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さよならラララ  作者: mihiro☆
10/26

二人の幼なじみ〜ヒロキ〜

アヤカと二人の長い一日

<アヤカ目線>

 幼いころ、私とユウキの家族同士で集まった時、一人っ子の私はいつも二人の後をついて回っていた。


 ユウキと、ユウキのお兄ちゃんのヒロキくんの。


 ヒロくんは四つ上で小さな頃はとても大人に感じた。

 その頃のユウキは、小学校三年生まで私より背が低かったし、赤ちゃんの頃からオモチャやお菓子の取り合いなんかは日常茶飯事で、親友であり、よきライバル。時には弟のような感じだった。ユウキはそう言うと怒ったけど。


 私達の手の届かないものを簡単に手に入れたり、難しいパズルやゲームもすいすい解いて、大人のような言葉を使って話すヒロくんは、私にとって兄以上の憧れの存在だった。

 ヒロくんが中学に入ってからは、集まりの時にもあまり顔を出さなくなって疎遠になっていったけど。

 多分、ヒロくんは私の初恋の人。


 急にヒロくんが離れていって、寂しくなった私を元気づけてくれたのはユウキだった。元気がない時はいつもお菓子を分けてくれたり冗談を言って笑わせてくれた。

 近所のワルガキが私をからかいに来たら、棒切れを振って守ってくれたし、危ない道を通る時には手を貸してくれた。

 ヒロくんみたいに、ヒロくん以上にすごく頼もしく思えたんだ。



 目の前には幼い私とユウキとヒロくんの三人がファインダー越しに並んで笑う姿がある。ふと、リビングの写真立てを見つめながら、懐かしい頃を思い返していた。

(そろそろキッチンに手伝いに行こう)


 今日はうちのお母さんの誕生日会ということで、久しぶりに家族でユウキの家に来ていた。

 ユウキのお母さん「ルミおばさん」から、今日ユウキはサッカーの練習試合で帰りは遅いらしいと聞いていた。


 すぐに会わないで済むことに少しほっとしてる。

 それが本音だった。

 新しい関係を作っていくと心に決めたけど、

 こればかりは一人でどうこう出来るものじゃない。 まだ一緒に登校した日から何日も経ってはいなかったし、あれからほとんどユウキと話す機会はなかった。

――姿は見かけるんだけど。 最近、なんとなく視線を感じるとその先にユウキがいることが何度かあった。

 目が合うと、ゆっくり逸らされる。何か言いたげな……その空気。あの視線。


 キッチンに行くと「Saki's Birthday」とでかでかと書かれたバースデーケーキが用意されていた。

 クリームはピンクでたくさんの花やハートのクッキーで飾られてる。ラブリーなケーキ。ルミおばさんは可愛いものが大好きだ。

 ピンク地に水色の水玉のエプロンでせっせとメインディッシュを作っている。

色とりどりのオードブルはもう完成していた。

「ルミおばさん、何か手伝う?」

 声をかけると優しい微笑みを返される。相変わらず若い、美人だ。ユウキにそっくりな目元。


「ありがとう。じゃあオードブルと飲み物もっていってくれる?アヤカちゃんは気が利いて助かるわ。それに比べてうちの男共は、二人もいるのに役に立たないったら……」


 女の子が欲しかった。というのが口癖のルミおばさんはいつも私を可愛がってくれる。たまに母と三人でショッピングに行ったり。二人でお茶することもある。 

 いつものぼやきに私が苦笑してると、

「役立たずの息子もお手伝いしましょうか?」

 冗談めいた口調の言葉が私の頭の上から降ってきた。(わっ!)

 ユウキかと驚く。見上げるとヒロくんだった。

「久しぶり。」

 悪戯っぽいの二つの茶色の目がニヤリと笑う。ユウキとそっくりな声と雰囲気の似てる目。でももう少しシャープな顔立ち。

「あらめずらしい。課題終わったの? 手が空いたなら、ヒロキも手伝って」

「喜んで」

 手慣れたウェイターのように次々と料理を運ぶヒロくんの後を追って手伝う。

 

 「メインディッシュのローストビーフが焼けるまでまだ少しかかるから、二人で遊んでて」

 懐かしいセリフに背中を押され、準備を手伝った後、飲み物を持ってものすごく久しぶりに二階のヒロくんの部屋に入る。

 

 ダークトーンの家具。まだ新しいデスクトップのパソコンにはスイッチが入っていて、時々文字が映ってる。本棚から溢れるように積まれいる難しそうな本。


「課題仕上げるから少し座って待ってて。すぐ終わるから」

 少し迷ってベッドにもたれるように座った。持ってきたミルクティを飲みながらパソコンに向かうヒロくんを盗み見る。


 無造作にタバコに火をつけて画面を見つめながら慣れた手つきでキーボードを叩く。真面目な顔してると本当に格好いいと思う。さすが、小さな頃からもてまくっただけある。


「何見惚れてるの?そんなに俺格好いい?」

 ぼんやり見つめてると目が合ってからかわれた。

 真っ赤になるのがわかる。

「み……見惚れてないよ!自分で格好いいとかいわないで」

 本当のことだもん。としれっと答えるヒロくん。

 あぁ、そうだ。こうゆう人だった。私は久しぶりのやりとりに懐かしさを感じていた。


 いつも自信と余裕たっぷりで……それでいて繊細さが見え隠れしてるアンバランスな感じ。つまり憎めないタイプ。


「俺は正直なんだよ。」

 コーヒーを口に運びながらさらっと一言。

「あぁ、でもアヤカは不器用な方が好きなんだっけ?」


 一瞬何を言ってるのか分からず、意地悪そうに微笑むヒロくんを見つめ返す。


「不器用な弟は今日帰りが遅いって言ってたけど……」

 そこまで言われてやっと気付く。今度は首まで赤くなったのがわかった。

「な……何言って」

 ごまかそうとすると余計に頬が熱くなる。

「不器用な男って意外にもてるからな……俺からみたらユウキは不器用っていうより、鈍くて捻くれてるって感じだけど。……そこがいいのかな?」


 散々な言い様。でもちゃんと愛情を感じる。なんだかんだ言って弟が好きなのだ。

――まぁこんな分かりづらいんじゃユウキは気付かないだろうけど……。

 

 自分の気持ちをあっさりと当てられて、気持ちが緩んで口が開く。 


「でも……ユウキには彼女がいるし……」

 言葉にすると重く苦しい事実。

「……ふーん。そうなんだ。最近なんとなく感じてたのはそれかな……。

連れて来たことも話聞いたこともないけどね」


――気付いてたんだ。

 締め付けられるような胸の痛みから目を逸らしながら、連れて来てないと言うことに安心した。そんな自分が嫌になる。


「まぁ、出来てもあいつは簡単に言わないだろうけどね……。でも付き合ったのってごく最近だろ?」


 そろそろ1ヶ月程になるはずだ。そう答えると意外そうな顔をされた。

「俺はここ数日だと思ってた。」

「なんで?」 

「ここ最近あいつから雄の匂いがするからさ」

 と意味深に笑う。

「雄の匂い?」

「雄が雌を狙う。動物としては当たり前。本能だろ?」


――分からない。恋愛って意味だろうか?

 難しい言葉にそれとは違う空気を感じる。ヒロくんの顔がぐっと近づく。


「無意識に雌も雄を求める。だから雄は応えるんだよ」

 訳が分からなくって心臓が高ぶる。頭が熱くなって呼吸が苦しくなる。

 なんの事を言ってるんだろう。ただの恋愛話じゃないんだろうか。

――アヤカは子供だね

 エミによくからかうように言われる。それと同じこと?


 混乱してると、

「アヤカにはまだ分かんないかお子ちゃまだもんな」 小馬鹿にしたように言われる(やっぱり!)

 図星を当てられカッとなって咄嗟に言い返す。

「確かにヒロくんよりは全然子供だけどっ……」


 言葉に詰まってしまう私を笑いながら茶色の瞳が更に近づく。


「可愛いな、アヤカ。なんなら俺と試してみる?」 

 耳元で囁かれた言葉が体の中を通って背筋がゾクッとする。慣れない感覚と言葉に目眩がした。


 軽い冗談にそんな風に反応した事が恥ずかしくて悔しくて腹が立つ。

 赤い顔のまま言い返そうと口を開いた時

 頭の上から硬い声が響いた。


「なにやってんだよ……兄貴」


 振り返ると部活帰り姿のユウキがドアの向こうに立っていた……。




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