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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

真実がこの日記には記されています。

作者: 新井福

楽しんで頂けたら幸いです。読んでくださりありがとうございます。

6月29日(火)

 今日もメイドである私の目の前で旦那様と奥様はいちゃいちゃしています。こうもいちゃいちゃされると、私のほうが恥ずかしくなってきてしまいます。

 そうそう、恥ずかしいといえばレオ様の事。同じ使用人仲間である彼に最近手を握られたり口説かれていると感じるような言葉をかけられる機会が多いのです。知らぬ間に顔が赤くなってしまうので困ってしまいます。

 奥様は、旦那様にあんなにデロデロな言葉をかけられてどうしてあんなに平常心を保っているのでしょうか。是非ともご教示願いたいです。


6月30日(水)

 今日はレオにお食事に誘われました。人に見せられる外着もないので断ろうと思ったのですが、何故か彼に言いくるめられてあれよあれよという間に今週の土曜日に食事に行くお約束をしてしまいました。

 なのでしょうがないから服を買おうと、奥様に最近はどんな服が流行っているのかと聞いた所「彼氏でもできたの!」とキラキラとした目で尋ねられました。ただ食事に誘われただけ、と弁解しましたが、奥様は何もかも分かっているという顔をして頷くばかりでした。

 そして、何故か明後日奥様と服を買いに行くことになりました。一介の使用人の服も選んでくれるなんて素敵な人だと思いましたが、食事に行ったら、何があったか細かく報告してくれと念を押されたので、単純にこういうのが好きなだけかもしれません。本当に何もありませんのに。

 奥様があんまりにも私とレオの事を気になっていたので、最近流行っているという恋愛小説をあげると、奥様はとても喜んでくれました。中身を見ないままあげてしまいましたが、喜んでくれたなら良かったです。


7月1日(木)

 今日は雲一つなく澄み渡った空で、洗濯が捗りました。そうしていると、遠くで見知らぬ女性と共に歩いている旦那様がいました。一瞬仕事仲間かと思いましたが、何か変です。だって旦那様はその女性の腰を抱いて、ある一つの部屋に共もつけないまま入っていきました。

 世に疎い私でもわかってしまいました。旦那様が浮気をしていると。モヤモヤしながらもメイド長に叱責されてシーツを干すのを再開しました。それが終わってもう一度みた時、丁度旦那様が外に一人で出てきました。あの女性はいません。

 どういうことなのでしょうか? 女性は着替える時間等が必要だったので旦那様だけが先に出てきたのでしょうか? それにしても、浮気があったのかなかったのかは別としてもあんな素敵な奥様を裏切るような真似をするなんて最低です。

 それをレオに話すと、「君って結構たんぱくかと思ったんだけど人情に熱いんだね」と言われました。あんまりにも失礼だったので頬を打ってやると慌てて謝られました。その彼の頬は私のへなちょこパンチでも赤くなっていたので、後で後悔しました。

 まあ、打ってない方の頬も赤くなっていたのは気になりましたが。

 その後、廊下を掃除してたら旦那様に会ったので、「私は仕えるなら奥様ただ一人です」と仄めかしてみましたが旦那様が不思議そうな顔をするだけで去っていかれました。

 旦那様は鈍い方なのでしょうか?


7月2日(金)

 今日は奥様と服を買いに行きました。奥様と出かけるのであればお仕着せで大丈夫なので、服を買いにいく服も満足にない私には、結局は奥様と買いに行けて良かったのでしょう。

 奥様と一緒に悩んだ末に買ったのは白い生地にオレンジのストライプが入った、夏らしいワンピースでした。奥様が買おうとしてくれましたが、申しわけないので丁重に断ると、少し離れた隙に奥様がワンピースに合う帽子をプレゼントしてくださいました。奥様からもらったので突き返すわけにもいかず、有り難くいただきました。家宝にしようと思います。

 なので、安物なのが気がかりでしたが奥様にはオレンジ色のビーズが可愛いブレスレットを渡しました。とても喜んでつけてくださって、私もとても嬉しくなりました。

 買い物を終えて、二人で最後にカフェに行きました。奥様がチョコとバナナのパフェを頼み、私が蜂蜜がアイスにかかったパンケーキを注文しました。

 甘いパンケーキを食べる私に、少し奥様は驚いたようにしたあと、「リズはブラックコーヒーとかを飲んでいるイメージだったけど、以外に愛らしい物を頼むのね」と言いました。最近同じような事をレオに言われた気がします。解せません。

 むくれる私を奥様が宥めてくれました。しかし、その言葉が途中でぷっつりと止まります。不思議に思って奥様を見ると、奥様は違う方向を向いていました。その視線の先には、先日とは違う女性を連れた旦那様がいました。

 奥様は顔を青白くさせカタカタと震えています。私は慌てて奥様を無礼を承知で抱きしめました。次第に、奥様から泣き声が聞こえてきます。

 奥様の背中をさすりながら、旦那様を殺意マシマシで見つめていると、なんと旦那様は、その見知らぬ女性とキスをし始めました。私は何も言葉が出てこなくなりました。この間みた時は、決定的な場面を見たわけではないのでもしかしたら違うかも……だなんて希望を持っていましたが今回はそんなものありません。だって眼の前でキスをしてくれちゃったんですから。

 暫くすると、彼等が移動しました。奥様に「追いかけますか?」と尋ねましたが奥様は力無く首を横に降るばかりでした。

 

7月3日(土)

 レオと今日はお食事の日です。それなのに私は昨日の奥様の様子が気がかりでした。朝、奥様に私も一緒にいていいかと尋ねましたが「あら、リズは今日デートなのでしょう?」と言われて自分は心配ないと言われてしまいました。

 なのでレオと予定通りお食事に行ったのですが、なにもかもが手につきませんでした。ボーとしていると奥様の昨日の姿が思い起こされます。レオがなにか「り、リズ。きれ……」等と話を振ってくれていたのでしょうが、それを全部聞き逃してしまうほど私は身が入りませんでした。

 途中レオになにか悩んでいるのか、と尋ねられましたが、旦那様が浮気しただなんて言えません。

 なので首をただ振るう事しか出来ませんでした。

 帰り際も、なにかレオは言いたそうにしていましたが、私が心此処にあらずな様子を見ると「また今度言うよ」と言ってそのまま帰る事になりました。

 家に帰る前に奥様に会おうと、私は屋敷に来ていました。奥様の部屋に来ても、なぜだか物音がしません。扉を何回も叩いてみましたがなにも応答はありませんでした。

 変だと思い、扉を開けて部屋を見てみると、そこに奥様の姿はなく、窓は開いていました。呆然としながら机を見ると、重しを乗せた紙が風に吹かれてはためいていました。

 そこには簡潔に一言。『浮気する人なんてこっちから願い下げです。探さないでください』と書かれていました。

 私は声を上げてしまいました。その声に執事や他のメイドもきてくれます。皆、奥様がいないという事実に驚いているようでした。

 奥様付きのメイドは「少し一人にしてほしい」と言われて、断り切る事も出来ず一人にさせてしまったみたいです。

 執事は早馬で、今王城で働いている旦那様の所に向かいました。深夜にはつくそうです。

 旦那様のあほんだら、と思いつつ私は、メイド長に諫められて一旦自宅に帰りました。


7月4日(日)

 朝起きると、ポストに一枚の手紙が入っていました。それは奥様からでした。そこには、今は実家にいるという事と、心配をかけてごめんなさいという謝罪文と、この手紙は誰にも教えないでほしいといった趣旨の事が書かれていました。私は、その手紙をそっと胸ポケットにしまいました。

 そして職場である侯爵家の屋敷につくと、そこにはきのこが生えそうなくらいジメジメとした旦那様がいました。メイドや執事は困った様にため息をついています。私も例に漏れずついてしまいました。

 その後は尋問タイムです。私がなにか知っているのだろうと旦那様と執事がいる所に呼び出されました。

 私は、できるだけ冷静に話そうと思いましたが、旦那様が「お前がセレーネを唆したのか!」等と見当違いも甚だしい事をいうのでプツーンと私の何かが切れてしまいました。

「貴方が奥様の眼の前でキスなんてしやがりましたせいですよ! 何私のせいにしてるんですか! 手紙にも旦那様の浮気だって書いてあったじゃないですか。それに、旦那様は何人と付き合ってるんですか? この間は屋敷で女性と二人っきりで部屋に入っていって、今度は、街の往来で違う女性とキスして。不誠実すぎます!」

 そう言って私のへなちょこパンチをお見舞いしてしまいました。青ざめるも時すでに遅し。私は執事に叱責され慌てて謝りました。そうして旦那様を伺うと、旦那様は違うことに気を取られているようでした。

 そして私に言ってきたのです。「俺は浮気なんてしていない」と。だけど私も奥様もしっかりとその姿を見たと反抗すると、旦那様は頭を抑えて呻きました。

 なんだなんだと思いながら見ていると、旦那様はまさかの事実を話し始めました。そう、なんとあの男性は旦那様の弟だと!

 そうやってだまくらかす気なのかと最初は思いましたが、旦那様が持ってきた家族写真には旦那様とうり二つの少年がいました。たしかによく見ると違いますが、パッと見ただけでは違いが分かりません。それくらいそっくりでした。でも、弟に罪を擦り付けているだけじゃ……とまだ疑う私に、旦那様は本当に申しわけなさそうに言いました。「あいつは昔から女癖が悪くて勘当されたんだ」と。

 勘当されるとはよほど悪かったのでしょう。私は旦那様の言い分を信じることにしました。

 そして、「セレーネの実家に聞いてもここにはいないと言われた。何処にいるんだ……」と旦那様がまたジメジメ仕出したので、流石に可哀想だと、私は奥様の居場所を教えてあげることにしました。一つの条件をつけて。

 それは、あの弟さんを連れてくる事です。私自身まだ納得がいってないように、奥様も急に「弟がいる」等と言われても納得などいかないでしょう。だから、奥様への謝罪の場に弟さんを連れて来ること、それを条件にしました。

 旦那様は思いっきり苦虫を噛み潰したような顔をしましたが、最後には小さく頷きました。


7月5日(月)

 それから、国をあげての大調査が始まりました。宰相、という地位についている旦那様は王太子に掛け合って、それを面白がった王太子によって承諾され、今この国の騎士たちの4分の3が一人の男を探し回っています。

 そして、夕方頃旦那様のご両親が到着して間もない頃に弟さんが連れて来られました。僅か半日で探し出すとは、流石の私も驚きました。

 旦那様は切羽詰まった様子で私に奥様の居場所を聞いてきたので、奥様は今実家にいると言うと、「この間聞いた時はいないと言ってたぞ」と言ってきやがりました。そりゃ可愛い娘が旦那に浮気されたと泣きついてきて、助けない親などいないでしょう。それを親切丁寧に教えてあげると、旦那様はぐぅ、と詰まりました。ふん、と鼻を鳴らした私に、旦那様のご両親やメイド、執事が拍手をしてきたので気恥ずかしくなってしまいました。

 そして、もう夜が近いとはいえ一刻も早く弁解したほうがいいだろうと私達は奥様の実家に向かいました。馬車の中では、何故かレオが隣りにいます。手を触ってくるのでどうしたのかと聞くと、拗ねたように「僕は奥様以下かぁ」と言われました。それはあの食事の日を指しているのでしょうか。気まずくなって目をそらす私の頬を、レオがプニプニとつついてきました。

 斜め前に座る旦那様から殺気に似た視線を向けられたのは謎です。


 奥様の実家につくと、最初ご両親は娘はいないと主張していましたが、真摯に頭を下げる旦那様の姿に根負けしたのか、最後は奥様を呼びに行ってくださいました。

 部屋から出てきた奥様は少し痩せていて、私は胸が苦しくなりました。奥様は私の姿を見つけると走り寄ってくれて抱きしめてくださいました。抱きしめ返すと、慌てたようにレオと旦那様に引き剥がされてしまいました。残念です。

 奥様は最初旦那様の話しを聞こうとしませんでしたが、旦那様そっくりの弟さんが出てくるとパカッと口を開けました。

 そして、ようやく話を聞く気になった奥様に、弟さんが理由を話し出しました。

 曰く、「兄貴と俺の顔がそっくりだから屋敷とかにも顔パスで入れる。だから勘当されてこの国から出ていけと言われたあとも、金に困ると来ていた」と言う事らしいです。奥様や奥様のご両親、私含めたメイドや執事は皆揃って『うわぁ』とあまりのクズさに声をあげてしまいました。つまり、弟さんは旦那様の御屋敷を女性と夜を過ごすための宿代わりにしていたという事でしょう。

 絶句して声も出せないでいると、旦那様のご両親が土下座をしました。皆『!?』という顔になってしまいます。旦那様のご両親は叫びました。

「こいつは不能にさせます! もう金輪際貴方達に関わらせないようにしますので、どうか、どうか……!」

 弟さんがギョッとした声をあげていましたが、私も不能にしたほうが世のためだ、と頷きました。

 そして奥様も「その方がいいわね……」と疲れたように言い、これにて弟さんの処遇が決定しました。

 弟さんの断末魔が屋敷中に響き渡りました。


 そして、旦那様のご両親と奥様のご両親が弟さんを連れて早速何処かに行ってしまったので、後には私達使用人と旦那様と奥様が残されました。気まずそうに茶を啜る二人を、私達使用人はドキドキしながら見守ります。そうしていると、旦那様の方が立ち上がり、深く頭を下げました。

「俺じゃなかったとはいえ、君にちゃんと話さず、不安な想いをさせてすまなかった!」

 よくぞ言った! と私は旦那様に熱い眼差しを向けました。ですが、それはすぐに誰かの手によって遮られてしまいました。目に当ててある手を剥がして後ろを振り向くと、笑っているのに目が座っててとても怖いレオがいました。ヒッと息を飲む私に、レオは小首を傾げて「そんなに可愛い目でアイツのこと見ないでね?」と言われました。気迫に押されてコクコクと頷く私に満足そうにレオは笑います。

 旦那様をアイツって……と思いましたが、そんな事言い出せる雰囲気でもなく私は取り敢えず奥様を見ることにしました。

 奥様は旦那様の言葉に、泣きそうに顔を歪ませて、頭を下げました。

「私の方こそ、貴方の話も聞かないで……。性急でした。ごめんなさい」

 そうして、二人が抱き合いました。二人の国中を巻き込んだ痴話喧嘩。これにて一件落着、ですよね?


7月6日(火)

 あれから、弟さんの話は聞いていません。まぁ、私にはもう知るよしもない話ですので、考えるのはもうやめにしましょう。

 そうそう、奥様と旦那様の話を新聞にしようと、今回の事件を一番近くで見てきた私に声がかかりました。なので、この日記を携えて根掘り葉掘り聞かれてきました。緊張しましたが、隣にはレオもいて、少しだけホッとしました。

 この国の人達が、あの痴話喧嘩の全貌を知る日も遠くないでしょう。


 奥様と旦那様は、以前にも増していちゃいちゃしています。メイドや執事の中に二人のいちゃいちゃシーンを見ない為にアイマスクを持参するものまで現れた程です。私も流石に目のやりどころに困りましたが、奥様が幸せならばと、目を細める事によって現実逃避をしています。

 そうそう、レオにあの日のやり直しをしたいとまた食事に誘われました。なのでまた、今週の土曜日に私はレオと食事に行きます。何故か彼と出かけるのが嫌ではなく、寧ろ楽しみだと思っている自分の心の変化に、私は首を傾げました。

 今度は奥様、他のメイドと一緒に選んだ白いレースがあしらわれたシャツに、ブルーグレーのスカートを着ていこうと思っています。

 



 日にちをまたいで、7月10日(土)

 レオは私の姿を可愛い可愛いと褒めてくれて照れてしまいました。レストランでは、まるで私をお姫様のように扱ってくれて、頬がほてるのが止まりませんでした。

 そして、デザートを食べている時、真剣な面持ちでレオが話し始めました。「僕は、レオン·ディレンブルクなんだ」と。それは、この国の第二王子の名前です。私はむせてしまいました。

 なんで、一介の使用人のような真似をしていたのだと聞くと、私に一目惚れし、近づくためだったと言われ、今度こそ顔が真っ赤になってしまいました。

 そんな私の前に、レオが跪きます。その手には、指輪が入った箱がありました。

「僕と、結婚を前提にお付き合いしてください」とレオは言いました。

 そして、私はーー。



◇◇◇


 第二王子に告白された侯爵家のメイド。そんな彼女は身分の差に尻込みし、告白を断り実家に帰ってしまう。

 ここでまた、新たな痴話喧嘩の始まりのゴングが鳴り響いた。




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