第9話 知り合いと名乗る女神
ミリルは自分が何をすべきか分からなくなっていた
自分がやろうとしていたことは全て迷惑で困らせていたのなら何もしないのが1番なのではないかと
ミリル「…お金…稼がなきゃ…」
暗い宿部屋を出て、連合へ行き今日貼られているクエストを確認していた
ミリル(戦闘に行くのなら誰か経験者を連れていかないとだよね…誰がいいんだろう…デヴィアさんは団長だし…他に…)
リヴィット「おぉ、ミリルだ!」
ミリル「あっ…リヴィットさん!数日ぶりです!」
ミリルは暗い気持ちを隠すかのように笑顔で振る舞うとリヴィットの背後に誰かがいるのが分かった
リヴィット「アルフェミア、ミリルに挨拶するんだ。冒険者として初めての友達になれるかもだぞ」
リヴィットの後ろにいたのはリヴィットと同じ薄紫色の髪を持つミリルより少し背が低い女の子であった
アルフェミア「あっ…あのっ…初めましてっ…アルフェミアです…よろしくお願いいたします!ミリルさん!」
アルフェミアは恥ずかしがり屋な性格からかリヴィットの服をつかみながら自己紹介をし、恐る恐るミリルの顔を見たがその瞬間ミリルの近くに白い花が咲くかのような感覚がした
ミリル「アルフェミアちゃん!こちらこそよろしくお願いしますね!」
アルフェミア(綺麗………絵本に出てくる女神様みたい…)
リヴィット「…アルフェミア?おーい、生きてるか?」
リヴィットがアルフェミアの顔の前で手を振るとアルフェミアは ハッ!と気づいた顔をし、顔を赤くしてまたリヴィットの後ろに隠れてしまった
リヴィット「人見知りっぽいからすまないなぁ…アルフェミアも将来副団長になるのが夢だと言うから連れてきたがちょっと度胸がつくまでは辞めた方がいいのか…」
ミリル「副団長…団長はリヴィットさんが?」
リヴィット「そういうことだな!アルフェミアは本当に俺のことが好きなんだから」
アルフェミア「うぅ…お兄ちゃん恥ずかしいこと言わないでよ…」
リヴィット「今から俺たちはクエストを受けに行くんだが良かったらミリルも来るか?」
ミリル「えっ!いいんですか!?」
リヴィット「あぁ、友達だろ?」
ミリルは友達という言葉にトキメキを感じ、嬉しそうに「はいっ!」と答えた
アルフェミア「ミリルさん…良ければ…使ってる化粧品とか…教えてください…どうしたらそんなに可愛く美しくなれるんですか…?」
ミリル「化粧品…?私使ってないよ?」
アルフェミア「えっ…すっぴんでその破壊力なんですか…!?」
ミリル(えっ?破壊力?…私の顔そんなにおぞましい!?)
アルフェミア(ミリルさんの顔ずっと見てたいほど綺麗すぎてマジやばい……お兄ちゃんミリルさんをお嫁さんにもらってくれないかなぁ…そしたら家で一緒に寝たりとかお風呂に入ったりとかご飯食べたりとか……お部屋に飾ってたい〜!)
リヴィット「んー…とりあえず猪退治ぐらいでいいか…」
リヴィットは掲示板から1枚剥がし、2人にクエスト内容を見せていた
ミリル「猪って凶暴じゃ…」
リヴィット「アルフェミア猪ぐらい余裕だよな?」
アルフェミア「うんっ…龍じゃなきゃ大丈夫」
ミリル(この兄妹少し基準が高いんだなぁ…私何も出来なさそう…)
ミリル「そういえば冒険者って若い人も結構いるんですね…」
リヴィット「この国は戦力が不十分過ぎるからな…この前の大蛇事件の時も俺たちは他の所に現れた魔獣退治に行っていたから応戦出来なかったし…」
ミリル(私が関与してるってバレてない良かったぁ…)
アルフェミア「リディア様が本来団長だったんだけど…」
ミリル「えっ、そうなんですか?」
リヴィット「あぁ、先代権主様がいた時は娘のリディア様が騎士団長を務めていてな。凄かったぜリディア様は」
アルフェミア「権主の力もあるからだけど1人で1万の騎士に匹敵するほどの実力者……ずっと城から出てこないから大戦力を失って非常時には大変なんだよね…」
ミリル「…出てこない理由ってあるのですか…?」
リヴィット「……ここで話すよりも移動しながら話そう」
リヴィット達はクエストの受注を完了させて、連合を出て門の外へと出た
リヴィット「3年前に先代権主様が亡くなられたのは知っているだろう?」
ミリル「はい…」
アルフェミア「リディア様はその犯人が私たち国民だと信じ込んじゃっているんです。犯人は他にいるはずなのにリディア様は聞く耳を持ってくれない状況で…お父様もお母様も……帰ってこない人となりました」
ミリル「…そこまでするのですか…手にかけるなんて…」
アルフェミア「リディア様はそのような事をするお方では無いんです!…そう信じてます…きっと何かあるんだと…その後呼ばれてない者が城に入ろうと自動的に攻撃されて……誰も説得出来ない状況です。唯一入れるのは幼馴染であるカルミア様ぐらいで…」
ミリル「じゃあどうみてもカルミア様?…が…」
リヴィット「カルミア様を侮辱するとリディア様がお怒りになるから注意しておけ、フロイゼンであればリディア様はどこからでも干渉出来るんだ」
ミリル(…ちょっとご乱心な権主様なんだ…注意しないと私も殺されちゃうのか…)
リヴィット「今回の標的が居たぞ、白雪狼の群れだ」
ミリル(うわぁ…私と同じぐらいの大きさだ…15体ぐらいいるし…え、これ1対1で戦えとかそういう系?)
アルフェミア「それではノルマ5体で行きましょうお兄ちゃん!ミリルさん!」
ミリル「待って待って待って…え、1人5体!?」
リヴィット「白雪狼だったら全然普通だよな」
アルフェミア「うん…ミリルさん…もしかして…」
ミリル(何脅えてるのミリル…!私は大蛇も倒したことがあるんだから…白雪狼ぐらい…)
ミリルは唾を飲んで買ったばかりの剣を構え、どう戦うか考えていた
ユスタル"貴方のしてる事は理想を語る危険行為を行う一般人とほぼ同じ"
ユスタルの言葉がミリルの脳裏に焼き付いていた
また危ないことをしようとしている
怒られたばかりなのにまた迷惑行為をかけようとしている
今度はリヴィットやアルフェミアにそう思われてしまうのかと急に不安と恐怖に襲われた
アルフェミア「ミリルさん…怯えることはありません。人は失敗して成長する生き物です。不安であればお兄ちゃんや私がサポートしますから!」
アルフェミアはミリルの手を握ってそう言い、内心では(ミリルさんの手に触っちゃった〜っ!)と恥ずかしがっていた
ミリル「…失敗しても2人は私のこと嫌いになりませんか?」
リヴィット「……会ってまだそんな経ってないし確実とは言えないが、少なくとも嫌いにはならねえ。寧ろ育てがいがあるってわけだな、ミリルは失敗でめげるような女の子か?」
リヴィットがミリルに向けて剣を向けると、ミリルは自身の剣でリヴィットの剣を払い除けた
ミリル「めげたくないし…頑張るよ!」
リヴィット「とりあえず噛まれないように気をつけろ!」
アルフェミア「はいっ!」
3人は同時に群れに対して斬りかかり、リヴィットとアルフェミアはどんどん狼を倒して行った
ミリル(2人とも早いっ…私はまだ1匹目なのにっ…)
ミリルはこのままシンプルに斬るだけじゃダメだと気づき、また知恵を使って戦うことにした
ミリルは五体の狼に大きな切れ込みをいれて狼の怒りを買いミリルの方へ狙うようにさせると襲いかかる瞬間にミリルは上へ飛んだ
狼たちは仲間と激突し、怯んでいた
その隙にミリルは剣でオオカミの背中から剣を刺した
ミリル(流石に致命傷は与えても行動不能には…)
リヴィット「仕留めは任せろ!」
リヴィットは一気に狼の首を切り落とし、群れの掃討は完了した
アルフェミア「流石お兄ちゃん!」
ミリル「凄いですね…一気に頭を落とすなんて」
リヴィット「腕力いるから難しいよな、アルフェミアの分も半数は俺が頭切り落としてるし」
アルフェミア「だって途中から疲れちゃって…」
リヴィット「筋トレちゃんとしてるのか〜?」
ミリル「私も筋トレ…しないとです」
リヴィット「それなら今度うち来いよ。全員で筋トレと訓練しようぜ!」
アルフェミア「是非…!」
ミリル「えぇっ、いいんですか?」
リヴィット「1度戦ったやつは友達だしな!」
ミリル「嬉しいです!是非行かせてください!」
アルフェミア「…ミリルさん…良かったらお兄ちゃんと結婚してくれませんか…!」
ミリル「えぇっ?」
リヴィット「お、おい!すまんミリル…アルフェミア、ミリルには既に男が…」
アルフェミア「えぇっ…既に男持ちでしたか…」
アルフェミア(ユスタルお兄ちゃんとまさか友達だったなんて…ユスタルお兄ちゃんはお兄ちゃんよりもイケメンだし…お兄ちゃんが負けちゃうよ…)
ミリル「ちょっと待ってくださいなんか誤解されてませんか!?」
リヴィット「あれ、ユスタルと結局付き合ってないのか」
ミリル「付き合ってるっていうか……私とユスタルさんは……もう他人ですし…」
リヴィット「…?喧嘩でもしたのか?…」
ミリル「…絶交?しました、嫌われちゃったので…」
リヴィット(ユスタルのやつ一体何したんだ……まぁユスタルの邪魔が入らないというなら面白いイタズラとかしても説教されないというわけだ…アルフェミアに普段仕掛けてる罠をミリルに今度かけてみるか……面白い反応しそうだなぁ)
アルフェミア「お兄ちゃんどうして笑ってるの?ミリルさんにイタズラとかしたらダメだからね!」
ミリル(イタズラって聞き捨てならないんだけど…)
リヴィット「なんでもないぞ〜?とりあえず素材回収して連合に戻ろ…あっ、その前に」
ミリル「?」
リヴィット「ミリル、ここで1回向き合おうぜ」
ミリル「向き合うって?」
リヴィット「なんかお前の戦い方…戦闘経験はあるけど忘れてるって感じがするんだよ」
ミリル「…そういうのって感じるものなんですか?」
リヴィット「長年の経験によるものさ、アルフェミアもそう思わないか?」
アルフェミア「…うん、ミリルさんってなんか…不思議な人って感じがする…私とお兄ちゃんは小さい頃から鍛えられてきたはずなのにミリルさんといざ戦おうとするとミリルさんの奥からの圧が見えるみたいな…」
ミリル「つまり背後霊ということですか!?」
アルフェミア「多分そういうのではないかと…なんて言うんでしょう……………」
リヴィット「んまぁ、1勝負やろうぜ。ミリル、お前迷い者だろ」
ミリル(迷い者…)
リヴィット「フロイゼンが他の国と隔たれてから三年経ってるがミリルの顔は今まで見たことがない、身分証の登録がされていない…それに名前にセレントヴァインが入る家名なんて無いんだよ、なんで登録が上手くいったのかは知らねえが嘘なんだろ?」
ミリル(居なかったはずなのにどうしてバレてるの…)
リヴィット「…まぁ怯える必要は無い。ミリルは悪いやつじゃないのは分かってるからな、あとこの世界についてあまりにも知らなさすぎる。リディア様が元気だった頃の話なんて世界中の誰でも知ってるぞ、それを知らないだなんて情報がない空間に閉じ込められていたか、忘れてるかのどちらかだ。前者は無いと思った、あの時の服装があまりにも綺麗すぎるしマギラセントラルでは見たことない服装だ………何者だ?あんた………と言っても答えるわけないか」
ミリル「…私が何者かは分かりません、それは私も気になることなんです。だから思い出せるまでは何か行動を起こしてたいと思ってます、あっ、悪いことをしようとしてる訳じゃありませんからね!ただ何かしていれば思い出せるかもと」
アルフェミア「記憶が無い…ということですか?」
ミリル「…覚えてるのは単語と名前だけなんです。こんな故意に記憶が消えるなんて誰かの仕業に決まってます。その犯人を突き止めて私の記憶を返してもらおうと思ってるんです。まぁ手がかりは何も無いんですけどね…」
リヴィット「そうか…それなら尚更リディア様に会わないと手がかりが見つからない可能性がある」
ミリル「え、何故ですか?」
アルフェミア「フロイゼンは歴史を重んじる国なので……書庫に歴史記録書があるはずです。権霊様がもしかしたら教えてくれるかもしれません、しかし書庫に入るのにもリディア様の許可が必要で…」
ミリル「面倒臭いですね…」
リヴィット「そんな正直に言うなミリル。とりあえず急いでないのなら無理してやる必要はない、じっくり思い出してみればいいんじゃないか?」
ミリル「そうですね、自然と思い出せるといいな…」
?「思い出す?アンタは思い出さない方が幸せだってベーゼ様が言ってたわ」
ミリル「誰ですか!?」
ミリルの背後に現れたのは濃い紫に毛先が赤色に燃えてるかのような髪を持ち、瞳孔が白く目がオレンジ色の女だった
?「こんにちは、私は『殲滅の女神』エンディ…ベーゼ様の命令に従い貴方に挨拶をしてきたというわけ」
ミリル「女神…?」
アルフェミア「実在するのですか…?」
リヴィット「2人とも離れろ!」
リヴィットはミリルとアルフェミアを背後に、剣を構えた
エンディ「あらあらそちらの勇敢な男性さん、今日"は"挨拶に来ただけですの、何も害を与えようとはしてませんのよ」
ミリル「…貴方は私の過去を知ってるの?」
エンディ「知ってるも何も…私とアンタは今まで何百回も会っているから。何回も戦って何度も敗れて絶望を覚えさせた張本神がアンタだから」
ミリル「……」
エンディ「まぁ言ったところでアンタが今思い出すはずが無いし…とりあえず今のうちに力の差というものを見せてあげるわ」
エンディが指を鳴らすと一瞬でフロイゼンが火の海になり、街から悲鳴の声が大きく聞こえた
ミリル「っ!?」
リヴィット「何だこれっ…」
エンディはニヤッと笑うとまた指を鳴らし、先程の火の海は元通りになり雪が降る雪原になった
エンディ「私の手にかかればこんなショボイ国一瞬で破滅に迎えさせられる。それを覚えておいてよね」
アルフェミア(指を鳴らすだけで…本当に神なのですね…)
エンディ「まぁ安心して、まだ本気出さないから。ベーゼ様の気が変わらないうちにさっさと死ぬ事ね、楽に死にたいのなら…あ、でもアンタは安心して。殺したりはしないから、ただ生きることが辛いと思わせるほどの精神の死を与えてあげる」
ミリル「っ……」
エンディ「ふふっ、それじゃあね〜」
エンディは手を振ると一瞬で目の前から消え、リヴィットは冷や汗をかいていた
リヴィット「なんだ今のやつ…明らかに今の魔法じゃないぞ…」
ミリル「神…ベーゼ……全然見当がつかない…」
アルフェミア「あの神はミリルさんと知り合いらしいですし……」
ミリル「アルフェミアちゃんっ…私はあの女神さんみたいなことしないから…悪い人じゃないから…」
アルフェミア「大丈夫です、ミリルさんは良い人ですから信じてます」
アルフェミア(こんなにも綺麗で可愛い人が悪企みしてるなんて考えられない…)
リヴィット「……それにミリルの様子を常に観察しているように見える、気をつけておけ。相手がいつ襲い掛かるか分からない以上な」
ミリル(…エンディっていう子…私知ってる気がする……殲滅の女神………エンディ…本当に知り合いなのかな…)
ミリル「…私の近くにいると危ないということですよね…だったら離れた方が…」
アルフェミア「ダメです!ミリルさん…1人の方が危ないですよ…」
ミリル「…そうかな…」
アルフェミア「私達がミリルさんの力になります……騎士は誰かを守るために存在するのですから」
ミリル「…アルフェミアちゃん…」
リヴィット「あの様子だと何処に逃げても同じだろうな…あいつがまたミリルの目の前に現れるまで強くなるしかない」
ミリル「強くなりたいです!私のせいで巻き込まれるだなんて…許せませんから」
ミリル(ひとさっきみたいな状況にならないように…私が何とかしないと………本当に私って誰なんだろう…)
リヴィット「だったら猛特訓だ、俺たちの訓練について来れるようになったら基礎は身につくと思う」
ミリル「…教えて欲しいです」
アルフェミア「私からも教えられることあったら教えますね!」
ミリル「ありがとうございますっ!」
ミリル(あぁ…本当にこの人達はお人好しすぎるなぁ…嫌な程に私にもったいない)
ミリルは笑顔を貫き通し、2人が前へ振り向いた瞬間笑顔から真顔に変わり2人の背中をずっと見ていた
リヴィット「それじゃあ行こうぜ、クエスト完了報告したら俺たちの家で訓練だ!」
アルフェミア「行きましょうミリルさん!」
ミリル「はいっ!」
ミリルは2人の後ろをついていくと、アルフェミアがミリルの隣に並びリヴィットも歩幅に合わせて3人が横並びになり歩く形になった
ミリル(私は私に優しくしてくれる人たちを守りたい、優しくしてくれる人たちを支えてくれる人たちを守りたい…その為にはやっぱり強さが必要で理想なんか意味が無いんだ。私は弱い、強くなるしかやることがないんだね…)