヤカをしっかり見つめて言った。


「うん……聞いた」

 戸惑うような表情を見せながら、真っ直ぐに見つめる二つの瞳に心が震える。


 手を伸ばせば届く距離にアヤカがいる。


 溢れる想いを込めて

 物陰に隠れるようにしながら


 そっと


 そっと壊れ物の様に抱き締めた。


「……俺じゃ頼りにならないか?」


「……ユウキ?」

 驚いて震える声。

 その表情は腕の中に隠れている。


「もう、一人で大丈夫なんて言うなよ。辛い思いを一人で溜め込む姿は見てられない……」


 アヤカへの気持ちに気付いてから、自分でも自分を制御出来ない時がある。


(兄貴の時もそうだった。)


 臆病な気持ちと大胆な行動が入り混じる。

 初めて抱き締めたその存在の愛しさに心臓がうるさいくらい大きな音を立てている。

「……ありがとう……」

 抱き締められて体を固くしていたアヤカから小さな返事が聞こえてホッとする。


(小さいな……)

 想像よりずっと小さく感じた。力を入れたら壊れそうな程、小さく細い。


 小学生の頃は二人とも体格も変わらず、身長は自分の方が低かったのに。


 いつのまにかハッキリとしていた男女の差。

 そんなことに今更気付く自分に呆れた。

 

 鼻先の柔らかい髪から甘い香りがして、恥ずかしくなる程の自分の気持ちを自覚する。

――ダレニモワタシタクナイ


 自分以外の男がこの距離に近づく事を考えるだけで

 沸き上がる激しい嫉妬心と独占欲。


 気付いたら想いが言葉になって流れ出ていた。

「ずっと傍にいて、アヤカを守りたい。今までのように、今まで以上に……」


 呟きを聞いて、見上げるアヤカ。見開らかれた、目のふちが赤い。


 臆病な自分の勇気の欠片を拾い集めて、

 心を込めて想いを伝える。


「俺、アヤカが好きだよ」


 一瞬黒目がちな瞳が揺れた。

 すぐ気まずそうに目を逸らして、

 アヤカが呟く。

「私……私は……」


 腕の中の震える小鳥は羽をもがいて飛び去っていく。


「ゴメン……」

 逃げるように走り去っていく後ろ姿

 揺れる黒髪。小さくなっていく背中を呼び止める事もできず、ただ呆然と見送る。


 抱き締めた腕にはまだ消えない彼女の柔らかな感触が残っていて、 


 胸の中にはまだ甘いものが広がっている。

 

 初めて恋をして

 

 初めて抱き締めた

 

『幼なじみ』の彼女を

 困らせたくなくて、縛りたくなくて、


 それと同じくらい


 気持ちに答えて欲しくて、自分だけを見てほしくて。

 矛盾している。


――こんなのエゴだってわかってる。


 持て余していた気持ちを勢いに任せて吐き出して、自分が楽になりたかっただけかもしれない。


 昼休みの終わりを告げる聞き慣れた音声がスピーカーから流れた。


(教室に戻らないと……)


 コントロールのきかない想いは

 とうとう出口を見つけて 飛びだして行ってしまったのだ……。


 今はただ、その想いが彼女に届くようにと

 祈るような気持ちでその場に立ち尽くしていた。

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