第18話 事象の改変
グレイスの街に衝突音や爆音が響き渡る
戦闘に慣れているアイシュレイズとエンディはお互い殺気立てながら神権を利用した戦いを繰り広げ、まだ体は神として取り戻しても自身の動ける範囲に追いつけてない状況のミリルはアイシュレイズのアシスト側として回るしか無かった
ミリル(この断絶の力を辺り一面にばらまいて…空間が崩壊しないようにしないと!)
ミリルが一瞬でグレイス中に断絶エネルギーをばら撒くとエンディの攻撃による空間崩壊が修復された
アイシュレイズ(たかが殲滅神にこんな手間がかかってしまうだなんて…この世界を犠牲にすればエンディ諸共葬ることは出来る…しかしそれは陛下の意に反してしまう…)
エンディ「アイシュレイズ…そんなに陛下陛下って考えてると…痛い目に遭うわよ?」
エンディがそういうとエンディの殲滅エネルギーの粒子がアイシュレイズの周りに浮いており、一瞬で細かい光線が無作為に放射された
アイシュレイズ「っ…!断!」
アイシュレイズは剣で光線を全て切り刻み、青い光がアイシュレイズの剣を覆っていたのだった
エンディ「あらゆる力を無効化し浄化する青い光…断絶の力ってすごいわね。オリジナルじゃない神遺聖故に流石に完全無効は出来ない…皇帝神の役に立てなくて可哀想ね。まぁ私は優秀だからベーゼ様のお役に立ててるし、オリジナルだから。本物なんだから」
アイシュレイズ「…私が本物であろうと偽物であろうと陛下の力になるという使命は変わらない!」
ミリル(アイシュレイズ…………………そもそもみんなを傷つけたのに呑気に笑っている目の前の女神が許せない…私の大切な友達を傷つけた代償は必ず受けさせる…命を弄ぶ神は消えて無くなればいいのに)
ミリルが自分が何をするのか確信した時にエンディの体が本能でかつての記憶を思い出した
エンディ「っ……懐かしいわその殺気…!そうよ…この本能が怯える程の恐怖…流石皇帝神!」
アイシュレイズ「陛下っ…」
エンディ(覚醒初期段階の力なんて大したこと無さそうだし殺気だけ1人前みたいなだけよね)
ミリル(目の前の敵をただ倒す…その為の方法は…)
ミリルが腕に身体中に溢れるものを流すように力を入れると手のひらから白色の模様が浮かび始めたのだ
エンディ「バラバラになりなさい!!!」
エンディが鎌を大きく右から左へ振りかざすと斬撃波の殲滅エネルギーがミリルの方へ突進し、さらにエンディも鎌を持って斬撃波の後ろについて行くかのように突進した
アイシュレイズ(この陣は…これは…)
アイシュレイズ「フィアセレント…ノーヴェ」
陣から白色に輝く光線がエンディに向かって放射されるとエンディの目の前に黒いレースを羽織った全身黒色の服を纏った者が現れ、直撃寸前でフィアセレントノーヴェの光線もエンディの斬撃波も消失した
エンディが驚いた顔で見つめ、空いた口を動かし武器を慌てて下ろしたのだ
エンディ「っ……ベーゼ様!?何故ここに!?何か失敗を…」
ミリル「………」
ベーゼ「……今のアレを直に受けていたら…君は危なかった」
エンディ「…お守り頂きありがとうございます」
アイシュレイズ「ベーゼ…良くも私の目の前に姿を」
ベーゼ「黙りなさい、弱き者よ」
ベーゼがそう言うとアイシュレイズは体が突然固まり、目すら動かなくなってしまった
これはベーゼがアイシュレイズよりも格が違う神であることを表している
神遺聖も神と似たような存在であり、神格を持っている。神格には本能的な序列があり、皇帝神時代のミリルにはどの神にも劣らない最強の神格があったのだがベーゼはそのミリルよりも強い神格を持っていたのだ
アイシュレイズ「………………」
ベーゼ「変な覚醒したせいで力の操作が不安定になっている…道理でエンディに勝てないわけね。少し甘すぎなのかしら」
ミリル(薄らな記憶だけどフィアセレントノーヴェは…そう簡単に防がれる神業ではないのに…)
ベーゼ「フィアセレントノーヴェ…君はこの力をまだ十分に扱えていないわ」
ベーゼの履いているヒールがコツコツという音を出しながらミリルの目の前まで歩き、胸ぐらを掴んで軽々と持ち上げたのだ
ベーゼ「君は弱い、神に戻れたからと思い上がらないで。この未来は失敗ね…」
ベーゼがそう言うとカチッという音が聞こえた
まるで何かスイッチを動かすような音
ミリルとベーゼ、エンディ以外の景色…事象が変わっていくかのようだった
ミリル「何をしてるの…」
エンディ「ベーゼ様こんなに力を使用しては…」
ベーゼ「これぐらい大したことは無い。この世界線は失敗率が高いから…君と私の望む未来へ行くために試行錯誤を繰り返している。安心してまだ時間はある」
ミリル(事象の変更だなんて…こんな易々と…)
ベーゼ「……………行くわよエンディ」
エンディ「良いのですかっ…私に下した命令は…」
ベーゼ「……………」
ベーゼの無言はエンディを本能的に支配し、エンディは恐る恐るベーゼの後についてどこかへ行ってしまった
ミリル(…あんなの…勝てる訳が無い……私はベーゼと…)
アイシュレイズ「陛下…一体何が…」
ミリル(ベーゼが書き換えたのは…)
ミリルが後ろを振り返るとエンディにやられていたはずのみんなが目を覚まして重い体を起き上がらせている状況だった
ユスタル「っ…」
リエガ「…頭変に打ったわね…」
アイシュレイズ「…死者も…生き返っている…」
アイシュレイズは断絶の力で事象の改変の影響をそこまで受けていなかった
ミリル「え…死んでたの?…」
アイシュレイズ「っ…陛下にはお伝えしない方が…良いと思いまして…」
ミリル「……………私……遊んでる場合じゃないな………皆さん!大丈夫ですヵッ゛……」
唐突にミリルの体に感じたことの無い激痛が走り始めた
足がバランスを崩し、地面にゴンッ!と重力に任せられるように強く身体を打ったのだ
ミリルが感じた痛みはまるで体の内側から無理やり骨や筋肉内蔵をひねり潰されながら折られたりしている感じであった
リヴィット「…ミリル!?」
ディアナ「…っ…ミリル…」
アイシュレイズ「陛下!」
アイシュレイズが慌ててミリルの体に触れると、アイシュレイズが更に深刻な顔をし自身の力を最大限注ぎ始めた
ミリル「ッハァッ…ハァッ…何今のっ…」
アイシュレイズ「私の目で見る限り…陛下の体が不安定となっています…神と人間の中途半端のような…。
断絶でその痛みの感覚遮断をしましたが結構力を持っていかれますし…恐らく時限式なのかと。今の陛下は人間の体です」
ミリル「30分ぐらいか…」
ミリルが自分の右手を見ながら握りしめ、ゆっくりと起き上がり周りを見渡すとあれほど破壊されていたフロイゼン城などが綺麗に直っており、争いがなかったかのようだった
ミリル(ベーゼの考えが読めない…一体何がしたいの…?)
リディア「ミリル…」
ミリル「っ…リディア様」
リディア「助けてくれてありがとう、この状況を見る限り貴方とアイシュレイズがあいつと戦ってくれたのね…」
ミリル(記憶に関しては特に弄ってない…)
リエガ「リディア様の心を操るだなんて…カルミア嬢は?」
ミリル「リエガ様…リディア様の心を操っていたのいつ知ったんですか…?」
ミリル(そのことはリエガ様は知らないはず…)
デヴィア「あの女神が言ってたじゃないか…全ては私が仕組んだことだと…」
ミリル(ベーゼが書き換えたのはみんなの知る事実すら影響してるんだ…)
アイシュレイズ"陛下、恐らく皆さんはエンディに操られたリディア様を陛下が助けたとなっているのかと…カルミアさんは…"
ミリル「…そうか…」
ミリル(なんかめちゃくちゃな話になってる……起承転結が早すぎて頭の処理が追いつかないよ…)
リヴィット「とりあえずユスタルが一番重症そうだな…アルフェミア達に治療してもらいにいくぞ…ユスタル…俺の声が聞こえるか?」
ユスタル「……リヴィット…」
掠れた声でリヴィットの名を呼び、力を入れながらゆっくりと顔を上げた
その様子を見たアイシュレイズがユスタルの所へ歩き、人差し指をユスタルの頭に置いた
アイシュレイズ「お待ちください、神の力の穢れを除去しますので」
断絶の力がユスタルに影響し始めるとエンディの殲滅エネルギーの残骸が綺麗になくなり、痛みがある程度消えユスタルが落ち着いたかのように深呼吸した
ユスタル「ありがとうございます…」
ミリル「ありがとうアイシュレイズ…みんなにもお願いしていいかな…」
アイシュレイズ「陛下のご友人方でありますし当然のことです、かしこまりました」
そうして負傷していた主力メンバー達の回復が終わり、避難していた国民がグレイスに戻っていくのを夕方の太陽の光に照らされながらミリルは見ていたのだった
ディアナ「…ミリル」
ミリル「…ディアナさん…?」
ディアナ「私も見ていたいからいいかしら」
ミリル「はい…」
ディアナがミリルの隣に立ち、柵に腕を置いてジッと国を見下ろしていた
ディアナ「………神の事象変換はややこしいわね…」
ミリル「…!ディアナさん覚えているんですか!?」
ディアナ「私は権主の力を人の形に変えたようなものだから神の影響は多少軽減されるの。リディアは影響をまんまと受けたから知らないと思うけど………あの後ちゃんと謝罪して権主として生きていくという宣言もした…あの子は根はすごく良い子だから…ちょっと言葉のセンスが微妙なだけでね」
ミリル「そうですね…リディア様には…幸せになって欲しいです。あんな辛い過去があったなんて…しかも誰も知らなかったなんて…」
ディアナ「…………あの子は傷を1人で抱えるような子だから…先代の時からずっと見ていたの、父親を不安にさせないように無理して作った作り笑顔を………リディアは友達と呼べる存在が少ないから出来ればリディアの相談相手とかでもいい…あの子の心に寄り添える友人になってほしいの」
ミリル「…言われなくてもリディア様とはこれからも仲良くしたいです。今の状態で友達と呼べるかはわかりませんが…」
ディアナ「大丈夫、信頼の気持ちはあるから」
ミリル「……私頭が馬鹿なので今一体どうなってるのか分からないんですよね…ベーゼは何を変えてなんのために…」
ディアナ「…私の考察になってしまうけど変更された点は私たちの死亡が無かったことになったこと、街が修復されている、カルミアの行方が分からないまま……待って…今思えば今までの歴史の中にファーレンハイト家なんてあったかしら…」
ミリル「えっ…」
ー?ー
ルアー「はぁ…全くエンディのおバカ。やりすぎなのよ、おかげで演技が中途半端になったじゃない!」
エンディ「うるさいわね…やりがいのある下等生物達が沢山いたんだもの…」
ルアー「ダイデッドもあんな演技じゃバレバレよ!まぁ…こんぐらいめちゃくちゃな話にすれば満足なんですよね?ベーゼ様」
ダイデッド「うるさいなぁ…死ねよマジで…俺が引き受けただけ感謝しろマジ死ね」
ベーゼ「えぇ、みんなご苦労さま」
ルアー(皇帝神が例え人間になろうと勘が鋭いはず…それを見据えて何がどうなってるのか分からなくするために展開を早くしたり現状の把握を難しくしたり…本当にめちゃくちゃなことをしますねベーゼ様…)
ベーゼ「一先ずミリルの神としての初期覚醒は終わった、ここからが本番よ。エンディは私からの指示があるまでは何もしないように」
エンディ「…かしこまりました」
ー翌日ー
リディア「えっ、表彰はしなくていい…?貴方は私と国を救ってくれたのよ!」
ミリル「しなくていいです!私の力じゃないので…」
アイシュレイズ「陛下…しかし…」
ミリル「いいの!しなくて!」
表彰されたくないミリルと自分の主が表彰されているのを見たいアイシュレイズ、恩人のミリルを表彰したいリディアで意見が対立していたのだ
ディアナ「リディア、ここは本人の意思に従いましょう」
ディアナがリディアの肩に手を置くとリディアは不満そうな顔をしていたが諦めるかのように背伸びして玉座に座ったのだ
リディア「そうね…じゃあパーティーみたいなものはどうかしら!私が迷惑をかけてしまった分のお詫びで開催するの。もちろん私の全額支払いだからお金の心配はしないで!」
ミリル「それだったら参加しますー!」
ディアナ「……私は参加するのは辞めておくわ、そろそろ戻ろうかと思うの」
アイシュレイズ「…ディアナ様は権主の力そのものですからね…」
ディアナ「ええ、私が存在しているとリディアは思うように力を出せないもの」
ミリル「ちょっと待ってください…ディアナさんが離れていたのにあの国を囲んでいた氷の壁をずっと維持していたのですか?」
ミリルが嘘でしょと言うような顔でそういうとリディアとディアナはキョトンと当然でしょという顔になっていた
リディア「別にあれぐらいだったら今の力でも余裕よ、形状変化が特にないし…動くものだったらちょっと難しいかもだけど」
ディアナ「そうね、これから神という未知数な存在と戦うとなったら私がいるよりも戻る方が総合力的には上がるのよ…」
リディア「ディアナ………また会いましょう。次会えるのはいつぐらいになるのかしら」
ディアナ「次は多分数年後ぐらいになるわね…あなたの笑顔を見ることが私の心からの喜びよ」
リディア「…ありがとう、ディアナ。貴方も私の恩人よ」
ディアナ「ええ、愛してるわリディア。ミリルもアイシュレイズも私の友人よ。また会えたらその時は一緒に遊びましょう」
ミリル「当然です!」
アイシュレイズ「はい」
ディアナはゆっくりとリディアの方へ歩くと実体が無いかのようにスルりとリディアの体を通り抜け、雪の結晶のように消えていったのだ
ミリル「リディア様…どんな感じになりましたか?…」
リディア「…心から力がみなぎってくるような感じだわ…私も神に負けないぐらい強くならないと!」
リディアが大きく腕を伸ばすと興奮によるものなのか体から大きな氷柱が全方向に伸び始め、ミリルはギリギリ貫通を防ぐかのように避けた
ミリル「ひぇぇぇぇ!!!」
アイシュレイズ「リディア様力の操作になれる方がお先かと…」
リディア「あ…ごめんなさい……」