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UNKNOWN ATTACK

「じゃあまずは魔公会議でお前が新しい魔王だって認めさせないとね」


なんか急に雰囲気が変わった気がする。

対応が柔らかくなったというか明るくなったというか。


魔王を引き受けたから態度が良くなったのだろうか?

これが演技なのかもしれないし今までのキツ目の態度が演技だったのかもしれないし……まあ正直分からないので考えるのをやめよう。


さっき魔公会議とかいうめっちゃ気になる単語が出てきたけど今は早く帰って休みたいところだ。

はっきり言って疲れた。


「なあ、とりあえず今日は帰っていいか?」


そう言った瞬間……いや、正確には言い終わる前だったかもしれない。


誰か、いや何かがこっちを見ているのに気がついた。

あきらかに人間ではない。

頭に胴体、手が2本脚が2本……シルエットだけなら人間と言えなくもない。

…が、やはり人間には見えない。


「あれは君の関係者か…?」


俺がそう言って「それ」を指さそうとした………そう、指を指そうとしただけなのだ!決してやましいことをしようとした訳ではない!

ないのだが俺の手が少女の胸に当たってしまった。

少女が近すぎたんだ、俺は悪くない!


「きゃっ!!」


可愛らしい悲鳴を上げながら悪魔の少女が俺を突き飛ばす。

いや、正確には俺を突き飛ばしながら自分も後ろに後退る。

その瞬間。


シュッ


何かがさっきまで俺と少女がいた場所を通り過ぎた。

光のようにも見えたが、何かが飛んで来たようにも見えた。正直一瞬すぎて分からない。


そこで初めて悪魔の少女も「それ」に気付いた。

そう、そいつが何か飛ばしてきたのだ。


悪魔の少女に目をやるとそれを睨みつけている。

さっきの明るい雰囲気が一変、凄まじい圧を感じる。これに比べたら俺に剣を向けてた時のあれは殺気という程のものではなかったようだ。


「…ばかな、私が全く気づかなかったなんてありえない!」


ん?俺しか気付いてなかったのか?


「全く気配を感じなかった……お前よく分かったわね。」


いや、俺もたまたま気付いただけなんだがちょっと過大評価される流れじゃないだろうな。


「私を突き飛ばしていたらお前が今の攻撃を食らっていた。私にお前を突き飛ばさせて同時に私自身もさがるよう仕向けたから2人とも無事だったってわけね…さすが魔眼に指名された人間、やるじゃない。」


さっきのは攻撃だったのか。

というかひょっとして危なかったのか!?



「しかも私じゃなくお前を狙ってきた!」


「魔王が狙いってことなのか…」


「お前が次の魔王だって知ってたのよ!」


「他の魔公の手下ってことなのか?」


「…ありえない、誰にも話してない…、お前が次の魔王だって知ってるのは私だけなのよ!」


いまいち分からないが要するに魔眼とやらはこの少女にしか俺の情報を見せていないし、この少女はそのことを誰にも話してないってことなんだろう。


シンプルに考えたらこの少女が後をつけられたってことなんだけど、そんな単純な話でいいのかな?


とりあえず一難去ってまた一難。

今度はあの正体不明の敵に殺されないようにしないといけないらしい。

勘弁してほしい。


「攻撃してきたってことは敵なんだよな?勝てそうな相手なのか?」


「わからない……、少なくとも気配を消すのは私より上手いわね……」


魔王の次に偉いやつがこのセリフ。

ヤバそうな相手だ。

あ、その前に気になることが…。


「なあ、この結界って俺達が他のやつに見えなくなるんだよな?あいつやお前の攻撃が結界の外に漏れるのを防いだりは………」


「そこまでの機能なんて無いわよ」


「いやそれマズいだろ!じゃああいつが撃ってきたさっきの攻撃はどこまで飛んでったんだ!?」


「知らないわよ、そんなことまで気にしてたら殺られるわ!」


これはめっちゃマズい気がする!

一応、こいつは俺が魔王だって認めてるんだから命令すれば聞いてくれるのか!?


「逃げるってのはどうだ?」


「リスクが高過ぎるわ、逃げ切れるか分からないし逃げたら逃げたでまたいつ不意打ちされるか分からない……正面切って相対してる今、戦って倒すのが1番よ。」


「じゃあせめて周りに被害が出ないように戦ってくれ!」


「この状況で何言ってるの!?攻撃されるまで私が全く気づかなかったような相手よ!そんな余裕あると思う!?」


くそっ、どうする?

このままだと気軽にビルを壊そうとした奴が周りを気にせず全力で戦い始めるぞ!

まず巻き込まれて真っ先に俺が死にそうだがな!

手加減は無理でもせめて周りに被害が出ない戦いをさせないと…。

でもどうすりゃいいんだ!?


そう考えていた時、あることに気づいた。

あの敵、全然次の攻撃してこないぞ…。じっとこっちを見たまま動かない。

なんで攻撃してこないんだ?

分からない時はとりあえず相手の立場になって考えてみよう。俺があれの立場だったら………警戒してるのか?

俺だったら完全に不意打ちだったはずの攻撃を綺麗に躱されたらそりゃ驚いて警戒する。


「なるほど。」


「え?何がなるほどなの!?」


たぶんだがあいつは俺が魔王に相応しい実力があるとちょっぴり勘違いしてくれているのかもしれない。

この悪魔の少女も俺を過大評価してる節があるので今は乗っかっておくのが正解かもしれん!


「あいつは俺を警戒してるんじゃないか?」


「そりゃ警戒するに決まってるでしょ!魔王なのよ!」


「いや、そうじゃなくて。俺がどう動くか分からないから先に動けないような気がするんだよ。」


「つまり何が言いたいの!?」


「あいつが俺に注意を向けたままならお前も戦いやすくなるんじゃないか?あいつが俺に気を取られたらそのスキに攻撃してくれ!さっきの剣で!」


剣なら周りを巻き込まずあいつだけを斬れる…よな?

そう言うと同時に俺は一歩横に動く。本当にただ一歩動いただけ。…だがそれが効果有った。


『!』


奴の視線が反射的に俺の動きを追う。つまり一瞬少女から意識が離れる。

悪魔の少女はその一瞬を見逃さなかった。


ギンッ!!


気がつけば悪魔の少女はもう奴の懐に飛び込んで剣を抜いていた。だが少女の剣は奴には当たっていない。奴の肘から手首にかけて腕が刃物のように変化している。それで受けられた。


「今のタイミングで防ぐとか!」


『ギギ…!』


ガガガッ!…ギンッ!


悪魔の少女が連続で剣撃を入れた……ように見えた。ぶっちゃけ速すぎてはっきり分からない。

だが相手は無傷だ。攻撃は全て防がれているということだろう。いや、防がれただけでなく反撃されている。

そう、少女の方が僅かだが傷を負っているのだ!


「なんて奴!誰のまわし者なのよ!?」


俺はさらに動く。というか今度は走ってみる。

オマケで手を奴の方に向けてみる。俺が魔法を使えると勘違いしてくれるなら攻撃するように見えるのでは!?


『!!』


明らかにさっきより俺に反応した。悪魔の少女とチャンバラしながらだ。


ザンッ!


『グギッ…!』


悪魔の少女の剣が奴に当たる。

少女が攻撃を始めてからまだ数秒しか経ってないはずだがここまでえらく長い時間に感じた。…が。


「ダメだ!浅い!」


奴が悪魔の少女から距離をとる。少女は追撃しようとしたが断念した。

完全に少女に対する警戒が上がったようだ。


「まいったわね……またスキが無くなった…」


辛そうに見える。まだ短い時間だが悪魔の少女は既に疲れ始めている。

最初俺が感じたより更にヤバい相手のようだ。

俺はゆっくり悪魔の少女の方に歩いていった。奴は今度は俺に警戒しつつ少女への注意も怠らないようだった。


「ヤバそうな感じか?」


「ええ、私より強いのは間違い無さそう。ついでにもう私から注意を逸らすのは難しいかもね。」


困った。この少女に殺されずに済んだのに次はあんな訳分からん奴に殺されるのか?

さっきまで普通のおっさんだったんだぞ!


嘆いていても事態は好転しない。何か打開策は無いのか?

考えを巡らせようとは思うが未経験の非常識な事態、普通のおっさんの人生経験など役に立つわけがない。

漫画とかならこういう時援軍が来るものだが……この少女の話だと他の魔公とやらは全く期待できない。

となると人間だが……ん?そう言えば人間は他種族の存在を隠してるって言ってたな。

つまり一部の人間は悪魔とか知ってる……ならそれを専門にしてる人間もいるんじゃないのか?

だったら今の俺達を監視してる奴もいるかもしれない!

この少女は結界がどうとか言ってたがこの際賭けだ。このままだとどのみち死ぬみたいな感じだしな!


「もう一度奴にスキを作れるかもしれん、その時は頼む。」


「どうやって!?魔眼を疑う訳じゃないけどお前からは魔力を全く感じないわ、あいつにスキを作れるような魔法が使えるなんて思えないんだけど!」


「まあ、どのみちこのままじゃマズいだろ?」


一応、視線は奴に合わせる。奴もこっちを見ている。正直めっちゃ怖いがここはイチかバチかだな。


「そこのお前!いつまでも見てないで手を貸せ!手を貸さないならそいつの仲間と認識する!」


我ながらなんという苦し紛れ。本当に誰かいれば良し、居なくても奴の注意をもう一度だけそらせれば。

でもこんなんで騙されてくれるのか!?

いや、本当に誰かいても手を貸してくれる可能性低いような気もする!

やっぱダメだこれ!


ドゴォッ!!!


「え!?」


俺が苦し紛れの大失敗を確信した瞬間、奴の真横から強い光が飛んで来た!

直撃だ、奴はどうやら騙されなかったみたいだがそれが逆に幸いした。全くの無警戒でモロに喰らったのだ!


ドスッ!!


今度は一瞬ではない、数瞬のスキが生まれた。悪魔の少女にはあまりに充分すぎる時間らしく気がついた時には奴に深々と剣を突き刺していた。


『グッ!?ガハッッ!!』


「よし!今度は手応えあった!!」


『ギ…ギガ……!』


ズボッ!


奴は自分の身体がさらに大きく傷つくのもかまわず強引に剣を抜いて後退る。


「まだそんな力が!?」


悪魔の少女がトドメと言わんばかりに斬りつけようとしたがそれより僅かに早く奴が逃げた。空間に穴のようなものを開けてそこに逃げ込んだのだ。

ワープ?空間移動ってやつなのか?ここに現れた時もあの穴みたいなのを使ったんだろう。

逃げられたけどこの少女より強かったらしいし、生き残ったからまあいいんじゃないかと思う。


「くっ、逃げられた!」


悪魔の少女は残念そうだ。


「…お前よくあの人間に気付いていたわね。」


少女がこちらを向いてそう言うと、さっき光が飛んで来た方の空間が歪んだように見えて人が現れた。あ、これ映画で観たことある、光学迷彩ってやつだ。これも魔法?


「あなた何者?隠れてる私に気づいたのはあなたが初めてだわ…」


女だ。ちょっとキツそうな目つき……スーツ姿だけど警察あたりの「そういう」部署の人?


「気をつけなさい、その女普通じゃないわ。」


悪魔の少女が小声で言う。これまた警戒してるようだ。

勘弁してくれ。

どう答えるか考えていると悪魔の少女が間に割って入ってきた。


「礼は言わないわ。私達の味方をしたいわけじゃないんでしょ?」


「もちろんそうよ。でもさっきのアンノウンの仲間と思われたくもなかったからね、仕方なくといったところかしら?」


「他にも仲間が来てるんでしょ?一戦交えたいってわけでもないみたいだけど。」


「他の者達は離れたところで待機しているわ。状況を考えたら実力不足の者をここに近づける訳にはいかないわ。」


そこまで言うとスーツの女は視線を俺に移した。


「それに私が話をしたいのはどちらかというとあなたの方なのだけれど。」


来た。


「さっきの続きよ、あなた何者?アンノウンもこの悪魔も気づかなかった私に気づく……答えによっては………」


なに!?また戦う気満々な感じ!?

いい加減にしろ。

俺はもう帰って寝たいんだよ!いろいろ有りすぎてもう無理!この女共さっさと帰れ!

学生のころだったらブチキレて喚き散らしてるところだ。

だが今の俺は社会人、この前おっさんの仲間入りしてしまったいい大人だ。

彼女は俺を過大評価してるみたいだし、ここは誤魔化しとハッタリでお茶を濁すのが最適解とみた。


「俺が何者かは重要じゃないだろう。というより普通の人間だよ、普通。」


「………普通?どうかしらね。そっちのお嬢さんはかなりの高位悪魔みたいだけど……普通の人間がこれ程の高位悪魔と一緒にいるなんてことがあるのかしら?フフ…」


スーツの女は不敵に笑った。

馬鹿にしている……というより俺を値踏みしているという印象を受けた。

なんかムカついてきたぞ。


「少なくとも俺は君達と戦う気は無い。これ以上ここに留まる気もない。このまま帰らせてもらうが構わないよな?」


「そうはいかないわ。聞きたいことがたくさんあるのにこのまま帰すと思うの?」


やっぱりそう来るか。

さすがに困ったな、俺は悪魔の少女に小声で尋ねる。


「こいつからなら俺を連れて逃げられるか?」


「それなら大丈夫だと思うわ。ヤバいのはこの女だけ、周りに隠れてる奴等は大したことないし。」


「そうか、それなら…」


俺が逃げるぞと言いかけた時予想外のものが視界に入る。


奴だ!

いつの間にかあの穴がまた開いて奴が現れていた!逃げたと思ったらもう戻ってきやがった!

いや違う!これは逃げたと見せかけて再度奇襲を狙っていたのだ!

しかももう攻撃態勢、音も無く接近された!

深々と剣で刺された傷も応急処置的に塞がっている!

そして何がマズいって女達からは死角になる位置取りだ!

俺しか気付いていない!?

わかる!狙っているのは悪魔の少女とスーツの女だ!

まず先に2人を殺した方がいいと思ったのか!?


マズい!

これはマズい!!

どうする!?


そう思った時には既に身体が動いていた。


「危ない!!」


ドンッ!


気がつけばほとんど反射的に俺は2人を突き飛ばしていた。


「きゃっ!」

「何!?」


2人が俺から少し遠ざかる時にはもう奴が目の前にいた。

至近距離で俺と奴の目が合う。

奴が笑った……ように見えた。目が笑っているように感じた。

そのまま奴は鋭く伸びた爪を迷いなく俺めがけ振り下ろす。奴の目的が最初から俺だったとその時やっと気付いた。


ズバッ!!


奴の爪が俺の身体を引き裂く。尋常ではない痛みと衝撃が走り大量の血が噴き出す。…が、悲鳴は出なかった。声も出せないレベルで俺の身体は切り裂かれていたらしい。

俺はその場に倒れ込んだ。糸の切れた人形という例えがあるが、たぶんちょうどそんな感じだったんじゃないだろうか。


普通なら即死レベルの傷だと思うのだがタチの悪いことにまだ死んでいなかった。意識もかすかに残ってる。

激痛でのたうち回るかと思ったが既に身体が動かない。むしろだんだん痛みを感じなくなってきたような気さえする。

……あぁ、これは助からないやつだ。

そう直感した。


霞む視界に少女と女が入る。表情まではよく見えない。

2人が何か叫んでるように感じるがよく分からない。泣いてる?いや、2人共さっき会ったばかりだしそれは無いだろう。


奴はどうなった?

まだいる。もう目がほとんど見えないがなぜか分かる。たぶん俺が完全に死ぬのを見届けるまで帰らないつもりだろう。

俺が死んだら2人で戦うのかもしれないけどちゃんと協力しろよ。助けたのにすぐ死んだりしたら化けて出てやるからな。


このあたりからだんだん思考もできなくなってきた。

周りの状況も分からない。

俺、やっぱり死ぬのか…この公園に来るまでは普通に過ごしていたはずなのに……こんなことなら…………もっと………………好きなことを…………………………………。

そして…………もうひとつ………………2人が……………………………奴に…………………殺されない…………ように…………………………………………。


暗くて寒い………そんな感覚が襲ってくるようになった時、何か聞こえてきた。


「ここで死んではダメです!!」


声?

その直後何かが俺を包み込んだ。身体ではなく魂を包み込んだような不思議な感覚だった。


「このままでは彼女達も殺されます!!」


彼女達2人がかりでも勝てないのか………。

せっかく助けたのに残念だ……。


「立って!!貴方が助けるしかないんです!!」


何言ってるんだ……俺だって助けたい………けど今から死ぬ人間が立てるわけないだろ…………立ったとしても…………俺には…………何の力も……………………………………。


「立てます!!貴方なら立てます!!」


………………………。


「願ってください!強く願ってください!!」


……………。


「彼女達を助けたいと!!!」


………。


「貴方なら出来るんです!!」


…。


「立て!迫水真護!!」


ドクンッ!


何かが見えた!

もう目なんて見えないはずなのに何かが見えた!

何が見えたのかすら思い出せないが確かに何かが見えた!!


「この……」


ドクンッ!!!


「クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


ガバァッ!


『!!』


「え!?お前!?」

「嘘!?あなた一体!?」


俺は立っていた!

切り裂かれた身体のまま全身血まみれで立っていた!

なぜ立てたのか?そんな疑問は俺の中に無かった!

今俺の中にあるのはたったひとつ!

2人を助ける!!

会ったばかりの2人、よく知らない女、それがどうした!

俺は助けると決めたんだ!!


ズアッ!


その瞬間、目の前に何かが現れた。

鎧のように見える。俺と奴の間に割って入った形だ。


「この鎧は!!なんでここに!?」


悪魔の少女が驚く。だがもっと驚いたのは奴だった。


『オオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』


奴は目を見開き雄叫びを挙げた。


『マオウッ!!!!!』


初めて奴が言葉を発した。

この鎧を見て魔王と言った。


「その鎧に触れてください!早く!貴方の身体がもう保ちません!!」


またあの声だ。

俺はもう疑うことなく声の通りに目の前の鎧に触れた。


ガシャン!


俺は鎧を纏った。いや、正確には鎧が俺を包んだ。

鎧が自分の意思で俺を選んだ。そう感じた。


金属製のようにも見える鎧だが意外にも重くない、むしろ軽い。

本当に金属なのかちょっと自信がない。軽いだけでなく冷たくないのだ。ほぼ人肌と言っていい。


軽く手を動かしてみる。……動く。ざっくり斬られた身体だが今は普通に動く。いや、明らかに普通ではない、身体が軽い。

はっきり分かる。今、この鎧が俺の傷を治している。

俺は2人に目をやる。そこで初めて気付いた……2人が傷を負っている。既に奴と戦っていたのだ。

この場から動かず戦っていたということは………俺を守っていたのだろうか?

都合良く考えるのは良くないが、2人の表情を見るとなんとなくそう思えた。


ジロリ…。


視線を奴に移す。

最初は無表情……感情など読み取れなかった顔だが、今は違う。

怒り?怯え?激昂?

分かる。こいつは感情を持った生き物だ!


「2人とも下がれ!俺より前に出るな!」


何の違和感も無くこの言葉が出た。

2人は驚きながらも俺の後ろに下がる。


『ゴオオオオオオオ!!』


バッ!


奴が真っ直ぐ突っ込んで来た。

動きがよく見える。


ガッ!


抜き手のように俺を突き刺そうとした奴の右手を俺は掴んでいた。


「止めた!」


スーツの女が驚く。彼女達の怪我を見るに奴の攻撃を完全に防ぐのは難しかったようだ。


奴は驚いていなかった。やはりだめか…といった表情で悔しがってるように見えた。

悪魔の少女は驚きと羨望(?)が入り混じったような実に絶妙な顔をしている。


「!」


次の瞬間、奴の左手が振り下ろされる。

やはり動きがよく見える。


俺は奴の右手を掴んだまま攻撃を躱す。

そして今度は奴が次のアクションに移る前に顔面に拳を叩き込む。

流れるように身体が動く。


バガッ!!


仮面のようにも見える奴の顔面が割れる。


『ウガァァァァ!!』


露骨に苦しんでいる。さっき腹に剣を刺された時より明らかに効いているように見える。


ズバッ!


「何っ?」


奴は自分の右手を斬って俺から逃れた。そして大きく下がり距離をとる。

直感的に分かる。飛び道具、しかも大技が来る。


ズズズズズズ…………。


奴の中にあるエネルギーが高まって集中していくのがわかる。これが魔力というやつなのだろうか。

撃たせない方がいい、そう思った。


バッ!


腕を前に突き出す。さっきはハッタリでやったが今度は違う。分かる。


「フォル=ヴィ=ドゥーン」


ブアッッッ!!!


俺の手から凄まじい光が発射される。

正確には鎧から出ているような感じだが正直どっちでもいい。


『グァァァァアッッッッァァァァァ!!!』


発射態勢だったからか奴はロクに回避も出来ずに攻撃を喰らった。


「やった!」


悪魔の少女が叫ぶ。

確かに手応えはあった。…………が。


『グ……ググ………………』


身体の半分以上を消し飛ばされた奴はまだ立っていた。

よろけながらもまたあの穴みたいなものを出す。


『マ……オ………ウ…………』


そう言い残し穴の中に消えた。

分かる。今度こそ逃げた。


「魔王!お前やっぱり魔王だったのね!!」


悪魔の少女が俺に抱きついてきた。


「イダダダダダッ…………!!」


身体に激痛が走る。

俺の身体はまだ完全には治ってないようだ。


「ち、ちょっと離れろ!まだ傷が……!」


スーツの女が近づいてくる。


「た、助けてくれてありがとう…。でも、魔王ってどういう……。」


正直説明のしようがない。

俺にもわけがわからないとしか言いようがない。

それにこいつが何かしらの組織の一員ならこの後拘束されて尋問コースも充分有りうる。

さらにこの鎧、身体の治療が完了するまでは脱ぐわけにはいかない。

この厨ニ心くすぐるデザインの鎧を着たままあちこちウロウロできるか!

やはり逃げるのが正解な気がする!


「私は城島冴子。警視庁特別対策室のメンバーよ。あなたの話を聞かせてちょいだい、悪いようにはしないつもりよ。」


やはり警察だったか。

完全に拒絶するのはマズい気がするな。


「悪いが今日は無理だ。けど日を改めるなら話をするのもいいぞ。」


たぶん君が欲しがるような情報は何も知らないと思うけど…。


「待って!せめて名前を教えて!」


「……俺は迫水真護。」


「そっちのお嬢さんは?」


そういやこの少女の名前聞いてなかったな。

と思った時、少女が俺の方を見て言った。


「私はアルカ=カルテット。」


その後スーツの女…城島冴子の方を向く。


「七魔公のアルカ=カルテットよ。」


「七魔公!」


ん?七魔公というのは人間側にも知られているのか。

まあいいか、今は早く帰って寝たい。


「え〜と、カルテット…さんでいいのかな?頼む。」


「アルカでいいわよ。」


アルカが俺の腕を掴む、いや腕を組むと言った方がいい。

そのまま飛び上がって一緒にその場から離れていく。

おお!俺まで空を飛んでる!!

これは凄い、めちゃめちゃ気持ちいいぞ!


「とりあえずどこに行けばいいの?」


「俺の家まで頼む。俺が言う方向に飛んでくれ。」


「わかったわ!」


文字通り死ぬ思いをしたがこの気分は普通の人間には味わえない。プラマイゼロってことにしておこう。


………………いや、やっぱマイナスだわ。前言撤回。





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