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第9話 一難去っても……

「熱い……背中がジリジリする……」


 クマを吹っ飛ばしたところまではよかったが、こけおどしの実と言うには、あまりにも高い威力によって、僕も爆発に巻き込まれ、結局一緒に吹っ飛ばされてしまった。


 この体の身体能力でなければ、きっと助かっていなかったはずだ。光ったのが見えてから走り出すなんて、人間の時ができなかったと思う。


 ほんと、命があるだけ御の字だ。


 それでも、背中は自分じゃなめられないから、この傷は一人じゃどうしようもない。そもそも当分動けそうにない。疲れた。


「メイちゃん大丈夫だった? うわっ! すごい痛そう。待ってて、今薬草出すね」


 先ほどの爆発を聞きつけて真っ先にやってきたのはカナだった。


 ついさっきはちみつ入りのビンを取り出したのと同じように、カナは薬草を取り出すと、すぐさま背中の傷を治療し始めてくれた。


 出会い頭の変人に染みた対応とのギャップから、思わずぎょっとしてしまう。


「なに? メイちゃんって治療方法とか気にするタイプ?」


「いや、そうじゃなくって。単純に、意外で」


「わたしがこういうことしてちゃ悪い?」


「ううん、全然。むしろありがたい」


「気にしなくていいよ。火傷した女の子もわたし的には悪くないけど、やっぱりすべすべの肌の方が撫でてて気持ちいいからね」


「…………」


 少しカナのことを見直した僕の気持ちを返してほしい。


 結局、動機は不純だった。


 まぁ、カナみたいな人間が、ただの善意で人助けをしているよりかは受け入れやすいか。


 塗り込まれる薬草を微妙な気分で感じながら、僕はおとなしくじっとしていた。


「こりゃ、盛大にやってくれたにゃ、シゲタカ」


「ですにゃあ」


 遅れてやってきたニャオミとマイちゃんの声に顔を上げると、二人ははちみつまみれの顔のまま真剣な表情で僕と小屋のあった辺りを見つめていた。


 こっちもこっちでいつもの調子、全く締まらない。


「クイーングリズリーが来た時点で、この小屋はもう小屋としての役割を果たしていなかったからね? それに僕はシゲタカじゃない。メイメイだ。何度言えばわかるんだニャオミ」


「お前はシゲタカだろ。まぁいい」


 そこでニャオミは、気を取り直すようにこほんと咳払いをした。


「半壊は半壊にゃ。第一、床は無事だったじゃにゃいか。それが今は、全壊どころかクレーターじゃにゃいか。これをやってくれたと言わずとしてなんて言うにゃ?」


「それは、その……ごめん」


 言われてしまえば反論の余地はなかった。


 どこからどう見ても僕がやってしまったことだった。


 地面を見つめる僕に対して、ニャオミは、あからさまな調子で、はぁとため息をついた。


「言っただけにゃ。それに、いいってことにゃ。小屋くらいにゃくともアタシたちは生活ができる。そもそも、お前がここまでしなけりゃ、みんにゃ今頃死んでただろうからにゃ」


「ニャオミ……」


 ニャオミの言葉に僕が顔を上げると、ニャオミは僕にほほえみかけるように優しく笑んでいた。


 こんな顔するのか。


 ニャオミが女神様ってのは本当かもしれないな。


 そして、ニャオミが言葉を続けようと口を開けかけた時、カナが僕の治療する手を止めて、その場で勢いよく立ち上がった。


「えー! 駄目だよ! 女の子が野宿とか、普通に危ないよ!」


 普通でまっとうな意見だった。


 カナが言ったんじゃなければ、それもそうかと納得したかもしれない。


 だが、僕の治療をしている動機すら不純な女だ。そんなカナが言うと、何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。


 そんな僕の疑う気持ちなどつゆ知らず、カナは僕、ニャオミ、マイちゃんの順に顔を見た。


「ね。よかったら私の家に来ない? 豪邸だよ! 親とかいないし」


 胸を張って言うカナの言葉に、流石のニャオミもマイちゃんも、いぶかしげな視線をカナに送っていた。


 親がいないって、なに? 下心丸出しってこと?


 僕もニャオミとマイちゃんと同じようにカナへと疑う視線を向けていると、なぜかカナは、僕の方へと視線をやった。


「え、なに?」


「メイちゃんは来るでしょ?」


「いや、行かないけど」


 なんとなくだけど、カナの家についていくよりも、ニャオミやマイちゃんと野宿したほうが安全そうな気がする。


 しかし、僕が否定したところで、僕のお腹は、きゅうと可愛らしく鳴った。


 そして、僕の腹の音を聞き逃すカナではなかった。


 嬉しそうな笑みを浮かべ僕を見てくる。


「当然、ご飯の準備もできるよ。ね。一緒に行くでしょ?」


 立ち上がっていたカナが僕に視線を合わせるように、その場でさっとしゃがみ込んできた。


 一気に距離を詰められ、僕は反射的に目をつぶる。


「やめておくにゃ。いくら腹が減っていても、それは正気の沙汰じゃにゃいぞ」


「そうですにゃ。ご飯なら、ご飯なら……」


 はちみつまみれの二人は空になったビンを見つめ、それから、クレーターとなった小屋だったものを見つめた。


「ほら、来るでしょ? 来ない理由がないもんね!」


「……………………」


 背に腹は代えられない、か。

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